ST104.Memento Mori:Only Body
「えっと、これで通じるのかな? 刀太君」
『……はい? 九郎丸か。お前、戦闘終わったのか?』
確か祖母ちゃんたちと斬り合っていたとか思うけれど、と言う彼の言葉に、僕は少しだけほっとした。良かった、少なくとも通信はつながった……、まだ大丈夫、刀太君は生きている。
現在、僕と夏凜先輩は屋根の上を走りながら「変貌した」ダイダラボッチへと向かっている所。眼下、歩道にあふれる妖魔たちも微妙に活動を停止しているように見える、今の内だと走っていた。
「繋がったのですか? 九郎丸。でしたら状況の確認をまず急いで……、っ、このっ!」
とはいえそれでも、妖魔の数が多すぎる。下からこちらにあふれて来るのを数体、夏凜先輩が蹴散らして僕の分の道を確保してくれている。お陰でこちらも念話に集中できるので、彼女に頭を少し下げた。
刀太君に確認すると、あっちも良い状態じゃないみたいだ。……まあその、わかってはいたんだけど、あのダイダラボッチをどうにかする手がないと、どうしようもないらしい。
「って、それはそうとあの結界みたいなのって、刀太君、心当たりとかない? 場合によっては大変なことになりそうなんだけど」
『大変なこと?』
「うん。
えっと、例えば帆乃香ちゃんの『ククリメノサカキ』、だっけ? あの魔法無効化結界。ああいったものなら別だけど、それが魔力をせき止めるタイプだと、あの規模相手にすると危険っていうか。
本来なら循環する魔力を中途半端に押しとどめたりすると、えっと…………、何て言ったらいいかな? ダムって表現するとわかりやすいかな」
『ダム、ダム……って、普通に水源とかの?』
「うん」
例えるなら、それはダムのようなもの。何かしらの儀式で通るはずの魔力、エネルギー、水流を、無理やりせき止めている状態。それが、ダムの上限に到達しない範囲でなら問題はないと思う。だけれど、あの状態は違う。仮にも「神霊」クラスか、それに匹敵するレベルで集中してる魔力量。立ち上がったあの姿を見た瞬間、これはそのまま残しては拙いと判断できるくらいには、僕も「生物としての本能」として恐怖を揺り起こされた。
「刀太君の話とか、あの水無瀬小夜子のビデオとかを踏まえると……、一番ありそうなのは、そのまま魔力が爆発して辺り一帯に何も残らなくなるってこと」
『ヤベェ……』
「あはは、うん、ヤバいね。そして、もう一つ。こっちの可能性もある。
――――それだけの『溜まりに溜まった』魔力が一気に流れて、それを取り込むことで。全く未知の存在へと変貌してしまう可能性だ」
それこそ、水無瀬小夜子が「辛うじて」自分の意識を留められているのに対して。流れ込んでくる膨大な妖魔の魔力と、彼女自身の内側で暴れているだろう数多の怨霊を思えば。そうなった果てに、果たして三太君が助けたがっている彼女が残るのかどうか―――――。
『今はダイダラボッチかもしれねーけど、それこそ何か分体でもした大量のゾンビ群とか、そんなもんになっちまう可能性もあるわけ、か? さっきディーヴァが言ってたのからして』
「ディーヴァ……?」
『あー、一応今回の敵っていうか、そんな感じのの一人な。あんまり情報話さなかったけど、どーもこっちを絶望させるって目的で教えようとしてた部分の一つに、それっぽい話があった』
「そ、そうなんだ……」
なんでだろう、少し変な感じでソワソワするけれど……。なんとなく、刀太君の感じが近い? 印象だからかな。
そうこう話しているうちに、見えてきた――――巨大な少女のシルエットが崩壊している、それを覆う暗色の結界のようなもの。その手前、空中で交わされる剣戟。
「これは……、ちょっとまずいねぇ。九郎丸ちゃんと同じ流派でしかも――――」
「――――神鳴流奥義・斬鉄閃!」
「うわ~ん、メカ殺し止めて欲しいなぁ!」
