色々誰得な再登場・・・
ST129.Memoriae Semper Dulcem Exitum
「――――嗚呼、頼むぜ。……何、そっちもそっちで上手くやって、俺らも俺らで上手くやる。そこに何の違いもねぇだろ?」
髭面に和装の男。カシラと呼ばれているその男が電話を切るのを見て、その男の右腕たる彼は冷汗をかいていた。その姿に違和感を覚え、どうしたと声をかける。
右腕であるその男は、握った拳のまま目を伏せた。
「…………親父、俺達ァこのままで良いんでしょうかね」
「何今更言ってやがる。俺ァお前のそういうちゃんと頭キレる所ァ評価してるが、鶏を息子のように育てた覚えァ無ェぞ」
発破をかけるためのその一言だったが、しかし男は震えたままである。それを不可解に思いながら、何をそう抱えているのかと吐き出させようと言葉を重ねる。
もともと彼らの組は、それこそ今から百年以上も昔よりシノギをしていたのである。頭である彼の祖父の時代より、自分たち堅気ではない連中が生きるには、それなりに道を外れる必要もあった。当然のようにそれは時代の流れに翻弄され、東京がオンダンカで海に沈めどそう変わりない。拠点を移そうが何をしようが、やることは変わらない。自分の実の親父が組を仕切る時代、軌道エレベータの建造をはじめ街全体の総作り替えめいたもの。何から何まで手を出して、自分たちでしっかりと地面に足場を固める。移り住んだこの土地でも他のシマ荒らして潰して減らしてのし上がる。社会に擬態しながら、それをするのがごくごく当然だった。
自らの組からすれば、かつては他の所の傘下だった
その動きが、ひたすらに気持ち悪かった。ガキの遊びでもないことに、得体の知れない連中を抱き込んであまつさえ自分の子供すらそれにする奴の神経が。
たとえその原因が、自分たちが無理にシマを荒らすようになった結果、他に選択肢が無くなった結果なのだとしても。
だからこそ、ここ二十年前後で台頭してきた連中が気に入らなかった。
自分の親父が潰した潟山……、それこそ二十数年前に頭を出してきて、さらに十数年前にはよりにもよって「バケモノ共」が作った組、それが統括する「
奴らは圧倒的だった。それこそ首領を名乗った白い肌のガイジン女だけではない。ふざけた格好をした髭面の男も、その隣にいつの間にか立っていた潟山の所の眼鏡の若造も。裏側の連中は早々にひれ伏すか、さもなくば警察に突き出されるか。性質が悪く抑えが利かない奴はそれこそ「氷漬け」になって今でも溶けていない。
だから表向き従ってはいるが、それとて隙さえあればすぐにでもひっくり返せる。
「俺達ァもう敵はいねぇ。鬱陶しい雪姫を名乗るバケモンたちも、『夜明け』の連中が何とかしてくれるだろう。だから何を怯えて――――」
「――――俺ァ今でも覚えてるんですよ、親父。親父に娘サンが生まれた時のことだって、俺があの娘のおしめ取り替えた時だって」
「お、おォ? それが何だってんだ」
「だから判っちまったんスよ。あの時の『潟山の虎』の目ェが。実行犯押さえてぶち殺して、めでたくアイツがバケモノの仲間入りしちまった時のことを」
その時、自分たちに向けられた目――――潟山の所の跡取りになった女、一人守れなかった男の目だ。それが何だと、男に彼は言いたかったが。
「――――あれはもう、人間が人間を見てる目ェでも何でもなかったんだ。あの時から、俺達は、『誰が殺っても』おかしくなかったような俺達ァ、あの人ン中で……」
「オイ、本当にどうした? お
――――何かが爆発するような、物が豪快に壊れる音。
建物が揺れ、歪み、困惑する二人だったが。若い衆が報告に走ってきたのを聞き、急いでその後を追って屋敷の玄関まで駆けて行った。
そこには男たち数名。うち一人は見慣れた野郎だった。喪服のようなネクタイまで含めた黒ずくめはあの時死なせた女にちなんでのものか。眼鏡を押し上げる小僧の顔は、それこそ二十数年前から「何一つ変わっていない」。向けられるその視線も含めて、何一つ。
その後ろに控えているのは、かつては後見人、今は右腕の影巻という男と、おそらくは若い衆だろうのが数人。
そして――――その奥に見慣れない連中がいた。
年頃はどちらも二十代のように見えるが、この男が引き連れて来てそれはあるまい。
