なかなか特殊な立ち位置の子なのでキャラデザには苦心しました。
現在真夏なのに作中時期は冬です……。
筆が遅いですね…………。
さて、今日も作業の時間だ。
先日、ここ府中にも雪が積もった。まあ、5cm程なので俺の故郷から見れば積もったに入らない量だが、ここは東京。電車も止まり、街を歩くだけでも一苦労であると思う。
特に、ここに通うウマ娘達ならなおのこと。
凍結した道路で滑って転び、身体を痛めましたなんて日にはそれこそ絶望だろう。
さて、そんな事を考えながら今日作業に参加するウマ娘を五十嵐と共に待つ。
「いや~、今日は積もりましたね」
「だな。作物には特に影響なさそうだったんだが、人間達の方が駄目そうだな。五十嵐はどうだ?」
「暖房の利いた部屋から出るのが辛かったですね。こういう時になると、寒さに強い彼女らが少し羨ましいです」
「あれ、ウマ娘って寒さに強いんだっけか」
「え、暑さには弱いんですよね?なら順当に寒さには強いと思っていたのですが」
「いやそんな話は聞いたことがないな。実際彼女らも寒い日には厚着してるし」
「あーじゃあ多分私の勘違いですね」
なんて話をしながら待つ事数分……
「すみませんっ、遅れました!」
今日共に作業するウマ娘が到着する。
黒髪に左耳の下から金色のメッシュ、青紫の目をしたウマ娘が息を切らしながら挨拶をした。
「うん、時間は大丈夫だよ。まずは息整えて」
「あっ、はい……すみません」
そうして深呼吸をしているウマ娘の息が整った辺りで声を掛ける。
「じゃあ、君の名前を教えてくれるかな」
「はい。ドリームラズライトと申します。みんなからは『ラズ』って呼ばれてます」
そう言った彼女の服装を見る。
紫色の上下分割式の作業着に身を包み、白い帽子と、黒い手袋と長靴を着けている。
「そうか。じゃあ俺もラズって呼ぶよ。あ、俺は鬼頭な。五十嵐、作業の説明をするから、こっちに来てくれ」
そうして三人でビニールハウスの中に集まり、作業の内容を二人に説明する。
「今日は芽キャベツの収穫を行う。収穫作業にはこのハサミを使う」
「「はい」」
「作業の詳しいやり方は、向こうで実物を見ながら話そう。ラズ、このハサミを人数分持っていってくれ」
「はい」
「五十嵐は、芽キャベツを入れるカゴを積んでくれ」
「ここに積んである物でしょうか」
「うん、それを荷台によろしく」
そうして荷物を軽トラに運ぶ二人の後ろを歩く。
「さて、荷物は積み終わったな。じゃあ誰が後ろに乗るかだけど……」
「あ、じゃあ私乗ってみても良いですか?」
「ん、じゃあラズが荷台で、五十嵐が助手席だな。ラズ、今日は雪道で揺れると思うから、気を付けてな」
「はい」
そして、ビニールハウスから畑までの雪道を軽トラで走る。予想していた通り、ガタガタと音を鳴らしながら軽トラが走る。
「二人は芽キャベツは見たことあるか?」
「テレビで何回か見たことありますよ。2cm位のキャベツですよね」
「そうそう。キャベツの変種で、そのまま育ててもキャベツにはならないんだよな」
「え!?あれ小さいキャベツを取ってる訳じゃないんですか!?」
「そうなんだよ。収穫適期に収穫しないと段々とキャベツの形から開いていくんだ」
「そうだったんですね……」
「なり方も普通のキャベツとは違うのですか?」
「そうだな。他の野菜には見られないなり方で驚くと思うよ」
「どんななり方なんでしょう……」
「それは見てのお楽しみだな。さ、着いたぞ」
畑の脇に軽トラを停めると、芽キャベツの生っている畝に移動する。
少し奥まった場所に植えているからだ。
そして芽キャベツの畝に近付くと……
「うわっ、なんですかこれ」
「地面から上に向かって芽キャベツがびっしりと……」
そう。これが芽キャベツのなり方。
中央に太い茎がなり、それを起点に外向きにびっしりと芽キャベツの玉がなる。
「まー、俺も初めて見た時は驚いたよ。普通のキャベツと全然違うからな」
「鬼頭さん、これどうやって収穫するんですか?」
「じゃあ収穫の説明だな。こっちに来てくれ」
「収穫方法は簡単だ。まずは収穫する芽キャベツを指で押してみて、固かったら収穫のサインだ。芽キャベツの根元をハサミで切るか、手で優しくもぐ。今回はハサミでやろう」
芽キャベツの根元にハサミを差し込み、そのままパチンと切る。
「これを続ければOK。何か質問は?」
「大丈夫です」
「私も大丈夫です」
「うん。じゃあ作業開始!疲れたら休みながら作業してくれよな」
「それにしてもこの野菜、生え方が面白いですね。茎から直接実が成るなんて」
「ああ、それ実じゃなくて葉っぱの塊なんだよ。それに、茎の何も無い所から生えてる訳じゃないんだ」
「そうなんですか?」
