ST133.Other Metatronios
「よぉ、随分ゴキゲンじゃねぇか? 妹。せっかくだから俺も混ぜてくれよ。『72号』」
「『17号』でち? 失敗続きで既に素体の原形も崩壊したはずの出来損ないが、何の用でちか」
「オイオイ、こういう場合はちゃんと『姉サン』って呼ぶべきなんだぜ? デュナミス様とかディーヴァのヤバイ姐サンからすら教わってねーのかよ」
「私はそっち側には行ったことがないでちが、違和感があるでち――――出来損ないの姉サンの、その身体には」
「ん? コレか。まーアレだ、『生え変わった』んじゃねーか?」
「冗談は今のその立ち位置だけにしておいて欲しいでち。その立ち位置にも文句はあるでちが」
末の妹……、妹って割に私と「お兄ちゃん」以上に似ていないけど、そんな72号相手に鼻で笑った。大体、私はロールアウト時期の関係で「40番以降」とはほぼ面識がないのだ。風の噂で50番台の連中が実験場の事故に際して脱走を試みて何人か消息知れずになったとか、71号にかんしては完全失敗作としてコールドスリープされているとか、色々聞いたりはしていたけど。
その点から言うとコイツは話に全然上がってきていないし、たぶん特に問題なく成功した例ってことで――――「お兄ちゃん」を除いた最終ナンバーってことは、コンセプト次第ではそれこそ一番完成度が高い奴なんだろう。
まあ、だからって消極的になることも卑屈になることもない。なんたって、私も私で以前の私とは全然違うんだから――――。
振り返って、背後で胸にまた刀刺されて封印でもされてそうな「お兄ちゃん」に笑いかけた。
「よー、大丈夫かよ? 『お兄ちゃん』」
「…………お兄ちゃん、だと?」
「へ? ――――あっ!」
そして、頭の中で考えてた呼び名がそのまま出てたことに、一瞬思考が真っ白になった。
いやその、お兄ちゃんって呼び方はなんかスラムに居た時にふと出て来はしたけど別に私は兄サンを兄サン以外の何かって思ってる訳じゃねーし、そもそも野乃香さんが「この子、刀太の後に生まれた子ぉやから妹ちゃんやねー」とか何もわかってなさそうだった小さい兄サン相手に言ってたのがなんとなく頭のどこかに引っ掛かってただけだしッ!
っていうか兄サンも兄サンで何、そんな私の「生身になった両脚」とかジロジロ見てんだよ。変態かッ! 確かに私の「母親を名乗る女ピエロみたいな不審者」に「テナちゃん(※本名)は私の血を引いているのですから、身体のラインは綺麗に出ると思いますよ」とか目が笑ってないニコニコ笑いで言われたから、なんとなくファッションもそういう感じにしたにはしたけど。それだって私、兄サンの妹なんだから、そういう街角で男が女に目移りするみたいなヘンな目向けられても、こう、ちょ、ちょっと照れるから止めろってのッ!
「いや、というかお前今出て来て大丈夫なのか? ちょっと前に思いっきり学園都市の方で――――」
「あ~~~~、とりあえず黙ってろってのッ! そんなに大変そーなら、少しくらいは手を貸してやるから。弱い者いじめみたいで、絵面が酷えし」
「介入理由が雑でち。…………そんなに簡単に絆されてて、いくら何でもチョロすぎではないでちか?」
「ほ、絆されてとかいねーしッ!」
誰がチョロいだ、誰がッ!