片方、髪の長いモデルのような女。黒いカクテルドレスで肩や背中が出ている。すらっとした体躯だが女性らしい線で、一目で綺麗所であるとは判る。髪は下ろしておりそして手元には白鞘仕込み。ただ遊びや護身程度の意味で持っている訳でないことは、ときおり周囲のぶしつけな視線に対し右手がごく自然に柄へと延びることからなんとなくではあるが察することが出来る。
もう片方、火のついていない煙草を咥える「オレンジの頭」をした男。鉄、あるいは血の様なにおいを漂わせる赤黒いコートを着用したスーツの男。腰には折れた黒い刀と拳銃。右目には眼帯、そして虚無の表情。顔立ちこそ堅気らしく綺麗なものだが眉間に深く寄った皺が印象的で、チンピラまがいのそれとはどこか一線を画していた。
見覚えのない二人。聞き覚えのない二人。だがその立ち姿から――――伏見連合から回された連中ということだけは察することができた。
男の隣、カシラが源五郎相手に詰め寄る。
「オイオイオイ、一体今日はどうしたんだ真壁サン? 今日は――――」
「――――弁明は聞かねぇ。例の『幸せ』を売ってるのは特定できた。問題はその流れてるルートだ。
事前に話したらお前ェ等は逃げ出すのは判り切ってんだ。だから証拠はケツの毛一本たりとも逃さねェためにタイミングを見計らったってだけだ」
「ッ」
やはり、バレている――――しかも相当、用意周到に。「幸福の轍」という薬物の取引が、彼らが武力として雇おうとしていた連中の、いわゆる「シューキョー組織」の連中が出した条件だった。シノギでもよくあるタイプ、最初はブツを売って依存させてから本腰入れて直に取引して売りさばくというタイプの連中だと考え、その上で自分たちは取引に乗ったのだ。
なにせ彼らも人外――――しかし、連中はこちらの領分を侵そうとはしなかった。そこだけは信用できた。連中はもっと別な、自分たちに理解できないもののために生きている連中だ。だからこそお互いがお互いに利用できると。それで、この目障りな伏見連合というガワを粉々にしてくれると。
だが、その判断が甘かった。
若い衆の中には、目の前の「潟山の虎」がどれだけ人間離れしているか知らない連中も多い。なにせそれこそ二十年前、かつて若かった痛い目を見た上で生き残った世代とでは、何もかも大きく入れ替わっている。
「その後ろで蜜すすって堅気を『みそっかす』にしていやがる連中……、引きずり出してやる」
「――――ナマ言ってんじゃねェぞ若造ォ!」
こら、止せ! と。制止の言葉をかけるよりも先に複数人が銃を構え――――しかし発砲することはなかった。
相手の若い衆も応戦したから? 銃を構えたから? 違う。
例の眼帯の男の仕業、なのだろう。その腕の動きを見ればそうとしか言いようがないが――――男は投擲した煙草で、拳銃だのマシンガンだのその銃口全てを「
男は、片目を「虎」に向け確認する。
「(確かあのゲームのシステム的には……)向こうから絡まれたら、良いんスよね」
「ああ、そうだね」
「承知! っと。あんまり気乗りはしねーけど……。
あー『勝四郎』、やりすぎんなよ」
「……と、あっ…………、『菊千代』君もね」
そして、そんなやりとりを聞いた次の瞬間、男は四肢の自由を失いその場で倒れた。
※ ※ ※
とりあえずの偽名として、私と九郎丸はそう名乗ることになった。九郎丸の方は自分で偽名をつけられないという理由から私が(主に「私」的に関係のある人物の名前だが)つけたのだが。
いや、色々と事情があったのだ。そもそも「例の薬を販売しているルートを辿った結果、見つかったヤクザの事務所にカチコミにいくよ」と源五郎から言われても、一切の準備をしていなかった私たちだったが、彼から提示されたガムのような薬品こそが偽名を名乗るだけの理由をこちらに必要とさせた。
「
ちなみに赤い方が加齢で青い方が若返りだ、という一言と共に、目が点になった私たちである。基本的に今の姿でも、何かあったところで十分戦えるだろうに、何故これが必要なのかと。
理由としては、源五郎いわく「箔が必要」ということらしい。
「さっきの若い衆の反応を見てなおさら確信したよ。間違いなく敵に舐められる。舐められるだけだったら良いけど、下手をすると『交渉の余地』がある相手からすら『下に見られて』話し合いにすらならないかもしれない。
特に僕だって、外見年齢は二十数年前からこっちほとんど変化していないからね。かつてと面々が変わっているだろう他の組なんて、もはや予測する必要すらないだろう」
「それで年齢詐称……、えっと、大人になれって話ッスよね」
「そうだね。こう――――せっかくだし、色々試してみたら良いんじゃないかな?