「うん。本来芽キャベツの玉が成っている真下には大きな葉っぱが生えているんだ。で、その葉っぱと茎の間から生えてくるわき芽が今回収穫している芽キャベツなんだ」
「え、でも今はその葉っぱは無いですよね?」
「植物の成長に合わせて切り落としているからな。で、葉っぱを切り落とすとその上の芽キャベツが大きくなってくる」
「成る程、収穫の為に必要な作業なんですね」
「よし、今日の作業終わり!戻ろうか」
「つ、疲れたぁ~」
「しゃがんだり中腰になったり、この野菜の収穫は大変ですね……」
「だな。特にこの時期は寒いし、外で作業するだけで辛いもんな。じゃあ軽トラに乗ってくれ」
「また後ろ乗っても良いですか?」
「ん、じゃあラズが後ろで、五十嵐が助手席な」
「外の寒風に当たっている時は気付きませんでしたが、車の中にいると体が暖かいですね」
「だな。だいぶ汗かいたよ」
「うう……この揺れは楽しいですけど、風が冷たいです」
「ハッハッハ。それもまた荷台に乗る醍醐味さ。ま、向こうに着いたら身体暖まるもん出してやるよ」
「あっ、そういえば収穫作業の後には試食があるんでしたよね!」
「そういう事。だから芽キャベツのかご押さえといてな」
「はい!」
(現金な奴だな……)
ビニールハウスに着くと、ハウス内から鍋と調味料、カセットコンロを表に出す。この季節、ハウス内でやれば熱が回って暖かいハウスになって良いかもしれないが、ハウスには換気窓が付いていないので(施設栽培用のハウスではないので)、一酸化炭素中毒になったら大変だ。
なので外で調理をする。
鍋に水を入れ、コンロの上に置き、コンロに火を着けると一目散にラズがコンロの上に手をかざしてきた。あまりの寒さで震えていたから当然と言えば当然なのだが。
ちなみに五十嵐は手をこすり合わせながら白い息を吐いていた。車の中で暖まっていたし、余裕があるのだろう。
「あー……ラズ。寒そうなところ悪いが、少し手伝ってほしいんだが」
「もうちょっと……もうちょっとだけ……」
「いや、手伝わせるところここしかないし、材料用意できた後は煮るだけだから」
「あと5分……いや3分だけで良いので……」
「そんだけ待ったらお湯沸くわ。沸く前に手伝ってほしい」
「うう~、手伝ったら後は暖まっていますからね!」
「勿論」
さて、ラズも来たところだし、調理を開始しよう。
今回は芽キャベツを使って簡単なコンソメスープを作る。
「芽キャベツは洗っといたから、石突き……根元の部分を切り落として」
「はい」
「で、その根元部分に十字の切れ込みを入れる」
「火の通りを良くするためですか?」
「それもあるし、味を染み込みやすくするためでもある」
その作業を芽キャベツ20個分ほど繰り返す。
さて、鍋のお湯が沸いたので、芽キャベツと塩を鍋に入れ茹でる。大体2分程。
茹でている間に、包丁とまな板を洗う。さっき芽キャベツを洗っている時も思ったけど、この時期は水が冷たくて辛いな。
ちなみにその間も鍋の上に手をかざすラズ。
で、芽キャベツの下茹でが終わったら茹で汁から芽キャベツを取り出し、冷たい水で締める。
そうしたら茹で汁を捨て、今度は分量をしっかり計った水を鍋に入れ、また火に掛ける。
湯気を放つお湯を捨てた時のラズの絶望した表情にはノーコメントで。
そして、そのお湯が沸いたらコンソメキューブを鍋の中に分量通りの個数放り込み、芽キャベツを入れ蓋をして15分茹でる。
(ちなみにその間もずっと鍋から離れようとしないラズ)
さて、15分経ったので蓋を開けると、コンソメ特有の甘い香りが広がり、誰ともなく「おぉ……」と小さな歓声が上がる。
そこに塩胡椒を振り入れ、味見をする。
「……うん、大丈夫だ。芽キャベツのスープの完成。二人とも、食うだろ?」
そこで二人の腹からほぼ同時に音がなる。二人が器を手に取ったのはすぐだった。
「芽キャベツ多めでお願いします!」
「私も!」
「いや二人とも2杯は食うだろ?普通に盛るぞ」
そう言って俺は二人の器に芽キャベツを4つとスープを入れて割り箸と共に手渡す。
ラズはすぐにスープを口にした。すると案の定。
「あっつ!」
「だと思った。落ち着いて食べな」
「芽キャベツ、凄い甘いですね」
「それが芽キャベツって野菜の特徴だな。加熱して食べる野菜で、むしろ生だと固い上に味気なくて食えたものじゃないんだ」
「はふ、はふ、……スープの香りも良いですね。普通にコンソメスープ飲むよりも、甘い香りが強いです」
「多分芽キャベツの香りが出たんだな。野菜のスープってのは良いだろ。身体も暖まるし、身体の機能にも良い」
「はい、とても美味しかったです」
「それは良かった」
「……最後に、良い体験ができて、良かったです」
……?
