光る風を超えて   作:黒兎可

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ほぼギャグ回? です。

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故に何度も立ち上がる
その横顔の傷は見えない


ST12.黄金の右手

ST12.Hunter's Holly Right Hand

 

 

 

 

 

 早朝、明らかにイタリアンマフィアかヤクザもかくやといった黒塗り車総出のような出迎えが一般民宿温泉旅館手前に集まる絵面は、あまりにも酷いものがあった。暴力的な「危なさ」がプンプン漂っており、このご時世風評被害待ったなしだろう。そういった補填などには一切頭を回していないのだろうか、やはり不死身に近いというのは社会性を大きく損じるらしい。瞑想もどきの修行が板についてきた(様な気がする)私であるが、そういうところはいつまでも新鮮に、一般人的感性のままでいたいものだ。

 なお抗争でも発生したかのような黒スーツサングラスの男共が入り口周辺を占領している様を見て「追いつかれた……、もう少し話せる時間を取りたかったのに」と舌打ちする夏凜は中々に恐ろしいものがあり、ちょっと原作のCPL(クレイジーサイコレズ)を思い出す。もっとも私が見ていることに気づくと、顔を両手で隠し数秒、デフォルトのような済まし顔に戻る。やはり形状記憶合金か何かで? そのクールなお顔。

 

 兎にも角にも都方面、つまり新東京(しんとうきょう) 天之御柱(あまのみはしら)市を目指す大型ボートの上。私と九郎丸はほどなくUQホルダーという組織について、雪姫たちから聞くことになった。私の左側に夏凜(距離を詰めてくる)、右隣に九郎丸(負けじと距離を詰めてくる)、デッキ手すり手前の私の背後に雪姫(名状しがたい訝しげな顔)という配置は、なんだかオセロの失敗した角取りのように囲まれていて落ち着かない。割って入れそうなのは誰だろうか。迎えに来た男衆筆頭のバサゴはといえば、夏凜と雪姫がそろって話している空気に立ち入ろうともしない。完全に舎弟のそれだ。

 結果として私は挟み込まれている訳で……。そんな男女比に関する悲しい話はともかく。

 

 ()()資格者(ホルダー)。曰く人外どもの相互扶助組織。不死身により近い者どものが集まったある種のマフィア的な一家。ちなみに民営らしく、普段は旅館やら何やらと色々商売に手を出しているらしい。

 

 傭兵稼業とは言わないが、その関係で困り事や世界の危機を救うこともある。このあたりは当然原作で把握している流れなので、私にとってはおさらいだ。

 

「あの、不死者ってそんなにいるんですか?」

「良い質問ですね、九郎丸。貴方は不死狩りの一族だと聞いています、気になるのも当然の話でしょう。

 でもそれに対する答えは、否。それなりに探せばいるでしょうけど、ホルダーに集まっているのは大概は『死ににくい』者たち。妖魔よりも長い者、魔族、魔人、妖精……挙げればキリはありませんが」

「あと、一般人か?」

 

 九郎丸と夏凜が私を見る。

 

「あー、ほら、忍に名刺渡してたろ? 夏凜ちゃんさん。ああいう感じで……って訳じゃないけど、縁のあった身寄りのない子供とか、行き場がなくなってどうしようもない人たちとか引き取ってるんじゃねーかなって。で、たぶんそーゆー連中は人外だろうと人間だろうと関係なく働いてる、みたいな?」

「ほー、それは夏凜を見ての考えか? 一体夏凜の何を見ての考えだ? ん?」

「普通に話してた感じから、そうじゃねえかなって言う……、何だよ? カアちゃんその顔」

 

 何故か雪姫が半眼を向けてくるが、意味が分からない。いや原作知識だと言ってしまえばそれまでだが、流石にそう言うことは出来ない。ならば情報ソースとして挙げられそうなのは夏凜だけなので、まぁそうと言えばそうなのだが……。

 二年近い付き合いの中、雪姫が今みたいな顔をしたのは確か、つい出来心で頭を脱色しオレンジ(オサレ)に染めようとしたのが見つかった時くらいか。あの後しこたま折檻されたせいか、一月経たず髪の毛が完全に黒に戻っていたのを覚えているが、それはともかく。

 

「忍……?」

「そのうち来るから分かるわよ、九郎丸」

「えっと、夏凜さんそれは……」

「まぁ悪くない子よ。貴方みたいな意味でではないけれど」

「はぁ……」

 

