キングの口調が難しいですね……
さて、今日の作業を始める前に、少しだけこれまでの事を振り返る。
事の発端は、前回ハリボテエレジーが手伝いに来てくれた際、熱中症で倒れた日の夕方。
収穫したトマトとバジルを納品した後、一応今回の経緯を理事長に報告した。
横で聞いていたたづなさんは勿論のこと、理事長である秋川さんも驚いていた。
そこで俺から提案し、了承してもらった事が『作業時間の変更』だ。
これまでは午前10時頃から作業を開始し、午後3時までの作業にしてもらっていた。
しかし夏場は熱中症等のリスクが伴う為、作業開始を午後3時、終了を午後6時に変更した。
作業時間がだいぶ少なくなってしまったが、生徒達に倒れられるのが一番困る、という結論で纏まった。
これを太田と五十嵐の二人にも話したところ、「今まで真っ昼間から作業してたのか?このクソ暑い中か?正気か?」とか「当然ですね。むしろそれまで倒れた人が居なかったのが奇跡ですね」とか言われた為、現在絶賛反省中である。
さて、そんな感じで振り返っていると、今日共に作業してくれるウマ娘達が走ってきた。
「こんにちはー!」
「おう、ウララ。服装は……うん、大丈夫だな」
「ありがとー!」
満開の桜のような笑顔を見せる彼女はハルウララ。
髪色と似たような色の上下一体型の作業着を身に付け、袖を捲っている。
帽子、手袋、そして長靴を白で纏めており、作業着との対比で色がよく映える。
「はぁ、はぁ、ウララさん、急ぎすぎよ。転んだら危ないでしょ?」
「あっ、ごめんね、キングちゃん」
「アナタも、注意するのも仕事よ」
「スマンな、キング。元気さに見とれて、つい、な」
「全く……」
遅れて走ってきたのはキングヘイロー。上下一体型の緑色の作業着を身に付け、白い手袋を手に嵌めているその姿には高貴さすら漂っているが、作業着と同じ色の帽子と黒い長靴を付けているその姿にはマックイーンと同じような親しみやすさを感じさせる。
「うん。キングも服装は問題ないな」
「当然よ。一流は身嗜みには気を遣うものですもの」
「そうだな。ただ、今日も暑いから、暑さ対策は各自でやってくれな……ところで」
そう話を切り、俺は後ろを向く。
「今日は来たんだな、太田」
「鬼頭一人に任せっきりという危険性を再認識したからな」
「……まあ、それくらいで作業に参加してくれるなら安いもんか」
そう。今まで作業に参加したりしなかったりしていた太田が今回参加していたのである。
動機に対しては若干の不服要素があるものの、作業の手が増えるのは大歓迎である。
「さて、じゃあ今日の作業内容を説明する。今日はトマトとバジルの収穫作業をする」
「一つ質問良いかしら。先日エレジーさんからトマトの収穫をしたと聞いたのだけれど、今回もするのかしら?」
「キングとエレジー、知り合いだったんだな……っと、そうだな。トマトは一斉に収穫できる野菜じゃないからな。色付いたものから順次収穫。バジルも、成長したらその都度収穫する」
「成る程、わかったわ」
「後は質問ある?」
「俺は無いぞ」
「私も無いよ!」
「うし、じゃあ軽トラに道具を積もう。キングはトマト用の、太田はバジル用のかごを積んでくれ」
「わかったわ」
「おう」
「ウララはこっち。収穫用のハサミを人数分よろしく」
「わかった!」
さて……
「今日は誰を荷台に乗せようか」
「私乗りたいな!キングちゃんは?」
「私は、どちらでも構わないけれど……」
「わー!高いね!」
「ちょっ、危ないわよ、ああもう、私も一緒に乗るから、少し大人しくしなさい!」
「……太田って軽トラ乗れたっけ?」
「俺はAT限定。今MT取るために教習所通ってる」
「あれ、なんか必要に迫られてる?」
「牛舎が出来たら乗る必要も出てくるだろ」
「成る程」
「うわぁ!速いね、キングちゃん!」
「私達も同じくらいのスピードで走れるでしょ。危ないから顔引っ込めなさい」
「はーい」
「まあ、でも」
「?」
「この風は、気持ちいいわね」
「うん!」
「さて、まずはトマトの収穫から始めようか。ウララ、大きい方のかごを四人分取ってくれ」
「わかった!わわっ、とっ、とっ」
「あぶねっ、と。ハルウララ、大丈夫か?」
「太田さん、ありがとう!」
「気を付けろよ」
「わかった!はい、みんなの分!」
「ウララさん、ありがとう」
「おう」
「ありがとな。さて、収穫の方法だ」
俺はトマトの畝に近付くと、しゃがんでから三人の方を向く。
「収穫の方法は至って簡単だ。トマトの実を持って、その手の親指か人差し指で実の上の節の部分を押し込むように取る」
節を指で押すと、ポク、と音が鳴り、株から赤い実が離れる。
「で、前回は忘れてた事だったんだが」
「何か今不穏な言葉が聞こえたわね」
「ハサミで実の上の茎を切り落としてくれ」
俺は軽トラからハサミを取り出すと、トマトのヘタにハサミを差し込み、パツンと茎を切り落とす。
「これが収穫の工程だ。何か質問は?」
三人が一斉に手を挙げる。あれ、そんなわからん場所あったかな?
