トレセン学園の農園で土にまみれる日々   作:タカハン

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リアル農作業が楽しくて投稿忘れてました。

今回もウマ娘出てきません。
そろそろ作品説明に書き足さないと。


農園管理者と新しい風と和解

「来歴と環境はわかりますが……熱意?そんなもの」

 

「侮れませんよ、熱意は。鬼頭さんのは特に」

 

「……」

 

「まずは彼の来歴から。鬼頭さん、農業に対しての知識が凄いんです。畑だけではなく、酪農も」

 

「うむ。親父も驚くくらいだ」

 

「先輩の家って確か……」

 

「酪農をやっていたな。過去形だが」

 

「ええ。そんな知識を持っているんです。専門的な教育を受けている。当時は私達も、そう思っていました」

 

「え、違うんですか?」

 

「そう。鬼頭さんは農業系の学校には通っていません。全て独学です」

 

「…………」

 

「鬼頭さんはここ、学園に来る前には農業への道を志していました」

 

「それは……そこまで調べたのなら、そうなるでしょうが」

 

「でも、その道には行けなかったんですよ」

 

「え?」

 

「志した内容と、現実との間にギャップがあった。鬼頭さんはそう話していました」

 

「……」

 

「それを掬い上げたのが、理事長ですね」

 

「……!」

 

「さっき話した、環境がこれです。……当時の鬼頭さんは、人生のどん底だった、と話していました。それはそうでしょう。ぼかさずに言うなら、夢への経路が閉ざされたのですから。生活も荒れていたそうですよ」

 

「……」

 

「でも理事長は、鬼頭さんの器用さと、人柄に着目したそうです。鬼頭さん、結構お人好しですから」

 

「器用で、お人好し……そんなの」

 

「ええ。外に出れば、搾取されて終わりです。でも、理事長は拾い上げました」

 

「……」

 

「その後は、用務員として働き始めたそうです。用務員業務に、ある程度の器用さが必要なのは理解してますよね」

 

「はい」

 

「それはそれは重宝されたようですよ。鬼頭さん、大体の事は平均以上に出来ますから。私も、一緒に作業したことがありましたが、鬼頭さんは『出来る』人でした」

 

「……」

 

「用務員としての業務は短期間でしたが、様々な方からの信頼を集めました。その時に持ち上がったのが、件のカフェテリア問題」

 

「……」

 

「その時に鬼頭さんがどう考えて『農園設立』なんて言い出したかは聞いていませんが、周囲は鬼頭さんの意見を尊重しました。理由は……わかるでしょう?」

 

「信頼を、勝ち取っていたから」

 

「そうです。そしてそれは、先程の鬼頭さんの言葉通りです」

 

「……有用性の、証明!」

 

「そう。多分鬼頭さんは、自分と貴方を重ねたんだと思います」

 

「僕と……」

 

「それから、熱意、でしたね。先程も話しましたが、彼の熱意は凄いですよ」

 

「ふむ」

 

「多分これは、太田さんの方が詳しいでしょう」

 

「だな。さっき話したが、鬼頭は酪農にも明るい。そして、俺は酪農家の息子だ」

 

「ま、まさか」

 

「俺に対して言ったんだよ。『酪農家の息子?俺もやってみたかったのに、残念だ』ってな。知らんがな」

 

「……それ、だいぶヤバい奴では」

 

「だろ?熱意が空回りしている。でも、空回りするくらいの熱意を出力し続けられるのが、あいつの強みだ」

 

「そうして鬼頭さんと話していたら、何でしょうね……『この人なら、何かを成し遂げるでしょうね』、と思いました」

 

「成し遂げる……」

 

「だな。人の良さで信頼を勝ち取って、やりたい事を語って、纏めた意見も言える。『こいつバカだ』って思うと同時に、『こいつならやってくれる』なんて思ってしまう」

 

「……そっか。僕は…………。……鬼頭さんの手伝い、行ってきます」

 

「ええ。今の貴方なら、大丈夫です」

 

 

 

 

「鬼頭さん」

 

「……新沼か」

 

ビニールハウスで、種の蒔き直しをしていた俺の前に来たのは、さっきまで二人と話していた新沼。その二人は、遠巻きにこちらを見つめている。

 

「その……すいませんでしたっ!!」

 

「うん」

 

「僕は、口ばかりでした。未熟者としての扱いに不満を呈していただけで、未熟者から抜け出す行動に移っていませんでした」

 

「うん、じゃあ、どうする?」

 

