ブルボンの口調が安定しないのは見逃してください。
さて、今日の作業の時間が近付いてきた。
今日はあの野菜が育ったからそれの収穫だ。
俺はいつもの手袋と帽子を身に付け、長靴を履いて宿舎を出た。
「お、もう来ていたのか。ライス、ブルボン、おはよう」
「お、おはようございます、鬼頭さん」
「肯定。今日はライスさんと共に来ました。おはようございます」
「おう。じゃあ服装のチェックから始めようか。じゃまずはライスから」
「は、はい。よろしくお願いします」
そんなに堅くならなくても良いんだがな。
ライスことライスシャワー。
漆黒の上下分割式の作業着に身を包み、頭には髪色と同じく黒の帽子を被っている。
しかし手袋と長靴は青で、どこかスッキリとした印象を与えていた。
しかし、黒か。
「ライス、今日は少し涼しいが、黒い作業着は暑くないか?」
「うん。ちょっとだけ暑いけど、前テレビで紫外線を遮るのは黒い服ってやってたから」
「成る程ね。服装に問題は無いよ。さて、次はブルボンだが」
「はい。よろしくお願いします」
ブルボンことミホノブルボン。
彼女はライスとは逆に純白の上下一体型の作業着に身を包み、また帽子も白いものを被っている。
手袋と長靴は紫で、全体的にシンプルながら清廉な印象を与えた。
「うん。ブルボンの服装は問題無いよ」
「ありがとうございます」
「さて、今日はとうもろこしの収穫をしようと思う」
「わぁ、とうもろこしだってブルボンさん!甘くて美味しいよね!」
「肯定。とうもろこしは別名とうきびと言われ、まるでサトウキビのような甘さを持つ穀物です」
「え?穀物?野菜じゃないんだ」
「その辺がちょっと面倒なんだよな。と言っても取り敢えず野菜で良いと思うけど」
「肯定。スーパーでも野菜コーナーに配置しています」
「確かに……!」
「さ、農園に行こうか。ライス、ブルボン、軽トラに道具を積んでくれ」
「はい。どれを積めばよろしいのですか?」
「今日はハサミとかは使わないから、収穫用のかごだけで良いかな」
「わかりました。ブルボンさん、探しに行こ!」
「ライスさん、勢い良く行くと転びますよ」
「探しに行くというか、一応見える場所には置いてるんだがな」
そう話ながらビニールハウスへと歩く。
「わあ、道具がいっぱい。鬼頭さん、この道具はどうやって使うの?」
「ん?どれだ?」
「えっと、この網目の、シート?かな?」
「ああ、それは寒冷紗って言って、野菜の畝をトンネル状に覆って、虫除けに使うんだ」
「へぇ、そうなんだ!」
「鬼頭さん、このかごを使うのですか?」
「お、それそれ。じゃあ軽トラに積むけど、二人のどちらかは軽トラの荷台に乗って貰おうかな」
「荷台かぁ。ブルボンさん、どうする?」
「私が乗ってもよろしいでしょうか」
「じゃあブルボンが後ろで、ライスは助手席か」
「あ、ライスも乗っても良いですか?」
「あれ、ライスも後ろ乗る?わかった。じゃあ気を付けて乗ってな」
「わぁ、凄い風!」
「肯定。しかし今日は少し風が強いですね」
「あ、今日夕方から雨降るってさ」
「えっ?じゃあライスのせいかも……」
「疑問。ライスさんは今日何かしましたか?」
「ライス、今日の作業、凄い楽しみにしてたから……だから」
「否定。自然現象を変えるほどの力は個人にはありません」
「というか週間天気予報でも今日は雨降るって予報出てたからライスは関係無いと思うよ」
「そうなのかな……?」
「もしライスに雨を降らせる力があったら、俺はライスに感謝しなきゃだし」
「え?ライス、感謝なんてされるの?」
「水やりの手間が減る」
「ふふっ、肯定。なら私も感謝します」
「え?ブルボンさんも?」
「耐水性のテストになります」
「な、成る程……?」
「ブルボンー。メカジョークは通じる人と通じない人居るぞー」
「さて、収穫開始だ」
「「はい」」
俺はとうもろこしの畝に近付くと、二人に説明する。
「まず、とうもろこしが生っているのはこの雌穂と呼ばれる部分だ」
「成る程」
「で、ちゃんと粒が付いているかを雌穂の皮をめくって確認する」
皮をめくるとそこから黄金色の実が顔を出す。
「わあ、凄い!」
「粒付きを確認したら、茎と雌穂をそれぞれ持って、雌穂を折り取る」
ベキ、と音が響き、株から雌穂が離れる。
「そうしたら、かごに入れて終わりだ」
「了解」
「わかった」
「さて、ここで一つだけ煽りを入れよう。他の野菜にも言える所だが、とうもろこしは特に収穫後は甘味が落ちやすい」
「成る程、スピード勝負という事ですか」
「じゃあ素早く取らないとだね」
「そう言うことだ。じゃあ作業開始!今日は涼しいとは言え、水分補給は忘れずにな!」
「ふぅ、ふぅ」
「ライス、大丈夫か?凄い汗だぞ」
「まだ大丈夫だよ、これくらい」
「いや、そろそろ水飲まないと倒れるぞ」
