本話が最終回です。
〜京都ジュニアステークス後〜
レースの後ではウイニングライブがある。
そこでは本レースで一位だった者がセンターポジションに立つことができる。
センターに立つことはとても誉れ高いことであり、皆はそれを目指して全力を尽くすのである。もちろんダンスの練習も全力だ。
そして、今回のレースでは……不本意ながら私のトレーナーさんが一位を取ってしまったため、彼がセンターで踊っているのだが……。
「葉っぱ一枚あればいい、生きているからLUCKYだ!」
「Everybody say!」
『YATTA!!』
トレーナーさんは全裸に葉っぱ一枚という常軌を逸した姿で踊っていた(他の娘は普通の衣装)。
私は一息吸うと、全力で叫んだ。
「はっぱ隊じゃねえか!」
***
今日もトレセン学園では、将来有望なウマ娘達がトレーニングを取り組んでいた。
「おい、ロール。これからスタミナ重視のトレーニングをするぞ」
「あ、はい。わかりました」
私とトレーナーさんはグラウンドにいた。
私はトレーナーさんの前で体操座りをしていて、トレーナーさんの横にはホワイトボードが置かれている。
ホワイトボードにはデカデカと書かれた『スタミナとは!?』の下に図と文字でわかりやすくスタミナ運用理論が書かれていた。
「この前は精神についての話をしたな。『精神は肉体に作用する』と言うが、そもそもの話、肉体が他のウマ娘に太刀打ちできなければ精神以前の問題だ」
「はい」
「今のところお前には平均的な基礎身体能力はあるが、特筆して優れているところはない。かといって抜群のレースセンスがあるわけでもない」
「はい……」
「だが、
「はい!」
私はトレーナーさんを見て大きく頷いた。
私の夢は有マ記念に出バして優勝すること。幼い頃からの大切な夢だ。
「有マ記念と言えば一年を締めくくる日本一の祭典だ。ジャパンカップに並ぶほどの猛者達が集うGⅠレースにお前は出て、勝とうとしてるんだ」
「だが」とトレーナーさんは続けた。
「今の型にはまってしまってるお前ではどこまで行ってもGⅡが限界って感じだな」
「型にはまってる、ですか?」
私は首をかしげる。
「お前の選抜レースを見て思ったが、まぁ……コンディションの影響もあるだろうが、教科書通りのレース運びに走りだった」
「教科書通りの走り方だったから型にはまってると言うことですか?」
「ああ」
トレーナーさんは頷いた。
「お前の目指す有マは一握り中の一つまみの強豪ウマ娘が集うGⅠレースだ。教科書の内容をすべて修めたとしても、その猛者達に勝つことは絶対に無理だ。強いウマ娘っていうのは必ず普通とは違う隔絶した強さを持っているもんだ」
「隔絶した強さ……」
「ああ。有名なレースに勝っているウマ娘っていうのは『コイツはここが強い!』ってのがしっかりわかるもんだ」
なるほど、と私は思った。
トレーナーさんが言っていることの意味は、オグリキャップちゃんで言えば終盤に見せる凄まじい豪脚、皇帝と名高いシンボリルドルフちゃんではどんな展開でも柔軟に対応できる抜群の安定性といったような個性がGⅠレースでは求められるということなのだろう。
「教科書通りに戦ってもGⅢもしくはGⅡまでなら何とかなるかもしれない。だが、GⅠレースでは必ずどこかで個性が求められる」
そう言われると自分の強みというものが自分でも分からない。
だから上を目指す以上、個性をもつことは必須だということなのだろう。
トレーナーさんは一息つくと、こうまとめた。
「だからお前には、これからスタミナだけでなくスピードとパワー、それから――
…………。
「すいません、先生」
「何だ?」
「どうしてそこでSとMの話が出るんですか?」
「――それがお前の個性になるからだ」
「ならねえよ!」
私は思わず叫んていた。
「何でさっきまで真面目な話をしていた奴の口から、SとかMの変態の単語が出てくるんですか!?」
