トレセン学園の農園で土にまみれる日々   作:タカハン

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物書き初心者ですが農業物を書きたかったので書きました。
作者の農業知識は家庭菜園レベルです。


農園3年目
スペとスズカとスナップエンドウ


ここは、通称『トレセン学園』と呼ばれるウマ娘育成機関、その敷地内。

 

ウマ娘達とそのトレーナーによる練習の掛け声が聞こえる時間帯。

 

学園内の人工林を切り拓いて造られた、畑。

 

──機械の駆動音が、辺りに響き渡っていた。

 

「ふぅ。さて、今日来るのは確か──」

 

『鬼頭さ~ん、こんにちは!』

 

「──スペシャルウィークと、あとはサイレンススズカか」

 

俺は機械のエンジンを止め、頭に巻いたタオルを縛り直し、二人の元へ降りていった。

 

 

 

事の発端は、トレセン学園の主要人物等での会議での事。

 

「提起!今トレセン学園に、ある問題が起きている!」

 

そう切り出したのは、この学園の理事長、秋川やよいである。

見た目からはそうは見えないが、ウマ娘を誰よりも愛している、懐の深い人物である。

 

「理事長、問題とは……?」

 

会議に出席している内の一人が聞き返す。

 

「うむ。それがだな……」

 

会議室に一瞬、静寂が満ちる。

 

「危機!学園内のカフェテリアでの食材供給が足りない!」

 

会議室内がざわめく。

 

「しかし理事長、ならば外部からの供給を増やせば良いのでは?」

 

「それについては、たづな!」

 

「はい。他にも問題がありまして、最近食事を残したり、ビュッフェの料理を無用に多く取りすぎたりする生徒が増えているのですよ」

 

理事長秘書、駿川たづなが説明する。それに対して、困惑の声。

 

「ううむ?食事を残す生徒には注意をすれば良いのでは?」

 

「私達も情報提供を受けただけであって、誰が残しているかわからないのですよ」

 

「提案!そこで彼から、それを解決するためのアイデアが提出された!用務員の鬼頭君!」

 

そこで、会議室内の視線が一斉にこちらを向く。

そもそも俺は一端の用務員でしかなかったので、この会議に呼ばれる事自体分不相応、イレギュラーと言えた。

 

そんな事を考えつつ、資料を手に前に出る。

 

「えー用務員の鬼頭 耕一(きとう こういち)です。今回俺……じゃない、私から提案致しますのは、トレセン学園内の一角を畑とし、そこで野菜を育ててカフェテリアに卸します。資料をご覧下さい」

 

紙を捲る音が聞こえる。

 

「それなりに大規模の畑になるので、まず食材不足の問題は何とかなると思います」

 

「疑問!大規模の畑とは言ったが、それを動かす人員はどうするのかね?」

 

「そこで二つ目の問題が関係してきます。基本は用務員の内数人をメインとして畑の運営をしますが……」

 

そこで俺は会議室内を見回し、一息入れてから要点を切り出した。

 

 

 

「トレセン学園の生徒達、すなわち、ウマ娘達に協力を仰ごうと考えています」

 

静寂が満ちる。

 

「疑念!そこがどうすれば食材の無駄と結び付くのかね?」

 

「単純な話です。自分で育てた食材が料理に出たとしたら、その料理を残すなんて考えますか?」

 

会議室にざわめきが響く。

 

「確かに……」

「いやでも、残す奴は残すんじゃないか……?」

 

「それでも、残す娘はいると思います。しかし、数は減ると考えられます。それでも残す生徒には注意すれば良いと思います」

 

「疑義!問題の解決はできたが、彼女等にも自分の時間がある!練習の時間がある!そこはどうするのだね?」

 

「まずは、全校生徒にこの事をプリント等で周知して貰った後、彼女等の休日の日に来て貰えないか、トレーナー達に確認して貰おうかと」

 

「むむ、成る程」

 

「それに、彼女等らは食べるのが好きな娘達ばかりですからね。やってみたいという娘達はいると思いますよ」

 

