今回の更新は早いのはネタが出来ていたためです。
次回の更新は割とネタ切れのため遅くなると思われます。
今日の作業の時間が近付いてきた。
俺はいつも通りに作業着に袖を通し、帽子と手袋を手に取り長靴を履こうとする……。
…………。
今日は何か嫌な予感がする。
前回の手伝いでライスが倒れ掛けた事が頭を過り、踵を返す。
俺は冷蔵庫の扉を開けると、もしもの時の為にと買っておいた『あるもの』を取り出し、俺の飲み物と一緒に持つ。
全ての準備が整ったので、改めて長靴を履き、宿舎を出た。
俺が集合場所のビニールハウスに着くと、今日のお手伝いのウマ娘が既に立っていた。
しかし、俺の目に入ってきたのはその異様とも言える格好。
服装は至って普通。
上下分割式の赤い作業着に身を包み、手袋は蛍光グリーン、長靴は黒い物を履いている。
しかし、頭を覆い隠す『それ』は、どうみても段ボール。
目玉模様が描かれ、ウマ耳の部分に穴が空いた継ぎ接ぎの段ボールであり、よく見たらその耳も段ボールで覆われていた。
「あ、おはようございます」
「あ、ああ。おはよう。その……暑くないか?」
実際今日は真夏日と予報が出ていたため、被り物をしながら作業できる日ではないのだが……。
「大丈夫です。意外と通気性あるんですよ?」
「そ、そうか。ところで君の名前を教えてくれるかな?」
「はい。ハリボテエレジーと申します」
「そうか。俺の事は鬼頭って呼んでくれ。じゃあエレジー、今日の作業内容はトマトとバジルの収穫だ」
「わかりました」
「じゃあビニールハウスから収穫の道具を軽トラに運び込もう」
「はい。どの道具を使いますか?」
「取り敢えずバジル収穫用のハサミと、後は2種類のかごを2つだな」
「2種類ですか?」
「一応バジルとトマトで分けなきゃだからな」
「わかりました。ところで鬼頭さん」
「ん、なんだ?」
「なんでここに調理器具が置いてるんですか?」
エレジーの視線の先を追うと、いつも使っている鍋や調味料が置いてある。
「んー……まぁ、作業が終わったらわかるよ」
「成る程?」
そんな話をしながら、軽トラに道具を積み込む。
「エレジー、いつも皆に軽トラの助手席に乗るか、それとも荷台に乗るか聞いてるんだけど、エレジーはどうする?」
「それじゃ、荷台に乗ります」
「オーケー、じゃあ一応荷物押さえといてな」
「ここ、凄い風ですね」
「まー荷台だからな」
「今って何キロくらいスピード出てます?」
「大体40km/hだな」
「……皆はこれくらいのスピードは普通に出せるんだよね」
「ん?何か言ったか?エレジー」
「いえ、独り言ですので」
「よし、じゃあまずはトマトの収穫からやろうか」
「はい」
「とは言っても収穫の工程は割と簡単だよ。まずトマトを手に持つ」
「はい」
「そうしたら茎を捻って、実の近くの節になってる部分から折り取る」
「成る程」
「後は傷付かないようにかごに入れて終わりだ」
「凄い簡単ですね」
「一応注意点としては、収穫するのは実の上の葉っぱが反り返っている物にしてくれ」
「それが完熟のサインなんですね」
「そういう事。じゃあ作業開始ね。ちゃんと水飲みながら作業してくれよな」
「そういえばエレジーは何か好きな野菜はあるのか?」
「好きな野菜、ですか……そうですね、かぼちゃは好きですよ」
「お、良いねぇ。煮物にするも良し、スープにするも良し。色々使える野菜だよな」
「そういう鬼頭さんはどんな野菜が好きですか?」
「俺?……うーん、色々あるけど……。そうだ、かぼちゃ繋がりでズッキーニとか」
「ズッキーニ?あれきゅうりじゃないんですか?」
「パッと見きゅうりっぽいけど一応かぼちゃの仲間なんだよな。かぼちゃみたいに保存が効くわけではないけど」
「色々衝撃ですね……」
なんて話をしながら数十分……。
「よし、エレジーのそれで最後かな」
「はい。終わりました」
「じゃあ次はバジルだな。説明の前にかごの交換をしようか」
そう言って軽トラに戻り、トマトのかごを荷台に置き、バジルのかごを取り出す。
「さて、バジルの収穫方法だが、バジルのてっぺんの葉っぱが4枚位付いてる部分、あるだろ?」
「ありますね」
「その部分をハサミで切る」
スパン、と音が響き、バジルの茎が揺れる。
「これが収穫方法だ。何か質問は?」
「大丈夫です」
「じゃあ作業開始!今くらいが一番日差しが強いから気を付けて作業してくれよ」
「鬼頭さん、バジルってどんな料理に使えるんですか?」
「イタリア料理には定番の食材だからな、ピザとかパスタとかに使えるな」
「パスタに使えるんですか」
「ジェノベーゼって聞いたことないか?あれ詰まる所バジルソースのパスタだよ」
「ああ、確かに……」
「……エレジー、大丈夫か?顔色ー、は見えないが、足取りがふらついてるぞ」
「大丈夫です、これ、くらい 」
その時、エレジーが膝から崩れ落ちた。
「エレジー!」
俺の伸ばした手は空を切り、エレジーは地面に手を付く。
「エレジー、大丈夫か!」
「はぁ、はぁ」
段ボールと作業着の間から見える肌が異常な程白くなっている、それに発汗がやけに少ない。
断言は出来ないが、恐らく熱中症だ!
