お待たせしました。
秋に更新しないのは3年連続ですね。何も誇れませんが。
では、どうぞ。
「やほー、鬼頭さん、今日はよろしくね」
「おうパーマー、こっちこそよろしく頼むよ」
今日も農園作業の日。しかし、今日は元々募集して作業する日ではない日である。
では何故パーマーが居るのか?
それは数日前に遡る…………
俺はその日の作業を終わらせ、学園内を歩いていた。
とは言っても俺は基本的に学園内に入る必要は殆ど無く、日々の食事や学園長に会う時、また作業の募集を確認し回収する位である。
しかしこうやって歩いていると、たまに交流の種が生まれる事もあり、それが理事長の言うような交流が生まれる事になるため俺は自分から進んで学園内を歩き回っている。
と、そこに……
「いたっ、鬼頭さん!」
「ん、パーマーのトレーナーさん。走ると危ないですよ」
「いや学園内は『気を付けて走ろう』って校則なので走っても大丈夫ですよ……」
「そういえばそうですね」
そう言って息を整える彼はメジロパーマーのトレーナー。
さて、どうしたんだろうか?
「鬼頭さん、次の土曜日って空いてますか?」
「土曜日?その日は普通に農園で作業ですね。ウマ娘との作業の予定は入ってないし……」
「では、そこの農園作業にうちのパーマーを入れて貰うのって可能ですか?」
「可能ですよ。でもこんな急に予定を入れるって事は、何かあったんですか?」
「実は、急に出張の予定が入りまして……」
「oh……成る程、わかりました。予定を入れておきますね」
「ありがとうございます、この埋め合わせはいつか!」
「大丈夫ですよー」
なんて会話の結果である。
農園、特に畑の運営が俺に一任されているからこその自由な采配が出来る訳だ。
それはさておき。
「さてパーマー、服装チェックするぞ」
「うん。多分大丈夫だと思うけど……」
パーマーは白の上下分割の作業着に、緑の手袋を着け同色の長靴を履いていた。
ちなみに今日は日差しがそこまで無いためか、帽子は着けていないようだ。
「うん、問題無いよ」
「ホント?良かった」
「じゃあ今日の作業の内容な。今日はじゃがいもの植え付け作業をする」
「わかった」
「芋は二種類植えるけど、どちらもやり方はほぼ同じで、作業前に教えよう」
「うん」
「あと今日はこの二人だけでの作業だ。急げとは言わないけど、手際良く進められると良いな」
太田と五十嵐は武志さんと共に牛舎作業とのこと。後で聞いたら子牛の出産介助をしていたらしい。大変だったらしい(他人事)
「う、うん。頑張るよ」
「大丈夫大丈夫、二人で頑張れば終わるよ。ちょっと中腰でやるから作業後に腰が痛くなるけど」
「……鬼頭さんと作業するといつも思うけど、農業って大変だよね」
「肉体労働だからな。そしてそれ故に農家さんは深刻な人手不足に陥っている」
「……えっ、農業って、私達の食べ物を作ってくれる、重要な仕事でしょ?」
「好き好んで肉体労働したい人はあまり居ないし、土や虫にも触れる。雨や雪の中でも作業しなきゃいけない。作物や動物にスケジュールを左右されるから、忙しい時は自由時間は殆ど無い」
俺はここで一息つき、パーマーの方を見て締めの一言を言う。
彼女の表情は……
「自分からやりたいって手を挙げる人なんて、殆どいないのさ」
少しだけ、強ばっていた。
「……でも、鬼頭さんは、農園での仕事を楽しんでやってるよね」
「そうなんだよなぁ」
これに対する俺の答えは、これしか無い。
パーマーもさっきの表情と打って変わって、こちらに期待する眼差しだ。
「だって、農業が好きだからなぁ」
「ふふっ、だと思った」
こればかりは仕方ない。
一度道が閉ざされても、それでも好きな気持ちは変わらないのだから。
「さて、そろそろ作業に移ろうか」
「うん」
そう話して、ビニールハウスに向かう。
今回はじゃがいも栽培の性質上、軽トラに積み込む資材が多い。
「じゃあパーマー、この積まれてるじゃがいもの袋、この一輪車に積んでくれ」
「わかった」
そうして二袋くらいずつ、一輪車に載せていく。
と、そこでパーマーが何か気付いたのか、こちらに目を向ける。
「ん、どうした?」
「いや、まだ沢山あるけど、どれくらい積めば良いの?」
「全部」
「……え」
「じゃがいもの袋は植えるよりもちょっと多い量を仕入れてるから、全部積んで。足りなくなると困るから」
ちなみにじゃがいもの1袋は大体1kg程だが、それが山の様に積まれている。持ち上げるのにさほど力は要らないが、単純に数が多い。
「一輪車に積み込んだら、今度はそれを軽トラに積み込むよ」
「……た、大変だぁ……」
そうして二人で積み込み作業を進めること十数分……
「よし、後はスコップを積み込むだけだな。パーマーは助手席に乗ってて」
「はーい」
スコップを積み込み、移動を開始する。