「成る程……」

「確かに二つの問題を一度に解決できそうだ……」

 

賛成意見が幾つも聞こえてくる。

 

「承認!これより、敷地内に畑を作る!用務員諸君!忙しくなるぞ!」

 

 

 

 

 

「そんな事もあったっけ」

 

「鬼頭さん、どうしました?」

 

「ああ、ちょっとここができた時の事を思い出してて。……さて、スペ、スズカ、準備はできてるか?」

 

「もちろんです!」

「大丈夫ですよ」

 

二人の声が響く。

二人とも作業着に身を包み、準備万端といった様子だ。

 

土で汚れる仕事である都合上、流石に指定ジャージでは仕事はさせられなかった。匂いも付くしな。

なので、理事長に相談した結果、購買にウマ娘用の作業着と長靴を置いて貰う事ができた。しかも、生徒それぞれに好みがあるからと、各色、形状も様々な作業着を入れて貰うことになった。

 

スペことスペシャルウィークの作業着は上下一体型の薄紫の作業着で、白の帽子と白い長靴を付けている。実家でも畑仕事はしていたとの事で、なかなかに決まっていた。

 

対してスズカことサイレンススズカの作業着は上下分割型の白と緑の作業着で、頭には麦わら帽子をかぶるその姿は実際に農業をするウマ娘としても違和感が無かった。因みに長靴は黒。

 

「さて、今日の作業だが、スナップエンドウの苗ができたからそれを植える作業、後はレタスの種蒔きだな。畑はもう耕してるから、苗持ってくるか。こっち来てくれ」

 

俺は二人を引き連れ、苗を管理するビニールハウスの中に入る。

スナップエンドウの苗はここら辺に……あったあった。

 

スペとスズカに指示をし、軽トラの荷台に苗と道具を載せる。

 

「よし、それじゃあ畑に移動しようか」

 

さてここで問題が。

この軽トラ、二人乗りであるため一人を荷台に載せなければいけないわけだが……

 

「どっちが荷台に載る?」

「私後ろでも良いですよ!慣れてるので!」

「私は助手席がいいかな……」

 

「じゃあスズカが助手席で、スペが後ろな。慣れてるなら大丈夫だと思うけど、走ってる最中に立ち上がるなよ、危ないから」

 

「もちろんです!」

「わかったわ」

 

 

 

軽トラでの移動中、暇だったので二人に気になる事を聞いてみた。

 

「今日は二人とも休みだったのか?」

 

「そうね。私はまた走ろうと思ったのだけれど、スペちゃんに誘われて」

 

「私は土の匂いが嗅ぎたくて!」

 

「そ、そうか……」

 

「冗談ですよ!手伝いたかったのは事実です!」

 

そうやって三人で談笑しながら軽トラを走らせて行くと、目的地に到着する。

 

「よし、それじゃあやるか!」

「「はい!」」

 

まずは土の状態の確認。

土を手に取り、握り締める。土は押し固められるが、力を加えると直ぐに崩れる。

これは、肥料が土に馴染んでいる証左である。

因みに、ウチでは化成肥料……人工的に配合された肥料を使用している。

臭いが少なく、肥料としてのムラが少ないのが特徴である。

 

次に、軽トラに載せてあった空のビール瓶を取り出す。

 

「二人とも、よく見といてな」

 

瓶の底を土に押し当て、5cm程の深さの穴を開ける。

そこに苗を持っていき、プラ製の苗ポットから優しく苗を取り出し、穴に入れる。

そして、植えた苗の直ぐ側から土を寄せ、軽く上から圧をかける。そこに、持ってきていた支柱を苗の傍に差し込む。

 

そして、そこから30cm程離れた場所にまた穴を空け、同じ作業を繰り返す。

 

「これが、今日の作業だ。穴を開けてからポリポットから苗を出して、植えて土を寄せて、支柱を立てる。お、二人ともちゃんとメモ取ってるな」

 

二人のメモ帳にも特徴が出ている。スペのはかわいらしい柄付きの、スズカのは無機質な普通の物。

 

