トレセン学園の農園で土にまみれる日々   作:タカハン

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前回から約1週間での更新、どうした?って言われても何も返せません。

さて今回は少々連絡事項が多いです。

・オリジナルウマ娘が登場します。
・今回いつも以上に解説が多いです。
・作中でトラクターを運転しますが、作者はトラクターの運転をしたことがないので、めっちゃ調べた内容とMT車の運転知識を混ぜ合わせて書いてますが、不備があれば教えて貰えると助かります。

あと薄々感付いている方もいるかもしれませんが、私の小説でオリジナルウマ娘が登場した回は8割方シリアスが入るのでご了承下さい。


エデンとトラクターと耕運作業

春である。

雪が解けたと思ったら、ふわりと暖かい空気がなだれこんで来て、地面から緑色がにょきにょきと伸びてくる季節。そう、春である。

 

地面から草が出てきたなら、もう種蒔きしても良いのか?と聞かれたら、勿論答えはNO、である。

 

何故?それは森や荒れ地等の制御されきっていない土地と、畑というある程度制御されている土地の違いにある。

 

森や荒れ地であれば、生物の糞や死骸、木葉が分解されて土地の栄養素になるので、その環境に適応した、所謂"雑草"が伸びるのである。

 

しかし畑では虫の糞や死骸はあれど、野菜の残渣は極力取り除かれる。さらに言えば、野菜は種類にもよるがそこら辺の雑草よりもはるかに大量の肥料を必要とする。

 

そして肥料も大事だが、土作りには石灰も重要である。

野菜にはそれぞれ適切な土のph濃度があり、それに合致した栽培をすれば、野菜を大きく育てる事が出来る。

しかし、降雨等の外的要因によってph値が酸性に傾いてしまう。それを調整するのが石灰である。

 

なので今日の作業は石灰と肥料を撒きつつ、耕起の作業である。

 

ちなみにだが、しばらくぶりに俺一人での作業だ。

五十嵐は鶏舎の最終調整、太田は武志さんと共に牛舎作業である。

 

とはいえやる事は堆肥と石灰、肥料を撒いてトラクターで掻き回すだけ。

 

そう、トラクターで。

 

今まで彼女達との農園作業では『農園の意味が無いから』と頑なに使って来なかった機械類だが、俺達農園管理者が作業する際なら関係無く使える。

 

しかし理事長に直談判したように、今年からは彼女達にも機械類に触れさせていく方針になる。

 

さて、前置きが長くなったのでそろそろ作業を進めようか。

 

まずは石灰。

畑に撒く石灰には大きく分けて3種類。

 

一つ目は消石灰。

石灰は総じてアルカリ性のため、先ほどの説明で出てきた、土壌の酸性を中和して中性にするために使うのだが、消石灰は強いアルカリ性なので、その力が強い。

なので長年使用されていなかった土壌の整備や、火山地帯の近くなど強い酸性の土壌を中和するのに使われる。

デメリットとして、肥料成分が弱いのと、作物への影響を鑑みて、施肥から植え付けまで2週間ほど置かなければいけない事だろうか。

 

二つ目に苦土石灰。

苦土というのはマグネシウムの事で、植物に微量だが必要な栄養素の一つでもある。つまり、土壌の中和のためにこの石灰を撒くだけで、植物への肥料としても使えるという事。そのため、多くの農家が使用している。

デメリットとしては、消石灰ほどアルカリ性が強くないので強酸性の土壌には適さない事と、植え付けまで1週間ほど時間を置かないといけない事。

 

最後に有機石灰。

これまでのとは違い生物由来の石灰質を使用しており、店先に並ぶ物は大体牡蠣殻を使用している。

先の二つより肥料成分が高く、また比較的作物への影響が少なく、施肥直後に植え付けを行っても問題無い。

勿論デメリットは存在し、アルカリ性が弱いので効率的な土壌の中和は難しい。

 