「明確な答えは、今は出せません。でも、僕なりに頑張ってみます」

 

「そっか。無理はしない範囲でな」

 

「はい。……それ、僕もやります」

 

「これ?もう後は水撒きだけだけど」

 

「なら、尚更。やらせて下さい。僕に、挽回の機会を下さい」

 

「……!わかった」

 

新沼の言葉に応じ、じょうろを渡す。

 

「新沼、さっきのは俺のいつもの感覚で水を入れすぎた事が原因だ。行動として出力されたのは新沼だが、元の原因は俺にある。すまなかった」

 

「……!いえ、そんな」

 

「いや、新沼が誠意を見せたんだ。先輩として、それに応じる必要がある」

 

「……わかりました」

 

「……さて、新沼ならどうする?水を満タンまで入れて、一気に撒くか。それとも……」

 

「はい。水は注ぎ足します。二度手間かもしれませんが、あれで学びました。一見手間に見えても、その手間が必要な事もある」

 

「わかった。お前のやり方を尊重するよ」

 

「……はい!」

 

そうやって水を撒く新沼を見ながら、彼に話し掛ける。

 

「新沼。未熟者として見られない方法だがな」

 

「はい」

 

「そんなものは無い」

 

「……だと思いました」

 

小さく笑みを浮かべる新沼。

思わず俺も笑う。

 

「農業だと、60代でも『若いの』って呼ばれる世界だからな」

 

「うげぇ……マジっすか」

 

「まぁそれは高齢化も関わるから、未熟者かどうかとは違うかもしれんが」

 

「何ですか、それ」

 

また会話が途切れ、新沼は水を注ぎ足す。

 

「新沼、発言や行動には、責任を持つんだ」

 

「責任……」

 

「そう。例えばさっき、新沼が転んだ件。あれで新沼が怪我していたら、俺はその責任を負わなければいけない」

 

「それは……鬼頭さんに原因があるから?」

 

「そう。つまり、自分がミスをしたら、それの責任を負うんだ。事実、太田と五十嵐はそうした」

 

「…………!職務放棄の!」

 

「そう。やるべき業務をやらずにいた。だからその責任を負って、処分を受けた」

 

「責任を、負う」

 

「新人、未熟者である内は良い。でもそのミスは、管理責任者である人間が負う事になる」

 

「……」

 

「自分が勝手をすると、自分の周りの人間が不幸になる。それを意識してこそ、未熟者から抜け出せる」

 

「……」

 

「と、俺は思うよ。口に出してから言うのもズルいとは思うけど、あくまでやり方の一つとしてな。正解は無いから」

 

「……はい。自分なりに、色々やってみます」

 

「ならオーケー。失敗はいくらでもしてくれ。その度に俺らも教えるからさ」

 

「はい!」

 

 

 

 

これで、解決だと思っていた。

 

俺と新沼との確執が解け、新沼は決意新たに。

 

でも、まだ終わっていなかった。

 

 

 

 

その夜。

 

「鬼頭さん、報告書のここの部分、どう書けば良いんですか?」

 

「ん、そこは……農園作業の話か。今日あったままの事を書いた方が良いぞ」

 

「あったままって……アレをです?」

 

「まあ自分の失敗をこと細かに書く訳だしな。躊躇するのもわかるが、書かないと後が酷いぞ」

 

「というと?」

 

「初日で失敗した新人なら上の人間も程々に受け止めてくれる。でも失敗を隠す新人ってのが判ると、お前への信頼は地に落ちるだろうな」

 

「……あぁー、そういう事ですか」

 

「そう。報告書には自分の失敗を受け止める、つまり自己評価できる人間かどうかも見られる訳だな」

 

「なるほど、じゃあこっちの欄は?」

 

「そっちは収穫物の欄だな。今日は何も無いから、何も書かなくて良いぞ」

 

「わかりました。因みに今年は何蒔くんですか?」

 

「一応決めて申請もしてるけど、確約出来るのは無いな。色々な条件で出来なくなる作物も多いし」

 

「あー、天候とかですか」

 

「それもあるし、種苗会社の経営状態とかもあるな」

 

「うへ、世知辛いっすね」

 

「にしても、新沼は本当に農業経験無いのか?色々詳しいけど」

 

「あー、後で話しますよ。とりあえず今日はこれ仕上げます」

 

「そうか」

 

そうして夜も更けていく……




自分の非を認めて前に進める新沼君は偉いと筆者ながら思います。

あと1話で新沼編は終わります。
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