あとこれまでの話で不味そうな表現を直したり、設定資料に加筆してたりします。
では本編をどうぞ。
あの言い合いの数日後。
作業の日がやってきた。
「…………」
「…………」
「まだむくれているんですか……」
「気まずい……」
いつものビニールハウスで今日の作業の準備を進める。
が、新沼は黙ったままだ。
「新沼、その種の袋を……」
「…………」
新沼に指示しても、応じてくれずにそっぽを向いている。
と、そこで太田からの助け船が。
「新沼、その種の袋くれ」
「はい先輩!」
途端に笑顔になった新沼が太田に種の袋を渡し、そのまま太田から俺に袋が渡される。
勿論新沼は渋い表情に。
「ほら」
「ありがとうな」
公私混同はしないでもらいたいもので。
そんなやり取りをしながら、準備を進める。
「じゃあ道具が揃ったし、始めますか。今日はキュウリの種蒔きだ」
ちなみに今日は平日なので、彼女らは勿論来ない。
なので俺たちでやるしかない。
「……質問、良いですか」
「おう新沼、なんだ?」
急な新沼からの質問に少し驚いたが、続きを促す。
「ホームセンター行けば、苗が売っているでしょう。何故自分で種蒔きするんですか。手間でしょう」
「手間って、貴方……」
「うん。手間だ」
新沼の口から出た言葉に五十嵐が表情を歪めるが、俺はそれを遮る。
「じゃあ、なんで……業務なんだから、無駄は減らした方が良いでしょう」
「無駄を減らすのには同意するよ。でも、これは手間であって無駄じゃない」
「……はあ」
そう前置きして、以前誰かにも話した理由を話す。
「その手間をわざわざする理由が幾つかある。一つは金銭的な問題だな」
「お金ですか?学園側が出してくれるでしょう。趣味じゃないんだし」
「そうは言ってもな。省コストに努めるのは悪い事じゃない」
「それはそうですが」
「種からやると安く作れるんだ。そして二つ目、工程をわざと増やしているんだ」
「何の為に…………あぁ、この農園は確か」
「そう。彼女らに作業をしてもらう為に」
そう。これがこの農園で作業を増やしている『表向きの』最大の理由。
「なるほど、工程の数が増えれば増えるほど、彼女達が農園で作業できる回数が増えるわけですか」
「そういう事。んで、最後に三つ目の理由なんだが、多分これが最大の理由」
疑問の表情を浮かべる新沼。
「何だと思う?」
「ここで聞くんですか?……金銭的な問題でもなく、工程の問題でもなく……何だろう」
「答えなんだけどな、言葉にすると簡単かもな。輸送の問題だよ」
「輸送?」
「うん。畑を見てもらいたいんだけど」
「はい」
そう言って4人で畑を見回す。
「改めて見ると、広いですね」
「そうなんだよ。この畑一杯分の苗をホームセンターで買ったら、何回軽トラを往復させなきゃいけないか。気が遠くなるだろ?」
「確かに」
「ま、理事長には言わないでくれな。輸送トレーラーとか用意しかねん」
「何ですかそれ」
そこで、新沼の口元に笑みが浮かぶ。
「……鬼頭さん……その」
「うん?」
「その……先日は、すみませんでした。ありもしないことを、決めつけるように言って」
「ああ、うん。そう言ってくれるなら、もう良いよ。俺も、強い物言いですまなかった」
質疑応答レベルで話してみてわかったが、新沼は根が素直だ。
信頼できる先輩に懐き、予想外の状況に取り乱す、普通の青年だ。
懸念点があるとすれば……
『彼に、寄り添ってあげて下さい』
たづなさんの言葉と、その後に聞いた彼の境遇。
これを解決しない限り、また彼はトラブルを起こす、と俺は思う。
とは言え、それを解決するのは自分自身だろう。
折り合いをつけてくれれば良いが……。
「じゃ、作業再開するか。太田、五十嵐、待たして悪かったな」
「いや、大丈夫だ」
「和解できたようですし、そっちの方が大事ですよ」
「うん。じゃあ説明な。まずはこのポリポッドに土を入れる。後で水を撒けば嵩が減るから、満タンまで土を入れるんだ」
「わかりました」
「その次に種蒔きだな。土に3箇所、1cmくらいの深さの穴を指で開けて、その中に種を入れて土を被せる」
「はい」
「その後に、水を撒く。撒いたら、ハウスに入れて、新聞紙を被せておくんだ」
「はい」
「じゃあ作業、始めようか」
そうして作業を進める。
軽く世間話をしながら手を動かしていると、ふと気付く。
新沼の手際が良い。
書類で見た時には農業経験がなかったようだが、明らかに経験者の動きだ。
嘘をつく理由など無いと思うが……。
種を蒔き終わったので、じょうろに水を入れる。
ちなみに農園で使っているじょうろは大容量の物だ。
必要な水の量が家庭菜園で使う物では足りないからな。
と、そうだ。
「新沼、水撒き。やってみるか?」
「あ、じゃあやってみます」
地面に置いたじょうろに、新沼が手を伸ばす。が、持ち上げようとした手が持ち手から滑る。
「……結構水入れましたね」
「結構な量撒くからな」
「むぅ……ふっ!」
新沼が気合いを入れてじょうろを持ち上げる。持ち上がったには持ち上がったが……。
「わっ、とと」
「大丈夫です?無理はしない方が」
「問っ題、無いですっ!っとと」
かなりふらついている。
怪我はしないでもらいたいが……。
「じゃあっ、撒きます!」
「お、おう」
そこで、じょうろの先を向けた事で体のバランスが崩れた。
危ない!!