それらを使い分けて施肥していく。今回使うのは苦土石灰になる。

 

次に堆肥。ウチでは牛糞堆肥をメインに使っている。

この間オペラオーとドトウと作ったのがそれだが、アレは完成まで半年は掛かるので、最速でも完成は夏になる。

なので、今回は市販の物を使う。

 

最後に肥料。肥料は種蒔きや植え付け前に撒くのが元肥(もとごえ)、生育途中に撒くのが追肥(ついひ)と分けられており、今回撒くのは元肥の方になる。勿論市販の物である。

 

では早速撒いていこう。

とは言っても全て袋の封を切り、畑に撒くだけだ。

 

 

 

作業していると、視界の端で一人のウマ娘が立っている。

見学だろうか?

 

農園に少しでも興味を持ってもらうため、少なくとも畑は柵の外部から中の様子が見えるようになっている。

なので見学自体は悪い事では無いのだが……。

 

気のせいだろうか?

彼女は俺や畑よりも、畑の傍らに鎮座しているトラクターの方に目を向けているような……?

 

しかし先ほど言ったように、悪い事では無いので、気にせず作業を進める。

 

 

 

「よし、施肥終わりっと」

 

俺は肥料袋を一纏めにして、ビニールハウスの中に置く。意外とこれも使い道あるんだよな。

 

次に、トラクターの準備をする。

常日頃から整備はしているので、問題無く使えるはず。

運転席に入り、鍵を差してエンジンに点火する。エンジンの吸気音が鳴り響き、空調が起動する。車体サイズに比べてエンジンが大きく車内が小さいので、意外と空調の利きは良いんだよな。

 

さて、トラクターは農業機械だが、現時点ではただのハイパワーなMT自動車でしかない。

なのでアタッチメントを取り付ける。

 

ビニールハウスの中でトラクターを操縦し、トラクター後部に置いてある、土を耕運する為のアタッチメントにトラクターのジョイントを近づける。

 

これが本当に難しい。

なにせ現実はゲームのように[装備]を押したら勝手に装着される訳ではなく、ミリメートル単位の調整を行わなければいけない。

もう何年もトラクターの操縦をしているが、一回で成功する事はまず無い。

 

今回は5回位で成功したので、結構速い方であろう。

トラクターとアタッチメントを連結し、ようやく耕運作業に移ることが出来る。

 

ビニールハウスから外に出て、畑にトラクターを走らせる。

さっきの子はまだいるようだ。

 

それはそれとして、作業を開始する。

耕運機を駆動させ、畑に近付きアタッチメントごと耕運機を下ろす。

 

後ろを見ると、畑の土と施肥した三つがかき混ぜられ、濃い茶色の土が見えている。

 

「…………!……!」

 

こうして混ぜないと、作物に悪影響が出るからな。

 

「……って……!」

 

土もある程度深く耕さないと、特に地中に可食部がある野菜は奇形になるからな。しっかりやらんと。

 

そこで気付いた。

さっきの子が、跳び跳ねながらこっちに手を振っていた。

 

何だろうか?と思いつつ、耕運作業をやめ、トラクターを降りて彼女の元へと向かう。

 

 

 

「ごめんごめん、気付かなかった」

 

「いえ……、作業の手を止めさせてごめんなさい」

 

そこにいたのは、黒髪をサイドテールにしたウマ娘だった。

 

「それで……どうしたんだ?」

 

「……少し前から、農園作業を見ていました。みんなで、汗を流しながら作業をしているのを」

 

「うん」

 

「友達から……タマモさんから聞きました。農園では、生徒には機械を使わせないと」

 

「そうだね」

 

「なのにあなたは、機械を使っている!生徒達にばっかり大変な事させて、あなたは楽してる!」

 

「……」

 

「おかしいんじゃないですか!?私達、料理を残すウマ娘に反省させる場所ってのも、楽をする方便なんじゃないですか!?」

 

