トレセン学園の農園で土にまみれる日々   作:タカハン

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注意

今回の話にはウマ娘が殆ど出てきません。

別のウマ娘小説書いたり設定資料作ってたりしたら遅れました。


太田と武志さんと牛舎稼働開始

聖蹄祭から数日後。

 

俺達農園管理者の三人は、理事長室へと呼び出されていた。そこへ向かう道中。

 

「いや~収穫体験会、好評で良かったですねぇ」

 

「それでも改善点は幾つかあったし、来年はもっと盛り上げたいな」

 

「ところで鬼頭、今回の呼び出し、何か聞いてないか?」

 

「いや、特に何も。そろそろ牛舎の運営開始の時期だし、それ関連じゃないか?」

 

「そ、そうだな……」

 

「おや、太田さん。気分が悪そうですね」

 

「ん、それなら戻っても良いんじゃないか?理事長には俺達から何とか言っておくよ」

 

「い、いや大丈夫だ」

 

そんな会話をしていると、理事長室に到着した。

 

コンコンコン

 

「鬼頭です」

 

『はい、入って下さい』

 

たづなさんの声だ。

それに従い、三人で理事長へと入る。

 

中に入ると、机の後ろに座る秋川理事長と、秘書のたづなさん、そして見知らぬ壮年の男性がいた。

 

「農園管理者三名、到着しました」

 

「うむ!では本題に入ろう!そろそろ牛舎が本格稼働するのは知っているな?」

 

「はい、勿論」

 

「うむ。しかし、太田君は過去に酪農を営んでいた家の出身だが、牛舎を運営する知識、技術が無いと聞いている」

 

「はい。確かに」

 

太田が答える。

 

確かに疑問に思っていた。

この仕事に就くまで養鶏を続けている家出身の五十嵐はともかく、本人の幼少期に離農している酪農家出身の太田はまともに酪農の作業を出来るとは思っていなかったからだ。

 

「そこで!酪農を出来る人間がいないのであれば、過去に酪農に従事していた人間を雇えば良いのではないかと私は考えた!たづな、彼の紹介を頼む!」

 

「はい。この方は、太田さんのお父上、太田 武志(おおた たけし)さんです」

 

「ご紹介に預かった、太田だ。もっとも、佑樹(ゆうき)の方を太田って呼び慣れてるだろうから、シンプルに武志って呼んでくれ」

 

成る程。

過去に酪農を営んでいたのであれば、作業の経験は充分にあるわけか。

 

「ここでの作業については、俺が先導して行う事になる。三人には俺が教えるから、まずは作業を覚えてくれ。ま、多分俺がやっていた方式とここの方式が違うかもしれんから、最初は俺も戸惑うかもな」

 

「ん、一つ質問宜しいですか?」

 

「おう、紺色のツナギの兄ちゃん。名前は?」

 

「鬼頭です。作業は貴方のやり方を学ぶと言う事になりますが、太田……さんの」

 

「太田で良いぞ。共に作業するんだ。俺には気を使わなくて良いし、佑樹には普段通りの呼び方をしてやってくれ」

 

「わかりました。では……太田を作業のリーダーとして牛舎の運営をしていくと過去に伝えられていますが、方針が変わったのですか?」

 

「ん、いや。方針は変わっていない。俺はあくまで臨時職員扱いだからな。作業のやり方を伝えはするが、最終的には佑樹がリーダーとしてやってくれる筈だ」

 

「なっ、聞いてないぞ、親父!」

 

武志さんの言葉に、動揺を見せる太田。

 

「佑樹、そりゃそうだろ。あくまでも農園管理者の牛舎担当はお前だと聞いているぞ。俺が横からしゃしゃり出て纏め役になったら、それこそ周りに示しがつかんだろ」

 

「それは……そうだが…………」

 

「それにな」

 

太田の意見に対して、武志さんが立場を明確にした上で諭す。その上で、もう一つ付け加える。

 

「佑樹、俺はな。俺が作り上げたあの牧場を、将来的に佑樹に継がせる予定だったんだ」

 

「ッ!それは……!」

 

「ああ。俺の手腕が悪かったのか、牧場は潰しちまった。だからかな。俺はこの話を、俺の牧場で叶わなかったお前への経営譲渡を、もう一度やりたいと思っている」

 

「親父……」

 

「ああ、もちろんこの牛舎は学校のものだっていう事は重々承知してる。それでも、これぐらいの形だけのワガママ、赦しちゃくれませんかね、理事長」

 

