ST152.A Frank Princess
「我流神鳴流、一瞬千激・弐刀月光五月雨斬り――――あれまぁ?」
「
魔力を纏った両手の刃を振るいながら突進する月詠のそれを、サリーはギリギリブリッジのような体勢になりながら躱す。もっともその余波というか、威力でもってお腹の部分から叩きつけられ、大きく血反吐を吐いた。涙目である。両目も、それから額に浮かんだ第三の目も全部涙目である。
とはいえそのまま泣き叫んだままということもなく、サイドテールから「影がまとわりついて伸び」、その場からサリー本体を撤退させる。とはいえ月詠の瞬歩圏から逃げられるわけでもなく、ギリギリ生成途中だった剣で、振り下ろされる二刀を受けていた。
そんな両者を見ながら、深くため息をつく源五郎。
「やはりというか、容赦がないなあの
「まー見た感じ、バトルジャンキーっぽいッスからね。
そういえばだけど、二人とも目覚めるの早かったッスね? パイセンたち」
私の一言に、源五郎は収納アプリから新しい眼鏡を出して入れ替えて肩をすくめた。
幻灯のサーカスは、アーティファクトとして召喚されるタイプのものであれば、解除キーワードが存在している。そのキーワードを知らなければ、一定時間その精神を拘束され続けることになるのだ。しかしあまりに短時間……、いくら夢の中の時間速度が現実世界とは一致していないとはいえ、圧倒的な速度である。
そんな私の感想に、源五郎は「眠ってなかったからね」とこめかみのあたりを押さえて言った。
「眠ってない……? えーっと、つまり『術にかかってなかった』ってことッスかね。どういう……」
「こう、上手くは説明できないのだけれど…………。僕の場合、精神に悪影響を及ぼす作用の術、例えば洗脳とか憑依とか昏倒とか、そういうタイプの攻撃は自動で
レジスト、とそのフレーズが出た時点で、おおよそ察した。この世界に存在する源五郎の肉体は、ある意味で「ゲームの主人公キャラクター」のような扱いを受けている。であるならばどういった状況になるのかは定かではないが、おそらく術が源五郎にかかったとしても、源五郎本人はそれを俯瞰する視点、ステータス画面のようなものを認識「したまま」になるのだろう。そうであるならば、ステータス画面から色々道具やらを操作したりすることも出来るのだろう。完全に予想だが、そこまで大きく外れてはいないはずだ。
「…………って、だったら何で放置してたんスかね、状況というか。加勢してくれた方が色々話が早かったんじゃないッスか?」
「そうは言うけれど、伏兵がもう
「つまり囮っスか? 俺、囮っスか?
……いやそれは別に良いとしても、二人? サリーだけじゃなく?」
「ああ。あっちで月詠さんに『遊ばれてる』女の子だけじゃない。……そして、そっちのもう一人が出て来る気配が無いから、僕としても少し弱ってしまっているんだけれども――――」
そんなタイミングであちらが目覚めて遊びに行ってしまってね、と。状況的に色々とタイミングを伺っていた時に、月詠が勝手に目覚めて遊び出したと言うのが現状らしい。
なお話している背後で「で~~~~ち~~~~!?」とサリーの悲鳴が聞こえては来るが、なんだかんだギリギリ致命傷だけは躱し続けているらしい。地味に凄いぞサリーその額の
「…………というかそもそも、何であの月詠さんですっけ、ここに来てるんスか? アレ、スラムの時にそういうヒトが居たって話はカアちゃんから聞いてるっスけど」
「あちらも仕事で派遣されたらしい。今、
「人選ミスでは?(マジレス)」
「まあ、
……僕も
聞いていないのに断定口調とはこれいかに。……おそらく源五郎の能力由来の情報精査か何かなのだろうが、そういう微妙な部分を取り繕う余裕もない程に、一目でわかる程度には疲弊した源五郎だった。