言いながら、一空先輩は刹那さん相手にギリギリ切り結べている。既に足や背中のバーニアが一部破損していたりするけれど、それでも腕やそこに付随して肘から表出している一対の刃は、傷一つ無いように見える。刹那さんも手を抜いている訳ではないみたいだから、一空先輩の技量が意外と高いのか、あるいは素材自体が普通の金属とかではないのか。
あっ、向こうがこっちに気付いて、肩から生やしたマシンガンで煙幕を張って撤退した。僕や夏凜先輩のもとに急いでくる一空先輩。
一方、刹那さんも地上で「せっちゃん、気張って~!」って応援してた木乃香さんの方に戻っていった。
「やはり一筋縄ではいかなそうですね。……流石に刀太の祖母ということもあるのでしょうが」
「やぁ、丁度良い所に来たね二人とも……、って、お? 九郎丸ちゃん、それはひょっとして刀太君と通信してたりする?」
「あ、はい。確かにやってますけど」
「だったらちょっと伝言頼めるかな」
――――三太君、さっき「あの結界」が張られる直前に、胸の亀裂に目掛けて「侵入して」さ。そこから全く動きが見られないんだよね。
その言葉を刀太君に伝えながら、僕も夏凜先輩も、そろって巨大な人型のそのシルエットを二度見した。
一方で、刹那さんたちも結界を見上げながら、何か会話をしている。
「――――ってディーヴァはんも言っとったけど、これ、絶対『ネギくん』詳細知らない状態でゴーサイン出した思うわ。もっと細かく知っとったら、流石にOK出さへんってこんな『順々に』やってくタイプの計画書。こーゆーんは一気にやらんと意味ないって言っとるし」
「いえ、とはいえ今の『ネギ先生』は……」
「せやかて、あんまそーゆーんは好きやないやん? ヨルダはんは知らんけれど、『千雨ちゃん』もおるわけやし」
聞き慣れない名前が飛び交う、けれど――――明らかに、聞こえてはいけない名前が聞こえている気がする。ネギ君、ネギ先生? それは一体、なんでその名前を……? 刀太君のお祖父様の名前、彼の祖母にあたる人なら知っているのは不思議ではないかもしれないけれど。明らかにそれ以上に不可思議というか。
まるで「つい最近も」話したことがあるようなその言いぶり――――。
「…………先ほどからずっと、それこそ顔を見た時から気になっていたことがあるのですが」
と、夏凜先輩が一歩前に出て、腕を組む。どうやら夏凜先輩も僕と似たような疑問を抱いたのか。あるいはあの結界の内にある存在についての確認だろうか。
きっと真面目な顔をして、木乃香さんと刹那さんを見る夏凜先輩。刹那さんは少し驚いたように、木乃香さんは「お、なんや?」とニコニコしていた。
「あー、でもウチらも『コレ』についてはそんな詳しくないんよ。何かあったらストップかかるとは思うけど、あんま教えられへんし――――」
「いえ、そこはどうでも良いのです」
「「えっ?」」
「おや?」
僕と刹那さんのリアクションが重なり、一空先輩が突然苦笑いを浮かべ。
「――――――――刀太や帆乃香ちゃん達の祖母だというのでしたら、顔立ちなどから逆算するに。あなた達は、ひょっとしてお互い親戚同士で結婚したとかではなく、同性婚だったりするのでしょうか? あっ、いえ、むしろそう『ならば』尊敬しかないのですが。結局、雪姫様相手にそういうモーションも成就をせずここまで来ましたから、羨ましさこそありますが」
…………。
せ、刹那さんも木乃香さんも目を真ん丸にして、ちょっと頬を赤くして固まってしまった。
※ ※ ※
こんなタイミングで
キリヱが「ど、どしたのよ……?」と心配してくるが、なんというか久々にホント久々なものを変なタイミングで見せられてしまったせいか要らんことを口走ってしまいそうなので、ちょっと待ってくれと手で制して深呼吸した。
「って、九郎丸も動揺しすぎて念話切れてるじゃねーか。どんだけだよ夏凜ちゃんさん……」
「ねぇ本当に何があったのよ…………」
「……表情から察するに、聞いても何らアドバンテージがなさそうなことなのは判る」