「うむ!資金繰りや法的な諸々はこちらが受け持つが、経営は好きにやってもらって構わない!それは後々稼働開始する五十嵐君の鶏舎や、鬼頭君の畑に関しても同様だ!」

 

「理事長……」

 

俺は少し、いやかなり感動している。

責任はこちらで取るから、自由にやってほしいと言うのだ。

 

その言葉は、かつて農業に関わろうとして挫折した俺の心にも染み渡った。

 

「特に鬼頭君は、農園の一部を私物化しているからな!今更だが、きちんと明言しておいた方が良いだろう!私は君達の味方であると!」

 

「え」

 

農園を私物化?そんなの……あっ。

 

 

 

遡ること半年程前。

トウモロコシの種蒔きにゴールドシップを呼んだ時。

 

俺はゴルシに軽食を要求された時、自分で消費する予定だったベビーリーフを泣く泣くゴルシに渡した記憶が甦る。

 

確かに、あの時は自分では気が付いていなかったが、個人用の畑でもない場所で自分が消費する目的の野菜を栽培する等言語道断。

 

 

 

恐らく理事長はその事を言っているのだろう。

 

「しかし理事長、何故その事を知っているのですか?証拠の隠滅ではありませんが、それはすぐに片付けた筈……」

 

「うむ、やはり記憶にあったか。ゴールドシップ自身が作業の後に話していったのだよ。『耕兄ちゃんが食わせてくれたベビーリーフ、自分で食べるための奴だったのに泣き言言いながら食わせてくれた』と!」

 

「アイツ……!」

 

本人から漏れたか。

ゴルシはああ見えて交友関係が広いし、理事長もウマ娘とはフレンドリーに接する事が多いが故の問題発覚だったのだろう。

 

「私としては君を責めるつもりはない。むしろ、感謝!ウマ娘との良い交流が生まれるならば、むしろ歓迎するべきである!」

 

「理事長……!」

 

「うむ!では、話を戻そう。牛舎の作業はまずは武志君が主導するが、最終的には太田君に作業のリーダーをやってもらう。異論は無いな?」

 

「ええ」

 

「はい。ありがとうございます、理事長」

 

「うむ。では、早速だが牛舎に行ってくれたまえ!武志君、案内を頼む」

 

「はい」

 

 

 

「太田、今日の呼び出しの内容知ってたんだな」

 

「そりゃそうですよ。牛舎の事なんですから、太田さんに話が行くのは当然です」

 

「あー……黙ってて悪かったな」

 

「いや、今日こうして公開するまでは漏らすわけにはいかんだろう。佑樹の行動は正しいよ」

 

「そう……ですね。すまんな、太田。責めるつもりはなかったんだ」

 

「いや、大丈夫だ」

 

 

 

「ここが……牛舎か」

 

武志さんの案内で牛舎に着くと、まずは外部を見回す。

新築の建物特有の匂いに包まれ、白く塗られた壁が日の光を反射する。

中に入ると、木の匂いが強くなり、暗い内部を彩る。

 

「んじゃ電気つけるぞ。実は俺も内部を見るのは初めてなんだ」

 

武志さんが入り口近くのスイッチを操作し、内部に明かりが灯る。

 

内部は牛が入っていない事も手伝い、広々として見える。

 

今入ってきたこの場所は、部屋を区分けするように金属のフレームが走っている。恐らく牛が寝泊まりする場所だろうから、このスタイルの牛舎は確か……。

 

「フリーストール牛舎って奴だな。ミルキングパーラー施設を付随させる牛舎で、牛達が自由に歩き回れる牛舎だ」

 

武志さんが資料を手に説明する。

 

フリーストール牛舎。

武志さんの説明通り、牛が自由に歩き回れるタイプの牛舎で、餌も個別ではなく数ヶ所に纏めて置いておく事により、牛が自由に餌を食べ、乳量の増加等が見込めるタイプの牛舎である。

 

「じゃあ次は、牛乳を搾るための施設、ミルキングパーラーだな。次の部屋に移動しよう」

 

俺達は武志さんについていき、廊下のような場所を通りすぎて奥の部屋へと入る。

 

「着いたな。ここがさっきも言った通り、搾乳のための施設、ミルキングパーラーだ。方式は……」

 

見れば、人が通れる場所に対して直角に牛の入るスペースが用意されている。

 

「……パラレルパーラーって奴だな。俺ん所の牧場と同じ方式のミルキングパーラー施設だし、これなら説明が早い」

 

そうして、俺達はバックヤードの方に入る。

 

