キリヱちゃん絶叫!
ST101.Memento Mori:Countdown To The Hell -2-
「――――ヤベぇな、なんか、よくわからねぇけどヤベぇ!」
「一応は同意しておくよ、佐々木三太。もっとも、『良くわからない』けれども『ヤバイ』と認識できている時点で、俺は早々に逃げ出したいところなんだけれどね」
「えっ? 何、お前この状況で今更逃げられるつもりなのか!?」
「逃げられないからどうしようもないんじゃないか、君は…………、全く。俺は狗神自体を嫌ってはいないけれど、それで世界を救うとかそういうことが出来る器だとは思っていないんでね」
全く仕方ない。乗りかかった船だから今回は「こんな事態」でも協力しているけれど、本来、俺は端役が性に合っているつもりなんだ。狗神を愛でながら魔法関係の仕事を受けつつ平日は普通に学校に通い、このまま高校、大学と進学する。それの何が悪いと言うのだ。ことあるごとに祖父はネギ・スプリングフィールドと自らの若い頃の写真を並べ、やれウチの流派は狗族の血で世界を護るために作り上げたとか、お前はウチの一族で一番狗族の血が強く出たとか。…………そもそも柄じゃないんだ。祖父が言うようなので気分が高揚するような自己顕示欲とかないし。
ただ、事態がまずいことになっているのだけは良く分かっている。妖魔において「外見的に」一目で危険だとわかる兆候というのは、俺たちの側からすれば直感的に察知できる。そしてその察知した危険だという「
だからといって怯えるな、というのも無茶な話。そもそもあの巨体、アマノミハシラ学園都市近隣で考えても十分に頭がおかしい規模の存在感が、明らかに「脱皮」か「羽化」でも始めそうな兆しを見せている――――近隣住民、ここの生徒たちですら、避難中にでもそんな意味の分からない光景を見せられて、正気でいられるかは怪しい。
既に俺以外にも多くの魔法生徒が動いてはいるだろうけれど、それだって彼等彼女たち自身すら恐怖心を抱くなと言う方が難しいようなブツだ。何度も言っているけど、こういう状況でさえなければ俺だって逃げ出している。
そんなものを見上げながら、俺と佐々木三太は世界樹を目指して飛行していた。彼は念力、俺は獣
「――――ストーップ! ストップ、ストップ! そこ、ちょっと止まりなさいよッ!」
「えぇ!? さ、サクラメキリヱ!?」
移動途中でかけられた声に、唐突に足を止める佐々木三太。明らかに物理的な慣性を無視した急停止だったが、どういった理屈なんだろう。近衛がやっているそれとはまた別な物なのだろうけれど、このあたりは幽霊の類であるらしいからか。
僕の場合はそんなにスピードを緩めたりは出来ないので、逆方向に狗神を飛ばしたりして徐々に徐々にブレーキ、減速してから彼らのもとに向かった。
「なんでアンタに呼び捨てされてんのよ、せめて先輩って言いなさいッ!」
「す、スミマセン……!」
「まぁまぁキリヱちゃん、三太君もほぼ条件反射で謝っちゃわなくて大丈夫だよ」
どうやらそこで待っていた相手と顔見知りらしい。世界樹手前のテラス、いったん地上に降りると、妖魔の波が「そこだけ」微妙に空いている状態となっている。そこに居たのは、十歳くらいに見える少女と、妙に顔の整った青年。少女の方はパイプとか色々走った潜水服……にしてはシュールなデザインの服を着用していて、青年の方は白衣姿だ。
誰だろう、と視線を向けると、青年の方が笑顔で応じる。
「やぁ? 君、裏魔法委員会の子だよね。状況から察するに、三太君……、いや、刀太君に協力してるって所かな?」
「大体そんなところです。…………このまま世界樹の地下に向かうつもりで来ていたんですが、そちらは?」
「アハハ、その話でね。一応、地下のマップ情報は引き当てられたから、世界樹『内部』から侵入する必要はないっていう話と、キリヱちゃんからもう一つ」
「?」
キリヱと呼ばれた少女は、こう、やっぱり形容が難しいシュールさをもった外見の映写機、デジタルなんだかアナログなんだか微妙なそれの裏面を開き、こちらに見せて来た。構造自体は一応デジタルチックに出来てはいるらしいけれど、写真の比率が祖母の家にある古いテレビのようでこれは…………。
