光る風を超えて   作:黒兎可

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しばらく九郎丸のターン・・・のはず。


ST14.心、目覚めたばかり

ST14.Heavy Love , Immediately After Waking Up

 

 

 

 

 

 気が付くと目の前に九郎丸の顔があった。

 

「――――――――?」 

 

 判然としない意識のまま。目の前に目を閉じた九郎丸の顔だ。わずかに唇が開かれ、頬が上気している。中性的というよりはやはり表情の作り方が女性的で、夏凜ともまた違った雰囲気である。視界をよく見ればどうやら私の額と顎にそれぞれ両手をあてて、気道を確保しているらしい……、とここまで見て気づいた。どうやら人工呼吸しようとしているらしい。

 思わず右手で九郎丸の額を軽く突くと、はっとした風に目を開く。大きく開いた九郎丸の目には私の顔。距離はちょっと手違いがあればキスしかねない程に近い。

 

「わ、わあああああああ!? と、刀太くん! お、起きたんだね、良かった……」

 

 上体を起こすと違和感。見れば左腕がない。和服の袖なのでひらひらして気づかないが、肘から下が物理的に存在しなかった。周囲を見回すと想定通りに真っ暗で広大な空間。わずかにある岸以外の足元は水浸しだが、うっすら光ってるのか視界はゼロではない。なんとも不気味だ。

 と、そんなことを考えた瞬間に下っ腹に横一直線、まるで太刀でぶった切られたような激痛が走った。飛び跳ねて転がる私に駆け寄る九郎丸。大丈夫と言ったものの、少し吐いた。何か色々異物として液体でも大量に入っていたのか…?

 

「ごめんね、刀太君。上半身だけは取り戻せたんだけど…………」

「…………あ、あー、悪ぃけど、状況が分かんねーわ」

「? 覚えてないのかい? 僕らは……」

 

 九郎丸の説明を聞き、なんとなく思い出した。地下空間に落とされて早々、お互いの無事を確認した私たちだったが、妖魔の類なのかガ〇ラ(亀の怪獣)の甲羅なんだか鮫なんだかワニなんだかみたいなシルエットが横切った。当然のように警戒して収納アプリから刀を取り出した九郎丸だった。

 そしてこれが原因で、私たちはあの怪獣のようなバケモノに延々と追われ続けることになったのだ。

 

 つまり端的に言えば、黒棒のことばっかり意識してたものだから地下に落ちてからの話をすっかり忘れていたのが原因だった。

 

『ご、ごめん刀太君、なんか仲間呼んじゃってるよアイツら――――!』

『いや仲間呼ぶのは想定外なのはわかるからな! ええっと、あー、仮称!「飛蹴板(スレッチ・プレッチ)」!』

 

 飛廉脚(オサレ)もどきの名前を適当に付け、私は九郎丸を咄嗟にお姫様抱っこで持ち上げる。きゃっ、とか悲鳴が聞こえた気がするのは全力で聞かなかったことにし、そのまま上空へ逃げた。

 流石に空中までは追ってこれないだろうと判断していたのだが、考えたら奴ら腕は持ってるし知能もそこそこ高い。私も冷静に原作を思い出す余裕がなかったせいもあって、つまり「投擲してくる」くらいの知能があるだろうという判断をすることが出来なかった。

 結果何が起こったかというと、奴らの仲間のうち小さいものを、私たちめがけて何体か放り投げてきたのだ。小さいとは言ってもそのサイズは推して知るべし、ざっと10メートル以上かつ数トンはあると思う。

 

「……で、直撃受けたところまでは記憶にあるんだけど、そっから先頼むわ」

「わかった。その後、刀太君は血風を左手でやろうとしたんだけど……」

 

 地面に叩き落とされた私たち。九郎丸も離れ孤立した状態で、私は折れた右手を庇いながら左手で血風の構えをとったらしい。が投擲のモーションをする瞬間、背後から上半身ごとガブリと食われたそうだ。

 

「刀太君の足がばったり倒れて、でも全然再生しなくって……。もしかしたらそういう、不死殺しみたいな術が施されたバケモノなのかと思って、心配で心配で……。

 血風が中で爆発したのか、刀太君を食ったバケモノの腹が内側から斬れたのはわかったから、そいつを滅多切りにして、中から引っ張り出したんだ」

「で、左腕がないのは……」

「引きずり出した後、ここまで逃げてくる途中で……、ごめん、僕が軽率だったばっかりに」

「あー、いやだから流石に予想外すぎるだろ。ほら泣くなって。男だろ?」

「で、でも……」

 

