災害の可能性に怯えるメイショウドトウは、慌てて非常持ち出し袋を作ろうとするが。オペラオーと話し合っても、歌って踊ってらちが空かない!
 そこへツッコミつつ現れたアドマイヤベガが、二人に非常袋の作り方をレクチャーする。
 実用知識系SS。筆者も実際に同様の非常袋を作成しました。
 あにまん掲示板に書き込んだものの再掲。
 

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【ウマ娘】アヤベさん達と作る非常袋【知識系SS】

――(メイショウドトウは倒れ込むような勢いで自室に駆け込んできた)

「あわわわわ……わわわわ~~! 救いは、救いはないのですかぁ~!?」

(クローゼットの中の物を次々放り出し、奥から引っ張ってきた大きなバッグに手当たり次第荷物を詰め込む)

 

(声をかけるオペラオー)

「おや、どうしたんだいドトウ、そんなに慌てて。遠征の予定はなかったはずだが」

 

「あわ、わわわ……そそ、それががががばばばばびびぶべぼぼぼぼぼぼ」

(歯の根も合わぬほど震えながら、しきりにジェスチャーで何か訴えかけるドトウ)

 

「む? 何だい? このジェスチャーは……『カレーパン』? 違うって? なら『遠足』、え、惜しい? じゃあ『ゴルゴ13』? ……いや、そうか!」

「つまり『昨今の不穏な世界情勢、また未だ記憶に残る災害の猛威と、今後予測される新たな災害の可能性。そうしたことを思いますとわたくしメイショウドトウ(眼鏡クイッ)、とても心穏やかには過ごしかねます(眼鏡クイックイッ)。その対策と致しまして、いわゆる非常持ち出し袋を用意しておこうを思い至った次第でございます(眼鏡クイックイックイッ)』

ということだね!」

 

「そうなんです~~!! さすがオペラオーさん!」

 

「ふ……なんて賢いボク! そして賢いドトウ! その世界情勢への敏感さ、危機意識の高さ、そして実行に移す行動力! 素晴らしい! ブラボー!」

(ひとしきり拍手する)

「さあ……そんな賢い二人を讃える即興歌劇『愛にむせぶ賢者へのパヴァーヌ』、ご鑑賞いただこう! ララ~♪いとも賢き二人~(眼鏡クイッ)♪」

 

(満面の笑顔で拍手するドトウをよそに、アドマイヤベガが二人の間に割って入る)

「いや、待って。ドトウ、非常袋を作ってたんじゃなかったの」

「というか、さっきのジェスチャーに眼鏡要素なかったし。そもそもドトウは眼鏡かけてないでしょう」

「だいたいあのジェスチャーで、どうやってそれだけの情報量を読み取れたわけ」

 

「ふ……一呼吸のうちに三度も言葉の刃を閃かせるとは、さすがアヤベさん! ここが革命期のパリなら、ボクは三度死んでいたな……!」

 

「何を言ってるのかちょっと分からない」

 

「そんな賢いアヤベさんを讃える、この即興歌劇をご鑑賞いただこう! 『もう一人の賢者への――』」

 

「無限ループやめろ」

「はあ……騒がしいからって様子を見に来たのが間違いだったわ。で、何? 非常持ち出し袋を作りたいって?」

 

「そそ、そうなんです~! むしろ、今すぐ避難したいぐらいです~!」

 

「何からどこへ逃げるのよ……まあいいわ。どうせあなたたち二人じゃ、歌って躍って話が進まないだろうし。私が見つくろってあげる」

 

「ハッハッハ! 聞いたかいドトウ、まるでボクらの頭がお花畑のような言い草じゃあないか」

 

「へえ、よく分かったわね」

 

「ハッハッハ! やはり賢いボク!」

 

「(ダメだこいつ……私がなんとかしないと……)」

「とにかく、持ち出し袋を作るのなら。放課後、一緒に買い物に行きましょう。主に百均へ、ね」

 