しかしこの妹、額の目はアーティファクトっていうより「金星の黒」を部分発動して、少し魔族っぽくなってる感じか? 私の今展開してる「
私もとりあえず仮契約カードを抜いて、笑っておく。こういうのはハッタリが大事らしいし、相手の練度次第ではこれでプレッシャーを感じて気圧される場合も――――。
「――――生憎そこまで経験がないわけでもないでち。
というより何でち? 私を相手取りながらそこの兄弟相手に『格好良いアピール』したくてしたくてたまらないでちか。どれだけメンタル不安定だったでち。いくらそこの兄弟に絆されたといえどそう簡単にそこまで『スキスキダイスキ♡』『アイシテル♡』みたいにはならないでちよ」
「なってねーよ! っていうかさっきからお前、うぜぇぞいい加減っ!」
べ、別にそんな意図は全然ねーけど! まぁ結果的に今の身体――――「生身を取り戻せた」のは兄サンのお陰って面が母(不審者)いわく大きいらしいから、そういう貸し借りをナシにしたいってのはあるけど。
両手に私みたいに何かしらの
「
「む……? ――ッ、の、脳みそ筋肉でちかその能力!!?」
軽く悲鳴を上げながら後退しようとする妹に向けて、右手に装填した魔力を、悪魔的なシルエットを纏った右腕の先から放つ。照射の時に拡散するよう手のひらを中途半端に開いて打ち出したので、妹も目を見開いて避けるに避けられない――――。
でも致命傷は避けようとしてか、唐突に武器のレプリカを大量展開して盾にしようとしていた。
以前ならそれこそ、私だってこの威力の出力は「体内」の「内部回路」の都合で無理がそう利かなかったけど。それでも今の、「再生した」内臓とか、筋肉とか、そういうのだったから。そこに「金星の黒」の魔力が回って、ちゃんと私に無理をさせてくれる。
……そう、母(不審者)に言わせれば、一度兄サンの手で私の「金星の黒」の扉を操作されたことが切っ掛け、らしい。
基本的に「扉」との適性はあるけど、魔術的に切除されたり移植されたりしない限り、私たち「英雄の子供達」は身体の内に「白」と「黒」双方へと繋がる扉を持っている。それは「改造中」によく研究者が話していたそれが、麻酔なんて全然効果なくって意識だけ残っていた私の耳に直に入ってきていたモノだけど。だからそれがどう出力されるか、無理やり戦場で傷ついた私たちみたいな連中を好き勝手いじくりまわして、テストして、それでどういう風にしたら何がどう出て良くなって悪くなってと言うのを
だから、それをしてなお「黒」の適性が低くてロクな再生ができなかった私なんかは、それを発露させるために無理に色々いじられて、何もかも滅茶苦茶になっていたとか。
それを、兄サンが無理やり一本通して、「金星の黒」を発現させるラインを作ってくれた――――それにとどまらず、たぶんそれを作る際に他の流れも結果的に修正されて、そして「白の方も」、改造が重なる末に使えなくなってしまっていたアレの方すら……。いや、この話は良い。
重要なのは、こう……、嫌でも私に兄サンへの借りができたってこと。
ほっぺにチューするくらいじゃ全然返しきれないレベルのやつ。まぁ私のチューにどれくらい価値があるのかって話だし、自意識過剰かッ! って話でもあるけど。
……ま、それ以前にあの母(不審者)に初遭遇早々に義腕義脚両方ともぶん盗られたことの方が色々衝撃だったのは、置いておくとして。
「……なるほど、失敗作だと馬鹿にしていたのは謝るでち。ちゃんと自助努力して這い上がろうとしていたでちね。そういうのは正しく評価するべきだと、私も思うでち。『姉サン』」
「なん、だ?」
「あー、まぁあれくらいじゃ倒れねーだろうって気はしてたけど」
ほぼゼロ距離からの照射を、だけどあの妹は受けきった。スカートとか上着とかもボロボロでチャックのついた紐パンみたいなのが見えて、でも全然そんなこと気にしてない。片方髪留めが壊れてアンバランスになった左右の状態だけど、収納アプリか何かから栄養ドリンクみたいなのを取り出して、ストローをさして飲み始めた。
と、兄サンが半眼になって言う。
「いやだから、お前さんそのドリンク色々まずいだろ色々……。何だよその『すっぽんエナ汁溶き卵セーキ』って、どう考えても味が……。というか身体に絶対悪いだろそれ……」
「兄弟もセンスがないでち。良いでちか? ――――これは飲み物じゃなく、呑み込むものでち。のどごしが最高なのでち」