「ライスさんからバッドステータス『軽度の脱水』を確認。今すぐに水分を補給するべきです」
「鬼頭さん、ブルボンさん……ごめんね、心配掛けちゃったね」
「我慢強いのは確かに美徳かも知れないが、体調に関しては無理はいけないぞ」
「肯定。ライスさんは少し自分に厳し過ぎます」
「うん、わかった。じゃあ少しだけ休憩するね」
「おう」
「そういやブルボン」
「なんでしょう」
「ブルボンって何か好きなとうもろこしの料理ってあるか?」
「検索します……20%……50%……90%……確定、私は『コーンスープ』を好んでいます」
「あー、良いよな。冬場に飲むと身体が温まる」
「肯定。あの甘味が少しのとろみと共に口内を通り抜ける感覚を私は好みます」
「俺はー……夏野菜カレーとかに入ってると嬉しくなるな」
「理解。シンプルでありながら奥深い料理です」
ブルボンと二人で作業していると、ライスが近付いてきた。
「お、ライス。気分はどうだ?」
「うん。良くなったから戻ってきたよ」
「分析……ライスさんの体調の回復を確認」
「んじゃ大丈夫か。ならラストスパートといこうか」
「うん!」
「了解しました」
「よし、俺ので最後だな。ほっ」
ベキ。と音が響き、とうもろこしを折り取ると共に、今日の作業が終了した。
「んー……まだ雨は降らなそうだな。じゃあ二人とも、軽トラに乗ってくれ」
「ライスさん。帰りも後ろに乗りますか?」
「うん。二人で乗ろう」
「じゃあ二人でとうもろこしのかご押さえててな」
「わっ、さっきよりも風が強いね」
「確認。先程より30%の風勢上昇」
「じゃあ早くやること済ませないとな」
「「?」」
俺達はビニールハウスに着くと、いつもの準備を始める。
「よし、じゃあブルボンはビニールハウスの中から鍋を持ってきてくれ」
「了解しました」
「んでライスはカセットコンロを持ってきてくれ。鍋の近くにあるから」
「う、うん」
「じゃ俺は塩と落し蓋、あとタイマーを持ってきますか」
3人でそれぞれ分担し、必要な物を持ってくる。
「ライス、鍋に水を入れてくれ」
「どれくらい入れれば良いの?」
「8割くらいかな。ブルボンはとうもろこしを3本出して、茎を切ったら皮を剥いてくれ」
「了解しました」
水を張った鍋をコンロに掛けて貰うと、俺はコンロに火をつける。
「あ、ブルボン。皮は1~2枚残してくれ」
「理解。しかし、何をするのですか?」
「暑い中頑張った二人にご褒美。茹でとうもろこしを作る」
「えっ、そんなライスなんかの為に……?」
「このお手伝いの恒例行事みたいなもんだから、むしろ甘んじて受け取って欲しいな。お、沸いた」
お湯が沸いたので、鍋に塩を入れる。
結構たっぷり入れないと味が付かないので多めに入れよう。
「ブルボン、とうもろこしくれ」
「どうぞ」
「サンキュ、じゃあ鍋に入れて」
「はい」
とうもろこしが鍋に入るのを確認すると、落し蓋をしてタイマーを12分に設定する。
「そういえばさっきブルボンと話してたんだが、ライスは好きなとうもろこしの料理とかってあるか?」
「ライスの好きなとうもろこし料理?うーん、シンプルに焼きとうもろこしが好きだな」
「あー、焼きかぁ。そっちでも良かったな」
「しょうゆの香ばしい匂いでお腹が鳴るんだよね」
「おー、良いねぇ。腹減ってくるな」
そうやって三人で話していると、タイマーが鳴る。
「これで完成ですか?」
「いや、ここから更に火を止めて待つ」
「なんでぇ!?……あ、ごめんなさい」
「こうすることで更に甘味が増すんだ」
「うぅ、お腹空いた……でも美味しくなるなら待ちたい……」
「肯定。……しかし、これは堪えますね」
そうやって10分程待ち、粗熱の取れたお湯からとうもろこしを引き揚げる。
ひげごと皮を向くとその中から黄金色に輝く粒が顔を出す。
「じゃあこれで茹でとうもろこしの完成。二人とも、食べてくれ」
「「いただきます!」」
そう言うや否や直ぐに手を伸ばす二人。相当焦らされたから仕方ないな。
「美味しい、凄く美味しいよブルボンさん!」
「肯定……!塩味が甘味を引き立てて、凄く、何というか、」
「おう、慌てなくて良いからな」
「「美味しいです!」」
「そりゃ良かった」
俺もとうもろこしにかぶりつく。
ブルボンの言う通り、濃いめの塩味がかえって甘味を引き立てる。
更に主張してくるのは実の歯応え。
その全てが渾然一体となって脳髄を揺らしてくる。
「うん。今年のとうもろこしも成功だな」
そう言って食べ終わりとうもろこしの芯を名残惜しそうに見る二人を見ると、腕に冷たい粒が落ちてくる。
「ん、雨が降ってきたな。二人とも、片付けは俺がやっておくから、早く帰ってくれ」
「お疲れ様でした。それとご馳走さまでした」
「わわっ、ありがとうございました!」
そう言って駆けていく二人。
さて、本降りになる前に片付けますか。
人選はとうもろこし→穀物→ライスという感じで決めました。