トレセン学園の農園で土にまみれる日々   作:タカハン

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皆様、お待たせしました。
今回はついに酪農パートに入ります。(とは言っても後の話では畑もやりますが)
では、どうぞ。

……それと、『ターボとタンホイザとレタスとトマト』を大きく編集しました。
詳細はそちらで。


ライアンとアルダンと搾乳と哺乳

牛舎の説明会からおよそ2週間は経っただろうか。

昨日牛を牛舎に入れ、搾乳の作業がとうとう始まった。

 

で、現在。

軽く雪がちらつく中、牛舎作業のリーダーである太田と武志さんと共に今日作業に来るウマ娘を待っていた。

 

「ウマ娘との作業か……緊張するな」

 

「どうしたんですか武志さん」

 

「ああ、親父はウマ娘とはあまり関わって来なかったからな」

 

「成る程。でも普通の女の子ですよ、どの子も」

 

「そうは言ってもな……確か脚が速くて、力が強いんだっけか」

 

「ええ。でも、走る時とそうではない時では顔つきも違いますし、普通の時は普通の子ですよ」

 

「うーん、そんなもんか」

 

「お、鬼頭。来たみたいだぞ」

 

「ん、ライアン、アルダン。よく来たな」

 

「はい!こんにちは!」

 

「こんにちは、鬼頭さん、太田さん。おや、こちらの殿方は……?」

 

「ああ、太田の親父さんで、牛舎での作業を教えてくれる武志さんだ」

 

「まあ、そうなのですね。メジロアルダンです。よろしくお願いいたします」

 

「メジロライアンです。今日はよろしくお願いします!」

 

「あ、ああ。武志だ。よろしくな」

 

さて、互いに自己紹介も終わったところで、いつもの服装の説明だ。

 

メジロアルダンは、黒い上下一体型の作業着に白い手袋と帽子、茶色い長靴を合わせている。

メジロライアンは上下分割型の作業着、手袋、それに長靴を白で纏めており、帽子だけ黒いものを着けていた。

 

どちらも二人の印象に合っており、作業する服装としても申し分無かった。

 

因みに現在は夕方。いつもの作業は昼間に行っているが、何故この時間にやっているのかと言うと……。

 

「じゃあ武志さん。そろそろ作業の説明を」

 

「あ、ああ。……コホン。では今日の作業は牛舎の掃除、牛へのエサやり、それが出来たらいよいよ搾乳だ」

 

「「はい」」

 

「その後、佑樹と鬼頭君と、君達の四人を二つに分けて子牛への哺乳を行う。一つ一つ説明をするから、まずはついてきてくれ」

 

そう言うと、俺達は牛舎の中に入る。

 

「そういえば鬼頭さん」

 

「ん、どうしたライアン」

 

「これまでの作業って昼間でしたよね。なんで今回は夕方なんですか?」

 

「ああ、それは牛の乳房のシステムに関わってくる」

 

「?」

 

「牛の乳房には、だいたい12時間で牛乳が溜まりきるんだ」

 

「12時間……」

 

「で、そうなると1日に2回は絞らないといけない」

 

「ふむ」

 

「もし昼間に搾乳を行うと、次の搾乳は真夜中に行わなきゃいけなくなる」

 

「なるほど!だから夕方なんですね!」

 

「まあ、そのせいで朝方にまた搾乳を行わなきゃいけないんだが、君達を朝から作業に従事させる訳にはいかないだろ?」

 

「そうなのですね。ところで1日に2回牛乳を搾らなくてはいけないとのことでしたが、もし搾らなければどうなるのですか?」

 

「んー……だいたい二つのパターンがある」

 

「ええ」

 

「前提として、乳房には12時間分の牛乳しか溜め込めない。それと、牛乳の生成を止める事はできない。この二つを踏まえた上で、まず一つ。乳房に裂け目ができて、牛乳が噴き出す」

 

「え……」

 

「そうなったら、手術か……あるいは廃用だな」

 

「すみません、廃用とは……?」

 

「『もうこの牛は搾乳に利用できないので、廃棄します』って事だな。法律上、牛は物として扱う。言い方を変えれば、『殺処分』って所だな」

 

「…………」

 

「……つらい話をしてすまなかったな。でも、これが産業動物の現実なんだ」

 

「いえ、大丈夫です」

 

「そうか。もう一つが、乳房炎だ。こっちはまだ治療の余地があるから、まだ救いかな。まあ、そんな事態を起こさないのが最善だけど、搾る側も搾られる側も生き物だから、どこかでイレギュラーは起きる。問題が起きた時に対処するのが俺達の責任だな」

 

「責任……」

 

「ああ。牛乳はあくまで子牛に与える母乳を分けてもらっているものなんだ。だから、俺達は牛達に出来るだけ気持ち良く牛乳を出してもらいたいんだ」

 

「成る程、わかりました。この仕事、誠心誠意努めさせていただきます」

 

「おう、ありがとうな」

 