「――もともと私とある男が作った組織なんだが、要するに……、アレだ。不死身の力を使えば、世のため人のために様々なことが出来る、という奴だ」

「はぁ」

「…………興味なさそうだな?」

「別に全くないって訳じゃないけど、スケールが大きすぎてどんな反応をしたら良いか。

 だって、たぶんアレだろ? 古いダンジョンから出てきた悪の魔法使いみたいなのとか退治したり、火星人の戦争に介入して和平に導いたり、宇宙怪獣とかが地球に襲来する前に止めたり」

「宇宙怪獣はまだだが、他はまぁ、それなりにだな」

「マジで?」

「母ちゃんウソつかないぞ?」

「いや結構ついてるだろ。まぁ別にいいんだけど、家族だし」

「……、そうだな」

 

 例えば、本当は料理が凄まじく上手なのに、私相手にはけっこう適当な代物を出してきたりといったことは当たり前のようにやっている。経緯を知らなければダメ人間に見えるくらいに、雪姫のイメージと吸血鬼エヴァンジェリンのイメージは(初見だと)ちょっと離れていた。

 まぁ元々が十歳くらいの少女メンタルのまま世界の絶望に向き合い、ダラダラ生き永らえてきた母ちゃんである。気を抜いてる相手には全力でダメ人間な姿を見せるのも、普通と言えば普通か。いや、そこまで気を抜けない、私生活がある意味でないというのは、それなりに辛いものがあるかもしれない。傲慢な吸血鬼もまた彼女の全てではないのだろうと、ここは納得するのが出来た息子というものだろう。

 

 そうこう話している内に、徒歩で行くよりも圧倒的な速度で新東京、海面上昇により大部分が水没した関東のあった場所に例の軌道エレベータが見えてき……、見え……?

 

「いやデカすぎるッ」

 

 遠くから見ていて距離感が崩壊するはずである。新東京湾中心に「新ユメノシマ」とでも言うかの如く、軌道エレベータ付近もまた人工湾岸都市だ。水没した大陸から無理やり色々小細工をして、コンクリやら鉄筋材やら私的にわけのわからん近未来技術の物質やらで出来ているだろう大地と、そこから雑にたくさん生えるビル群である。

 もっともだからと言って経済都市のように見渡す限り背の高い建物という訳でもない。むしろ浅草雷門のように一部の施設は移転可能なものを移設したり水没後にイミテーション化したらしく、観光業で盛り上がっているとテレビでやっていた。

 そう、つまり。あれだけいかにも遠くから見るとメトロポリスと言わんばかりの施設だというのに、実際はかなりバラエティに富んでいる。つまりそれを乗せるだけの土地があそこにある訳で、一体どれくらいの広さなのか考えるだけでスケールの違いに神経が苛立つ。

 もっと言うとそのうちのエリア全域を覆うように張り巡らされてる道路やら何やらが、もうすでに私の知る道路やら線路網の幅をはるかに超える。車とか一体何車線用だ……?

 

 そこから段々と遠ざかり、沖合10km(キロ)。道中の深い霧などものともせず、目的とするエリアたる「仙境館」の島に。原作やアニメで見た通り、高級旅館やら宿泊施設やらがごった返していて、それでもリゾート地として体裁が整った風の建築物は…………。

 

「いやこっちもデケぇって……」

「そうかしら? 学園都市程ではないと思うけれども」

「何というか何処と比較してるのかちょっとわかんないッスけど(※本当は判っている)、アレだな……、やっぱ人類、減ったんだなぁ……」

 

 こういう巨大なスケールで物事が出来上がって回っているのを見ると、それ以前の文明にあったはずの、日本で言うなら人口密集率の高さのようなものに感傷を覚える。

 

 そうだ、考えればここから「すら」更に減るのだ。「減らされてしまう」のだ、人類は。それでも立ち向かい、順当にいけば宇宙文明にまで発展するにしても。それでも失う命、取りこぼす命というのは大きい。

 

「刀太君?」

「あー、いや、悪い……、何でもねーから。ちょっと船酔いしたかな? 吐くほどじゃねーけど」

 

 考えるだけで鬱屈してくる…………。流石に今の私の心境を吐露することは出来ないので、九郎丸は不思議そうではあるが「無理しちゃダメだよ」と気遣ってくる。なお夏凜は何も言わず、私の頭を軽く撫でた。