おおむね正解な釘宮だが、頷きながらも三太と外の状況について情報共有。少なくとも今すぐの暴走の心配はないが、それとは別にここから上に吸い上げられている魔力が貯め込まれて危険なことになるかもしれないという話と。三太があの巨体の中に入り込もうとして、同時に時間停止されてしまっているだろうという話とをだ。
「…………状況として何一つ良い点がないのだが、どうするんだ? 近衛」
「そこなんだよなぁ……。たぶん上の結界みたいなの自体は、こっちが何か進展したら勝手に解除してくれるとは思うんだが……」
せめて棺の中に何が入っているかでもわかれば、また推測なり推理なりのしようはあるのだが。場合によっては九郎丸に再度念話を送っても良いかもしれないが。すっと九郎丸の仮契約カード(オリジナル)の方を取り出すと、同時に「嫌な感覚」が足元から――――。
「釘宮!」
「ッ!」
「え? え? 何ちょっと――――」
とっさにキリヱをかかえ空中に避難。天井すれすれの位置まで後退する。彼も私に合わせて足元に狗神をまとい上昇したが、それとほぼ同時に地面全体が「水浸しになった」。まぁあれくらい遊んでいれば(?)流石に追いつかれるかという話ではあるが、ご丁寧に水浸しにしてくるのは上の方から魔法で一気に流し込んでると考えるべきか。
「…………や、やっと追いつきました、ふぅ」
どちらにせよ、水の中から出て来る「人魚を模した」下半身アーマーを装着したディーヴァの姿に、キリヱは謎の驚愕を浮かべた。
「お、お姉さんじゃない……!? って、何そのスケスケのコートみたいなの、コイツとお揃い! 何それ、止めなさいよッ! 無駄にエロいじゃない私と同い年くらいの外見のくせに!」
「同い年……?」「ハハ……」
「そこの二人、文句があるなら受けて立つわよッ!」
「……?」
「そっちも何そのきょとんとした幼児みたいなカワイイ表情ッ! どういう感情の発露なのヨ!」
「あっお前さんの基準でも可愛い判定なんだな……」
「私は一体何を怒られてるのだろう……、犬上小太郎の孫は何か知らないかな?」
「触らぬ神に何とやら、という言葉があるらしい」
「?」
意味はわかっているだろうに何を指し示されているか判っていない顔のきょとんとしたディーヴァはこう、何と言うか…………、もうちょっと情操教育頑張って? デュナミスでもネギぼーずでもいいけど(白目)。
というより、それはそうと棺桶の間近にいるにも関わらず、彼女は魔法を制限されていないように見えるのだが。
「しかし、まさかこんな場所にも来られるとは思ってなかった、かな? いきなり目の前から消えたからどうなるかと思ったけど…………、仕方ないか」
言いながらディーヴァは、立てられた鉄の棺桶に手をやる。と、その蓋の要所要所から蒸気が漏れ、ガタンと地面に落ちた。
――――その中に入っていたものを見て、私は、この場に三太がいないことを心底感謝した。
「…………ッ!」
胃のあたりを押さえる釘宮。
「なに、よ、それ…………」
目を見開き、顔を青くし、私の腕の中で震え出すキリヱ。
「…………なるほどな。それを触媒にしてるんなら、確かに『水無瀬小夜子』にとっちゃ、特効と言っても過言じゃねーか」
そこにあったのは、少女「だった」何かだった。
首に痣。目は閉じられており、クリスチャン系の葬儀を受けたと思われるそれだったが。だが明らかに、その四肢やら何やら、肌の色やら乾燥具合やらが説明のつかない状態で。
「何と言うか、つくづく惨いことが出来るもの、だよね。人間って。そういう意味でも興味深い。……お察しかどうかは知らないけど、水無瀬小夜子の『遺体』、だよ。発見時、既に半分『
情緒が無垢すぎるせいなのか、「それ」を見ても感想が酷く他人事……、というよりも、どこか他所の世界の出来事を野次馬しているような、そんな遠い距離感のあるディーヴァの声。それも遠く聞こえるほどに、水無瀬小夜子の遺体の状態は、見る相手である我々にとって良くないものだった。