「百円ショップ、ですか? でもちょっと不安ですぅ……それでちゃんと揃うんですか?」

 

「まあ、学生の身じゃ予算も限りがあるし。それに、百均にも色々活用できるものがあるの」

「でも。その前にあれだけは、ちゃんとしたものを別の所で買っておきたい――」

 

 

 

 

 

――(放課後。アドマイヤベガは二人を連れ、まずホームセンターへ向かった)

「これはしっかりしたものを買っておきたいところね。持ち出し袋そのものというか、

【リュックサック】

を」

 

「あれ? でも、非常袋っていうと。銀色の大きな巾着袋で背負える形のもの、ってイメージですけど~。普通のリュックなんですか?」

 

「もちろん、そういう袋でもダメってことはないけど。状況によってはこの荷物を持って、長距離を歩かないといけないかもしれない。それを考えれば、しっかりと背負っておけるリュックサックの方がいい」

「柔らかい袋だと歩くうちに中の荷物が偏って、余計な負担がかかりやすい。だから、ある程度しっかりした構造のリュックが欲しいところね」

 

「それに、できれば背負い紐を胸の所と腰の所で、それぞれベルトで固定できる形のものが理想」

「これがあればリュックの重量が肩だけでなく、胸や腰に分散されてかなり楽になるの。そこまでこだわると登山用品という感じになってくるけど……予算と相談して考えるといいわ」

 

「ふむ……だが、ボクの場合は心配無用! 部屋にちょうど空いていたスーツケースが――」

 

「バカ」

 

「ハッハッハ! 歯に衣着せぬ痛快な一面!」

 

「避難が必要な状況では、道路状態もまともとは限らない……カートのように地面の上を引っ張っていくタイプの荷物は、機能しないと考えておいた方がいい。仮に使えたとしても、スーツケースはさすがに重いでしょう」

「少なくとも手提げではなく、肩にかけられる形のものであることは必須だわ。特に、『両手を空けておく』ことを考えればリュックが理想。荷物を持ったまま何らかの作業をする場合もあるでしょうし、転んだときに手をついて身を守る必要だってある」

 

「なるほどね。では、ボクもひとつ覇王にふさわしいリュックを探すとしよう。せっかくだから名前をつけようかな、リュックだけに、リュ……リュー――」

 

「いいから買って次、百均に行くわよ」

 

 

 

 

――(その後、百円均一の店にやってきた三人)

「リュックも買って、いよいよ百円ショップにやってきましたね~。でもアヤベさん、何を買ったらいいんですか?」

 

「まず、いくつか買っておくべきなのは。大きめの

【ジップバッグ】

類ね」

 

「と言いますと……ビニールの、料理を小分けにして冷凍するみたいな袋ですか? でも何で?」

 

「リュックの中に入れるものは――防水する必要のないものは構わないけど――、全部小分けにしてこの中に入れておくの」

「防水になるし、分類ごとに入れておけば取り出すときにも分かりやすいでしょう」

「それと、これもいくつか買っておきたいのが

【蛍光シール、反射リストバンド】

の類ね」

 

「これは……夜に出歩くときなんかにつける、光を反射するリストバンドってことですか? 交通安全のためにつけるみたいな……どうしてこれを?」

 

「悪条件というものは常に想定しておくべき。たとえば、災害が起こったのが夜間だとしたら。そして停電していたら?」

 

「えええ!? 電気もつかないなら……ままま真っ暗で、あわわわわ何も! 何も見えません~~!!」

 

「その状況で。せっかく用意した非常袋が、どこにあるか分かる?」

 

「!! 見えません!? 救いは……救いはどこにあるのですか~!?」

 

「でも、あらかじめ非常袋に蛍光シールや、反射バンドをつけておけば――」

 

「! 見えます! かすかに……光が!」

 

「そういうこと。さらに言えばこれがないと、夜間に複数人で避難しているとき、お互いを見失ってしまう可能性が高くなってしまうでしょうね」

 

「あわわ……それは、絶対必要ですねぇ……」

 

