光る風を超えて   作:黒兎可

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※黒棒については原作+アニメ+独自解釈をOSRで割った感じになる予定ですので、色々とあらかじめご了承ください


ST16.在るべき所に或るべき物が有るように

ST16.We Are In The Right

 

 

 

 

 台座から抜けないと言われていた重力剣だったが、このあたりは一切合切原作通りの軽いノリで対応して引き抜いた。いや、原作だといわゆる腕試し的なニュアンスを残した上での話だったから、黒棒自体の詳細は語られていなかったのだが。今回に関しては明確に質量のある重い武器で、私向きの武器だと教えられた上での話。原作知識の行使に一切の躊躇いなく、ダイヤルを「軽」の方へ回転させた。「なん………………、だと…………?」と私の持ち込み概念(オサレ)が浸透でもしたかのようなリアクションをした甚兵衛を尻目に軽く振り回す。 

 抜いた後の黒棒は体感として、こう、おもちゃの剣の拡大版だ。ソフビというか中に空気が入ってそうなやつみたいな、そんな異様な軽さである。九郎丸にも持たせたが一切しっくり来てない顔をしていたことからも、それが伺える。

 

「これでセンパイの話が正しけりゃ、すげー重いんだろ? 本当は。魔法ヤベェなぁ……」

「確かに重力を操る魔法って、すごい高度なものだからね。

 ………………で、でも気だって凄いんだよ刀太君! きっともっと重い状態のその刀だって、鍛えれば自由に扱えるようになるし!」

「いや何でそんな食い気味なんだよ……」

 

 苦笑いしながら謎のプッシュをしてこちらに詰め寄ってくる九郎丸の肩を押さえ……、押さえ……、コイツ「気」を使って無理やり接近してきてるんじゃないか? 一体何なんだこの圧、夏凜でもこう物理的に強くは迫って来ないぞ!?

 

「おーおー、二人ともイチャついてるところ悪いが話、続けていいかー」

「だ、誰がイチャついてなんか!?」「あー、はは……」

 

 大慌てで顔を赤らめて甚兵衛に抗議する九郎丸と、視線を疲れたように逸らす私。このあたりで大体お互いの認識がどういう状態にあるか察したらしい甚兵衛は「ほうぅ……?」と何とも言えない半眼でニヤリと笑った。絶対地上に帰った後もからかわれる奴だ。

 

「抜いただけじゃダメだっていうのは、流石に判ってるんだろ? どれ、いっちょやってみろ」

「やってみろと言われましても……」

「とりあえずそうだな……、あそこに蜘蛛見えるか? めっちゃデカいやつ。アレ切るくらいバーン! ってデケェの出せるか?」

 

 あそこ、というのは施設から見て遠方、山というか丘というか微妙な地形の上にうごめくタランチュラ的シルエットを持っている妖魔である。目算で100メートル以上は遠いので、おそらく甚兵衛からしてもイレカエの射程範囲外なのだろう。とはいえ手もないわけではないだろうから、気まぐれに引き寄せられる可能性はある――――。

 とか考えていたら、私が100メートル先の座標に「イレカエ」られていた。雪姫とは別次元でスパルタじゃないかあのオッサン!? いや、絶対すました顔してるからスパルタというよりも若者をからかって遊ぶ老人の類なのかもしれないが。見た目はともかく不死身歴は雪姫以上なのだ、精神もより老成してるとみていい……、いや違う、絶対老成などしていない。もっと子供じみた遊び半分の戯れ交じりだ。

 

「って、いや距離、微妙に近いなコレ」

 

 突如現れた私の気配に、ぎらりと複数の赤い目がこちらに向けられる。どう考えてもエサを見つけた捕食者の目だ。なんとなく夏凜の顔が思い浮かんだが走馬灯か何かだろうか。出来れば全力で逃走したい。

 もっとも相手とてそんなことをさせる暇は当然与えてくれないわけで、猛然と迫ってくる巨大蜘蛛など相手にしていられない。早々に「血蹴板」を形成して上空に逃れる。逃れた先に明らかに粘性の糸を射出してくるのは、ここに降りてきた直後の経験と見た目から予測済。左手に準備していた「血風」をバリアのように前方へ展開して、高速回転する羽根のような卍がバラバラに糸を切り裂き散らした。

 

 私は血風を込めながら、黒棒に声をかける。

 

「…………まー、こーゆーのは初めが肝心って言うし。

 俺は、近衛刀太。これからお前をビシバシ使って、スタイリッシュに戦っていく所存なんでヨロシク!」

『…………スタイリッシュとは大きく出たな。

 いやそれ以前に私の中に血を入れるのをやめてもらえないだろうか。いくら外形とはいえ錆びそうだ』

 