まぁ良いかと、とりあえず私は未だに私の血装による拘束から抜け出せないでいるグサインの元へ。私の姿を見ると「む?」とこちらを、割れた仮面越しに見て来る。もっともそんな彼をどうこうするというより、私はその隣に落ちていた例のランプ型装置を拾い上げた。
「一応聞くんだけど、これって壊したら術が解除される…………、とかは無ぇかな」
「む。話す義理は本来ないが…………、これも勝者の権利と、『末弟』への義理か。
嗚呼その通りだ。幻灯のサーカスは、発動時に設定した以上のことを外部から指定することが出来ない。元々『幸福な滅び』のために作られた魔法故、我ら種族の中においても『発動後』に直接操作することができるのは『循環』の家かそれと同等の者くらいだろう」
「循環…………」
おそらく例によって魔族が名乗っている二つ名というか、そんな二文字単語なのだろうが。幻灯のサーカスを自在に扱っていたことから考えて、なんとなくその家というのに心当たりがあるような、ないような…………。いや、個人的にはおそらくレイニーデイの家(つまりザジしゃん)あたりなのだろうというイメージだが、それにしたってだから知らない設定をポンポン当然のように語るな(震え声)。
こちらのしかめっ面をどう解釈したのか、くつくつとグサインは笑う。苦笑いを抑えているような、少し控え目な笑い方だ。
「案ずるな、最新最速の同胞よ。どうせ数時間もすれば、嫌でも全員目が覚める」
「その数時間が場合によっちゃ痛いこともあるッスけどねぇ」
なお、私としてはグサインの語るその「最新最速」とかいうフレーズについてもツッコミを入れるつもりは無い。というか気のせいでなければ「一周目」、キリヱ大明神と一緒にやり直しを経験していたはずの私の人格も、そんなことを言っていやしなかっただろうか。
私とグサインの話している横で、源五郎は源五郎で主目的であるアタッシュケースをまとめている。「幻灯のサーカス」の入ったフロッピー状の魔法アプリ記録媒体だが、私がディーヴァ相手に石化させたもの以外にもいくつか残っているらかった。それをまとめながらも、しかし周囲に警戒を怠らない源五郎。一体彼の視界にどのようにそういうのが映っているのかは定かではないが――――――――。
途端、足元に妙な気配を感じ、内血装で脹脛の筋を「パンクさせる」。
「血装――――、ッ!」
ギリギリ間に合った。飛び散った血により、足元に「無音で」展開されていた魔法陣は消し飛ぶ。が未だに嫌な感覚は消えず――――上! 飛び散った血で久々に
叩きつけられる巨大な「悪魔の腕」――――。より正確にはなんらかの魔獣なのかもしれないが、そんな腕を持つ堕天使のような、悪魔のような、何とも言えない存在がいつの間にか現れる。なおその衝撃で転がり、頭から落下して打ち付け「ひぐわぁ!?」と色々危険な悲鳴を上げる猿仮面。仮面自体は破損していないが、白目を剥いて気絶してるし血も流れてるしこれは……。おそらく魔族では無かったら致命傷なのだが、一切合切容赦がない。
そして、その堕天使のようなものの背後から、ずずずと「影から現れ出るように」、見覚えがあるような彼女が出て来た。ベリーショートにぱっつんとした前髪以外は、見覚えのあるザジのもの。だが額から生えた角や頭の後ろに形成された竜の角を思わせる装飾。何より腰から生えた翼と長い尻尾が、その共通性を示し正体に思い至らせられる。
すっと飛び降り、その召喚された何かしらのすぐ手前へ。身長は今の私より少し小さいくらいである。
「…………ポイョ。ファイティングポーズみたいな状態から身動きせず平行移動とは、中々変態じみた挙動ポヨ」
ポヨ・レイニーデイ…………、ザジ・レイニーデイの双子の姉であった。
元祖「ネギま!」において魔法世界編終盤に、フェイトが当時所属していた「