「ふ……なるほど。しかし自ら燦然たる輝きを放つこのボクには――」

 

「はいはい。さて、他に用意すべきものだけど――ここで買えるもの以外も含めて――大まかに分けると、

 

【必需品・重要品】

【雨具、シート類】

【衛生用品】

【タオル、ティッシュ類】

【医薬品】

【ライト類】

【ラジオ、スマホバッテリーなど情報用品】

【軍手など作業用品】

【水、食料】

【その他】

 

といったところね」

 

「あの~、よく分からないんですけど、必需品や重要品って何ですか?」

 

「各人によるところだけれど。生活にどうしても欠かせないもの、といったところね」

「たとえば、視力の低い人なら眼鏡の予備。持病があるなら服用している薬。乳幼児のいる家庭なら紙おむつや粉ミルク、おしり拭きや哺乳瓶。他に生理用品なんかもこれに含まれるわ」

 

「重要品はまず、【保険証や医療費受給者証のコピー】。治療を受けるときのためや、身分証として持っておいた方がいい」

「他には個人個人、思い出の品とか貴重品だとか。ただ、ここに加えておきたいのが

【現金】

ね」

 

「えええ? で、でも、サバイバル的な状況ですよね? そんなの『ヒャッハー! 金なんざケツを拭く紙にもなりゃしねえぜー!』って感じになって……あわ、あわわわ……命ばかりはお助けを~!! お金なら、お金ならいくらでもあげますからぁぁ!」

 

「矛盾したこと言わないで。というか、『北斗の拳』なんて読むのね」

「実際問題、そこまで極端なサバイバル状況にはなっていない場合も考えられるの。つまり、『避難は必要だが、商店はどうにか営業している』『しかし、ATMは止まっている』といった状況」

 

「そうした際に、やはり現金は必要。ただ釣り銭は不足するでしょうし、千円札と小銭で用意しておくべきね。特に、十円玉と百円玉は多めに用意すべき。携帯電話が使えない場合、公衆電話で必要になってくるから」

「それと……【家族の名前と電話番号のメモ】も併せて入れておいて。普段は電話番号なんて携帯に登録して、ワンタッチでかけられるけど。携帯のバッテリーがなくなって公衆電話を使う場合、電話番号を覚えてる人がどれだけいる?」

「そのためのメモ。もちろん、水に濡れてにじんでしまった、なんてことがないようにジップバッグに入れておいて。あと気休めかも知れないけど、字の裏表にセロテープを貼っておけば多少の防水にはなるから」

「それと、『災害用伝言ダイヤル・171番』を覚えておいて。171番にかけた後、自分の電話番号を入力すれば伝言を残しておける。逆に、他の人の電話番号を入力すれば、その人の残した伝言を聞ける」

 

「次に

【雨具、シート類】

だけど。まず両手を空けるために傘ではなくレインコート、もしくはレインポンチョ。特に、濃い色でサイズの大きいものをオススメするわ」

「冬には防寒着の上からレインコートを着るというのもあるし。避難所などで、着替えるときの目隠し――水泳の授業で着替えるときのタオルみたいなものね――にも使える。簡易トイレを使うときにも同様ね」

「レインズボンもあるといいわ。ただ、この辺は百均じゃなく、しっかりしたものの方がいいかも知れない。反面、そうしたものは荷物としてかさばるかも……その辺りは各自の判断ね」

 

「で、シート類……下に敷くシートや防寒用品、いわば寝具ね。ふう……」

 

「どうしたんだい急に? 遠い目をしてため息を――」

 

「足りない」

 

「え?」

 

「足りないのよ、もふもふが」

「足りない、あああ足りない、足りない! 寝具に、寝具にもふもふ感が――!」

 

「ア、 アヤベさん!? 気を確かに持つんだ!」

 

「ふっ……ごめん、私としたことが取り乱したわ」

「この非常袋は避難所での生活を想定しているの……けれど、そうなるとどうしてももふもふ感が足りな……いや、しっかり、しっかりしなさい私」

 