何、『それっぽい』服装だったら、この部屋にいっぱい揃っている。奥に更衣室もあるから、好きなのを選んでくるといい」
そう言われ、まずは薬品を試した私たちであるが、こう、もう何を言って良いやらという感じであった。
「わわ、と、刀太君、カッコイイ……!」
「そうか? あー ……、目つき悪ぃな」
「そんなことないよ! こう、アンニュイな感じでグッとくる!」
そう謎のテンションでわめいている大人版の九郎丸だが、その身体は完全に女性のものである。すらっとした身長は大人状態の私よりもわずかに大きく、素の顔立ちのせいもあって凛々しい印象だ。なお浮かんでいる表情や言動が子供じみていて、見ていると変な性癖に目覚めそうである(謎)。ただ全体的にシルエットに丸みがあり、胸やら尻やら「二次性徴」以降の主張するべきところはそれなりに主張があり。スタイル全体として夏凜よりは悪いが、それでももはや完璧に「美女」と言うほかない姿になっていた。
そうか、あの状態の九郎丸のまま成長「出来たなら」こうなるのか、そうか…………。
なお時折胸元を隠して「さらしが……」「破れて……」とか言い出しているのには突っ込むつもりは毛頭ない(断言)。
なお私の方はといえば、原作刀太が年齢詐称薬を飲んだ時の姿よりも年上のようである。ただ雰囲気はまるで違った。私の普段の表情の作り方が原因なのか眉間に皺が寄り、なんならせっちゃんよりも疲れた表情で人相も良くない。なんだか「私」自身を思い出すような微妙なこの目つきの悪さである。
だからこその偽名にあえて「神楽坂」の姓を持つ菊千代にすることにしたのだ。夏凜の時と違い咄嗟に出て来たわけではない、容姿に「私」と共通項が出て来た以上は、あえて寄せた方が私自身の言動に失敗やガバが生じにくいだろう。
なんなら一人称も「私」にしても良いかもしれない。
どうせならということで、スーツ姿はともかく他の要素も出来る限り「私」に寄せる。眼帯……はなかったのでそれっぽい形のモノクルタイプの魔法デバイス(なお使えない)、赤いコート……もなかったので「死天化壮」でそれっぽく。刀は黒棒を代わりに右の腰に差し、左の腰には弾丸の入っていない拳銃。
後は表情を少し調整してやれば、見事に「私」と近衛刀太とを混ぜたヤクザなんだか殺し屋なんだかというビジュアルである。
「別に『あっちでも』殺し屋だった訳ではないのだが……」
「…………と、刀太君、ど、どうかな?」
そして私に声をかけた九郎丸のビジュアルは、なんというかこう…………、
「まぁ似合ってるんじゃねーの? ……まあその恰好だと頭のイカれた殺し屋に見えなくもねーけど」
「え、えぇッ!?」
『――――ふみゅー! ふみゅー! ぴ〇ちゅちゅー〇かちゅ!』
そんな九郎丸を前に、呼んでもいないのに携帯端末から飛び出るチュウベェである。相変わらずの鳴き声に思わずふん捕まえてしまったが、それと同時に何を言っていたかが不思議とわかってしまった。
[おうビッグブラザァ、こんな美人ちゃん前にその言い回しはどうかと思うぜ! 九郎丸ちゅわああああああんッ!]