 …………そういえば夏凜相手には素の部分が少し表出してしまったのか。下手なことは何も言っていないと思うのだが、少なからず何か察されてしまったのかもしれない。それは、大変よろしくない……。夏凜がいつまた私にその話を追及してくるか、わかったものではないフラグ的なものが継続しているというのは、正直止めて欲しい。

 

 前回はなんとか誤魔化せたが、私のメンタルはそんなに強くない。近衛刀太(主人公)であればむしろ「何もない」からこそ、何もないなりに何かを得ようと踏ん張れるのだろうが、私は割と我欲もあるし性欲も持て余すし鳩尾を蹴り飛ばされれば気絶するくらいには弱い(死にはしないが)。

 

 うっかりポロって言っちゃうかもしれないし、それこそ泣きわめいてどうしようもなくなる可能性も……。キャラ崩壊ってレベルではない。ましてや何度も全身爆散させられるような死に目に遭わされるようなことなどにでもなったら…………。胸元の傷がうずいた。

 ……ん? 今ひょっとして何かのフラグを踏んだか? いやフリではないから、そこは是非お手柔らかにお願いしますとも。まだ見ぬ顔も知らぬ我が師匠よ。

 

 砕けて言うとマジでお願いします! (???『相変わらずのガバっぷりじゃないか』)

 

 さて到着早々、雪姫に旅館側のスタッフたちが群がった……完全にダボハゼである。迎えに来た男衆たちも似たようなことをやっていたので完全にデジャビュだが、流れとしてはアニメ版と原作版とを両方併せたような歓迎のされっぷりだった。

 

「完全に姉御というか姐さんというか、当主扱いなんだよなぁ……」

「雪姫さん、確かに似合いそうと言えば似合いそうだものね……」

「でもいやー、人気者っすわなカアちゃん。……俺もここじゃ『雪姫様』とでも改めた方がいいのか?」

 

 と、ぬっとどこからか現れたバサゴが私の両肩を掴んで、テンション高めに叫ぶ。

 

「そうですとも! ええ何を当たり前のようなことを、いくら雪姫様が気の迷いで拾われたからと言って、ましてや眷属など畏れ多いのです! だから君もまず我らが女主人(ミストレス)に傅く立場に――――あ痛っ!?」

 

 口早く語る。剣幕含めて完全にヤクザ屋さんの手口だ。男衆の中では多少背が低いものの私から見れば十分高いので、つまりこうも詰め寄られれば「お、おう」と数歩引くことになるのは当たり前である。

 もっとも背後から夏凜にカラテチョップを喰らったあたり、何とも言えない空気がある。

 

「気にする必要はありません、刀太。男の醜い嫉妬です」

「えぇ……」

 

 そもそもバサゴの立場からすると、いくら雪姫が可愛がっていた子供だからといっても特別扱いしないという意見表明で、圧はともかく振る舞いはおかしなものではないような……。後うめくバサゴをぴしゃりと切り捨てているが、割と夏凜も醜い女の嫉妬で私と殺し合いを演じていたような気がするのだが……。

 そんな感情が顔に出たのか、原作を思わせる渋面を一瞬浮かべられた。思わず頭を左右に振って「何も覚えてない」のジェスチャーをすると、これまた普段の無表情に戻って首肯一回。

 

「少なくとも貴方は間違いなく、雪姫様の息子です。気質含めこの私が保証します」

「いや、そんな似てもないと思うんだけど……」

「あー、でも……、確かに」

「どうした九郎丸?」

「刀太君、けっこうこっちのことを見て考えてくれてるところって言ったらいいのかな? そういうのとか、スッて何気なく距離感保って、そのまま気遣ってくるところとか。そういうの雪姫さんっぽいかなって。確かに親子っぽい感じはするかなーと」

 

 それは普通の事では? と。思ったことを聞いてみれば、二人は揃って頷いてくる。

 ……嗚呼、だから先ほど考えていたのと一緒か。不死身になるとそういう感情豊かな人間性みたいなものがささくれて削れていく訳か。九郎丸に関しては育ちの問題もあるだろうが、夏凜の場合は罪悪感やら厭世的なものも相まって、雪姫に出会うまでは普通に鬱だったろうし。

 

 ネギま! 時代より雪姫も丸くなっているのもあるだろうが、やはり3-Aやネギぼーずの影響は大きいらしい。

 

 と、そんな風に話していると、館の方から驚いた声が聞こえる。服のシルエットに見覚えがあるが、果たして予想通りに真壁(まかべ) 源五郎(げんごろう)であった。夏凜のようにクールな顔をした成人男性。外見は橘より若く見えるのは私の感性の問題か。実物の彼は、エプロン姿に一見すると物静かな雰囲気がよく似合っていた。