「マジか……」
「私が言うのもアレだけど、栄養ドリンクに求めるモンでも無いだろ妹それ……」
思わず兄サンのテンポに呑まれて感想を言ってしまったけど、なんだろう、変なむず痒さがある。それが何なのかと我ながら疑問に思った瞬間「本当の兄妹みたいだとか思ってほっこりしてるでちか……」とか妹が言い出した。
べ、別にほっこりとかしてねーし。
というより明らかにさっきから、こっちが考えているようなことを正面から言ってくるので、心とかを読んでくるタイプの能力なのか? コイツの目。小声で「時の回廊」を仮契約カードから召還しながら、それを背後に隠しつつ誤魔化す様に会話をする。思考を読まれるのなら、それが届くよりも先に対応すれば良し。タイミングはアイツの気がそれた瞬間……。
「おい『でち公』。お前って何? そういう妖怪か何かなのか? コミマスの魔法少女のヤツにそーゆーのがライバルキャラで出て来てたけど」
「魔法少女ユウバエ、でちか? 確かに読心術系のキャラクターがいたでちが、あそこまでブラックでもむっつりでもないでち。
むしろむっつりは姉サンの方でち…………? で、でち公?」
「別に舌足らずッて訳でもねーのに、でちでち言いまくってたらそりゃそういう呼び名にもなるだろ、でち公」
「…………どうやら兄妹そろって、連れて行った方が良いかもしれないでち。その方がこう、私のストレス的には楽になりそうでち――――」
目を閉じて頭を左右に振った瞬間、「時の回廊」を発動させ、兄サンの胸に刺さってる剣を抜こうと―――――。
「――――させないでち」
「――――えっ?」
した瞬間、どこからか発砲音がしたと同時に魔法具が「石化した」。
効果切れ扱いになったのかカードに戻る魔法具だけど、発砲音には反応できない。とっさに右腕を盾のように胴体の前に構えたけど、それよりも兄サンの足が私のふくらはぎを払う方が先だった。
体勢が崩れて、疑問符と痛覚が走る――――のと同時に、目の前を掠める弾丸の軌跡。だけどその入射角から「見切った」。以前みたいに電脳のサポートが有るわけではないけど、その分戦場で培った戦闘勘はもう少し洗練されている。咄嗟にその掠めた方向へ目掛けて左手を構え、ハマノツルギ・レプリカを投げた。
ざくり、と何かを切断する音――――瓦礫の隙間、ハンドガンを持っていた「赤黒い手」が消滅する。このなんとなく漂った嫌な臭い。兄サンのそれとは少し毛色の違う匂いだけど、正体はこの胸に這いまわる気持ち悪さでわかる、「血の匂い」。
「おや、仕留めそこなったでち。……銃は今日あれで手持ち最後でちが」
「何、だ? そりゃ。兄サンの真似事か何かか。血装術だったっけ?」
身体を起こしながら兄サンの方に寄ろうと、した瞬間に私と兄サンの間に剣を投擲してくる妹。さっき何か「干渉してる」とか聞こえていたけど、この感じじゃ少し抜いたりするだけですぐ復活するやつなのだろう。ってことは、私が早い所兄サンのそれに触れてしまえば一番早いってことで……。
まあ、どちらにせよ私の後発なんだ。「魔法ベース」での武器の生成に違いはない。なら、やることは一つ。時間制限はあるけど、この状況なら必要な奴だろう。
きちんと生え直した左手からリストバンドを取り、軽く開いて空にかざし――――私はその名前を宣言した。
「――――
※ ※ ※
「だからチャ〇なんだよなぁ……」
知らないし見覚えもない妹と戦闘する知ってるし見覚えもあるけど知らない妹を前に、思わずつぶやいた私の一言である(震え声)。いや、あのサリー自体その背格好はともかく顔立ちに何か見覚えはあるからひょっとすると「原作」でどこかに出てきている奴なのかもしれないが、それ以上に原作での面影が消し飛んでしまった妹チャンことカトラスことテナ・ヴィタである。
確かに金星の黒を引き出しやすくする際、彼女の中の「流れ」の配置を多少はいじった。とはいえあくまで血装術による操作がメインであったから、それがどうしたという話だろうと思ってはいた。ひょっとすると後半、つまりはそれこそラスボス戦くらいの頃には生身の手足くらいは取り戻しているかもしれないと思いはしたが、いやいくら何でも早すぎだろうと。だってこう、さっきからチラチラとギリギリ見えないラインを躱しているそのミニスカートから伸びている褐色の綺麗な脚とか、外見的に私とそう年齢に差は無いだろうに謎の求心力があり視線が吸い寄せられる(適当)。その片足もそうだし、おへそがチラ見えする黒いタンクトップが引っ掛かってる綺麗な両腕。
