この作品にはルナちゃんは出てきません。
さあ、今日も作業の時間だ。
作業場である農園に着いた俺は、今日来るウマ娘を待つと共に、今日の準備を済ませる。
とはいっても殆ど彼女等と協力して準備するものが多いため、俺だけで準備するものは殆ど無い。
因みに、今回は太田と五十嵐は休みである。太田は元々今日は休日で、五十嵐は用務員仲間からヘルプが来たらしい。なので今日は俺はとウマ娘だけだ。
そう考えていると、彼女が来た。
「やあ、おはよう。鬼頭君」
「おはよう、ルドルフ」
そう。トレセン学園の生徒会長、シンボリルドルフがそこにいた。
俺はトゥインクルシリーズに詳しくないため、彼女が出した偉業についてはいまいちピンと来ないが、トレセン学園の全生徒の憧れの的、というのはわかる気がする。気品立っているというか、または威圧感を感じるというか……。
「……鬼頭君、あまり見つめないでくれ」
「あ、すまん」
といっても彼女はその実、もっと親しみを周りに持って欲しいと感じている模様。
今日の作業に立候補してくれたのも、それが理由だったりするのだろうか。
「ルドルフ、今日はあまりメインの野菜を扱う訳ではない作業をするんだが、なんで今日の作業に名乗りを上げてくれたんだ?」
「偶然だよ。とは言え、彼女等の作業の手助けとなる作業なんだろう?」
「勿論」
「それならやらない理由は無いよ」
「そうか。ありがとう」
いつも作業内容を公開してから募集をかけるのだが、実際今回はあまり手を挙げてくれる生徒が少なかった。
それでも、今回手を挙げてくれた彼女には感謝しかない。
さて、そろそろルドルフの服装について説明しておこう。
上下一体型の緑色の作業着に、黒で纏められた帽子、手袋、長靴。
正直な所親しみ易さゼロだが、これ以上無く作業に適した服装だった。
「さて、今日の作業だが、ビニールハウスでバジルの種蒔きをしたあと、マリーゴールドの植え付け、後は時間が余ったら俺がいつもやっている細々とした作業をやって貰おうかな」
「成る程、判った」
「よし、じゃあまずはこっちに来てくれ」
俺はルドルフをビニールハウスへと誘導する。
「まずはバジルの種蒔きだな。ルドルフは植物を育てた経験は?」
「恥ずかしながら無いな」
「誰にでも初めてはあるもんだ。気にしなさんな」
俺はルドルフを宥めると、種蒔き用の土の袋を取り出す。
「さて、じゃあまず俺がやるから、やり方を覚えてくれ」
「ああ」
ポリポットに土を入れ、指で軽く土をへこます。次に、バジルの種を2~3粒穴の中に入れ、周りから土をかける。最後に、水をかけて終わりだ。
「これが種蒔きの工程だけど、何か質問は?」
「じゃあ一つ良いかい?」
「良いよ。何?」
「土に穴を開ける際、あまり深く開けないのはどうしてなんだ?一般的な種蒔きのイメージとしては、指の関節分まで入れるだろう?」
「おう、良いところに気がついたな。バジルという植物の種の特徴で、バジルは水と光によって発芽するんだ」
「光……成る程、あまり深く掘りすぎると、種に光が届かなくて発芽しないのか」
「正解」
そう。バジル等一部の植物は光発芽性と言って光によって発芽する性質の物がある。種蒔きの方法を間違えると折角蒔いても発芽しないなんてこともある。
「さて、後は何かある?」
「いや、大丈夫だ」
「よし、じゃあ作業開始!」
「鬼頭君、バジルの種の周りがゼリーで覆われているのは何なんだい?」
「バジルの種は一晩水に浸けた方が芽出しが良くなるんだ。ゼリー質が覆うのはその副産物みたいなものだよ」
「成る程、良くできているんだな」
「よし、終わり!」
「ふう、この体勢は息が詰まるな」
「少し休憩するか?」
「いや、私は大丈夫だ」
「じゃあ次はマリーゴールドの植え付けだな。軽トラに苗を積み込むから手伝ってくれ」
「判った」
「マリーゴールドの香り……ふふ、良い香りだな」
「農園の虫除けのために植えるものだけど、ちょっとした癒しにもなってくれるよな」
「なんと、虫除けのために植えるのか。畑に花を植えても、むし(・・)ろ、よけ(・・)いな事は無いんだな」
「40点」
「むぅ、手厳しいな」
「よし、積み込み終わり。じゃあルドルフ、助手席に乗ってくれ」
「ああ。しかし、他の生徒は荷台にも乗っているんだろう?私も乗ってみたいものだ」
「ああ、3人以上で作業した時には、な」