「そういえば、パーマーは好きなじゃがいも料理はあるか?」
「うーん、肉じゃがとか?」
「わかる~、俺ならちょっと薄味が好みだな」
「確かに。味濃いと喉痛くなるよね」
そんな会話をしながら車を運転する事数分……
「よし、じゃあ荷台から下ろそうか」
「はーい」
二人でじゃがいもの袋を下ろしていく。その途中で、パーマーが何か気付いたのか問いかける。
「そういえばこのじゃがいも、なんで半分に切ってるの?切り口にも何か付いてるし」
「昨日の夕方にやっといたんだ。大きすぎるじゃがいもを植えても後が大変だから半分にして、切り口が腐るのを防ぐために専用の灰を付けるんだ」
そう言うと、パーマーは少し驚いたような顔になる。
「じゃがいもって……植えるときにそんな手間掛かるんだ」
「そうだな……でもそれだけやらないと、上手く作れないんだ」
「本当に大変だよね……農家さん達は凄いね」
そうして話しながら袋を下ろしきると、ここから植える作業になる。
「じゃあ植え方の説明な。目の前の畝がじゃがいもを植える部分。この畝の真ん中に一本溝を掘るから、30cmくらいの間隔で一個ずつ植えていって、最後に土を被せてほしい」
「うん」
「植えるじゃがいもは二種類。こっちの赤い袋がメークインで、茶色の方が男爵芋。先にメークインから植えよう」
「うん」
「俺も溝を掘り終わったら植える作業に入るから、進められるところまで進めてて」
「わかった」
俺は畝の真ん中にスコップを10cm程差し込み、そのまま横に滑らせる。
この作業も結構コツが必要で、力加減を間違えるとすぐ横に逸れてしまう。
一本目の畝に溝を引き終わり、一息つく。
パーマーの方を見ると、どうやら順調に進んでいる。
俺はそのまま二本目の畝にもスコップを突き刺した。
植える予定の全ての畝に溝を引き終わり、パーマーの方を見ると、既に畝一本分を終わらせていた。速い。
「パーマー、水分はとってる?」
「ついさっき飲んだよ。それよりも……背中と腰が痛いね」
「小中規模の畑はどうしてもそれがつき纏うからな。休憩しながらやってくれな」
「そうするよ。……くっ…………あぁ」
パーマーが一つ伸びをする。
それを見て、ふと疑問を口にする。
「そういやさ、農園の作業ってトレーニングになるのか?」
「え?」
「いや、他の子も、前日にハードなトレーニングしたら農園作業はトレーナーから止められるって言ってるから、結構負荷掛かるんかな、って」
「うーん……体感だと、ちょっと疲れるけど、トレーニングに必要な負荷には遠く及ばない、って感じかな」
「あー、そんななんだ」
「作業の内容にもよるだろうけど、ほら、私達って力強いからさ、多少の負荷だとトレーニングにならないんだよね」
「成る程……」
「あっ、でも完全に無関係って訳でもないよ。なんだろう……普通に休んだ……お出かけした時よりも、気分がリフレッシュして、次のレースの時に思考がクリアになるんだよね」
「そっか。……この農園作業が、君たちの何かに役立っているなら、俺はそれだけで充分だよ。……さ、続きやろうか」
「そうだね」
「次はこの男爵芋を植える。やり方は同じだから、さっきのようにやってほしい」
「わかった」
そうして二人で種芋を植え付ける。
まだちょっと肌寒い風が吹くが、植物も芽を出し始めている。春だねぇ。
「そういえば鬼頭さん」
「ん?どした」
「今日植えてるじゃがいもって2種類だよね。品種が違うのはわかるけど、やっぱり味も違うの?」
「んー、味というか、食感?崩れ方?が違う」
「どういうこと?」
「男爵芋はでんぷん質で、加熱するとホクホク食感になる。じゃがバターとかするならこっち。で、メークインは逆にねっとりな食感。揚げ芋ならこっちだな」
「へー、やっぱり違うんだ」
「ま、最終的には好みだけどな。カフェテリアで色々出せるように、ちょっと工夫したんだ」
「成る程~」
そこから植え付けの終わりまで互いに無言になる。
だが不快感はない。これくらいが良いんだよな。
「さて、植え付け終わったし、水やりするか。パーマーはシャワーノズル持って。俺はホースの調整するから」
そう言って水やりすること数分……
「よし、これで今日の作業は終わり。後は帰って大丈夫だ」
「うん、お疲れ様でした」
そう言ってパーマーは寮へと戻っていく。
俺も道具片付けて帰りますか。
後日。
パーマーのトレーナーさんがお礼に来た。
パーマーはその後のトレーニングに磨きがかかっているようで、とても嬉しそうに話していた。
実はこれで第1部(3年目)が完結になります。
とは言うものの、第2部の内容は殆ど変わりません。
ちょっとだけ施設が追加されたり、ちょっとしたイベントが起こるくらい。
ある程度の構想もあるので、ごゆるりとお待ち下さい。