「違うよ」

 

「……っ」

 

俺は、きっぱりと否定した。

これまで頑なに、彼女達に機械類を使わせなかったのにも理由があるからだ。

 

「君、名前は?」

 

「……スプレマシィエデンです」

 

「うん。エデン、これからちょっと時間あるかな?」

 

「え、大丈夫ですが……」

 

「格好は……ジャージと運動靴だね。なら大丈夫か」

 

「えっと……?」

 

「じゃあここの門から入って」

 

「あ、はい」

 

 

 

俺とエデンは、さっき停車させたトラクターの脇にいた。

 

「あの、私は何をさせられるんですか?」

 

「うん。機械作業をさせてこなかった理由をわかって貰おうと思って。じゃあ、乗って」

 

俺は親指でトラクターを指す。

 

「むっ……無理ですよ!?私まだ未成年ですよ!」

 

「私有地で、監督者がいれば免許が無い人でも運転出来るよ」

 

「ええ…………?」

 

「運転は教えるから。さ、乗って」

 

「はい……」

 

 

 

狭い車内で、エデンが運転席に座り、俺は席の後ろで中腰になっていた。

 

「何でこんなことに……」

 

「うん。じゃあまずエンジン掛けよう。足元の、一番左側のペダルを踏みながら、右手のところの鍵捻って」

 

エデンが鍵を捻ると、エンジンが鳴り出した。

 

「あ、涼しい」

 

「うん、今左足で踏んでたのがクラッチペダルね」

 

「はい」

 

「足元の真ん中にペダルが二つ、これはどっちもブレーキなんだ。右が右タイヤ、左は左タイヤのブレーキ」

 

「は、はい」

 

「それで、一番右にアクセル。ペダルはこれで全部」

 

「成る程」

 

「左手を伸ばしたところにあるのが変速ギア。右手を下ろしたところにあるのが耕運機のオンオフ切り替えね」

 

「成る程……この右のところにあるのは?」

 

「それはアクセルレバー。機能としてはアクセルのペダルで事足りるから、今回は使わないよ」

 

「成る程……」

 

「じゃあ動かしてみようか」

 

「はい」

 

「クラッチは踏み込んだまま、変速ギアを『低速』に入れて」

 

「はい」

 

「そうしたら、アクセルペダルを目一杯踏み込んで」

 

「え、目一杯ですか」

 

「大丈夫だから。踏み込んで」

 

「はい……」

 

エデンが右足でアクセルを踏み込むと、エンジンが盛大に吹かされる。

 

「わっ」

 

「大丈夫。そうしたら、クラッチを半分くらい上げて」

 

「えっ、はっはい」

 

エデンが左足を少し上げると、トラクターが少しだけ進むも、車体全体がガクガクと揺れ、エンジンが停止する。うん、あるある。

 

「えっえっ、私何かやっちゃいました?」

 

「エンストだね。そうしたら、またエンジンをかけ直そう」

 

「はい、鍵を戻して」

 

「そうしたら、ちょっとエンジン掛ける前に説明だ」

 

前回のは多分俺の説明不足だ。なのでもう少し詳しく解説する。

 

「さっきのクラッチペダルを少しだけ上げる奴は、半クラッチって言ってな。あれが出来ないと、さっきみたいに車が止まってしまうんだ」

 

「えぇ……どうすれば」

 

「こればかりは慣れるしかないんだが……そうだな、さっきどれぐらい足上げてた?」

 

「えっと、これぐらいです」

 

クラッチを踏み込み、そこから上げるエデン。うん、成る程。

 

「多分上げすぎだな。半クラッチとは言うが、全体の1/3から半分位上げれば大丈夫だよ。今なら上げかたも練習出来るよ」

 

「は、はい」

 

そうして何回か踏み込む練習をするエデン。

 

「じゃあ、もう一回やってみます」

 

「うん。もしエンジンが止まらなくても、少しだけ半クラッチを維持して」

 