「……ラズ?それは……」
「…………私は、この学園を去ろうと思います」
「…………そうなのですか?」
五十嵐が困惑した表情で聞く。勿論、俺も同じ気持ちだ。
「ええ。来週、正式に届け出を出そうと思ってます」
「理由を、聞いても良いか?」
「……私は、メイクデビュー含めて、レースで勝てていません」
メイクデビュー。ウマ娘達の活躍の場であるトゥインクル・シリーズ、そのデビュー戦であることは、レースに詳しくない俺でも知っている。
「未勝利戦にも何回も出ました。それでも、2回、3回と掲示板にすら載れない日が続いて、ああ、私ではダメなんだな、と思いました」
「そうか……」
「そして先日、最後にしよう、と決めていた未勝利戦でも、敗けました。だから、もう私のレースは、ここで終わりです」
そう言い切ったラズの顔は、どこまでも晴れやかであった。
「ラズ……それじゃあ、これからどうするんだ?」
「もう中等部は卒業してますし、何かしらの仕事を見つけようかと」
「別の高校に編入とかは……しないのか?」
「うち貧乏なんで……ここに入ったのも、レースの賞金で家族を楽にさせたかったんです」
「そうか……寂しくなるな」
「しょうがないですよ……うん……しょうがない……」
そう言うラズの表情は、さっきと打って変わって悲しげだ。
何か……何か出来ないか……。
あ。
「ラズ」
「?何でしょう」
「今日の作業、楽しかったか?」
「勿論、楽しかったです。なかなか出来ないことでしたからね」
「そうか。なら」
俺はラズに向き直り、後に彼女の将来を決定付ける言葉を放つ。
「農業の仕事を、してみないか」
「…………え?」
「俺の地元で、施設栽培をやっている農家さんの知り合いがいる」
そう。
俺が主導して現在まで続いているトレセン学園農園。それを作るには、多数の人間、それに企業、団体の協力、支援があった。
その中に、俺の地元、岩手で大規模な施設栽培をしている企業があり、そこと仲良くさせて貰っている。そこでは、レタス、トマト等複数の野菜を育てていて、年々規模を拡大させていっているらしい。
「どうだろうか。そこには色々な人間もいるし、ウマ娘も何人が働いているそうだ。人手はいつでも募集しているらしいぞ」
「~~ッ!やります!やらせて下さい!」
「……うん、わかった。連絡入れてみるか」
そう言って俺はスマホを取り出す。
ちなみにどうでも良い話だが、主に人間用のスマートフォンをスマホ、ウマ娘用の物をウマホと使い分けるらしい。何故かは知らんが。
それはさておき、連絡先から目的の番号を探し出し、通話ボタンをタップする。
『────はい、岩手アグリステーションの本田です』
「本田さん、久しぶりです。トレセン学園農園の鬼頭です」
『おお、鬼頭さん。お久しぶりですね。今日はどうされました?』
「実は……」
俺はこれまでの事を簡潔に話す。
トレセン学園を中退し、仕事に就きたいウマ娘がいると。
俺が本田さんの会社を紹介したところ、やらせて欲しいと言ってきたと。
『成る程、わかりました。こちらは今定員に空きがありますし、ウマ娘なら力仕事もさせられますよね。大歓迎です』
「ありがとうございます!」
『あ、もしかして今隣にその子います?もし良ければ少し話してみたいんですが』
「わかりました。ハンズフリーでの通話に切り替えますね。……ラズ、ちょっと会話に入って貰っても良いか?」
「は、はい!大丈夫です!」
「よし、じゃあ……切り替えました、本田さん」
『はい。ウマ娘さん、あなたの名前を教えて下さい』
「はい、ドリームラズライトっていいます」
『うんうん。ドリームラズライトさん、こちらでは野菜の施設栽培と加工を主に行ってます。力仕事はできますか?』
「あまり得意ではありませんが、ある程度なら、何とか……」
『ええ、もし得意ではないのであれば別の作業に当たって頂けますよ。何か得意な事はありますか?趣味とか』
「得意な事……パッとは思い付きませんが、農園での作業が楽しかったので、そういった作業がしたいです。あ、もし良ければですけど、色々な作業をやってみたいです!」