「よし、じゃあまずは俺がお手本を見せるから、ルドルフはそれを覚えてくれ」
「ああ」
俺はマリーゴールドの苗を二つ程取り出し、スナップエンドウの近くにしゃがむ。
二本のスナップエンドウの間の土に穴を開け、ポリポットから優しく苗を取り出し、穴の中に入れる。周りから土を集めて苗の周りにかけ、その上から軽く圧をかける。
「これが一連の流れだ。最後に水をかけて終わりだな」
「成る程、スナップエンドウの隣以外には植える事はできないのか?」
「いや、後とうもろこしの隣にも植える予定だ」
「よく判ったよ」
「じゃあ始めるか。水飲みながらやってくれよな」
「ああ。判っている」
「よし、それで最後だな」
「うん。じゃあ植えてしまおうか」
「これでメインの作業は終わりだけど、まだ時間あるか?」
「勿論さ。何の作業をするんだ?」
「んー……あ、トマトのわき芽かきでもやるか」
「わき芽?」
「わき芽を放置すると栄養が分散するから、それをメインの芽に集中させる作業」
「成る程、重要な作業だな」
「じゃあ、こっちに来てくれ。説明するから」
「それじゃあ、トマトのわき芽かきの説明をしようか。トマトの茎を横から見ると、縦一本に太い茎が伸びてるな?」
「ああ」
「で、その横から細い茎が伸びてる」
「ふむ」
「そんで、その間から、斜めに小さい茎が伸びてるだろ?」
「ああ、これの事か?」
「そうそれ。それをハサミで切り落とすんだ」
「成る程」
「そのわき芽に花が咲いてても、躊躇無く切り落としてくれ」
「え、そうなのか?」
「うん。トマト栽培の時はわき芽は切り落とすものとして考えてくれ」
「成る程……」
「因みにここでは育ててないけど、ナスを育てた時もわき芽は切り落とそう」
「成る程、わき芽は基本切り落とした方が良いのだな?」
「全部って訳じゃないけどな。ミニトマトの一部はわき芽をどんどん伸ばして沢山実をつける種類もあるし、さっき作ったバジルなんかはわき芽を伸ばした方が良い場合もある」
「種類によりけりか」
「そういう事だ。さ、無駄話が過ぎたな。作業開始!」
「この独特な香りは……トマトの香りか?」
「そうそう。茎を切った時は結構香るんだよな」
「成る程。勉強になるな」
「よし、終わり!」
「ふう、日差しもある中でこの作業は汗をかくな」
「おう、だから水筒を持ってきて貰ってるんだけどな」
「農作業は大変だな」
「その大変さを乗り越えた先に収穫があるんだ。やりがいは十二分にあるな」
「ふむ。私はその収穫に立ち会った事は無いのだが、今時期は何が取れるんだ?」
「なら今から取りに行こう。さっき見たら良い感じだった奴があるから」
「本当か?何だろうな……?」
そう言って俺はルドルフと共にその畑に向かう。
「これだよ。スナップエンドウ」
「先程マリーゴールドを植えた所だろう?これが食べ頃なのか?」
「そうだね。この莢を見てくれ」
「莢の表面に、何か膨らみが見えるな」
「それがちょうど食べ頃だ。さ、収穫の時間だ」
そうして俺とルドルフでスナップエンドウを幾つか収穫する。
その後俺達はビニールハウスの所まで戻り、その中に置いておいた鍋とカセットコンロを取り出す。
「塩茹でしたスナップエンドウが一番美味いんだよな」
鍋にお湯を沸かしている間にスナップエンドウの筋を取り、鍋に幾らか塩を入れる。
お湯が沸いたらスナップエンドウを鍋に入れ、30秒から1分程湯がく。
湯から上げ、氷水で冷やした後皿に盛り付けて完成だ。
「さ、食べてくれ」
「うん。では頂こう」
ルドルフの口から歯切れの良い音が聞こえる。幾らか咀嚼すると途端に笑顔になり、2本目に手を出す。
良かった。じゃあ俺も食べようかな。
俺の口からシャクッと聞こえ、その後から強烈かつ優しい甘味が口の中に広がる。更に中の豆が飛び出し、また違う歯応えが歯を刺激する。
「今年のは良い出来だな」
「ああ。これは手が止まらないな」
そう話すルドルフの方を見ると、皿一杯に盛られていた筈のスナップエンドウは半分程に数を減らしていた。
「ははっ、美味しく食べて貰えて何よりだよ」
「はっ……す、すまない。周りが見えなくなっていた」
「良いよ。美味かったんだろう?」
「ああ、これは病みつきになるな」
「それなら良かったよ」
なんて話しながら片付けをする。
収穫の時は誰を呼ぼうかね?
そろそろ種蒔きシーズンが近付いて来ましたね。
皆さんはどんな種を蒔きますか?