なるほど。どういう手段を使ったのかは判らない。だが春日美空の話を踏まえて、生きながら「そう」されてしまったのだとするならば。その上でわざわざ意味もなく、トイレで首を吊ったように偽装されて自殺したのだとされてしまったのならば。
怨霊としての誕生当時、彼女がどれだけの激情を抱えていたかなど、想像するに難くはない。想像できるものではないことが、一目でわかるほどに。それは見ていて、過程が想像できるからこそ、痛々しかった。わずかに、私の胸元から血流が噴く。……どうやら少し動揺しすぎたらしい。
ディーヴァはそんな遺体の胸の中央、変形した両手で握られるように合わされた形で握られている「勾玉」のような何か。それを優し気な手つきでとり、先ほどまでの遺体同様に両手で握り、祈るような体勢になった。
「……そっちからはもう、攻めては来ねーみたいだな」
「少なくともこの場では、君たちは接近することすら出来ないだろうし。状況を知っても、対策を練れない程度にはデュナミスも色々と策を講じたからね。……流石に制御用の仕掛け自体を『脱がされる』とは思っていなかったみたいだけれど」
「さっきより饒舌になったってことは、もうこっちに打つ手がないだろうってことか」
「そう、だね? あとは時間稼ぎの意味もある。個体名『刀太君』、君だって私から情報を取集したいと思っているようだし、これ以上下手なことをされないよう足止めするのに問題はないはずだ」
スリーサイズは測ってないから教えられないけど、などと戯言を言い出したものの。いまだ動揺から抜けきらないキリヱの背中をあやす様に叩き、一言。
「それはいいとして、棺の蓋だけでも閉めてやれって。あんまり人に見せるようなモンじゃねーだろ。本人居たら可哀想だ」
「……? そういうもの、なのかな。私は気にしないけれど……」
言いながらも海天偽壮の裾が変化した水の触手のようなそれで、再度蓋を閉めるディーヴァ。こう、変な所で素直なのは若干「ネギま!」時代の敵だったころのフェイトを思わせて、少し微笑ましいが。明らかに「水無瀬小夜子」の霊体に埋め込まれただろうものと同型のそれを持っている彼女に、警戒をしない訳にはいかない。
結局、今何をやろうとしているのか。問うてみれば、本当にこちら側から対策の打ちようがないと思っているらしく、堂々と、隠す様子もなく答えた。
「まぁ、簡単な話だよ。現状、水無瀬小夜子の魂魄を制御する形『だけ』で時間拘束結界を突破できない以上、外部から魔力を供給し、それを起点にして結界解除の呼び水にする必要がある。
そのために『私を』生贄として。制御の中枢として、再度組み込むことで、この状況を改善しようって話だよ。いざというときは『そういう』サポートも含めて、デュナミスに派遣されたのだし。…………どうしたのかしら、その顔は」
「…………いや、お前さん普通に今、自分が死ぬって話をしてる訳だけど、それはいいのか? いや、こっちが心配するような話でもねーけどさ」
「まあ、特には気にしないかな? 必要があればまた『復活』させられるだろうし――――意識がある状態で永遠に近い時間拘束されるのと、何も残らず眠り続けるのと。どちらがマシかといえば、まだ後者かなと思っているけどね」
それは……、いや、自我が芽生えた彼女相手にその作戦を提案するとかどうなのだろう。やはりデュナミス、所詮は中堅クラスと言えど悪の幹部か。ガバのリカバリーに計画性が足りない…………。(???「…………ハァ?」)
念のためですが、小夜子周りの話は本作用のものとなっていますので、原作は流石にここまで酷いアレではない・・・ハズ・・・
アンケート期限:十月末まで予定
【100話記念企画】以下のうちどれが良い感じでしょうか。なお挿入タイミングは未定です
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