ST138.Open! Sesame!
とりあえず話は分かったけれど、とカトラスの言うも聞くも悲しい金欠について頭を振ると、突然目を「かっ!」と見開いて、そして物凄く嫌そうな表情になったキリヱである。この挙動からして、なんとなく前後の表情の感じの違いから、おそらくはまた「周回してきた」のだろう。さてこれは何回目のキリヱ大明神であらせられるのやら……。
キリヱもキリヱで私の表情を見て、こちらが察したのを「察し返した」のだろう。眼鏡を持ち上げて眉間のあたりをつまんで「む~~~~~っ」と一度唸ると、手を叩いた。
「まー判った。とりあえず信用しても良さそうね。ただ条件として、仮契約のカード持ってるでしょ? たぶん。それだけは出しなさい」
「へ? あ、嗚呼。……石になってるけど」
言いながらカトラスは、サリーの銃撃により石化している仮契約カードを取り出す。絵柄やら何やら原作登場時のもので、つまりは魔法具やらも今までの挙動から考えておそらく原作通りに時間操作系
でもそれはそうと、妹チャンも妹チャンである。お前さんも本当、普通に手渡すなそれ。どう考えても
「あっ、そうそう。あとアンタ、妹チャン。ちょっと覚悟はしておきなさいよ?」
「か、覚悟?」
「そうそう。……………………私は全然知らないけど、こう、カワイイ感じになってるんでしょ? 前にこのちゅーにと会った時よりも。何がとは言わないけど、だから色々気を付けなさいよ? ……私もなんだけど」
「いや、だから何事だよアンタ!? ちょ、『お兄ちゃん』この人何なんだッ!」
困惑のあまり呼び方がだいぶアレな感じになってしまっているが、目ざとくそれに「ふぅん」とにらみを利かせるキリヱは置いておいて。どう説明したものか迷っていると、大明神本人が隣のカトラスに向けて、女の子座りをしながら手を差し伸べた。
「桜雨キリヱ。予知能力者よ。精度はマチマチだけど、当たる時はほぼ百パーセントで当たるからヨロシク」
「うぇ、よ、予知……。
あー、私は、…………とりあえずカトラス。カトラス・レイニーデイ」
「「レイニーデイ…………?」」
と、その彼女の名乗りには思わず私とキリヱも顔を見合わせる。「レイニーデイってアレよね、あのピエロなんだか手品師なんだかって感じの人」とキリヱ大明神が言う通り、その名前は聞き覚えしかない。前回のテロ事件もといダイダラボッチ事件、その終盤に出て来て究極的な局面をひっくり返す一手を打ち込んで来た、我らがネギぼーず教え子の一人ことザジ・レイニーデイである。
その名前が、というよりファミリーネームがこの場で出て来るというのは一体何がどういうことだっていう……、いや待て? 考えてみれば髪の色はともかく、その肌の色に目のオレンジ具合というか。色味で言えば龍宮隊長も思わせる部分はあるが、しかし両者の「存在の差」、魔族と半魔族というのを考えてみると、その性質はベースがどちらにあるかというよりどちらに寄るかと言う部分に左右される、可能性もあるかもしれないという前提にたってみた場合…………。
「ザジって、知ってんのか? 兄サンたち」
「………………えっと、つまり、お前の祖母ちゃんってことか?」
「いや、まー、…………本人はお母さん自称してたけど」
そんな話を聞かされても私は一体どうしたら良いのかと言うか、そもそもそれが原作からどれくらい乖離した話なのかすらわからないので「脚本の人そこまで考えてないと思うよ」とでも思っといて良いのでしょうかこの状況(血涙)。
いやしかし、とすると学園祭編のあたりで予想していたことを踏まえて、ほぼほぼ確実にカトラスを拉致したのはザジでありなおかつ前回の学園編終盤で「時の回廊」を使用したのもそれを引きずってということになるが、だとすると現在「脱走」しているだろうことをみても少なからずスラム編から一月経っていない時点においてザジの手元に居たことになる訳で…………。