「ここの水場で、搾乳に使った道具を洗う。こっちは乳頭の拭き取りのタオルを洗う為の洗濯機だな」

 

洗い場の内部には、大きなシンクがあり、その横にこれまた大きな洗濯機と乾燥機が併設されている。

 

「じゃあ次だな。ここの柵を開けると、放牧地に繋がっている」

 

金属の柵を開けると、目の前に広がるのは牧草が繁っている大きな放牧地。

 

「放牧地の柵には電気柵を使っている。今は電気を通していないが、牛の放牧中は通電させる。そんときには触るなよ」

 

電気柵の向こう側、つまり放牧地より外側の方には、通常の木で組まれた柵が地面に刺さっている。恐らくだが、他の生徒達が放牧地を見る時の為の物だろう。

 

「後は……バルククーラーだな。こっちに来てくれ」

 

俺達は、ミルキングパーラーから見て放牧地とは別の方向の建物へと移動する。

そこには、銀色の巨大なドラム缶のような円筒形の物体が横たわったような物……バルククーラーがあった。

 

「これが、搾った牛乳を冷やしておく為のバルククーラーだ。牛の平温は39℃だから、冷やして保存しておかないと簡単に腐ってしまう」

 

と、そこで昔見たとある漫画の描写を思い出す。確か……

 

「武志さん、確かバルククーラーの上のホースを繋いでおかないと、牛乳がこぼれてしまうんですよね」

 

「お、よく知ってるな。その通り。あそこのホースを伝って牛乳が通って来るから、そこを繋いでおかないと牛乳が全部こぼれちまうんだ」

 

その光景を想像したのか、太田が青い顔をしている。五十嵐も、気を引き締めている。

 

「だから、作業前のチェックは大事って事だな。もちろん人間がやることだ。ミスだってあるが、それを複数人でカバーすれば良いんだ」

 

その言葉に頷く。人間誰しもミスをするのだから、周りの人間でカバーすれば良い話なのである。

 

「さて、じゃあ全体の説明が終わったから、次は必要になる物の配置だな。まずは一番大事な防疫の為に、入り口に消石灰を運ぼう」

 

そうして、俺達は倉庫から消石灰を運ぶ。

消石灰は、靴裏の消毒に使う。牧場の場所によって石灰の他に消毒液を用意する等やり方に差異はあるが、家畜に害を及ぼす病原菌は基本的に外部からの土によってもたらされる事が多い。

なので、靴裏を消毒することにより、病原菌を排除することが大事である。

 

「ついでに、鉱塩も運ぼうか。佑樹、あと五十嵐君も、一輪車で運ぶぞ」

 

武志さん達が一輪車に載せている物は鉱塩と言い、一言で言えばミネラル分が豊富に入っている塩の塊である。

牛達も、人間と同じように塩がなければ生きていけないが、自然の植物には塩分が含まれていない。(アイスプラント等例外はあるが、牛が食べる為に作るのは非効率である)

そのため、こうやって外部から塩分を補給させる必要がある。

 

因みに、一つ一つブロック状に形成されて製造されるが、今回導入したものは一つ5kgの物である。トレーニングには丁度良い重さだが、多分彼女らには不足するだろうな。

 

そうして倉庫から道具を運ぶこと約2時間程……

 

 

 

「よし、これで終わりだな」

 

「ええ。お疲れ様でした」

 

武志さんがそう言うと、俺達はそれに相槌を打つ。

 

「酪農は重労働と聞いていましたが、これはなかなかですね」

 

「おう。ま、これが続くんだ。へばったか?」

 

「まさか。むしろやる気が出てきましたよ」

 

「なら良かった。しかし少し疑問に思っていたんだが、鬼頭君は酪農に詳しいんだな。さっき説明してた時、驚くよりも得心したような表情を見せていたしな」

 

「はは……昔、酪農と畑の両立を目指して勉強した時期があったんですよ。色々知っているのはその名残ですね」

 

「成る程な。そっちに見えた畑も立派な物だったし、もしかして君も過去出来なかった事を?」

 

「そうですね。……まさか、こんな形でチャンスが舞い込んで来るとは」

 

「だな。俺ももう一度酪農が出来るなんて思わなかったよ。チャンスは転がって来るんだな」

 

「それを掴んだもの勝ちですよ。どんな事でも」

 

そうやって、二人で笑う。

チャンスを掴んだ者同士、上手くやっていけそうだな、と思いながら。




鬼頭君は銀◯匙読者です。
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