「はい」

 

そうして、エデンがクラッチを踏み込み、エンジンを掛ける。

 

「……行きます!」

 

「頑張れ」

 

エデンが右足を踏み込み、左足を少し上げると、車体が揺れる。しかし車体は前に進み続けている。

 

「まだ離すなよ……ここだ。ゆっくり離して」

 

「はい……!」

 

エデンの左足がペダルから離れても、車体は止まらなかった。成功だ。

 

「出来た……!」

 

「やったな。じゃあ操作だ。ハンドルを回して操作する。俺からでもブレーキは踏み込めるから、自由にやってみな」

 

「はい!わわ、結構大変……!」

 

そうやってエデンがトラクターの操作をすること数分……。

 

「じゃあそろそろ耕運しようか……って思ったけど、もう夕方だな」

 

「わ、気付かなかった」

 

「じゃあ停車させよう」

 

そう言うと俺は、ブレーキの連結スイッチを入れる。

 

「じゃあ軽くブレーキペダルを踏み込んで、少し車体が揺れ始めたらクラッチも踏んで」

 

「はい」

 

エデンは俺の指示通りにペダルを踏み込み、車体を停車させる。後はエンジンを切って終了だ。

 

 

 

「お疲れ、エデン」

 

「何か、普段やれない事で楽しかったです。大変でしたけど」

 

「それなんだよな。生徒に機械触らせない理由」

 

「え?」

 

「そんなに何回も農園作業するわけでもないのに、わざわざ難しい作業を教えなければいけないか、って奴。あと単純に、来た生徒全員にこうやって教えてたら、今日みたいに日が暮れる」

 

「あぁ……時間掛けちゃってごめんなさい……」

 

「いやいやいや!責めてないよ、操縦方法知らない人に教えると大体こうなるから!……でも、こんな風にやってたら、農園作業も出来なくなるって事、わかってくれたか?」

 

「……!……ごめんなさい。勘違いして、酷い事を言いました」

 

「わかってくれたら良いよ。それと、俺としては、他に気になる事があるんだ」

 

「え……?」

 

「さっき、『私達、料理を残すウマ娘達』って言ってたよな。もしかして君も、カフェテリアの料理を残していたのかな?」

 

「……はい」

 

「何か、理由があったのか?」

 

「…………私、野菜とかの栄養がよくわからないんです。料理は美味しいですけど、何を食べれば良いかわからなくて、結果料理を取りすぎちゃって、食べきれなくて」

 

「成る程……」

 

これは結構根深い問題だな。

少なくとも俺だけではどうにも出来ない問題だし、理事長にも話を通しておこう。

 

あ、そういえば。

 

「確かカフェテリアには、君ら向けのメニューが貼り出されているはずだし、君にトレーナーがいれば、君の管理をしてくれるはずだが」

 

「私、まだトレーナーいないんですよね。でもメニューの貼り出しは盲点でした。今度から気を付けて見てみます」

 

「そっか。また何かあれば相談しに来な」

 

「はい。今日はありがとうございました」

 

そう言って踵を返すエデン。

さて、俺は……

 

「耕運作業、終わらせますか」

 

トラクターに乗り込んだ。

 

 

 

ちなみに、そこそこ時間が掛かり、周囲が真っ暗になってから片付けをしたので、

 

「今度理事長にライトの設置でも掛け合ってみるか……」

 

なんてぼやきながら、俺も帰路についた。




この小説について、農業を描いた作品としての共通点がある『銀の匙』ですが、出来るだけ内容が被らないように注意して書いてます。ただあちらが『これから農業に進む学生ならではの悩み』を主軸に書いているのに対して、こちらは『一度農業の道を諦めた主人公が、自身の農業知識を活かして農園作業をする』という方針で書いてます。
ただ農業というくくりではやる内容は同じなので、どこまで差別化出来るか、ってのは腕の見せ所ですかね。
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