「空気で膨らむマット――さすがに百均にはないでしょうけど――を持っていくという手もあるけど、多少かさばるかも。強くオススメするわけではないわ。けど、枕ぐらいのサイズならありかもね」

「百均の商品で代用するなら、アルミ製マットでクッションつきのものを用意しておきたいところね。これは軽量だし、ぜひ荷物に入れておきたい」

「というのはそう、寝ている間には地面にかなりの体温を吸収されてしまうの。体調を維持するためにも寝具、特に敷物にこだわるのは当然といったところね」

「その点アルミ製品は断熱素材として優秀で私も冬場は靴の中にアルミともふもふファー素材のインソールを入れているわおかげでポカポカ冷え性知らずまさに温泉もかくやと言ったところでもふもふ万歳うふふふふ――」

 

「アヤベさん、アヤベさん!? 大丈夫かい、ここまでの台詞を一息で言い切ったけど!?」

 

「だいじょ……(かすれたような呼吸を素早く繰り返す)……ウブッ」

 

「全く大丈夫じゃないよ!?」

 

「ふ……はぁはぁ、オペ……ドト……どうか、私の分まで……強く――(ガクッ)」

 

「そんな、アヤベさん! アヤベさーーーん!!」

「あああ! アヤベさん~~~!?」

 

「泣くなドトウ……彼女の最期の言葉のとおり、ボクらは強く生きてゆこう……! さあお聞き下さい、『彼女に捧げる一等星のセレナーデ』! ララ~~♪ いとも気高き~♪」

 

(店員)「あの、お客様。他のお客様の迷惑に――」

 

「あっ、はい、すみませんでした」

「ご、ごめんなさいぃ……」

「くっ……ごめんなさい、私としたことが……」

 

 

 

 

(休んだ後気を取り直してアドマイヤベガが言う)

「コホン……。他に、とにかく必要なのはアルミブランケット。エマージェンシーブランケットとも言って、毛布代わりに使う非常用の寝具」

「これもアルミの断熱性を利用したものね。薄くて、手の平サイズに畳まれて売られてることも多い。軽いし荷物になるものじゃあない……複数枚買っておくのがいいかもね」

 

「次に【衛生用品】。これは昨今のご時勢なら当然必要ね。感染症対策のマスク、消毒液、消毒ウェットシートなど」

「他に、入浴できない状況を考えて、体や顔を拭けるウェットシートがあるといいかも。後は歯ブラシだとか」

 

「【タオル、ティッシュ類】これは読んで字の如く。トイレットペーパーを一巻きまるごと入れておくのもいいわ。もちろん、防水はしっかりね」

「かさばるといけないから、横から――という言い方でいいのかな、芯が出てない側面から――何度か押して潰し、芯を抜き去ってしまうといいでしょうね。その上でトイレットペーパーを軽く潰しておけば、少し平たくなってコンパクトに持ち運べる」

 

「【医薬品】風邪薬や胃腸薬、頭痛薬、傷薬……そうしたものを小分けにして入れておいて。ただ、使用期限に気をつけて、定期的に取り替えること」

「それと、できるなら粉薬よりカプセルや錠剤がいいわ。粉薬はどうしても、水の消費が多くなってしまうから」

「出血の多いケガを想定して包帯があってもいいけど、適当な長さで切るための刃物が要るわね。ハサミもいいけど、ツールナイフ――十徳ナイフやスイスアーミーナイフとも言う――があれば、多機能で使える場面があるかも」

 

「次に【ライト類】

【ラジオ、スマホバッテリーなど情報用品】

だけど。これらは本当に重要、けれど難しいところでもある」

「電気が必要なもの、つまり携帯するこの場合、電池が必要なもの。で、乾電池は使わずにいても数年の寿命がある。――一応聞くけど。使わずに置いておいた非常持ち出し袋。忘れずに、電池を定期的に買い換えられる?」

 