 自らのふがいなさというか、仲間の私を不注意で殺しかけたのがよほど堪えたのか涙ぐむ九郎丸。……えーっと、確かここの怪物共は、アレだ、食った相手の身体を溶かし魔力に変換する性質を持っていたはずだ。つまり「魔力を使用して」「肉体のパーツを」「再結合させて」復活する私など、良いエサでしかない。そこまでの情報は知らないまでも、けっこう危険な状態だったのは理解してたのだろう。原作でもそんな状況だったら、流石に泣くか。

 確か取り込まれたら30年はそのまま胃袋の中とか言ってたような……、と。それを言っていた相手に遭遇しなかったと思い周囲を見渡す。

 釣り人らしい姿は見えない。……つまりはいつものアレである。原作がビリヤードみたいに玉突きした結果、ここに居るはずの宍戸(ししど) 甚兵衛(じんべえ)が別な場所に移動したのか。

 

「刀太君、どうしたの?」

「へ? えっと、カアちゃん……、いや、アレだなマザコンみたいだって言う奴出るか。

 えーっと、雪姫が試験の詳細とか、全然説明しないで突き落としたろ? 俺たち。ってことは、誰かここに案内する奴がいるか、そういう情報がある拠点の施設みたいなのがあるんじゃねーかと思ってさ」

「それは……、そうかもしれないね」

 

 うんうんと頷き周囲を見渡す九郎丸には悪いのだが、そんなことないのは私が一番知っていた。一応それに該当する人物はいるのだが、雪姫本人は彼をこの場に落としたことをすっかり忘れているのだった。つまり私たちをこの場にほぼ何の説明もなく落としたのが、雪姫のガバでしかないということであって…………、い、いや、でも黒棒が封印? されている施設の方は実際に残っている訳で、原作だと確認してなかったけどあそこに情報がある可能性はまだある……。

 大丈夫、私のガバガバ人生が雪姫に感染したわけじゃないだろ? 大丈夫。もしそんなことになったら今後のストーリー展開で私が一体何度死ぬことになるやら…………。

 

「大丈夫、刀太君? なんかすごい顔色してるけど」

「い、いや、大丈夫。腹、痛ぇのも治ってきたし……。とりあえず何か探すか。確か『出ろ』って言われてたわけだし、何かあんだろ」

「そうだね。ここは広大なようだけれど、僕らは不死者だ。数日で探索を終えるくらいはできるはずだ」

 

 まぁ本題は探索し終えてからになるのだが、流石にそれは言えまい……、とととっ。少しよろけながら、九郎丸の手を借りて立ち上がった。悪い悪いと謝罪をすると、問題ないよとばかりにサムズアップしてきたので返す。

 ……その後、私を引き上げた手を一瞬見つめて、少し嬉しそうに微笑んだ顔は見なかったことにして。九郎丸が手元で点灯させた火を頼りに、水辺に降りたり、時に人工物の橋やら何やらを渡ったりして索敵していく。

 しかし、歩いても歩いても何も見当たらない……。方角としては都の方なのは、九郎丸がコンパス系のアプリを持っているので何とかわかるのだが。しかしそれにしても……。

 

「心もとねーなぁ……」

「そうだね、雪姫さん……、いや、雪姫様がいないから」

 

 どうやら九郎丸も考えていることは似てるらしい。なんだかんだ夏凜のもとまで超! エキサイティンッ! されるまでの間、私と九郎丸はずっと雪姫の保護下にあったのだ。その間修行をつけながらも、迷いなき足取りで歩いていた姿は、異様な頼もしさがあった。……たとえ実態が十歳程度の少女に先導されている絵面なのだとしても、我々は未だ子供というかひよっこなのである(不死者的意味合いで)。

 絶対的な人生経験が足りない以上、判断一つ一つで命取りもあり得るのだ。

 

「そういえば再合流前、夏凜さんと一緒に旅してたんだよね。どうだったんだい?」

「あー、夏凜ちゃんさんがUQホルダーだとか、そういう話も全然聞いてなかったからなぁ。というかお互いがお互いに気を遣って、正体バレないよう振舞ってた感じか?