「エレジー、歩けるか」
その言葉に対して、ふるふると首を横に振るエレジー。なら、
「エレジー、俺の肩を貸す。それなら歩けるか?」
その言葉には、一瞬の迷いがあったものの、首を縦に振った。
「よし、エレジー。腕を俺の肩に回して、そうだ。立ち上がるぞ」
その後、俺はエレジーのペースに合わせながら歩き、日陰となる農園脇の木の下へと歩いた。
木の下に着くと、俺はエレジーを座らせた。
俺はエレジーの前に屈む。
「エレジー、少しだけ待っていてくれ。ちょっと軽トラに物を取りに行ってくる」
そう言うなり俺は軽トラに向かって走る。
軽トラに着くと、助手席に置いておいた物、俺の飲み物の隣に置いていた、とある飲み物を手に取る。
「エレジー、待ってろよ……!」
俺は急いでエレジーの元へ戻ると、エレジーの様子を確認する。
身体は少しだけ涼んだようだが、まだ汗をあまりかいていない。
「鬼頭さん……それは……?」
「ああ、『経口補水液』だ。こうなった時のために持ってきておいた」
俺はエレジーにそれを飲ませようとし、気付く。
エレジーは段ボールを被っているため、そのままでは水を飲むことが出来ない。しかし、このままという訳にはいかない。
「エレジー、このままでは水が飲めない。頭の段ボールを取っても良いか?」
それに対してエレジーの段ボールの目玉模様が驚いたように動き、直ぐに抵抗の言葉を口にする。
「駄目……です……私は、これを外しちゃいけない……から」
「エレジー、熱中症は命に関わる。授業で習わなかったか?」
「…………」
「君の命と、君のそれを外せない理由、どちらが大事か、わかるよな」
「それ、でも……ッ」
「エレジー」
そこで俺は、改めてエレジーの両目を見据える。
「俺は、そのマスクの下にどんな光景があっても、君を笑わない。君を非難しない」
「……」
「マスク、取るよ」
「…………はい」
段ボール製のマスクは、上に伸びた耳ごと頭から離れていく。
その下からは、
黄金色の瞳、前髪に伸びる流星、所々に貼られた絆創膏、マスクの下からでも見えた茶髪。
そして、その上には彼女らにあるはずの耳は無く。
側頭部から、俺達と同じ、人間の耳。
これが意味するところは、ただ一つ。
ハリボテエレジーは、ウマ娘ではなく、人間だった。
しかし、そんな事よりまずは水分補給だ。
俺は経口補水液の口を開け、キャップに少しだけ液を出す。
「エレジー、少しずつ飲んでくれ」
それをエレジーの口元に運ぶと、少しずつエレジーの口に入れる。
「ッ!ゲホッ、ゲホッ」
「大丈夫だ。ゆっくり飲んでくれ」
俺はエレジーにキャップに入れた液を2、3度渡すと、経口補水液をそのまま渡す。
「さっきのと同じくらいずつ飲んでな」
「は、い」
するとどうだろうか。
エレジーの額から汗が少しずつ滲み出し、顔にも色が戻ってきた。
「エレジー、動けるか?」
「はい、今なら大丈夫そうです」
「なら軽トラに乗ってくれ。今度は助手席にな」
ゴトゴトと、農道を軽トラが走る。
「何も聞かないんですね」
「何がだ?」
「私が、ウマ娘じゃないこと」
「俺はあくまでも一用務員だからな」
「理由になってません」
「喧伝する理由が無いって事だよ」
「……そうですか」
「よし、じゃあ、いつもの試食会やりますか」
「……試食?」
俺はトマト数個と、バジル数枚を取り、軽く水洗いをする。
その後、ビニールハウスの冷蔵庫に入れておいたチーズを取り出す。
「それ何ですか?」
「モッツァレラチーズ」
チーズの水を切り、トマトをスライスし、チーズもスライスする。
そうしたらトマト、バジル、チーズの順番に重ねて並べ、最後に塩胡椒をふってオリーブオイルをかける。
「ほい、イタリアンサラダのカプレーゼ、完成」
「こんなに簡単なんだ……!」
「イタリア料理は簡単なのが多いんだよな。さ、食べてくれ」
エレジーがそれに手を伸ばす。
続いて俺も食べる。
「トマトの酸味とバジルの風味がこんなに合うなんて……!」
「だろ?簡単だけど旨いんだよな」
「チーズも良いですね。暑い日にはもってこいです」
「わかるわかる。作業後にこれが染みるよな」
そうやって話すこと数分。
「ご馳走さまでした」
「おう。片付けはこっちでやっとくから、もう帰って良いぞ」
「わかりました。鬼頭さん、今日はありがとうございました」
「おう、気を付けてな。あと、マスクはちゃんと付けていってな」
「勿論ですよ」
そう言って帰っていくエレジー。
さて、次の作業には誰を呼ぼうかなっと。
イラストは自分で描きました。
イラストは随時募集中です。