「む……無理かも知れません~」

「ハッハッハ! 心配無用、同居のメイドに頼んでおくとしよう!」

 

「(大きなため息)無理ってことね。まあ、これは食料や水、医薬品にも言える問題だけど」

「できるなら一年に一度、防災の日なんかに使用期限をチェックする習慣をつけたいけれど。無理なら無理で、それなりの対策を講じておくことね。たとえばこれ」

「ライトなら――光量は劣るけど――手で握って放してを繰り返して、その場で発電して使えるもの。あるいは手回し発電で充電可能なもの」

 

「同じように、ラジオやスマホバッテリー関係。これは値段が張るけど、

『手回し充電やソーラー充電が可能なライト付きラジオ。スマホへの充電も可能』

なものなんかがあるわ。5千円ぐらいかしら」

「でも……想像してみて。大災害に見舞われた後で、スマホの充電も切れた、ラジオの電池もない――誰にも連絡できないし情報も入ってこない、そんな状況」

「それを5千円でなんとかできるなら。安い買い物だって気がしない?」

 

「あ、あばばばば! 安い、安いですううう! 早く、早く売って下さいその幸運のラジオをぉぉぉ!」

 

「いや、そういう霊感商法じゃないんだけど。とにかく、災害下で情報や連絡は必須ね……そういった自家発電可能なものや、それが無理なら充電したモバイルバッテリーや十分な電池の予備。それらは用意しておきたいわ」

「もっとも、発電可能なものでもそんなにすぐ充電できるわけじゃない。電池を用意しておいて、それが足りないときに使うぐらいのつもりでいた方がいいと思う」

「あと、スマホ充電のケーブルは結構調子悪くなりがちだし、機種によって使える端子が違う。複数種類の端子が付属したケーブルなんかも百均に売ってるから、予備を持っておいた方がいいかもね」

 

「ライトは他にも、ランタン機能と切り替えられるものや、手を空けておけるヘッドライトなんかもあるわ。その辺りは色々検討してみて」

「他に情報用品として、メモ帳と筆記用具は持っておきたいところね。メモや書き置きに使う場面があると思う。ボールペンは乾いて使えなくなることが多いし、シャーペンと替え芯があるといいかな。ただ、シャーペンじゃビニールなんかには書けないから……油性マーカーも併せて入れておくといいかも」

 

「他には

【軍手など作業用品】

か。パッと思いつくのは軍手とツールナイフぐらいね」

「前も言ったけど、この非常袋は『避難所で一定期間生活すること』を想定して作っているの。逆に言うと『屋外での生活やサバイバル』までは想定していない。もちろん、その場合でも役に立たない訳じゃないけど」

「アウトドア好きな人ならその辺りは色々考えられるだろうけど……私はそこまで詳しくない」

 

「そうなんですかぁ……でも、テントなんかあったら良さそうですね~」

 

「もちろん、設営できるなら屋外生活には心強いけど。一概に、用意しておくべきとまでは言い切れない」

 

「え?」

 

「まず、テント自体にかなりの重量がある。非常持ち出し袋の重さの目安は最大6キロ程度――それでも背負ってみると、結構な重さを感じると思う――だそうだけど。一般的なテントでそれに近い重量があるはずよ。よほど小型軽量なものなら1~2キロ程度らしいけど」

「それに、避難した先がテントを設営できるような地面のある場所――一般に、テントはペグ(杭)を打って固定する必要がある――かどうかは分からない」

「だから、元々テントを持っている人なら状況に応じて……というのでいいと思う」

 

「そうですかぁ……で、でも、やっぱり屋外で避難生活することになったら、どどどどうしたらいいんですかぁ~!?」

 

「持ち出せる量には限りがある……何でもかんでも持ち出し袋に詰め込んでおくのはオススメしないけど。気休め程度だけど、ビニールシートとビニールロープかガムテープがあるといいかもしれない」