 あと借金」

「借金?」

「初遭遇時、服も私物も全部消し飛んで全裸無一文だったし。そっから宿屋とかこの服とか買ってもらったりしてっから……。いやマジで頭上がらねーわ。本人は『あげたのです、気にしなくて良いですからね?』って言ってるけど。スルーするには格好つかねーし」

「あはは……、でも、無事で何よりだったよ」

 

 そう言って微笑む九郎丸。…… 一瞬話してる時に目のハイライトが消えていたような気がしたが、きっと気のせいだろう。同居生活でもトラブルらしいトラブルは起こさなかったし、その後も良い修行仲間というか、そのくらいの距離感は保ってきたつもりだ。

 

 別に問題はない。 (???『殺した責任とかで思い悩んでいた乙女相手に普段通りに気遣っていたら内心で何が起こるか、わからないものかねぇコイツは』)

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

 その後、ぽつぽつと会話をしながら移動した。時に他のバケモノっぽいのに見つかって、飛蹴板を用いて高速移動して振り切ったり、二人そろって息をひそめてやり過ごしたりを繰り返してだ。一つ思ったのは、やはり私はこういうのに向いていないらしい。内心ビクビクしながら脈拍が上がると、シャツの胸元から血が滲んできていた。おそらく回復力を上回るレベルでバクバクと鼓動したせいなのだろうが、九郎丸の表情が曇って元気づけるのに忙しくて仕方ない。

 実際、これのお陰で戦う手段を得たようなものなので感謝しかないのだが、ある程度、原作主人公のように明るく伝えても、返される笑みに力がないのだ。

 どうしたものか、いっそ雪姫に相談するべきか…………。

 

「そういえば刀太君って、気は全然使わないけど何でだい? 血風とか、あと一昨日使ってたやつ。僕と夏凜さんの戦うのを止めた時の大きい斬撃みたいなのとか。気を乗せたらもっと楽に放てるだろうし。

 見た感じ基礎は出来てると思うから、ちょっと疑問に思ったんだけど……」

「んん? えっと、別にそういうの直接教わったって訳でもないからなぁ……。って待て、楽に放てる?」

「うん。前にも触りだけ話したから、もうちょっと詳しく言うね。

 気って言うのは東洋魔術の概念にあるもので、例えば僕が今使ってるこの火とかもその系列なんだ。内容的には生命エネルギーを魔力に転化させて使用する術。えっと、術とは言わないまでも、体術とかの補助に使ったりもするかな」

「んんん? 聞いた感じなんとなくだけど、それって普通の魔力……、西洋魔術の魔力とかと打ち消し合ったりしねー?」

「察しが良いね。だから本来は、もし併用するならそれなりの技術が必要なんだ……けど。

 僕が見た感じ、刀太君もなんとなくのレベルでそれが出来てるように思う」

「あー、そうか?」

 

 確かに咸卦法自体が使えるかどうかと言えば、私の血筋にそれを使っていた人間がいるのは確実だと原作でも言及されてるので、使用できるのだろうが。

 ……いや、考えたらそもそも血風を投げつけるのって単に私の腕力でやっていたな。最終的な物理的原理としてはウォーターカッターのような理屈で切断効果があるのだと思っているが、なるほど。確かにマッハの速度で回転させてぶん投げるのは、私の体躯だと筋肉のリミッターが外れていても、補助がなければ難しいか。

 

 とはいえ自覚的にやっているレベルではないので、私は「ネギま!(前作)」ヒロインであるところのアスナさんが如くには行けないのだろうが。

 

「というか……、疲れねー? たぶん1時間くらい全然景色の感じ変わらねーし」

「3時間だね。話題も尽きてきたし」

「まるで子供が死んだ後に送られるという賽の河原……」

「ちょっと! 怖い話止めてよ! 大丈夫、僕らまだ生きてるから!」

「まーそうだな。腹も減ってくるくらいだし。……何か食い物持ってる?」

「一応、カロリーバーがあるけど……」

 

 瞬間、脳裏を過る夏凜が差し出した、食べかけのカロリーバー。……どうにも私の脳も疲れているらしい、あの時は軽く流してしまったが、ひょっとして間接キスなのでは? とかどうでも良いことを考えてしまった。

 頭を左右に振り、バー 一つを半分ずつ分けてもらい食べる。プレーンシュガー派か……、良い趣味をしている。

 

 

 

「……おー、食い物の臭いがするな」

 

 

 