「じゃあまず、ウララから」
「うん。どんなトマトを取れば良いの?」
「私もそれを聞こうとしていたわ」
「俺も」
「……スマン。説明忘れてた。トマトのヘタが反り返っているものを収穫してくれ。後質問は?」
「無いよ!」
「私も」
「俺も特には」
「じゃあ作業開始。各自水飲みながらやってくれよな」
「わっ、トマトって凄く重いんだね」
「おう、慣れてないと予想以上に重く感じるんだよな」
「あ、あら?ごめんなさい、鬼頭さん、ヘタまで切れてしまったのだけれど」
「ん、大丈夫だ。市場に出す訳じゃないから、多少傷付いてもオーケーだ」
「そうなの?なら良かったわ」
「鬼頭さん、全部取り終わったよ!」
「おう、なら次はバジルやるか。じゃあトマトのかごを戻して、バジルのかごを持ってくれ」
俺の指示に従い、三人がかごを取り替える。
「じゃあ取り方の説明な。バジルの株を見てくれたら判るんだが、茎の先端に葉っぱが数枚付いてるだろ?」
「ええ」
「そこをハサミで切る」
スパンと音が鳴り、数枚の葉っぱが株から離れる。
「これを繰り返してくれ。質問は?」
「なら私からよろしいかしら?」
「おうキング」
「一つの株にどれくらい切れる所があるのかしら」
「それなー、株によって違うんだよ。株一つ一つの成長速度が違うから、ちゃんと一つずつ見てほしいな」
「わかったわ」
「うん、後は?」
「俺は無いぞ」
「私も!」
「じゃあ作業開始!気分が悪くなりそうならすぐに言うこと!」
「わぁ、これバジルの匂い?」
「そうだな。なんと言うか、ハーブらしい香りだよな」
「私はこの香りは好きよ。他の食材を引き立てる香りですもの」
「あー、それな。ピザとか、ジェノベーゼとか。イタリア料理定番だよな」
「鬼頭、その辺で止してくれ。腹が減るから」
「いやー、むしろ腹減ってくれた方がこちらとしては助かる」
「鬼か!」
「鬼頭だが」
「鬼頭、これで最後だ」
「おう、なら道具を戻して、、皆で軽トラに乗ってくれ」
「私荷台乗りたいな!キングちゃんは?」
「キングヘイロー、今度は俺が荷台に乗ろうか?」
「いえ、大丈夫よ。ウララさん、隣失礼するわね」
「わかった。なら俺は助手席に乗ろう」
「全員乗ったな?じゃあ戻るか」
「この時間になってくると、流石に涼しくなってくるわね」
「そうだなー。これぐらいの涼しさなら、作業もしやすいだろ」
「というかなんで今まで昼間から作業してたんだ?暑いだろ」
「単純に俺が暑さに慣れきってたからだな。周りの暑さ耐性を誤認していたんだよ」
「成る程な」
「よし、じゃあいつもの試食会やりますか」
「えっ!?ここで食べられるの!?わーい!」
「ウララさん、はしゃぎすぎよ」
「鬼頭、今回はどうやって食べるんだ?」
「シンプルに塩ふってかな」
俺はかごからトマトを数個取り出し、水で洗う。
その後、包丁で1/6サイズに切り、皿に盛り付ける。
「さ、食べてくれ。塩は各自好きな量ふってな」
「いただきまーす!」
「では私もいただきます。……まあ、とても味が濃いわね」
「本当だ。酸味だけじゃなく、甘味も感じる」
三人がそれぞれ感想を口にする。
俺もトマトを口に入れると、太田の言う通り酸味と甘味が口一杯に広がる。
「そうだな。今年のはなかなか良い感じじゃないかな」
「さっき鬼頭が腹減ってくれた方が都合が良いって言っていたのはこの為か」
「そうそう。ま、そろそろ夕飯時だから丁度良いんじゃないか?」
「あっ!ならもう帰らないといけないんじゃない!?」
「そうねウララさん。では私達はここで失礼させて貰うわ」
「おう。気を付けてな」
そう言って帰っていく二人を見送る。
「そういえば太田、牛舎っていつ頃完成するんだ?」
「もう完成してるぞ」
「速すぎない?」
「秋頃から牛を入れる。親牛を30頭、若牛を15頭」
「あー、この辺だとかなり多いが、日本の基準だと確かに小規模だな。放牧とかはするのか?」
「一応放牧地も確保している。なんだ鬼頭、こっちの話もできるのか?」
「昔色々、な」
「成る程。勿論だが、鬼頭にもこちらの業務にも入って貰うからな」
「それはそうだ。折角理事長にお膳立てして貰ったんだしな」
そんな話をしながら帰路につく。
牛舎での活動は初めてだが……まあ、なんとかなるだろう。
もぎたてのトマトってマジで美味しいですよね。