「回りに木や柱のようなものがある場所なら、ロープやテープを張り渡して、シートを三角の形に垂らせば。簡易テント――タープって言うのかしら――とすることもできる」

「ついでに言えば、ガムテープは紙テープより布テープの方がいいわ。丈夫で、テープの上からテープを重ねて貼ることもできるから。これもトイレットペーパーと同じように、芯は押し潰して取り除いてしまって。その上で、細く潰した状態で輪ゴムで止めておくといいわ」

 

「なるほど~。あ、でも私たちウマ娘なら、もっと荷物が重くても大丈夫なんじゃ――」

 

「……それはそうだけど。家族はウマ娘ばかりじゃない、人間基準で覚えておきなさい」

「あとは、サバイバルという意味で考えれば火もあった方がいいんだろうけど……それは火事の危険と隣り合わせ。しかも、消防車が来られない可能性の高い状況で」

「安易に使うべきでは絶対にない。それでも念のためにというなら……百円ライターぐらいを持っていてもいいのかもしれない」

 

「それはそうと、見てくれたまえアヤベさん! さっき言っていたタープだが、百均にもセットが売っているようだよ!」

 

「へえ……八百円か。用意しておくべきかは難しいところだけど……これはこれで、アルミ製で断熱効果も期待できそうね」

 

「ふ……銀色でなかなか格好いいじゃないか。『覇王が住まいし鏡の宮殿』と名づけよう!」

 

「定住する気でいるの……?」

「まあ次に行きましょう。ある意味お待ちかねと言うか……

【水、食料】

ね」

 

「なんだか、こう言うと変ですけど~。食べ物をリュックに詰めるっていうと、遠足の準備みたいでテンションが上がりますね~。『ヒャッハー! 水だ水だー! 食料もあるぜぇぇ!』って」

 

「……なんでちょくちょく世紀末の思考になってるの」

「まあいいけど……とにかく、特に水は重要ね。非常袋の中で最重要と言ってもいい……ところで聞くけど、三日間全く水分を摂らなかったことってある?」

 

「えぇ? いえ、ありませんけど~」

「そうだね、考えてみれば水を飲まない日なんて一日もない。ボクもミネラルウォーターが手放せなくて――」

 

「まあ、そうでしょうね。もし三日も水を絶ったことがあったとしたら。その人はもう死んでるわ」

「『サバイバルの3の法則』っていうのがあるんだけど。個人差はあるでしょうけど、人が死んでしまう環境として『3分間酸素が得られない』『3時間体温を保てない』『3日間水分を摂れない』『3週間食料を摂れない』という目安があるの。まあ、体温については極地みたいな極端な温度環境なんでしょうけど」

「とにかく、人は水から離れて生きてはいけない。必ず水は入れておいて」

 

「とはいえ……非常袋の中で最も重い荷物もこれ。水よ」

「1リットル=1キロ。500ミリリットルのペットボトルを4本入れたとして2キロ。持ち出し袋の重量目安は6キロ以下だけど、背負って歩くと考えればそれでも重いぐらい。5キロ以内に抑えたいと考えると、水を除いた荷物は3キロ以内にまとめないといけない」

「けれど、水をもっと持つべきという考え方もあるし、体力のない人だと荷物を減らす必要もあるし……悩みどころね」

 

「うう……難しいんですねぇ……」

 

「とりあえず。給水の支援が受けられることを見越して、給水バッグを入れておくといいわ。ビニールの分厚い袋みたいなもので、荷物にもならない。3~5リットル程度のものなら百均にも売ってるはず」

「それと、ボトル入りの水の賞味期限は1年程度。未開封ならある程度過ぎても問題はないでしょうけど、定期的にチェックして。忘れそうなら、数年保存可能な長期保存水というのもあるわ。ホームセンターなんかで探してみて」

 

「ふむ……ボクの場合は愛飲のミネラルウォーターを入れておくとしよう。水はそれでよしとして、食料はどうすべきかな」

 

「水ほど切羽詰まったものではないけど。なければ不安も大きい、不足すれば気力体力に響いてくる。しっかり考えないとね」

 