そう思った時には、新沼は倒れてしまった。
「っ、てて……」
「新沼、大丈夫か!?」
「無理するからですよ!」
横に倒れた姿勢の新沼に、二人が駆け寄る。
「新沼、まずは土を洗うぞ。傷口の確認だ」
「土……?あ……」
新沼が倒れ込んだのは、水を撒く予定だった場所。つまり……。
「あ……そ、その」
「まずは洗ってから」
「……」
洗い場で土を落とす。ざっと見た感じ、怪我はしていないようだ。
「ツナギはもみ洗いしてから洗濯が良いな。早めにやらないと固まるぞ」
「なんで……言わないんですか……」
「ん?」
わなわなと震えながら、新沼が聞いてくる。何を?
「僕に、才能がないって!言わないんですか!」
「へ?」
才能?何が?
「僕がミスると!周りの大人達はいつも『お前には才能がない』って!貴方も言うんでしょう!」
「言わないよ」
少々、語気を強めて言う。
「君は新人だ。新人に、芽を折り取るような事は言わないし言いたくない」
「貴方も、僕をひよっこって言うんですか」
「?事実そうだろ?まだ業務も始まったばかり」
「僕は!社会に出たんだから、一人前としてやっていかなきゃいけないのに!まだ未熟者として扱われるのか!!」
……それが本音か。
そう感じた時には、俺の体は動いていた。
「……ッ!」
「そこまで周りに認められたいなら、証明してみせろ」
「……!」
「証明しろ。お前の有用性を」
そう言い放ち、新沼の胸ぐらから手を放して、俺はビニールハウスへと向かう。
「何なんだよ……」
「新沼」
「先輩……」
「その、お前には悪いが、鬼頭の言動は正しいよ」
「……え」
「そうですね……あの人のこれまでを考えると、私も同意見ですね」
「五十嵐さんまで……!?そんな……」
「私から話しましょうか。新沼さん」
「……はい」
「今、何歳ですか?」
「今?24ですが」
「成る程。では、この農園の成り立ちは?」
「軽く。彼女達が食事を残すから、それに対しての施設と」
「……だいぶ端折ってますが、合ってます。では、この施設ができたのは何年前か、知っていますか?」
「うーん……2年前とか、ですか?」
「いえ、4年前です。そして、その1年前には鬼頭さんによって提案されていました」
「……はい」
「つまり、5年前です。……そして、鬼頭さんは現在29です」
「……」
「つまり、農園の事を提唱したのが、鬼頭さんが24の頃。今の貴方と同じ年齢です」
「で、でも!」
「はい」
「当時の鬼頭さんが、僕と同い年な事はわかりました!でも!」
「はい」
「用務員なんてのは下っ端です!そう言い出したのなら!そう言い出せたのであれば、鬼頭さんには強い権限があったのでは!?」
「いえ、私達と同じ。自分の意見を押し通せる権限なんて、当時の鬼頭さんにはありませんでした」
「じゃあ、何で」
「彼の来歴と、環境。それと熱意ですね」
この話、ひいてはこの作品を書く上で気を付けているのは「ヘイトタンクを作らない」です。
各人がそれぞれの行動理論に則って動く事を意識して書いてます。