「鬼頭君、貴重な話をありがとう。本当は俺が話すべき事だったんだが、君は本当に牛に詳しいな。酪農家顔負けだよ」

 

「はは……ありがとうございます。では、作業の説明をお願いします」

 

「おう。じゃあまずは、牛舎の掃除を行う。佑樹とメジロアルダンさんは竹箒でエサ置き場を掃いてくれ」

 

「はい」

 

「わかった」

 

「鬼頭君とメジロライアンさんは、俺と一緒に糞の掃除だ」

 

「「はい」」

 

「よし、じゃあ作業を開始しよう」

 

 

 

「よし、じゃあまずは糞の掃除のやり方だ。道具はこのスコップを使う」

 

「あれ、これって雪かきのスコップじゃないですか」

 

渡されたのは、先端に金属のブレードが付いたプラスチック製の、どこからどう見ても雪かき用スコップであった。

 

「これが手っ取り早いからな。やり方だが、こうやって、腕だけじゃなく下半身を使って糞を掬い上げる。糞は重いから、力の入れ方を間違うと腕を痛める」

 

「成る程」

 

「で、この一輪車に乗せて終わりだ。質問がなければ、作業に移ろうと思うが……大丈夫か?」

 

「はい、大丈夫です!」

 

「よし、じゃあ作業に移ろうか」

 

 

 

「よっと。確かに少し重いけど、トレーニングのウェイト程じゃないですね」

 

「やはりウマ娘、このぐらいじゃ問題なかったか」

 

「なんだ鬼頭君。気付いていたのなら指摘してくれよ」

 

「はは……彼女達は皆力持ちですからね。むしろ武志さんも気付いていたものだと」

 

「ここまでとは思わなかったな」

 

 

 

「よし、これで糞の処理は終わったな。じゃあ佑樹達と合流するか」

 

 

 

「全員いるな。じゃあ次はエサやりだ。エサはこの白いラップに包まれたロールベールを使う」

 

「大きいですね。これ、重さはどれぐらいあるんですか?」

 

「一つだいたい400kgって所だな」

 

「それならギリギリ……これ、持ってみても良いですか?」

 

「え?持てるものなのか?」

 

「前に500kgのウェイトを上げた事があるので!」

 

「そ、そうか。怪我には気をつけてな」

 

「はい!……ほっと!」

 

「うわ……ホントに持ち上げてる」

 

「つくづく彼女達を見てると、人間の常識は崩れ去るよな」

 

「それがウマ娘の凄い所だな。ライアン、牛達の前まで持って行けるか?」

 

「持ち運ぶのは出来ますが、前が見えません!」

 

「わかった。なら俺が誘導するよ」

 

「…………メジロアルダン、君は運べるか?」

 

「多分ギリギリ持ち上げられそうですけど、運ぶのはちょっと……」

 

「わかった。無理を言ったな」

 

「…………ウマ娘って凄いんだな……」

 

 

 

「よし、エサやりは終わりだな。じゃあ次はお待ちかね。搾乳を行う」

 

その言葉に、俺の背筋が引き締まる。

かつて散々やりたいと願い続け、叶わなかった夢。それを今、自分の手で行う事が出来るのだから。

 

「じゃあやり方の説明だ。牛達の上にパイプラインが通っているだろ?」

 

「はい」

 

「そこに、この『ミルカー』という機械のチューブを付ける。そうしたら、まずは前搾りという作業を行う。ここからは速いぞ。付いてこいよ」

 

「はい!」

 

「前搾りをして、牛乳に異常が無いかを確認する。ネバネバしてないか、ヨーグルトみたいに固まっていないか」

 

「そうなっているとどうなるんですか?」

 

「牛乳に異常があれば、乳房炎ってことだから他の牛乳と混ぜてはいけなくなるパイプラインに流さないように、別の機械で搾るんだ」

 

「ふむ」

 

「じゃあやって見せるぞ。まずは前搾りだ」

 

武志さんが牛の横に屈み、四つある乳頭に手を伸ばす。

バケツを乳頭の下に置き、乳頭を指で包み込むと、乳頭の先端から牛乳が噴き出る。

 

「おお……」

 

思わず俺の口から声が漏れ出た。

プロの仕事を間近で見られたからだ。

 

「次に、乳頭の消毒、『プレディッピング』だ。消毒液を付属のカップに貯め、乳頭を液の中に浸す。それからすぐに、タオルで消毒液を拭き取る」

 

消毒液の入ったカップに乳頭が浸され、すぐにタオルで拭き取られた。

 

「で、それからミルカーを装着すれば、搾乳が出来る。搾乳は大体5分から10分で終わるから、その間に他の牛もやる。今回は説明があるから、少し待とう」

 

 

 

待つこと5分程。

 

カラン、という音と共にミルカーが外れた。

 

「ミルカーが外れたな。次は『ポストディッピング』だ。さっきのとは違う消毒液で、乳頭を消毒して、最後に拭き取って終わりだ」

 

「結構消毒の工程があるのですね」

 

「食品を作っている場所だからな。それに、牛達の健康維持の面もある」

 