「何? 何か文句でもあんのアンタ?」
「…………文句はないけれど、そのデザインセンスはどういうものなのかと、ふと思ってね」
「そんなこと私に聞かないでよ、出て来た
ともかく、佐々木三太ともども覗き込んだそこに映っていたのは…………、半裸に剥かれたような黒制服の女子生徒の胸の中央に、あのフード姿の男が何かを埋め込んでいるようなものだった。あくまでマナーとしてやや目を逸らすと、ガルルルルルと佐々木三太がこちらに半眼を向けた。いや、事情は知らないけれど「そういうこと」なんだろうと予想はしていたから、何も言わないけれどもね。
「この写真が、大体今から3日以内のどっかの写真。……で、こいつ、水無瀬小夜子よね?」
「あ、ああ。だけど、なんで小夜子、抵抗しないで…………」
「…………周囲を、前に戦った妖魔に抑えられているね」
視線を逸らしながらの分析。僕に「いや、ジロジロ見ないなら別にいいって」と、思わず嘘だろと返したくなる声のトーンの佐々木三太に肩をすくめる。とりあえず写真の方だけ見ないように、つまり他三人の顔を見るようにして視線を前に向けた。
「佐々木三太、覚えているかな? 近衛が君を抑えた時に戦っていた妖魔――――人のように化けて人を喰らうタイプの、増殖するものを」
「増殖?」
「それだけ聞くとゾンビか何かみたいね…………」
「あ、ああ。一応は」
ゾンビのような、と形容したキリヱ……、ちゃん? まぁ小さい子供だしちゃん付けでも問題はないだろう。ちづも文句は言わないはずだ。キリヱちゃんは「ん?」と自分の発言に首をかしげた。が、俺の方は特に気にせず話を続ける。
「…………どうだろう、その写真の状況。さっきのフードの男が、増殖している妖魔を操っているように見えるんだが」
「フードって、デュナミスって言ったっけ?」
「そうッスそうッス」
「まぁ、確か『悪い魔法使いの組織』の幹部らしいからね、そういうことが出来ても、不思議じゃないかな?」
とするならば、何かしらの仕込みをされたと見るべきか…………。近衛からは「トイレのサヨコさんの元になった怨霊」程度の情報しか聞いていないけれど、この人たちの口ぶりからしてそう事は簡単ではないらしい。……さては俺が詳細を知ったら、協力を断ると思ってあえてか? 彼は意外と勘が良いのか察しが良いのか、こちらの思考の先を回ってくる時がある。油断ならない…………。
じゃあ早くいかないと、と逸る佐々木三太に、ぱしゃり! とカメラのフラッシュをたいて足止めする。
「あうちッ!? ま、眩しいッス、キリヱ先輩っ!」
「だから待てって言ってるでしょ! 状況はもうちょっと複雑なの。
茶々丸さんが雪姫と連絡をとって、術の構成分析に少し意見を出してくれたわ。結論から言うと、水無瀬小夜子を『ああ』している儀式は、間違いなく世界樹の地下にある遺跡? の奥、魔力循環の祭壇の箇所に存在してるって」
「だから――――――ッ!」
「でも! でも、それだけじゃこの写真が説明つかないの! だってこれは、私があの『大きい女の子』を撮影して出て来たものだから!」
びしっ! と指を差したキリヱちゃんに、青年と佐々木三太、俺もつられてあの巨体――――頭から胸にかけて亀裂のようなものが入りかけている、そんな青白く輝く少女のシルエットを見る。
「もし只の儀式だっていうのなら、対象は儀式の圏内にいる必要がある。この場合は地下のさっき言ってた遺跡のところ! そうじゃないってことは……」
「儀式だけを止めても、あの大きな小夜子ちゃんに仕込まれた何かをどうにかしないと、事態が解決しない可能性が高い、ってことだね。おそらく儀式場にあるものと連動してるから制御されているだけで、もし儀式だけストップしたら何が起こるかわからない」
腕を組んで頷く青年に、佐々木三太と顔を見合わせ。
「つまり…………、オレたち全員、二手に分かれないといけねーってことか?」
つまりどちらか片方は地上であの「地球ぐらい簡単に壊せそうな」怨霊と対峙することに?