その立ち位置はネタバレすると、「人類の上位種族」である裏金星人こと魔族として、地球人類および火星人類=魔法世界人との行く末を「悪くない方に導こう」というスタンスだ。妹であるザジはネギぼーず達の側、姉である彼女はフェイト達の側につき、その時々の状況で色々と裏側で動いていたように考えられる。
そんな彼女が、ある意味「魔族が溢れている」この状況で登場することには、違和感自体はない。ないのだが、それ以前の問題としてお前さんそもそも「UQ HOLDER!」の方は影も形も存在していなかったろ何で出て来た!? もはや何に対するガバかガバじゃないかとか責任求めたり文句言う先すら特定できんわ加減しろ世界!(迫真)
源五郎も源五郎で周囲が被害にあわないようにするためか、突如当たり前のような顔をして「全裸の自分」を複数分身させ(!?)、倒れた人間たちを抱えて逃げ始める。なお九郎丸はともかく、何故か夏凜だけはその場に放置するのは一体どんな流れなのだろうか。仲悪いのだろうかあの二人……? もうちょっと歩み寄れそういう嫌がらせしあう関係でやっていけないぞこのディストピア三秒前世界(震え声)。
詳細は後で本人たちに聞くとして、とりあえず折れた黒棒を構える。と、そんな私を見てポヨは感嘆した声を上げ…………、そしてその背後では、サリーが薄皮一枚、首を月詠に斬られそうになっているのを回避しながら悲鳴を上げていた。そしてちらりと見やりながら、半眼で嫌そうな表情になるポヨ。
「…………それこそ八十年前からだが、あの女は相変わらず色々酷いポヨ……、って、若返ってる!? えっ、何で? どういう事!!?
………………………あっ、ポヨ?」
とりあえず月詠が生身の姿で若返っていることに、思わずキャラを忘れるくらい動揺したらしい。いや、私もそのあたりは「原作」知識があるので違和感バリバリではあるのだが。元祖「ネギま!」時代より幾分成長したあの二十歳ちょっと前くらいの姿は確かに美人だし、角やら何やらの有無を除けば以前見せてもらった源五郎に所縁ある例の彼女の容姿そのもので困惑しかなかったりしたが。それはそれとして、正直「関わろう」と考えた瞬間に「嫌な感覚」がよぎるくらいには危ない人物であることに違いはないので、ここは完全スルー態勢で行ければと思う(願望)。
まぁそうやって動揺しているということは、問答無用で殺し合いになるようなテンションではないということだろう。そこはまだ良い。なのでとりあえず適当に何か話題を……、話題…………。
「……そのポヨって変な口調ってキャラ付けか何かッスか? ザジさん(煽り)」
「自己紹介より先に煽ってくるとは、中々良い根性してるポヨ」
ニヤリ、と微笑むポヨに思わず愕然とする私である。基本である初手煽りが全く効かない、だと…………? 敵の性格によっては確かに効かないパターンもあるだろうが、事はそう簡単ではない。ポヨもザジも割とノリが良い性格なので、こういう煽りには付き合ってそれなりに動揺なりしてくれるだろうと考えていたのだが、この余裕の返しである。あまつさえ年上のお姉さん的な安定したニヒルスマイル、腕を組んでこちらを見下ろしてくる様は色々と想定外だった。もっともそんなこちらの考えなど向こうには関係ないのだろう。彼女は一度周囲を見回した上で、すっと平手を出して「タンマ」と言わんばかりのポーズをした。
「そうカッカする必要はないポヨ。まずは話し合いをしよう。
私は『循環』レイニーデイ王家の後継、『夕暮れ』のザジ・レイニーデイ。妹の『夜明け』とは既に会っておるな。
……ただ見分けが付きにくいから、とりあえずポヨ・レイニーデイとでも呼んでおくポヨ。我らが最新最速の末席よ」
「あ、はぁ、どうも。えっと……、近衛刀太ッス」
「ほう? では、よろしくポヨ」
「「…………………………」」
そして両者、適当に頭を下げた後、沈黙。
「あのー、そっちからどうぞって感じなんスけど」