「ふむ、やはり非常食と言えば缶詰。ここは百均という枠にはとらわれず、覇王の食卓にふさわしいムール貝のワイン煮缶や、牡蠣(カキ)のアヒージョ缶などを――」

「じゃ、じゃあ~、私は日持ちしそうなカップ麺を~――」

 

「二人とも待って。言ったはず、荷物の重量は切り詰めたいって。缶詰は確かに日持ちするけど、水分と缶で重い上に、開けた後は長くもつわけじゃない」

「カップ麺は軽いけど、作るのに一定量のお湯が必要。水をかなり消費するわけだし……その時の状況で、お湯を沸かすことができるのかも分からない」

「ある程度日持ちがして、軽くて、調理せずに食べられるもの。できれば栄養やカロリーがあるもの。そういったものを入れておくべきね。市販の総合栄養食品なら――」

 

「いや、待ちたまえ!」

 

「……。何? 待ったけど」

 

「待ちたまえ。キミの言うことは確かに正しい……だが、それだけだろうか?」

「考えてみてほしい。避難が必要なほど困難な状況の中、それでもそこに温かな食事があれば。それは体だけではない、心をこそ温めるのではないか?」

「そこに、少しでも美味しいものがあれば。それはただの食糧ではない、心の糧(かて)となるのではないか? わずかかも知れないが――すなわち、希望と」

 

「! ……一理は、ある」

「ただ……やはり持ち出し袋に入れておくのは難しいところね。家に備蓄しておくには、いいと思う」

「カセットコンロがあればお湯も沸かせるし、ラーメンみたいな口にし慣れたものを食べれば、気持ちも休まるはず」

 

「じゃ、じゃあ~、非常袋へ主に入れておくのは、携帯しやすい栄養食品なんかにしてですね。ちょっとだけ、好きなものを入れておいたらどうでしょう?」

 

「……日持ちするものなら、いいんじゃない」

 

「じゃあじゃあ、ちょっと高級なお店のチョコと、クッキーと~」

「では、ボクはフランスから取り寄せた鴨肉のパテの缶詰を。これはカンパンに合いそうだ」

 

「(言えない……私も老舗和菓子屋監修の、みつ豆缶を一つ入れてるなんて……)」

 

「――まあ、とにかく。食品関係では他に、割り箸やスプーンなんかも入れておくといいでしょうね」

「他には

【マルチビタミンやマルチミネラルのサプリメント】

を入れておくべき」

「というのは、これまでの災害時。おにぎりやパンのような主食類は、比較的すぐに充分な支援があったらしいけれど。副菜類はそういかず、栄養が偏った例があったらしいの。それを考えると持っておいた方がいい」

「とはいえ。そういうものは、ドラッグストアで買うと結構な値段がするもの……使わないまま消費期限がくる場合を考えると、百均で買うぐらいがコストパフォーマンスの点からはいいのかも」

 

「後は【その他】の物だけど。ビニール袋なんかは複数持っておけば、色々使う場面もあると思う。大きなものなら穴を開けてポンチョのようにかぶって、簡易防寒具や雨具に。あと、水と洗濯物を入れて手もみ洗濯」

「それと、屋内にもガラスなんかが散ってる場合もあるようだから、出来れば上履きが欲しいけど……旅行用の折り畳みスリッパなら大した荷物にならないし、気休めに持っていてもいいと思う」

「他にはそう、笛があると――」

 

「なるほど……つまり、夜の女王の魔笛が如き、ボクのフルートの腕前の見せどころか。特に習ったことはないけど!」

 

「そういう笛じゃないから。非常用のホイッスル。身動きが取れない状態のときなどに、自分の位置を知らせて救助を求めるためのもの」

「声を上げれば済むと思うだろうけど、人間の声というのは案外遠くへ届かない。大声を出せば消耗も大きいし」

「ライトと笛はすぐに使えるよう、伸縮式のストラップでリュックの外側につけておくといいわ」

 