嗚呼、やっぱり今すぐにでも逃げ出したい…………。俺は、そんなにプレッシャーに強くないんだ。胃が、痛い……。
「だから早い所アイツが来ないと! せめてアイツが来れば、ヘンな察しの良さでなんか上手い事やってくれるかもしれないのに、なんでさっきから携帯端末で連絡してるのに通信繋がらないのよッ!」
「まぁまぁキリヱちゃん。たぶん何か、戦ってるんだろうし……」
「…………アイツとは、近衛のことか? 確かにそうなんだが」
「そうよ? クギミー」
「初対面の女の子にそう馴れ馴れしく言われる所以はないと思うんだが…………、というより、何故俺の名前を?」
「へ? あー ……(そういえば「この周」だと初対面かしらね)。って、そ、それは置いておいて。何? 戦ってるのアイツ?」
「嗚呼。…………凄腕魔法使いの痴女と、ギリギリといったところだ。俺たちを、と言うよりこの佐々木三太を先行させるため、だいぶやり辛そうだったが、さっきのフードや緑の…………、ん?」
ちじょ? ちじょ? と。言いながら全身が真っ白に染まったように固まるキリヱちゃんと、アハハと苦笑いする青年。佐々木三太は「あー、そういうことッスか、なるほど……」と彼女の姿を見て、何かを納得したように何度も頷いた。
明後日の方向を見たキリヱちゃんは、大きく息を吸って。
「――――この、エロちゅーにがああああああああああッ! 何えっちなお姉さん相手に惑わされてんのよ、後で覚えてなさいッ!」
…………なるほど? そういうことか。女の子って元々マセたものだけれど、中々彼も罪作りじゃないか。(???「まぁ体格からして、年下とは思っても年上とは思えないのは仕方ないだろうけれど…………、ここは素直に同情しといてあげるよ」)
※ ※ ※
水のアーウェルンクスが、少しへちゃむくれた感じの顔でデュナミスの腹に直撃(しかも全裸)という絵面は、茶々丸越しの映像通信とはいえ思わず腹を抱えて笑ってしまった。
いや、何と言うか。老いたというよりも「ネギから」魔力供給をあえて受けていないのでは? と思わせるほど、デュナミスはことここに至って以前と比べ物にならないくらい弱い。
『…………マスター、その、どうしたら良いのでしょう』
「ハハハ、ハハ……、す、少し待て…………、うん、ヨシ! とりあえず追うんだ茶々丸。状況はわからないが、あのアーウェルンクスが飛んできたということは、刀太が何かやったんだろ……、う?」
『はい、マスター』
言いながら、移動中な茶々丸のアイカメラ全方位視界に「違和感のある動きで」、刀太のようなシルエットが接近してきた。
こう、まるで古いビデオテープでも早回しにしているような、動き自体は何ら変哲はないがその部分だけ少し浮いているというか、やはり違和感があるというのが正しい表現か。
そして茶々丸に並走するようついてきた刀太に、思わず私は頭を抱えてしまった。
「お前、刀太お前…………、懲りないなぁお前も。
というか色味が全然違うじゃないか私のと」
『いや、これ前のと違ぇから! 自動的になったんだよ!』
熊本に住んでいた頃、最初の一年の比較的頭の方だったか。
髪の色をそろえたら私とちゃんと家族になれるような気がして、と言って刀太が頭を染めようとしたことがあったが、どうしてか今再びそんなことを思い出すような髪色になっていた。
グレたわけではないだろうし、この状況でそうなっているとなると……?
いや、流石に術式兵装の類ではないだろう。
刀太にその手の知識を与えた覚えはないし、地力で見つけ出すような訓練をした形跡もない。
実験体「50番台」にたまに見られた、自分のDNA元になった人物の幽霊が囁いてくる、といったような振る舞いも、アイツには見受けられなかった。
と、そんな刀太の肩から「僕の功績だなッ!」と……、何やらちっこいのが出て来たが、嗚呼、なるほど。
「たまにはウチに顔を出しに戻って来いといってるのに、いまだ引きこもっているニキティスじゃないか。何だ、今日はどういう気まぐれだ? 基本、世のため人の為は嫌っているだろうに」
『フン! 勘違いするなよ、エヴァンジェリン。この僕は分身体――――ちびティスとでも呼べ!』
いや確かに小さいといえば小さいが、呼び名それで良いのかお前……?