なんなら
流石にそうセクハラまがいのものを野放しにするわけにもいかず、思わず血装術でチュウベェの全身をドーム状に覆う。『ふみゅ? ふみゅ!?』と怯える様子だがそのまさかだ、そのまま胸部の傷跡まで持っていき、そこに「組み込む」――――。
後は特に何かを考えるまでもなく、星月が「
なお九郎丸は九郎丸で頭がオレンジに染まった私を「えぇ……」と困惑気味に見ていたが、なんというか仲良くなったせいか段々お前さんも向けて来る感情に容赦とかなくなってきたなホント。
さて、そんな状態で向かったヤクザのカチコミだったが。おおよそ追い詰められた状態からの逆切れのごとき反撃めいたものだったので、私も特に容赦なく「遊んだ」。
和風なお屋敷の玄関から先、何故か無駄に広い時代劇とかで大岡裁きでも始まりそうなスペース。おそらくは「ケジメ」案件で指を詰めたり罰を与えたりするのを衆目でやるための場なのだろうが、まあ暴れても問題ない広さがあるのは素晴らしいと言えた。
せっかく持ってきていた煙草(なお湿気っていたため使い道がない)を血装術で薄くコーティングし、疾風迅雷の超加速をもって軽く投擲。こちらにチャカ向けて来る連中の銃口に入れ、小さく血風を発動。結果的に内部が「急激に錆びつき」、火花も散らず変な詰まり方をする。銃によっては暴発して火傷している連中もいるようだが、そこはさして気にしない。
「無力化、だよねあくまで」
「だな」
九郎丸は夕凪を抜刀せず、納刀したまま叩き伏せるように神鳴流の技を振るい。私は私でカラの拳銃を左手で向けながら、右手の指先より小血風やら何やらを放ち周囲を牽制。彼ら自身普段の習性からだろう、どうあがいても向けられたり構えたりされる拳銃の方に視線がいってしまい、ほぼノーモーションで指先から放つ血風のことはまるで認識できていない。
そして、その血風は前回獲得した
銃撃、に見せかけた攻撃を受けた連中はほぼ全員がその場で身動きを封じられ拘束される流れに。九郎丸みたいにいちいち倒す必要も無いので、対処速度と人数、つまりは制圧力が違う。源五郎に至ってはそれを見て特に手出すらせず、自分の組の若い連中に「甘く見るなとはこういうことだ」と教育すらしている始末だった。
なお、四肢が動かないのに強面の大男がカシラと呼ばれていた老人を護ろうと前に出たり、そのカシラが泡噴きながら逃げようとしている状況がこう、何とも言えない信頼関係の矢印の壊れ方を見せられている感覚だった。
「諸行無常と言って良いのかね―――――ん?」
そして、咄嗟に感じた「妙な気配」――――。足元に嫌な感覚が出て来たため、思わず下に血風を「置き」、跳躍して離れる。
「……ん?」
違和感が依然として減らない。というより、むしろさっきより妙に首筋がヒリヒリするような感覚……? いまだ危機から回避しきれていないと見て良いか、とりあえずは直感に従い背後に黒棒を構えた――――。
激突する金属音。
「おっ」
「! へぇ、やるね」
にやり、と笑うその様に猛烈な「原作で見たような」既視感。コンバットナイフと折れた黒棒がぶつかる様はそれこそ原作キリヱ編を思い出す。ただあちらでは対象となっていたキリヱがいなかったりなど、状況は何から何まで違ってはいるのだが。
とりあえず超加速の感覚をオンにし(意識するだけでオンオフの切り替えができる)、拳銃のグリップの方で殴る。「ごほっ」と言っているだろうそのスローモーションに対して鳩尾を蹴り飛ばす。
と、同時に向こうが投げて来るナイフの類は、超加速状態において特に苦にはならないくらいに「遅い」。折れた黒棒の重量すら変更する必要もなく適当に叩き落し――――と、ここで加速時間が切れた。
しばらくはチャージもかねて放置だろうが、その間に黒棒だけを構える。
対する眼前の適当に戦った男は……、全身黒のコンバットスーツに左目眼帯のその男は、くつくつと笑いながら私を見た。
「あー、一応『何者だテメェ!』とか聞いた方が良いのか? いやこんな思いっきり真面目に仕事中のタイミングで斬りかかってくるような奴、どー考えても敵に違いはねーけど」
「ごふッ……! お、落ち着いてくれ、僕は味方さ『UQホルダー』。あまりに展開が一方的すぎて思わず『滾って』手を出しちゃったけど。
民間軍事警備会社『
「……影使いっていうと確か、夏凜ちゃん先輩史上一番ぶっちゃけ有りえない変態だったか?」
その言われっぷりは傷つくね…………、と、スラムで夏凜と戦ったその男は腹部を押さえながら肩を落とした。……キリヱ編で出てこなかったからてっきりスルーされると思いきや、結局出てくるのはガバか否か判断が難しいのだが。というかしっかりキリヱ編で出てこいお前さん(無茶)。
活報の[光風超:感想1000件(大体)突破記念募集] の方もまだまだ内容募集中ですナ!
期限決まりましたので、ご注意くださいっ!