「……いやまさか普通に挨拶され返されるとか思っていなかったから、頭が一瞬真っ白になったポヨ。ちょっと落ち着くポヨ、飴ちゃんでも舐めれば思い出すから」
「その淫魔風の恰好のまま胸の谷間からペロペロキャンディー取り出すの止めろ(戒め)」
「フフフ、まだまだ青いポヨな…………、そっちも食べるポヨか?」
「だから胸の谷間でその取り出し途中の棒、プラプラさせるの 止 め ろ(戒め)」
なお言いながら棒付きキャンディを速攻でかみ砕き始めているポヨだが、それはさておき。
「そうそう、思い出したポヨ。少しだけ交渉したいところポヨ」
「交渉って何するつもりなんスかね? あー、いや、なんかお互いどういう認識でここに立っているか的なのによって色々変わってくると思うんスけど」
「フフフ、そう無理なことを頼むつもりもないポヨ――――そこに転がっている使徒二人、我らが同輩二人、そしてそこの『継承中』を見逃して欲しいポヨ」
ディーヴァたちや、白目を剥いて気絶している猿仮面、およびサリーやらを指さして微笑むポヨ。そのかわりこの場からは手を引くポヨ、と。彼女はそう言い肩をすくめた。
「手を引くって……、つまり薬も、それに関係した人間もそっちでは回収はしないから、俺らに敵対してた連中だけ見逃せっつー感じッスかね?」
「そうポヨ。我ら魔族に関しては『爵位持ち』の継承が中々追いつかないこともあって、捕縛やら殺害やら封印やらされていくと色々こちらの政治的に問題があるポヨ。だから、出来れば見逃して欲しいポヨ」
「政治的とか言われても…………」
「連中が全力を出せなかったから可哀想とか、正々堂々と有利なアドバンテージ持ちの状態で勝負をしろとか、そういう馬鹿なことは言わぬポヨ。時の運、どういう状況でも他を圧倒できてこその魔族ポヨ。特に
「知らないバックボーンとか暴露するの止めろ(震え声)」
「さっきから止めろ止めろとそればっかりであるポヨ。我慢が利かないのは良くない傾向、ポヨ」
そう悪い話でもないはず、と彼女は肩をすくめて胸の谷間でゆらゆらさせてたキャンディの棒を引き抜く。……いや、そのあたりに収納アプリか何かの出入り口を設定しているのだろうと予想はつくのだが、なんでわざわざそれを見せつけるのかこの悪魔お姉さん……。ザジ共々胸元もそうだしお腹ももっとローライズだと色々きわどすぎる恰好なのは「ネギま!?」からそう変わりないのだが、ますますそれが色々と少年誌的な限界に挑戦している感があって色々と思春期に良くない(震え声)。
というか本当に、夏凜があれだけベタベタしたせいか今日は特に色々と限界である(超震え声)。
「で、どうするかポヨ?
少なくとも今回、UQホルダーおよび『白き翼』は『夜明けの会』が触れ回っている薬物とその流通ルートを押さえるのが目的のはずポヨ。
わざわざオティウスを拉致する必要などないと考えれば、そう悪い取引ではないはずポヨが」
「……………………オティウスって言ったか? それだけは、ちょっと受け入れられねーな」
「ポヨ?」
と、彼女は私の後方の夏凜やらほぼ全裸のディーヴァやらに視線を向けた後、嗚呼、と自分の胸元を見て何かを納得したように何度も頷いて、ニヤリと笑った。何か嫌な予感というか、変な予感のする嫌な笑い方であるが――――。
「――――そうか、
「あの、後も先も前後左右全方位で怖い発言するのマジで止めてくださいお願いします(嘆願)」
一瞬背後で「ふむ……」と夏凜の声が聞こえた気がして思わず振り返るが、相変わらずスヤスヤとお綺麗にお眠さんのようなのできっと気のせいのはずである。きっと気のせいの……、ハァイ! きっと気のせいのはずですよね師匠ゥ!(
活報の[光風超:設定&質問コーナー的なアレ] 、まだまだ募集中ですのでふと気になる事とか、ちょっと忘れそうな設定まわりなどありましたら是非コメントくださいですナ!