 おっと、二人きりのせいか黒棒本人にかかっている「持ち主と二人きりでなければしゃべらない制約」が適用されているらしい。しれっとしゃべってきたのに驚きながら、そのまま空中で一度後退。

 いやしかし、しみじみと黒棒の全体を見回す……。

 

「いや、カッケェ。しゃべんのもそうだけど、デザインやべぇ」

『ホゥ………………? 君、見る目があるな』

「めっちゃカッケェ、いやカッケェわマジで。めっちゃ斬〇(オサレ)じゃね? いやカッケェわ」

『語彙が貧困荒野で配給待ちか君は……』

 

 素が出たにもかかわらず、口調が崩壊していた。この辺りで私のテンションの上がりっぷりが自分でも良くわかる。実際問題、ナイフを拡大したようなデザインにダイヤルと家電のようなモールドとでも言えば良いか、そんな組み合わせの見た目は武骨にも黒鉄色をしている。実際問題、中学二年生が見たらテンション爆上げ間違いなしだと思わされるくらいには格好良い見た目をしていた。

 こんな格好良いデザインの武装を見てテンション上がらなかった原作主人公は、本当にああ見えて心に空虚な何かを抱えていたナイーブな人格だったのだ。心境に思いをはせると、ちょっと悲しくなる。そんな私のことなどお構いなしに、黒棒は爆弾情報を放り込んできた。

 

『まぁ良い。礼儀には礼儀だ、自己紹介を返そう。

 私は――――「αの三角(グロス=ドリクト)」。

 3-A関係者を助ける者のため作られた、この武器に宿る人工精霊だ』

「ええ!? いや、アレ、なんか走り書きみたいに彫られてたけど名前だったのかよ!? マジか、それも良いな……、なんかポエムめいてたし、てっきり隠語か暗号でも潜んでるのかと思ってたけど……、って、3-Aって?」

『まぁ偽名なのだが』

「ってオイ!? 礼儀どこ行った!」

『気にするな、何故なら――――そっちの方が恰好良いだろう』

 

 しれっと原作情報でも出てなかった重大事案が出てきたかとヒヤヒヤしたのに、いきなり梯子外すの止めろ! お前、絶対作り手に性格似てるからな! アニメの方で九郎丸散々からかってたの間違いなく子は親に似る的なアレだぞ? 私の緊張と感動を返せ!

 

『気楽にグロス殿とでも呼んでくれ』

「んんー、ダ〇イで」

『私渾身のネーミングに何か不満でもあるのか刀太。止めろ、そういう色々とネタを狙ったのは私の製作者の専売特許だ。決して私は怠惰者ではない』

「面倒くさいから黒棒でいいや」

『おい、勝手に決着をつけるな。振りかぶって血をしみこませるな、まだ話は終わっていな――――』

 

 話し足りないらしい黒棒を一度無視して、形成した小さい「血風」の鍔を回転させ、刀身に纏わせた血と魔力の奔流を放つ――――!

 意識的に量を絞ったものの、血が一瞬足りなくなり足場が形成できなくなった。地面に降りた後、技が決まったのを確信してからその名を言う。

 

「――――血風創天」

 

 振り返る。これは……、やった! 見た目だけなら理想的な月牙天〇(オサレ)だ! ただ内容は限りなく物理的なそれでしかないのだが。血と魔力の奔流自体は刀の斬撃の軌跡をなぞり、しかし遠心力と加速して射出されたそれは、例によってウォーターカッターの原理で蜘蛛の足を切断し――――。

 いや? 切断「されていない」? 表面に傷は付けられたがそれだけだ、貫通、切断までは至っていない。これは一体……?

 

『当然だ』

「黒棒?」

『……その呼び名には不満があるが、一度置いておこう。君のその「飛ばす斬撃」だが、現状唯一絶対的に欠けているものがある。何かわかるか?』

「まぁ見た感じからしてパワーが足りないのは判らないでもないけど――――血風!」

 

 傷つけられたことに不満があるのか、名状しがたい絶叫を上げて突進をしかけてくる巨大蜘蛛。それに向かって、歯車に使っていた小さい血風を大きく展開して飛ばす。ノリとしてはバットを振ってボールを打つような使い方だが、うん、これもなかなか悪くないと自画自賛したい。気持ち得物が長いせいか、普段よりも早く振れてる気がしていた。

