友軍の撤退戦が行われる。私達はその支援を行わなくてはならない。
14cmAPDS-FSが訓練用の標的を破壊する。試射の貫通力評価ではRHA(均質圧延装甲、一般的な装甲板の材質である。)換算で1000mm以上を記録し、6cm機関砲も対地対空、どちらの任務にも耐えうると評価された。
「代理人。」
「なんだい?」
「妾がもし……直らなかったらどうする?」
「認識障害が?直らなかったら……まあ、いいんじゃないかなとは思う。」
「どういうことだ?」
「認識障害があっても君は君だ。」
好感度を上げたいのか下げたいのかわからないな。
どこからどう見ても災獣なⅢ号M型と並んで前を代理人が歩く。何かを話しているようだけれど、小声過ぎてわからない。
数日後、私は戦場に立っていた。目に映る全ての"DOLLS"を破壊せよとの命令。鎧袖一触だと答えた。
何も私と代理人の二人でやるとは聞いていなかったのだが。
「意見具申。」
「拒否する。」
「妾の意見を拒否するというのか!」
「そうだ。増援も、撤退も許されない。」
「いくら妾の兵装が強くなったとはいえ、要塞一つに何ができる!」
「無限の可能性があると信じている。」
「第一、司令塔が前線に出てくるとは何事だ!」
「最も信頼している戦力を最前線で指揮する……何がいけない?」
「生身の人間が、か!?」
「うーん……生身……ではないかなぁ……」
後ろに気配を感じる。
「流石に、ね。」
無音で忍び寄る気配。
「なっ……」
「代理人を舐めてもらっちゃあ困る。」
「後任の代理人はすでに決まっている。私よりも優秀なやつだ。」
コントローラーの操作をしながら音を出す代理人。後任の代理人?
「よいしょっと……マウス、乗り心地はどう?乗っていられそう?」
「代理人、後任とはどういうことだ?」
「うんー?後任は後任だよ?うん、私の後を継ぐ人。」
「じゃ、じゃあ代理人はどうするんだ?」
「そうだねぇ……生きて帰ることは想定してなかったからなぁ……そっか、DOLLSになった以上は生きて帰ってしまうのか。」
そういう問題じゃあなくて。
「……代理人、まさかDOLLSとして戦い続ける気なのか?」
「……?」
「何かまずかったか?」
「元とはいえ代理人は人間だ!」
「うん、そうだね。」
「人間がこんな戦場に耐えられるものか!」
「一緒に居たかったのでね。」
「誰と!?」
「家族以外で唯一信頼を置いている部下。」
「は、はぁ……」
戦闘前なのにかなり疲れてしまった。
「マウス、この写真を見てくれ。」
後ろを振り返ると代理人が同型機に乗っていた。写真を見せてもらうとどうにも女性と代理人の写真のようで。仲が良さそうに見える。不思議と胸がチリチリと痛い。なぜだ?
「この女は誰だ……?」
「彼女は星屑連邦学連のA-20G"ハボック"。私の教え子だね。」
「教え子?」
「ちょこっとだけ星屑で仕事をしてたんだ。ちょっとだけ、ね。」
「は、はぁ……」
「知らないDOLLSはDOLLSとして認識できる……うーむ……」
DOLLSをDOLLSだと思って認識すると災獣として認識できて、DOLLSではないと思って認識するとDOLLSや人間として認識できる……
「さて、仕事をしよう。銃後には兵站を担う輸送部隊が居る。彼、彼女達は前線を後退させるために準備をしている。」
「撤退戦?このタイミングでか?」
「誘い込んで包囲するつもりらしい。そして、私達はこれから生贄にされる。」
「生贄か……」
「君が良いなら生贄でも良いが……正直、試作機を失うのはお財布が痛いからな……敵を殲滅せねばならない。」
「敵の情報はないのか?」
「航空系はまだ確認されていない。出てきたら6cmの連射か、14cmのキャニスター、フレシェットが頼りの綱だな。」
「砲兵の支援……はないか。」
「残念ながら無い。あったら少しは変わると思うのだがね。」
「航空支援も無し、増援は我々がやられてから来る……最高だな。」
「だな。マウス。偵察機が提供してくれた情報によると……敵は波状攻撃を仕掛けるつもりらしい。」
第一波と予想される重型遊猟種の群れ。第二波が砲兵として味方ごと耕す。第三波は人間で言う将官クラスか?
「舐めてかかられたもんだな。」
「マウス、君の物怖じしないところが好きだ。」
「戦火を前にして告白か?」
「……いや、褒めただけだ。君に私は似合わない。」
「……どうした代理人?妾の前に怖気づいたか?」
「かもしれないな。」
「妾は好きだぞ。指揮官として。」
「…………嘘は帰ってから言え。」
こんな状況で嘘を言えるようなDOLLSではないわ!
「12時、重型、狙撃種三型。何に見える?」
「了解。ウルヴァリンは14cmで潰す。」
コンビネーションは不思議と良い。APDS-FSを発射。
「11時の重型遊猟種を撃破。」
「了解、T1-D6の撃破を確認。」
まるで昔から代理人がDOLLSとして戦っていたかのような……
「1時、ホイシュレッケ。」
「了解、ロケット発射。」
「着弾、撃破確認。」
「やったね。」
「シャーマン、発見。」
「破壊する。」
「弾はまだあるか、代理人。」
「そろそろ弾切れだな。」
「物量が多すぎる……第三波まで持たない……」
「マウス!6時方向!空を見ろ!」
不審な動きをする牽引式4発+推進式2発型DOLLS。一機だけで作戦空域に侵入し、越えて……宙返りを始める……?
「伏せろ!」
「えっ……?」
「いいから隠れろ!」
代理人が叫ぶ。咄嗟に隠れた。本能的に。
「来るぞ!」
何が?そう思った。感じたことのない閃光と、爆音。ARMSごとひっくり返ってしまったり、潰されてしまいそうな爆風。すべてが光りに包まれ、消えた。
とある基地のデブリーフィング
撤退戦は成功した。実験部隊の奮戦により前線部隊は後退でき、物資の回収に成功。残った識別不明機と災獣に関しては"警告"をしたが、反応が無かった為、新型爆弾「ドゥームズデイ」により処理を行った。なお、実験部隊は消息不明であるが"放射性降下物"などの影響により捜索は行われない予定である。報告:ATLAS所属「プロジェクトC」