「わからない時は恥ずかしがらずに俺を呼んでな。わからないまま作業されるのが一番困るから」

 

「「はい」」

 

「あと、水分はちゃんと取ること。具合が悪くなったらちゃんと言うこと。オッケー?」

 

「わかりました!」

「わかったわ」

 

「よし、何か質問あるかな?」

 

「あ、じゃあ私からお願いしても良いですか?」

 

「おうスペ、何だい?」

 

「苗を植える時、大体どれぐらい苗同士を離した方が良いですか?」

 

「まぁ、30cm程だけど……スペ、靴のサイズ幾つだ?」

 

「23cmですけど……」

 

それが何か関係が?という顔。

 

「人間の身体って不思議な物で、実は足のサイズと腕の手首から肘までのサイズは大体同じなんだよ」

 

「そ、そうなんですか!?」

「ウソでしょ……!?」

 

「ホントホント。だから二人とも、握り拳を作ってみて」

 

俺の指示に二人とも手を握る。

 

「手首を伸ばした状態で握り拳を作れば、肘から拳の先までで大体30cm。覚えとくと色々便利だよ。さて、後は?」

 

「大丈夫です」

「こっちも大丈夫よ」

 

「よし、じゃあ作業開始!全体が終わったら、水撒きして終わりだからな!」

 

「はい!」

「わかったわ」

 

 

 

「よし、スナップエンドウは終わり!」

 

「お、終わったぁ~」

「腰が痛いわ……」

 

「おいおい、まだレタスの種蒔きがあるぞ?」

 

「ちょっと休憩させて下さい~」

「私も……」

 

二人はだいぶお疲れの様子だ。

 

「しょーがねーな、少し休憩するか。こっち来てくれ」

 

二人を畑の隅に寄せ、俺は少し準備をする。

さっきのとは違う畑に近づき、そこに植えていたある野菜を見付ける。

 

「お、良さそうだな」

 

俺はその野菜を20本程引き抜き、水洗いして土を落としてから頭と尾っぽを切り落とす。

 

「鬼頭さん、それって……?」

 

「おう、この春初めての収穫物、ラディッシュだ」

 

特徴的な赤い2cm程の球体、はつか大根とも呼ばれるカブの一種、ラディッシュ。

 

「さ、味見がてら食べてくれ」

 

「良いんですか!?いただきます!」

「じゃあ私も頂こうかしら」

 

「はむっ……美味し~い!」

「少し辛いけど、瑞々しくて美味しい……!」

 

「だろ?今年のは少しだけ土質を変えてみたんだ。どれ、俺も一つ」

 

シャリッとしたその実を齧ると、スズカの言う通り辛味が口に入る。しかし、口内には瑞々しさが広がり、辛味と共に鼻の奥までを刺激していく。

 

「うん。旨いな」

 

 

 

「さて、休憩もできたところで、レタスの種蒔き、やるか!」

 

「はい、頑張りますよ!」

「ええ。元気になりましたし」

 

俺達はビニールハウスの元に戻り、レタスの種とポリポット、それと種蒔き用の土を用意する。

 

「さて、今からやるから見ておいてな」

 

ポリポットに土を入れ、土の真ん中を少しだけ指でへこませる。そこにレタスの種を4か5粒蒔き、周りの土を被せる。そうしたら、如雨露で水を撒く。

 

「さ、これが種蒔きの工程だ。質問は?」

 

「大丈夫です!」

「私も大丈夫」

 

「じゃあ始めようか。多分役割分担した方が良さそうだから、土入れ、種蒔き、水やりで分けるか。二人はどれやりたい?」

 

「私は種蒔きやりたいです!」

「私は水やりを」

 

「一番面倒なの残したな。まあ良いよ。じゃあ俺が土入れやるか。よし、開始!」

 

 

 

 

「よし、これで最後だ」

 

「種を蒔いて、土を被せて」

「最後に水を撒く」

 

「「終わったぁ~!」」

 

種の袋から種が無くなるまで作業を続け、漸く終わる。

俺も流石に腰に来たな……。




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