『それは頼もしいですね。では、今日はこのぐらいにしておきましょう。ドリームラズライトさん、あなたの入社を楽しみにしていますよ』
そう言って、通話が切れた。
「鬼頭さん、ありがとうございました。仕事先の紹介して貰って」
「うん。あちらにも喜んで貰って良かったな」
「はい!……学園を出る時は、鬼頭さんに挨拶に来ますね」
「わかった」
それからラズと別れ、五十嵐と共に片付けをする。
「寂しいもんだな」
「ええ。でも彼女が決めた道です。応援してあげましょう」
「……そうだな」
そうして野菜収穫後の必要書類を書き、食堂脇の食材保管庫へ収穫をした芽キャベツを届けて今日の作業は終了となった。
作業から数日後。
農園で芽キャベツの片付け作業をしていると、ラズと彼女のトレーナーが歩いて来た。
「ラズ、それにラズのトレーナーさん」
「おはようございます。鬼頭さん」
「おはようございます。先日はラズの農園作業、ありがとうございました」
「いえいえ。今日はどうしましたか?」
「鬼頭さん、今日は別れの挨拶をしに来ました」
「ああ、今日だったか。ラズ、元気でな」
「鬼頭さんも、病気とかになったりしないでね」
「俺は結構頑丈だよ?まあ、気を付けるに越した事はないか」
そうやってラズと話した後、彼女のトレーナーに向き直る。
「ふふ、先日ラズと会ったばかりなのに、もうこんなに懐いてる。噂通り、人から好かれる方なんですね」
「そんなに噂になってるんですか……」
そうやって三人で笑い合う。
「あ……もうこんな時間……」
「ラズ」
「トレーナー。うん、わかってる」
そうしてラズは俺に向き直る。
「鬼頭さん、私、向こうでも頑張るよ」
「そっか」
「そして、また農園に遊びに来るね!」
「うん。頑張ってこい!ラズ!」
そう話してから、ラズをトレーナーと共に校門まで送る。
ラズの親御さんがトレーナーと少しだけ話し、ラズは親御さんの車に乗る。
そして、車がゆっくりと走り出す。
ラズが窓を開け、トレーナーに手を振った後、こちらにも手を振ったので、俺も手を振り返した。
そうやってラズの乗る車を見送った後、振り返るとルドルフがいた。どうやら生徒会長としてラズを見送りに来たらしく、そのままルドルフと共に校舎に戻る。
「…………私は、全てのウマ娘を幸福に、という目標を掲げて来た」
「……うん」
「無論、全てのウマ娘がレースで勝てる訳ではない。それはわかっている」
「うん」
「それでも、彼女はレースで勝てなかったという無念の内に、学園を去る……」
「うん」
「私は……無力だな……」
そうして、何歩か歩みを進める内に、俺の中に沸き上がってくる思いがあった。
「幸せの形って、誰が決めるんだろうな、ルドルフ」
「…………え?」
俺は足を止め、その言葉と共にルドルフに向き直る。
「人間だって、ウマ娘だってそうだ。自分にとって一番の選択、一番の幸せなんて、その瞬間にはわからないじゃないか?」
「それは……」
「ましてや、それを他人が決める訳には行かない。本人が、幸せと思える環境に辿り着く事が重要じゃないか?」
「……そうかもしれない……だが、私は……」
「ルドルフ、君がどんな目標を掲げていても良いが、その人にとっての幸せはその人が自分で掴み取る物だ。俺達が用意する物じゃない」
「そうか……そう、だな」
「だから、彼女達の幸せを俺達が願うのなら良いんじゃないか?」
「……そうだな」
「うん。……あ、そうだ。この前の夕食、芽キャベツのスープ出ただろ?」
「ああ、出ていたな」
「あれ、ラズと俺達で収穫した物なんだ」
「そうか。とても身体が暖まったよ。生徒会の仕事をしていると暖かいスープとは縁遠くなってしまってね」
「おいおい、仮にも生徒の代表だろ?生徒の規範になる行動をだな……」
「む……このままでは、腐敗堕落か……」
そんな会話をしながら、校舎へ戻る。
ラズ、元気でな。
本作はアプリ版ベースのシングレ時空ですが、鬼頭君の言葉はルドルフにはどう映ったんですかね。
あ、新しい小説のアイデアが浮かんだので、本作の投稿は遅れるかもしれません。
でも前みたいに半年放置はする予定はないので気長にお待ち下さい。