『いや確かに実際小せーけど、呼び名それで良いのかお前……?』
『うるさい! 名付け親が何を言うかッ! と、そんな話ではないな。
何、ちょうど良いところに妖魔が一匹いたからな、コイツに溶かし込んでおいたんだ』
「…………まぁ、死んだとかになっていないところを見るに、一応は『術式兵装』が起動したということなのか?」
『術式兵装?』
『フン! コノエ・トータ、さっきその言葉をあの「面倒くさい女2号」相手に使っていただろうに、ただ適当につけたネーミングだったか?』
「ほう?」
刀太が術式兵装という名称を知っている…………? さて……? 一体誰が教えたか。
唯一それが可能そうな「近衛」の所の研究者たちは、私がこの目で、「目の前で」息絶える姿を目撃している。
記憶を失ってから、刀太にそういった「余計な入れ知恵」をする誰かが居るとは思えないのだが、とすると…………。
『――――そんなこと、今はどうでも良いだろう。来るぞ刀太ッ!』
『おっと!』
言いながら、刀太はその背後に続いてきた「黒装束」の男の言葉に、またあの「違和感のある」速度で動いた。
と、茶々丸も対魔法障壁を展開し、こちらに飛んできた水流を妨害する。
「おお? 中々の練度じゃないか。流石にあのフェイトと同格と言って良いか?」
「…………どうでも良いが服をちゃんと着ろ、エヴァンジェリン。ほら、コート貸してやるから」
おっと? 助かると龍宮マナに軽く礼を言って、私はそれを纏い…………、ん、この姿だと胸元のサイズが合わないな。うん、まだ私の方が大きいな、ハハッ! ……ハハッ、本来の姿の事を思えば少しだけむなしいな。いや、それはどうでも良い。
現在、龍宮と「中央から折れた」船の上。
ぷかぷかと漂流し、ウチのヨーロッパ支部の人間が救助に来るのを待っている(流石に少し疲れた)。
結局、目的としていた件の「魔族」たちは取り逃してしまった。
将来的に刀太たちの障害になるだろうことを考えれば、あくまで保護者の責任として、自分たちの宿題は自分たちで片を付けようとしただけだったが。
それでも本気で戦ってくれたとは言え、去り行く「少女」の背中に、龍宮が少しだけ安堵したような笑みを浮かべたのに、私は心中複雑だった。
…………だからまぁ、デュナミスが茶々丸「程度」相手にけちょんけちょんにぶっ飛ばされる様は中々見ていて爽快! ストレス解消にはなった。
なったのだが、少し意外なものを見て私は少し驚いている。
鼻から下をマスクのように長いマフラーのようなもので隠した、タイツ姿のような細身の男。髪はすべて後ろに流れており、しかし目元は
「お前…………、外に出れたんだな、黒棒。てっきりアルの奴がまた性格の悪い仕様でも作り込んで、がんじがらめの制約で縛って出たいときに出れないようになっていると思っていたのだが」
『………………? 嗚呼そうか、そもそも貴女は私が鋳造された時の光景を間近で見ていたか。チッ、やれやれまったくサプライズにもなりはしない……』
言ってることがアル程ではないにしろ大概な気もするが。
それはともかく、刀太の重力剣「本体」ともいえる人工精霊、あの重力剣のもとになる「近代圧縮金属」の重量制御および「本当の機能」を司っているこの人工精霊。
精霊本人の名は特に設定されていなかったから黒棒と刀太にならい呼ぶが、黒棒は「自分自身が封じられている剣」を手に取り、ダイヤルを回す。
『いや、手数が足りないと聞いたからな。どうも敵は主戦力として相当に厄介な連中を投入してきていると見える』
「まぁそうだな。デュナミスから聞いたが、まさかあの
『その表現は表現でどうなのだ…………? まあ、私は私がするべきことをしよう。もはや守るべき「3-A」は存在しないにしろ、今の「相棒」は何かと気が良いのでな。多少のペナルティは、必要経費と割り切ろう』
嗚呼やはり性格の悪い仕込みはあるのかと、私はあの
そして自らの剣を構え、水流を避け続ける刀太を囮にするような配置で、黒棒の本体は呪文を続け――――。
『パピルス・タピルス・ロン・ジンコウ――――
その「自らの質量と同等の魔法具や武装に己や性質を転換できる」、アルビレオ・イマ鋳造の魔法剣、「
佐々木まき絵の
※黒棒のこれは当然
アンケート期限:十月末まで予定
【100話記念企画】以下のうちどれが良い感じでしょうか。なお挿入タイミングは未定です
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登場人物紹介(ネタ)
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主要キャラのステータス情報
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女性陣チャン刀好意ランキング5項目
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いつもの短編アンケート