そしておそらくだが、あのザジしゃんがカトラスを無一文でどうにかする訳もないと考えれば、自ずと答えは導き出せる部分もあった。
「って、いや、学園で手助けしてくれた時期からして、お前一体いつごろ拉致されたんだよザジさんに。というかザジさんの所からも絶対脱走してるだろ今のお前…………」
「う、うるさいッ!」
ぽかり、と。あえて力なく私の肩を殴ってくるカトラスに、引きつった笑いをする他ない私だった。
※ ※ ※
とりあえず言い訳は私が考えておいてあげるから、と一度街の繁華街裏路地のあたりでキリヱ大明神と別れる。例によってカトラスに隠しながらだが情報を共有してもらったところによると、このままホルダーの側にカトラスを保護してもらうのは問題があるらしい。言っていたことを色々と要約してやると、つまりはこうなる。
『今の時点で雪姫にバレるの絶対まずいし、夏凜ちゃんにだって会わせてもロクでもないことになるから! ぜーっったい、絶対だから! フリじゃないからそのまま絶対連れてこようとしないでヨ!』
妙に鬼気迫るその顔に思わず困惑しながら逆らう気も起きなかった訳だが、雪姫ことエヴァちゃん相手に言うとそのあたりは原作の流れを踏まえてある程度推測が付く部分が大きいため、私も否とは言わない。夏凜の方についてだが、今の夏凜は…………、いやホラ、カトラスの情操教育に悪いし(目逸らし)。
というかそもそもの話として、私やキリヱと仲良くしている時点で充分にガバそのものなので、原作にも登場している連中とこの時点でこれ以上絡ませて良いことなど有るはずはない。そういう事案は私、詳しいのである。(???「全く活用できちゃいないだろう、その詳しさってやつを」)
周回してきたらしいキリヱいわく、雪自体は魔力が抜けた状態だとそう長くはもたないらしいので、それを放置して私たちはアマノミハシラ市に戻ってきた訳なのだが。さてそう考えると、カトラスの処遇というか、扱いについてである。
「どうしたもんかねぇ……。俺、妹チャン養えるような甲斐性とか今の所ねーし。どこかでホテル借りる訳にもいかねーだろうなぁ。…………というか下手すると従業員、死んじまうだろーし」
「か、甲斐性……っていうか、そういう言い方なんか止めろよ、ヘンな感じになる」
「ヘンな感じって何だよ。別にフツーの話だろ? こう、『お兄ちゃん』的な話としては」
「だからそーゆーのも止めろっ。というか無理に妹扱いすんなっ」
そう言って少し拗ねたように顔をそむけるカトラス。揃って夜中だというのにネオンが灯っている街中を歩いている私たちだが、恰好自体がそこそこ珍妙(主に私)なこともあり結構目立ってはいた。とはいえ絡まれることは無い。例の「組」の地下室からいくつか持ってきていた年齢詐称薬を使用しているため、見た目については大人となっているからだ。少なからず補導の心配はなく、また「私」の経験値からしても、この状態で声をかけて来る輩はそう居ないのだ。
なお私は借りたままにしている眼帯だけ追加で装備しているが、カトラスの方は色々と問題がある。主に私個人に限って。
その見た目を一言で言えば、収納アプリから取り出したマントというかローブこそ着用しているが、容姿やらスタイルやらが基本的に大河内さんだった。目つきが鋭いのでどっちかというと素子はんの方かもしれないが、シルエットだけで言えば十分、大河内アキラのそれだった。
なまじ星月が変貌したアキラちゃんを見ているせいもあって、変化したカトラスの容姿がだいぶそっちに寄っていることに気付いてしまった。気付かされてしまった。というか身長かなり伸びてるし胸かなり大きいなお前さん!?