「――まあ、買うべきものはこんなところかな。さ、ここで買えるものはさっさと買って帰りましょう。……ん、ドトウ、持ってきたそれは? トランプ?」

 

「ひっ!? すす、すみません~、ついその、あったら楽しそうだなって……」

 

「いいんじゃない」

 

「へ?」

 

「避難所に入った後はあまりやることがない、むしろ暇、っていう話もある。ミニサイズのトランプなら荷物にもならないし。ただ複数人で触るものだから、手の消毒はしておいた方がいいでしょうね」

 

「ふむ……ならボクはこの、オリジナルHTCG(覇王トレーディングカードゲーム)を――」

(持ち出してきた様々なオペラオーブロマイドには、それぞれ攻撃力や防御力、ヒットポイントが書かれている)

 

「へえ。それだけいっぱいあるなら、燃やして暖を取るにはいいかもね」

 

「ハッハッハ! 発想が柔軟!」

 

 

 

 

 

――「ふう~! 買い物も終わりましたし、アヤベさんのおかげで立派な非常袋ができそうです! ありがとうございました~!」

 

「そう、良かった。……じゃ、私はこれで」

 

「おや、どうしたんだい? 何か用でも」

 

「放っておいて。とにかく……先に帰る」

 

「ああ、それではまた。――やれやれ……おかしなアヤベさんだ」

 

「でも、すっごく助かりました。ほんとに色々詳しくて、必要な物を次々教えてくれて。まるで、一度作ったことがあるみたいに」

 

 

 

 

――(夕暮れの道をうつむいて、アドマイヤベガは一人走る)――

 

「(言えない)」

「(言えない、ずっと前にもう、自分の非常袋は作ってしまっているなんて)」

「(何度も何度も作り直して、その度に色んな物を入れて、どんどんどんどん大きくなって)」

「(本当は水も缶詰も寝袋もテントもマットも毛布もヘルメットも、何もかもぶち込んでしまって。普通の人間には、とっくに持てない重さになっていて)」

「(それでも――私は、背負っていく)」

「(生まれてこられなかった私の半身、あの子の分まで背負って。何があっても、生き延びてやる)」

「(だけど、それは、本当に――)」

 

――(やがてアドマイヤベガの足は止まる)――

 

 

 

 

 

――「ふっ。こんな所にいたのかい、アヤベさん」

 

「……。……何か、用」

 

「もちろん用さ。この覇王を案内してくれた礼、ちゃんとしていなかったと思ってね」

(懐から細長い紙の束を出す)

「取っておきたまえ。キミの教えてくれた【現金】だ、非常袋に入れておくといい」

 

「! バカにしないで、お金なんて取るつもりは――!」

 

(が。差し出された紙幣らしきものには、全てに金額と、オペラオーの肖像画が描かれていた)

 

「……は?」

 

「遠慮せず受け取ってくれたまえ。テイエムオペラ王国公式通貨、しめて10万オペルの札束さ!」

 

「10万オペル(肖像画が妙に似てるのが腹立つ)……」

「はあ……で? この通貨、どこで何が買えるわけ?」

 

「ふ……場所はここ、ボクのいる場所! 購(あがな)えるものはボクの時間!」

「1万オペルにつき、なんと! 覇王たるこのボクが! 5分間肩をもんで! 叩いて! 存分にコリをほぐして差し上げようではないか!」

 

(大きく肩を落とすアヤベ)

「それ、肩叩き券って言うのよ……」

(ふ、と息をこぼす)

「ま、いいわ。さっそく使わせてもらおうかな」

 

「ハッハッハ! 毎度あり!」

 

「10万オペル分お願い」

 

「ハーッハッハッハ! まさかの 50 分 間 労 働!!」

 

(物陰から見ているドトウ)

「オ、オペラオーさん~、ファイトです~!」

 

(三人の頭上、夕暮れの空で、カラスがのどかに鳴いていた)

 

 

 

(おしまい)

 


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