 とはいえそれも顔面に当たって牽制にしかならない。本格的に反撃される前に「血蹴板」で相手の頭上を回り、背後に回って距離を取った。

 

「速さについちゃ俺の練度不足とか言われても、これ以上やりようがねーぞ? パワーだってそりゃ、この移動速度で特攻かけりゃそれなりに威力は出るだろうけど、それでもあのバケモン退治できる気はしないって言うか……」

『カンは悪くないが実戦経験が足りていないな。先ほどパワーと言ったが、一番近いのはそれだ。切断力に直結するもの、すなわち重さだ』

「重さねぇ…………って、そういえば今一番軽い状態だったか黒棒」

 

 先ほど引き抜いてから重量ダイヤルを回していなかったことに気づいた私である。重さが足りないと言われれば、確かにそれは重さが足りない一撃にもなろう。血風自体は「魔術的な」ウォーターカッターに、雪姫いわく「風の武装解除」が組み込まれているらしいのだが。おそらく射出元がそれなりに高い威力をもって打ち出さないと、撃ち出された対象も威力が軽くなるみたいな理屈か。

 ……と、まことに今さら気づいたのだが、風の武装解除ってひょっとしてアレか? ネギぼーずがくしゃみと同時に発動する、衣服武器装備防具やらを弾き飛ばしたり花弁にして使い物にならなくしたりする奴なのでは? 一歩間違えると夏凜や九郎丸とかも全裸に剥いていた可能性があったということか……?

 

『どうした刀太、やりきれないような変な顔をして』

「何でもない……、いや、そこまで効果がなかったことを今は喜ぼう! ウン!

 話は戻すけど、それでどうすりゃ良いんだ? 俺、気とか全然使えないし、たぶんお前を重くしても自由自在には振り回せないぞ?」

『何も振り回す必要はないだろう。言っておくが、私は質量兵器だぞ?』

「…………? って、あー、そういうことか……、いや、確かに出来るんだろうけど、確実に俺の腕、ミンチ確定なんッスが……」

『不死身の肉体をしている癖に小さいことに拘るな、君は』

「いや、痛いのは嫌だし」

『ふむ……? まぁ、成りたてならそういうものか』

 

 あくまで自分は武器という領分を逸脱する気はないのか、雪姫みたいにあんまり煩く言ってこないのには感謝である。もし雪姫に言おうものなら地獄のような筋トレが待っていたかつての熊本での日々よ……。その割にあんまり体は育たなかったが、実質十二歳で身体年齢が固定されているのだから仕方ないか。

 ん? でもそれにしては原作後半での身長には違和感が……。確か普段でも、夏凜よりも大きくなっていたような記憶があるような、ないような。

 

『来るぞ』

「おっと!」

 

 ちょっと気を抜きすぎたせいか、周りを囲まれているのに気づかなかった……、いやいくら黒棒を手に入れてテンションが上がっているからとは言え、隙が出来すぎである。こんなに私は迂闊だったか? ……迂闊だった、かもしれない。脳裏によぎる様々な想定外の光景やら原作のビリヤード具合から考えても否定出来る要素がなかった。

 しかし「血蹴板」を使って周囲から逃れるのだが、本当に使い勝手が良すぎるぞコレ……。目に見えない速度での攻撃には対応できないが、それ以外に関してなら上昇下降前後左右加速減速角度調整自由自在。パロディ的な技ですらこれなのだ、そりゃYH〇H(知らない千年前のオッサン)〇護(チャン一)に教えたがるはずである。

 

 

 

「――――刀太君!」

 

 

 

 上空から九郎丸が「駆けてくる」。いわゆる虚空瞬動という奴だが、要はここまでくると瞬歩(オサレ)みたいなものである。私の横に並ぶと、黒棒は律義に息をひそめた。

 助太刀に来たと笑う九郎丸だったが、あれ? そもそも私がこの場に放り込まれたのって黒棒を使う訓練的な意味合いがあったのだと思っていたのだが…………。私のその質問に、九郎丸は一気に表情が死んだ。

 

「……いっぱいいるから、今晩のおかずにするんだって」

「…………」

『…………』

 

 二人と一振り(一振りは表情こそわからないが)、何も言わずに蜘蛛たちに向けて構えた。

 

「いや、まぁ仕方ねぇと言えば仕方ねぇか。タンパク質ないだろうしここ」

「……確かに修行でそういう極限環境での生活っていうのもあったけど、何かこう……、凄く……、大きいよね。気圧されるっていうかさ」

『少女よ、その「凄く……」あたりからの台詞をもう一度頼む』

「!? だ、誰だ今の声!」

 