「そうそう、最初の前搾りからミルカー装着までは1分以内にやるのが望ましいらしいぞ」

 

「それには何か理由があるんですか?」

 

「乳頭を締め付けて牛乳を出すとな、『搾乳刺激』というのが発生するそうだ」

 

「搾乳刺激……」

 

「詳しい事は鬼頭君に聞いてくれ。多分俺より詳しい」

 

「えっ、ここで投げるんですか。……確か、ホルモンの関係でどんどん牛乳が乳頭から分泌してきて、終いには噴き出てくるとか」

 

「「「「へぇ~」」」」

 

「武志さんまで!?」

 

「ははっ、悪い悪い。じゃあ搾乳をやってみようか。佑樹、やり方は覚えてたか?」

 

「勿論」

 

「なら良し。じゃあ佑樹とメジロアルダンさん、鬼頭君とメジロライアンさん、それと俺で分かれて作業しよう」

 

「「「はい」」」

 

「おう」

 

「じゃあ、わからなくなったら俺に聞いてくれ。作業開始!」

 

 

 

「えっと、まずは前搾り、次にプレディッピング、そうしたらミルカー装着……」

 

「お、上手い上手い。ホントに初めてか?」

 

「初めてですよ!武志さんの教え方が上手いんです」

 

「そうか。じゃあ次の牛もやろうか」

 

「はい!」

 

 

 

「鬼頭君のそれで最後かな」

 

「はい。ポストディッピングをして、最後に拭き取る……終わりました」

 

「うん。じゃあ、牛を放牧させよう。こっちに来てくれ」

 

 

 

「放牧には、ここの柵を開けるんだ」

 

「夜も放牧させるのですね。さっき来るときにも放牧させていましたが……」

 

「ん?そうだな。この放牧方法はー……鬼頭君、なんて言ったっけか」

 

「昼夜放牧ですね。エサやりと搾乳の時だけ牛舎の中に入れて、他は放牧させる方法です」

 

「そうそう。牛を普段から運動させておくことによって健康維持させるんだ」

 

「成る程」

 

「うん。じゃあ最後に、子牛の世話だ。こっちに来てくれ」

 

 

 

「これが、子牛を世話する入れ物、『ハッチ』だ」

 

そこには、白いケースのようなものがあった。

 

「基本は搾乳牛とやり方は変わらない。最初に寝藁の入れ替えをやって、そうしたら授乳だ」

 

「はい」

 

「佑樹とメジロライアンさんの二人で、寝藁の入れ替えを頼む。鬼頭君とメジロアルダンさんはこっちに来てくれ。牛乳の準備をしよう」

 

 

 

「じゃあやり方だ。ここにバルブがあるだろ?」

 

「はい」

 

「口の下の所にバケツを置いて、口の蓋を開く。そしてバルブを開くと、牛乳が出てくる」

 

その言葉の通り、バルブを開くと牛乳がパイプから溢れ出てきた。

 

「ある程度貯まったら、湯煎で加熱する。人間の赤ちゃんでも同じ事だが、感染症対策だな」

 

「ふむ」

 

「で、ある程度温まったら今度は哺乳瓶に移して人肌まで冷ますんだ。この時、人肌より若干熱い方が下痢になりにくいらしい」

 

「成る程」

 

「よし、冷めたな。じゃあ持っていこう」

 

 

 

「佑樹、掃除は終わったか」

 

「おう」

 

「なら次は哺乳だ。見ててな」

 

そう言うと武志さんはハッチに哺乳瓶を引っ掛け、飛び出た哺乳瓶の口を子牛に向ける。

そうするとすぐに子牛が口に吸い付き、中の牛乳を吸い始める。

 

「「おお……」」

 

ウマ娘二人も驚いたような表情で子牛を見る。

 

「これが哺乳の方法だ。他にも幾つか方法はあるが、ここではこの方法をとる。じゃあ最後に片付けだな。洗い場に行こう」

 

 

 

「じゃあ洗い方の説明だ。殆どの道具は水洗いして、最後に機械で洗浄する。タオルは洗濯機で洗った後、乾燥機で乾かす」

 

「「はい」」

 

その後は道具をひたすら洗った。

 

 

 

 

「よし、今日の作業は終わりだ!おつかれさん」

 

「「お疲れ様でした!」」

 

「お疲れ、鬼頭」

 

「太田もおつかれさん。これが酪農家なんだな」

 

「ああ。とは言っても、まだまだ作業は沢山あるけどな」

 

「それは……楽しみだな」

 

「楽しみって、ホント変わった奴だよな」

 

「自覚してるよ」

 

そんな会話をしながら帰路につく。

次はどんな作業が待っているのか。

年甲斐もなく沸き立つ想いを抑えきれなくなっていた。




実はもうすぐ筆者の誕生日だったりします。
プレゼントは感想や評価でお願いします。

評価と言えば、先日この小説の評価バーを確認したらオレンジ色だったのが黄色になっていて、確認したら低評価が増えていました。笑いました。以上。
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