 ……もっともその顔が珍味でも味わったようなすっとんきょうな見開き方をしているので、初対面早々どんな顔をしていいかわからないのだが。

 

「…………これは意外だ。女主人(ミストレス)至上主義を掲げる夏凜が、首を落として×××()ぎ捨てる、とまで言い放っていた相手と仲良くなって帰ってくるとは」

 

「え゛っ、えぇ……」「はいっ!?」

「なっ!? 何を話しているのです源五郎、そんなものは過去の話です! 今の振る舞いを見ればそんなこと関係ない程度、十分判るでしょうに!

 ちょっと、刀太! やめて引かないで下さい! あ、あれは私も気の迷いで……!」

 

 いや、×××()ぎ捨てるって……。アニメのあの可愛らしいのを張り詰めさせてクールに仕上げたような声そっくりそのままが、普段から私の耳に聞こえる夏凜の声そのものなので……。何だろう、人を相当倒錯した趣味にでも目覚めさせようとしに来てるのかな? 

 

 なお九郎丸は「もぎ取るって……、アソコってもげるものなの……?」と自分のズボンと手元に視線が行ったり来たりしている。嗚呼これも何か声をかけるとややこしくなる話だ、そっとしておこう。

 もげないからきっと今のお前の身体には生えていないだろ? と言ってやりたいのは我慢だ。九郎丸が今、女体であることを知っている暴露に繋がる。

 

 流れに、流れに身を任せるのだ。

 

「えっと……、夏凜ちゃんさんの性癖というか話は置いておくとして「そんな性癖などあってたまるものですか刀太!」……あー、まぁ置いておくとして。

 近衛刀太っす。こっちの顔立ちめっちゃシュッとしてるのは時坂九郎丸で「……っ!?」、えっと……名前聞いてもいいですか?」

「うん。構わないよ。真壁 源五郎だ。よろしく」

 

 す、と握手を求められたので、こちらもそれに応じる……、ってかなりガッシリしてる。しっかりしてるな、握力というか握り方一つで判る程度には堅い。見た目、肌は白い方なのに。

 確か、元々裏社会でホンモノのヤクザ稼業的なものに関わっていた経歴だったはずだし、その武骨さは当たり前と言えば当たり前なのだろうが。原作戦闘力を見ても、決してインテリでも何でもなく生粋の武闘派(ゲーマー)だし。

 

「…………『光る風を超える者』、か」

「へ?」

 

 私の頭上をぼんやり見てそんなことを呟く源五郎パイセン(ヽヽヽヽ)。…………相当なネタバレしてしまうと、彼はこの世界を「異世界転生した際にプレイしていたゲームのシステム概念」を持ち込んできているような立場の人間だ。そんな彼のこの仕草、私の情報を読み取った上での発言なのだろうが……。

 

 何だそのOSR味(ポエミー)な、かつハッピー☆でマテリアルでもかかりそうな称号的なものは。話を聞こうとすると夏凛が割って入る。これ以上余計な話をさせてなるものか! とでも考えているのか、食い気味さが必死だ。心が泣いた。

 

「ところ! で! 真壁源五郎、飴屋(あめや)一空(いっくう)はどうしました?」

「嗚呼、彼なら………、アレは悲しい事件だった」

 

 悲しい事件? と私と九郎丸が疑問符を浮かべ、夏凜はぴしり、と固まった。

 

女主人(ミストレス)が熊本を出る頃にテレビ通話した際、君の話が出てね、近衛刀太。その際、嫉妬にかられたどこかの信徒が神聖魔法を暴発させ、施設の一部を破壊したんだよ。

 壊されたのは電子機器関係が多かったから、彼の得意分野だったのだがね。二週間ちょっとくらいで修理やら再購入やら開発やらは終わったけれど『デスマーチはもう御免だー』と、一週間くらいサボってる」

 

「…………後で雪姫様に給料泥棒として突き付けます」

「いや、まー夏凜ちゃんさんやらかしたのを口実にサボってるのはアレだけど、一応先に謝ろ、な? 俺も一緒に行くからさ」

 

 九郎丸から夏凜へのバタフライエフェクトの波及効果が高すぎて、キリヱに至っては果たしてどこまで影響が出ているやら……、心配というか、頭痛の種でしかなかった。

 

  

 

 

 

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