 オイオイと思いながら黒棒を見るが、すぐさま何事も無かったかのように沈黙の姿勢を貫いている。こういう女の子で遊ぶところは間違いなくクウネル・サンダース由来なんだよなぁ……。お前、人型にすらなってないのにそういう機微があるのかと問いたいが。

 ん? そもそも人型があるのかこの黒棒。一応、人工精霊だとは名乗っていたが……。

 

「まぁいいか。えーっと……、とは言っても、まぁ、どうしたもんか……」

 

 試しに腕周りに血装でグローブのような出来損ないの、不定形のどろどろとした物を作った。それで黒棒を手に取り(心無し嫌がってるような気がしたが無視)、意識しながら重量を上げていく。…… 一応カウンターのように今何倍かという表示こそないのだが、ダイヤル自体には雑に目盛りが書かれているため、おおよそ想像は付く。

 で、問題。二百倍の時点でもうすでに重い。振れないわけではないが、重心が完全に振り回されるというか、全く安定感がないというか…………。血装された腕の腕力を「魔力で補って」持ち上げていても、全然維持できていなかった。

 

 

 

 そんな私の横から、九郎丸が覆いかぶせるよう手を重ねた。

 

 

 

「へ?」

 

 突然の行動に驚く私に、九郎丸は少し緊張しながら、何故か慌てて答える。

 

「えっと、僕ならほら! 『気』が使えるから。重くしてるんだよね。だったら、一緒に振るよ! 刀太君!」

「いや、それは助かるっちゃ助かるんだけど、何ていうか…………」

「どうしたの?」

 

 男同士がやる体勢ではない、というか。ケーキ入刀みたいな状態になってるとか指摘したら絶対に腰を抜かすだろうし、とはいえ九郎丸の手を借りなければどうしようもないのは事実であって…………。

 まぁ良い、サポートしてくれるのなら、重量をもっと上げられる。五百倍、一千倍。このくらいで九郎丸の足が震え出したので、少しだけ下げた。

 とりあえず横一文字に振るとだけ言うと、九郎丸が私の腕を引き込むようにしながら構える。こころなし服の下の感触が以前より柔らかくなってるような気がするが、きっと気のせいだ。気のせいということにしよう、うん。

 

「うわ! ……なんか、すごい。濃い色してるのがドロドロして、うわぁ…………。

 って、ちょっ、なんかま、回ってる!? きゃっ」

「落ち着け! っていうかお前、絶対狙ってるだろ九郎丸!?」

「な、何の話!」

 

 そういえば、実際に血風がどう発動しているのかを間近で見るのは初めてか。その驚きっぷりには納得するが、お前の声とテンションでの発言がきわどいし隙が多いしでこっちのメンタルをどうする気だ……! 好みでなくともこちとらここ数日分の性欲は有るんだぞ、どうしてくれる、ぶつけるわけにもいかないだろ大体貴様、性認識自称男だろ、もう少しそれらしく振舞え!(無理)

 

「って、わー! い、いっぱい近づいてくる!」

「いいか? いち、にの、さん! で横に振るんだぞ? いいな?」

「う、うん……、いち」

「にの」

「「さん――――!」」

 

『――――血風創天(けっぷうそうてん)

 

 いや嫌がってた割にはお前が技名言うのかよ黒棒!?

 そんな心の声はともかく、私の血自体はそんなに多くなかったのだが。それでも一撃は、黒棒本人の申告通り非常に「重い」ものになった。

 

 

 

 なにせ横一文字、巨大蜘蛛共の頭から胴体、視界に見える範囲全てを「一刀両断」である。

 

 

 

 上下にずれ、ばたりと倒れた怪物たち。半固形の液体だか内臓だかが微妙に噴き出しだしたりする様に、九郎丸は慣れているようだが私はちょっと頭を抱えた。まぁ膝をつきはしない、流石に今のテンションの九郎丸を前にそれをすると、もう九郎丸の性別が確定してしまいそうな気配が強いからだ。

  

「おー、なるほど。こりゃ頑張れば、確かに一月でどうにかなるかもしれねーな」

 

 と、いつの間にやら背後に甚兵衛の声が、ひどく遠かったというか。

 

 今だけ、今だけ真面目な話、この五臓六腑をシェイクするようなグロさというか気持ち悪さというかを慰めてはもらえないでしょうか夏凜ちゃんさん殿……。

 甘えられる所が……、全力で甘えられるところが欲しいです…………。

 

 

 

 

 

 




(???「アタシに赤飯の準備でもしろってのかい?」)
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