てっきり原作描写からして、髪型やら戦闘技術、あと肌や目の色の具合から、
…………と言っても、だから絶対そこまで原作では細かく遺伝子ベースとか設定されてないって(震え声)。
そして、そんな私のちょっとヨコシマな視線を受けて、大人(というか十代後半くらい?)なカトラスは頬を赤らめて、ローブで色々ギリギリな丈になっているお腹やら胸元やらを隠す。……いやどっちかというと脚も隠せ脚も(無茶)。
「な、何だよ。ヘンタイッ」
「いや、あー、変態と名指しされるレベルの変態さんでは
「妹相手にそーゆーアレな目を向けて来る時点で充分アウトだってーの」
「兄貴相手にそーゆーアレな目を向けて来る妹レベルのそれじゃないのは間違い無ぇから(白目)」
勇魚の時折発動する妙なリアクションを思い出しながら遠い目をしている私に「何の話?」とこちらを見て来るカトラス。世界は今日も平和、とは言い難いが今の所大きなトラブルは回避できているようで何よりであった(現実逃避)。
「というか、今、兄サンってどこに向かってるんだ? 拠点以外に心当たりがあるとか言ってたけど」
「心当たりっつーか…………。多少は事情を知っていて、ドンパチやっても問題なさそーな所っていうか」
携帯端末を時折懐から出して、地図を確認する私である。件の場所、ホームページ自体はかなり古いものであり、かつここ十数年は更新すらされていない。一応は全世界マップの座標そのものに登録だけはされており、なおかつ「24時間営業」とか施設そのもののあれこれを考えると絶対誰か悪意を持って弄っただろうと思わされる営業時間の時間表示になっていたりするが。
新東京湾(かつての東京とか神奈川とか関東大半が沈んでいる地域)が見えるという立地条件自体はさほどスラムと変わりないかもしれないが、私たちが今向かっている先もそういう地域にほど近い。というより、何かあってもグレーゾーンの地域の方が問題なく処理できるとでも考えたのだろうという節はある。
つまり現在、繁華街の裏側からスラム方面、その中間のグレーゾーンとでもいう微妙な地域に出向き、そこに並ぶ古い住宅街を進んでいる私たちである。鬼が出るか蛇が出るか――この時点で既に住人は、それこそ堅気の連中からヤクザやら後ろ暗いところのある連中を含めて玉石混合と化している。より内陸の方に寄ってはいるが、だからといって全く無警戒でいられるような場所ではないので、「日中ではない」今はまだ年齢詐称は解かない。
そしてしばらく歩いた先、武家屋敷風の門構えがやや寂れている、そんな建物の門の前にたどり着いた。
――――古武道・古呪術・宇宙忍術――――
――――あさつき館 天之御柱道場――――
「門は、閉まってるか。……流石に閉まってるよな。まー今、普通に夜中だし。そこまでブラック運営はしてねーだろうしな。ネットでコレ、絶対ネタにされてるのって道場主の教え方が気に入らないとか、そういうアレで弄られてるだろ」
「……って、いや、ゴメン本当に全然わかんねぇ。何、目的でここまで来たんだ?」
困惑しているカトラスには悪いが、アテが外れただけなのであまり胸を張ってどうこう言ってやることができない。そもそも「道場の名前」を聞いた上で検索をかけて来ただけなので、タイミングが合わないことについては初めからある程度は諦めていたのもある。ただそんな道場周辺を歩き回り、次点の目標を探す。おそらく「彼」の性格から言って、職場とそう遠い所に住居は構えてはいないだろうし――――。
見つけた。思わずガッツポーズをとり、その民家まで足早に進む。カトラスもカトラスで不思議そうに続いてくるが、私と違いその家の表札を見ても、いまいち思い至らないらしい。というより、流石に「話されていない」のだろうか…………?