 どこからか声がし、九郎丸が口にカロリーバーを咥えたまま刀を抜こうと警戒する。「こっちだこっち」と下の方から声がして、私たちは崖の下に視線を送った。

 小さい木製ボートのようなものに、赤茶けた髪の男が寝っ転がっている。無精ひげ、へらっとした表情、ボロボロの旅装束のような恰好は時代の違う風来坊のような見た目だったが、そのマントというかローブの下にはコンビニ店員の制服が着こまれていてイマイチ締まらなかった。

 

「君たちアレか? ウチの新人? わざわざこんな所に送られたってことは入団テストだなー。ご苦労サンっ」

「あー、(アン)ちゃん誰ッスか?」

「お? はは、オッチャンを兄ちゃん呼ばわりたぁ嬉しいこと言ってくれるじゃねーの。

 俺は、宍戸 甚兵衛っていう者だ。預かりだがUQホルダーのリーダーやってる」

 

 その言葉に驚く九郎丸と、そういえば原作でそんなこと言ってたなぁと回想する私であった。結局リーダーらしい活動をした甚兵衛をほとんど見たことはなかったのだが、今、預かりと言っていたな。

 つまり雪姫が一線を退いていた間に、代理でリーダーをしていたということか。そうでなくともココでの歴は夏凜より長いのは間違いないので(下手するとネギぼーずと面識があるレベル)、リーダーでなくともサブリーダー的なことはしているのだろうが。日常編でも仕事の振り分けを相談している場面があったような、なかったような……。

 

「そりゃ良いんだけど何か食いモンない? 地上の食い物」

「「地上の?」」

「ここに落とされて二年くらいまともなモン食ってなくてさー。お腹が空いて頭があんまり回らねーって感じだ」

 

 二年もいるんですか! と私に代わり叫んでくれる九郎丸が有難い。こう、本当は原作主人公なら素直にリアクションをとれるのだが、いかんせん色々知ってしまってるので表情を取り繕うので限界だ。

 なお経緯については原作と大差なく、秘蔵の沖縄酒と通販で買ったらしい高級地鶏の焼き鳥串を全て平らげたのが逆鱗に触れたらしい。時期から見て私と会う直前、つまりここを一時去る直前だったのだろう、おそらく大分奮発してたろうことは想像に難くない。

 まぁ確か冗談のようなノリで落としはしたがすっかり忘れていたのが原因っぽいから、怒り自体はそこまで長く持続はしなかったようだが。

 

「ど、どうしよう刀太君。あんな体勢でも隙が全然ないくせに、私生活は隙だらけのオッサンだよ……!」

「というか二年もここに落ちてたんじゃリーダー全然仕事してないんじゃね?」

「おー? オイオイそれを言っちゃぁオシマイよ。大体俺だって好き好んでいる訳じゃないんだぞ? 食い物だってまともなのが無ぇし。

 なんか目のない深海魚の親戚みたいな奴とか、巨大な目玉持ってるナマコみたいなヤツとか、あとデケー蜘蛛だな。毛を処理したら意外と食えたけど、まぁちょっと匂いがなぁ」

「「そういう食レポは」」「結構です!」「いらねーって!」

「固いコト言うなって、オッチャンも仲間に入れてくれよー。タンパク質くらいなら奢るぜ? タンパク質ぐらいなら」

「今の前後の発言で、全くそそられるものがないんですけど!」

「タンパク質しか言わねーの実質自白じゃねーか、材料のグロさ……」

 

 そんなことを話ていると、瞬間移動のように私たちの背後に甚兵衛が突如現れた。気配もなく一瞬で場所を「イレカエ」られたことに驚く九郎丸だったが、ポケットからすっと残りのカロリーバーの箱を取られた。

 

「プレーンシュガーか。オッチャンもうちょっと風味が強い奴の方が好きなんだよなぁ、メープルとか。まあこの際、色々贅沢言う話じゃないか」

「い、いつの間に……!」

「ま、コレの代金って訳じゃねーけど。付いて来いよ、色々教えてやる」

 

 ひらひらと手を振りながらこちらに背を向け歩き出す甚兵衛だったが。

 

 

 

 ……原作で見るより実物で見ると、こう、なんだか数段と息を呑む凄み(オサレ)な振る舞いに思え、そりゃ源五郎パイセンも心酔するわと結構共感を覚えた。

 いや、実際心酔したのは別な理由なんだろうが。

 

 

 

 

 

 




※プレーンシュガー味なのはわざわざチャン刀の味の好みを雪姫に聞いて準備したから
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