かつてはどちらも片方ずつ欠損していたそれらが、物の見事に「生え変わって」おり、おまけにその動きに一切の不具合が見られない――――つまりリハビリやら何やらに相当する運動機能の再訓練も終了しているとみえる。
そんな彼女が
「――――
そう言った瞬間、生え代わった方の左手が「白く輝き」、赤い紋様というか魔法陣のパーツを分解したみたいな痣が浮かび上がったり……。だからそこまで両手装備とかやっちゃったら本当にお前
その変化した左手……、アザー・メタトロニオス? とかいったか。右の方は金星だったらルシファーとして、火星の白に応じて天使にあてはめるとカマエルとかその辺りなんだろうけど、あえてルシファーの対極を狙ってきた感じでこのあたりはカトラス本人の
なおそれを見て、でち公呼ばわりされてちょっとキレたらしいサリーが、わざわざ解けた側の髪を止め直してジト目で睨む。……ってお前さんはそれ以上にボロボロになったスカートのパンツ隠せパンツ(直球)。いつぞやの幼少期ココネ並みに羞恥心をどこかに置いてきたような振る舞いである。もっともその羞恥心に価値観を置いていない振る舞いになんとなく、雰囲気的に
「それは……、自信満々さとさっきの脳みそ筋肉みたいな『気分』からして、ハッタリではないでちね」
言いながらタケミカヅチ・レプリカと叫び再度数本生成し、そのまま投擲……、というより背後から射出。猛烈な勢いで飛んで来るそれを、瞬間、作り直したハマノツルギ・レプリカを持った左腕で適当に払い。
サリーにより造り出された複数の剣は、カトラスの剣に触れた瞬間、熱したバターのように「融けた」。
「――――ッ! なるほど、さては『火星の白』の方が適性が高いでちね」
ならば、と言いサリーは手をかざす。と、どこからか中程で折れた刀が放り投げられ……、ってそれ黒棒じゃねーか! さっき取り落とされたやつ! おそらくこの場に協力者がいる訳ではないだろうから、先ほどの銃撃のように「血装術」か何かを駆使して持ってきたのだろうが、それを手に取りサリーは瞬動で距離を詰めて来る。と、それにニヤリと笑ってカトラスはハマノツルギを右腕に掴み――――。
「でちッ!?」
「悪いけど、近接なら剣術より
それこそまるで映画かゲームかのように、サリーのその振り下ろしを軽く受け流した。その後、近寄ったことでむしろ「融かされた」のを見たときよりも焦った表情のサリー。距離を空けようと剣を振り回すが、それすら躱し腕を極め、時に投げてそれを許さないカトラス。
ひょっとすると、これはいわば「廉価版」の「火星の白」のそれ、魔法無効化能力の発現なのではなかろうか。「ネギま!」および「UQ HOLDER!」において、希少能力とされる「ありとあらゆる魔法発動の無効化」系統の能力。もっとも多少の制限が本来はあるようだが、カトラスのそれは微妙に違うように見える。後で教えて……はくれないかもしれないが、「今後の参考」としてちょっと興味があった。
それはともかく。少なくともさっきの戦闘を思い返し、今のサリーの動きを見るに。彼女の方は「専門の訓練」のようなものを受けた形跡もない。あくまで我流であり、どちらかといえばその「第三の目」の能力ありき、のような戦い方なのだろう。だからこそ私からすれば、動きは読まれるくせに中途半端に「素人くさく」、お陰でやり辛さがあった訳だが。逆にカトラスとの闘いでは、その「第三の目」の力がおそらく封じられている。とにかくカトラスから離れようとしているサリーの動きを見るに、有効射程のようなものがあるのかもしれない。
遠距離にも対応できる右、近距離が本来は専門の左……、うーんやはり
そんな間の抜けたことを考えていたせいだろうか、あるいはそれが
「――――っ、お、お前!?」
『……ふふ、確か『こうすれば』良いでちね。兄弟。映像記録はちゃんと見ているでち』
血装術で構成された「血で出来た」サリーは、ニヤリと笑みを浮かべて私の胸に刺さった剣を握り――――そこから「血」を通して、胸を消し飛ばし「風穴を開けた」。
活報の[光風超:感想1000件(大体)突破記念募集] の方もまだまだ内容募集中ですナ!
期限そろそろですので、ご注意くださいっ!