とりあえずインターホンを押す。
ぴんぽーん。
「……………………まぁ、深夜だから寝てるよな。当たり前っつーか」
「いや、何フツーなこと言ってんだよ兄サ――――っていきなり何やりだしてんだよお兄ちゃんッ!?」
ぴんぽ、ぴんぽ、ぴんぽ、ぴんぽ、ぴんぽ、ぴんぽ、ぴんぽ――――。
唐突に連打しはじめた私を前に「いや止めろよ!」と本当に普通に表社会で生活している人間みたいなことを言い出すカトラスだが(風評被害)、確かに良い子は絶対真似しちゃいけない類のそれなので(断定)、私も顔が引きつりながら、しかし止めることはできない。実は意外と、というかかなり重要な話なのだ。具体的に言うと今晩どうなるかという話のそれなので、社会性やらマナーやらは一度投げ捨てて後で頭を盛大に下げるのは確定である。
まあ本来はやらないべきであるし、普通はやらない。
その「相手」が相手でなければだ――――。
と、連続五十回を超えてリズミニカルに千パーセント輝きそうなテンポを奏でだしたあたりで扉の向こうから「流石に煩いわっ! ええ加減にせいッ!」と
年齢詐称を「血風」を使って強制解除し、ドタドタと走ってくる相手のそれを待っていると。どうも扉の前に立つシルエットが、こう、肩で息をしながら左手で胃のあたりを押さえているような――――――――。
そして眼前。引戸が左側にがらがらと開かれ。
現れた釘宮大伍、その想定外な作務衣姿に思わず目を見開いた。
もっとも予想外は釘宮の方もそうだったらしく、眼鏡越しに随分とびっくりした表情だ。ニット帽のかわりに三角巾をつけていても印象そのものは普段とそう変わりないが、それはそうとして予想外のタイミングでの遭遇である。ただ「彼が居ても」不思議ではない場所ではあるというか、むしろ本当に「そういうこと」なのだなというある種の感動があった。
そして、むしろ説得材料が増えるかもしれない。
思わず安心感からニヤァ……と若干
「させるかッ!」
「そっちこそッ!」
私も私で血装術を使用し、扉の向かう先にあるロック穴と面一帯を血で覆い、かつ床を這わせてドアストッパーのように立てた上で、そこに手を突っ込んで強引に開けようとする。釘宮はそれをさせまいと、あちらも狗神を腕にまとって全力で扉を閉めようとしていた。
がたがた震える扉越し、お互いがお互いに顔を見せ合いながら、楽しく(?)おしゃべりの時間である。
「くーぎみーやくーんっ♪ ……っ、あーそびーっ、ましょー♪(白目)」
「せめてその表情は、止めてくれないかなッ。完全にホラー映画のゾンビだよ、君、……ッ!」
まぁ吸血鬼なのでホラー映画のモンスターには違いないだろうが、それはそうとお互い力が入っているので、一息で言葉が言い終わらなかった。とはいえそれでも特に抵抗を止めない当たり、こちらが面倒事を持ってきているのを察しているようだ。かしこい!(賢い)
「というか……ッ、こんなどう考えても有りえない時間帯に……ッ、イタズラまがいのことをしながら訪問する知り合いとか……ッ、生憎そんな相手なんて知らないよ……ッ。とっとと失せておくんだ……ッ」
「そんなっ、連れねーこと言うなよー、くっぎみー、……っ! ついでに言うと今晩……っ、泊めてくれないかなーって(ニヤァ)」
「嗚呼、どう考えても厄介事だな……ッ。悪いけどそういうのは事前にッ、アポイントメントをとってから来て欲しいところだッ。そもそも泊める程、そんなに仲良くはなっていないだろう、君も俺も……ッ。
というより何でこんなタイミングなんだ君はッ! こっちもこっちで『親の実家』に用が出来て、帰省せざるを得ないようなこんなタイミングで……ッ、く、お、押し負けてなるものかッ!」
「うおおおおおおおおおお――――っ!」
「はああああああああああ――――ッ!」
彼の言動からして普段はこちらにいない(というか一応は寮住まいだったはずである)とすると、このタイミングでの釘宮との遭遇というのは、ひょっとするとキリヱ大明神の加護か何か?(祈祷力)
「な、何、友達かよお兄ちゃん……、友達相手だとあんなテンションになるのかよお兄ちゃん、えぇ……(引)」
そんなことを考えながらニヤニヤと説得する私と、それから全力で逃げようとしている釘宮。そんな私たちを見て困惑しながら、カトラスは改めてこの家の門の表札――――「犬上」の二文字を見て、やはり何もわかってなさそうな顔をしていた。