「ばかやろう! 俺は至って大真面目だ! 俺がお前を担当に選んだ理由も、お前ならきっとSとMを兼ね備えた究極のウマ娘になれると思ったからなんだぞ!」
「全ッ然、嬉しくねえことを暴露しやがってこの野郎!」
すると、トレーナーさんは決め顔を浮かべて。
「穏やかなSを持ちながら激しいMによって生まれた伝説のハイブリッドウマ娘にお前はなるんだよ!」
「トレーナーさん、穏やかな心を持つ私が激しい怒りによって何かに目覚めそうですよ、ええ本当にッ!」
このままでは何かに変身した私とトレーナーさんが星を滅ぼすほどの決戦を起こしてしまうかもしれないほどに、私の怒りは膨れ上がっていた。
それを察したのかトレーナーさんは冷や汗をかきながら「まぁ落ち着け」と言うと。
「ほら、あそこのウマ娘見てみろよ」
と言ってある方向を指差した。
私がそっちを見ると、そこには競争し合っている二人のウマ娘がいた…………ん? あれ、何だか様子が変な気が。
『ほら、いいんですか!? 少しでも足を止めれば後ろからこの薙刀で……ウヒャヒャヒャヒャヒャ!!』
頭の白点をアクセントにしたロングヘアーの栗毛ウマ娘が、もう一人のウマ娘に対して薙刀を向けていた。
「……トレーナーさん、アレは何ですか?」
「S特化型の『武士鳥』。レース中に薙刀を振り回してくる問題児だ」
「問題児どころの話じゃないですよ!? 完全に後ろから刺そうとしてたじゃないですか!」
「大丈夫だって。あいつ以外にもレース中にガンギマった顔でナイフ取り出して刺してくる奴もいるし、空を飛んでステップ踏んだかと思ったらそのまま飛び蹴り入れてくる奴もいるから」
「私の知ってるレースと常識が違うんですけど!? それどこの地下レースですか!!」
「まぁ安心しろ、今言ったそいつらは表舞台には出てこない裏の世界の住民だから。ちょこっと表のレースに混ざることもあるけど、必死に自制してるっぽいから」
「全然安心できる要素がないんですが!?」
どうやらこの世界には私が知らないレースが存在しているらしい。
私は彼女の存在を忘れることにした。
「ほら、あそこも見てみろよ」
すると、トレーナーさんはまた別の方を指差した。
「えぇ、またですか? あのウマ娘を見た後だともう流石に驚きませんよ」
そう言いながら私はその方向を見ると。
『ハァハァ……スピードを上げる度に脚に伝わる痺れと疲労……ハァハァ……が心地よすぎて、ハァハァ……もう、体の……ハァハァ……至る所から体液が――もうっ、らめぇ!!』
スレンダーな体型の栗毛ウマ娘が、喘ぎ声を漏らしながら焦点の合っていない目で快楽に溺れている様子のまま物凄いスピードで走っていた。
「……トレーナーさん、アレは何ですか?」
「あれは『異次元の変質者』と呼ばれるドM娘だ」
「うわぁ……」
心の底からドン引きした私はトレーナーさんと顔を合わせた。
「有マ記念で勝つにはアレぐらい個性がないとダメなんでしょうか? 私もああならなきゃいけないんでしょうか?」
トレーナーさんは神妙な顔つきをすると。
「うん、俺もお前にはあそこまで行って欲しくねえわ。相手にしたくなくなる」
そう言い放った。
ですよねー。
ツロール様「このツロールは変身をするたびにパワーがはるかに増す……その変身をあと3回も私は残している……その意味がわかるな?」
第一形態ロール
冷徹な目でツッコミを入れる。
第二形態ロール
丁寧語でありながら激しいツッコミを入れる。
第三形態ロール
口調を荒げて、ウマ娘の脚力を存分に活かした飛び蹴りを入れる。
最終形態ロール
おだやかな心を持ったツッコミロールが激しい怒りによって目覚めた伝説の姿。
生きとし生ける者すべてが生命の危機を感じる……わけでもなく、世界が滅亡……するわけでもない。ただしトレーナーは終焉を迎える。
『異次元の変質者』と呼ばれたアレはあくまで本物とは別物です。
本物の『異次元の逃亡者』もしくは胸を盛ってはいけないあの人とは別人なので、キャラ崩壊じゃありません。いいですね?
本作品を読んでいただきありがとうございました。