今回気が付いたら1万超えてたけど仕方ないね……! 少しだけ秘匿は破られた。
P.S.気が付いたら一周年超えてた…何か企画やろうかしら
ST167.Frequently Asked Questions: side Isht = Karin Orte
カトラスの色々と想定外の内心をぶちまけられ(野暮だろいい加減さぁ……)、いよいよ残すは二人か三人、くらいだと思う、たぶん、きっとメイビー(震え声)。そんな心境で
そんな私であったがいい加減着替えはちゃんとする。色々と諦めがついてきた、という訳ではないが、多少は慣れたという事だろう。あくまで多少なので、自室で次にどのディスクを見るか漫画を読むかという現実逃避で気を紛らわせたり、それだけを楽しみにしているのだが。
いや本当、どうしたものかね(白目)。
「どうにもならないから、まず腹をくくりゃ良いんじゃないかねぇ」
「はい!? おっと、師匠今日は早いなぁ」
そして、当たり前のように部屋の扉を「開閉せず」スッと現れるダーナ師匠の存在よ。今日の恰好はドレス姿ではなく、なんならシルエットもいつものデラックスクラスではない。古い時代のドイツ軍服めいた格好にスマートな姿で、しかし頭は「背教」の頃と違いドレッドヘアのままである。一体全体どうしてそんな恰好をしているのかと問えば、少しだけ肩をすくめた師匠。
「今この時間のアタシは、メイリンの相手をしているから。ちょっとだけ代理で来てやったまでさ、流石に今アンタと合わせたらガバがどうのこうのという騒ぎじゃないよ」
「また来ているのかあの女性……」
「言っておくが、あの子が『弟子入り』確定するまでに何回かアンタも顔を合わせることになるから、そのつもりでいるんだねぇ」
そういえば、師匠が最初に無理やり同伴させていたか、あのメイリンとかいう彼女は。あの人もあの人でどうやら何かしら今後ガバがあるようなので、一旦私は彼女のことを考えるのを止めた。考えても仕様がないのだから仕方ない、仕方ない。
そんな私の前に、指を弾く師匠だが。画面に映った文字は「イシュト=カリン・オーテ編」となっていた。
「さて、いよいよ最後の女だよ。これにてガバの復習はオシマイってなものさ」
「はい?」
おや、と思った疑問を聞いてみるが、ダーナ師匠はあからさまに目を逸らした。
「……あれ? 雪姫はどうなっているのか」
「修行編の最後にやるつもりだから、そこは別枠で覚悟しておきな」
「恐怖以外の何物でもないのだが(震え声)」
「どっちかと言えばアタシが一番恐怖してるのは、水のアーウェルンクスの方なんだがねぇ…………。あれこそアンタのガバが色々取り返しがつかなくなってきてる証明だと思うよ。『アンタが悪い訳じゃないが』ね」
「悪くない…………、それは一体?」
「あまりにもアレすぎてアタシもガバを教えるのを取りやめるくらいにはアレだよ。まー、そこはそのうち嫌でも自覚することになるだろうから、アタシがどうこう言うことでもないのかねぇ……。(いうべきは星月名乗ってるあの女なんだろうが)」
「ボソボソ言ってて最後が聞き取れないのだが」
「アンタ向けに言ったセリフじゃないからね。
さ、ここはオーソドックスにまず数値を見て行こうじゃないか――――」
指を弾いた師匠のそれに合わせ、切り替わった画面は。
【イシュト=カリン・オーテ】
┣友:09 ・・・素でツッコミしてくれるのは私だけでしょうし
┣親:12 ・・・二面性を承知しているのは自分だけ
┣恋:13 ・・・誰に何をどう重ねているかは私が決めることにします
┣愛:20 ・・・色々なものを重ねていてキティ並みにぐちゃぐちゃ
┗色:08 ・・・1発ハ○たらあの子も安心して眠れるかしら
→ 計:62
「って宮崎のどかの57点超えてるゥー!?」
「そりゃ超えるだろう。おめでとう、
「おかしいでしょ? 何さ20って、何だこの数値!」
いわゆる「ネギま!」における好感度ランキング最高得点だったりする宮崎のどかですら、点数の最高値は「愛:18」だったというに。ちなみに彼女の場合は「恋」と「色」も十五点とお高目な数値だったりするので、そういう意味ではまだ正気というべきなのか……?
いやそれでも何だその愛って、愛って…………! いや、彼女の場合しいてどの数値が高いかと予想をつけるなら、確かに「愛」か「色」なんだとは思っていたが……!
「ちなみに救いにならない話だが、以前は『親』に割り振られていた数値が他に分散して拡大した結果だよ。親心が一番強かったそれが、この間のやりとりで『恋愛感情』に紐づいても良いと分散した結果だねぇ」
「本当に何の救いにもならないのだが…………」
「もっと言うと、もともと『友』『親』『愛』はそれ以前から十を超えていたから、誤差だよ誤差」
「本当に何の救いにもならないのだが…………(震え声)」
徐々に徐々に追い詰められる私に師匠は大層ご満悦そうにニヤニヤ笑っていらっしゃる。私の頭の中がやかましくなるのを観察しているのがどうやら趣味の一つではあるらしいのだが、あんまりそんなサディスティックな趣味を持って欲しくはないのだが……(震え声)。あからさまにカトラスに「オバサン」発言を連呼させて所持金を差っ引いたりと、自分が相手をいぢめる隙を探すのに余念がない師匠であった。
「まぁ細かい話はおいておいて。詳しくはまぁビデオ映像見りゃわかるよ。正直こう『口に出すのも憚られる』レベルだからねぇ…………、少年誌的に」
「少年誌的に!?」
言いながら画面を変えた師匠だが、そこに映っていたのはまず直近、ディーヴァを平然と無視して私相手に「ちゅっ♡ ちゅ♡」していた夏凜の姿である。聖女の姿か? これが…………? 嗚呼呆然としているディーヴァも最初、一体何が何やら意味不明すぎてぽかーんってしてるし。ちょっと可愛い。
「あの聖女の場合は時間をさかのぼっていった方が妥当だからね。色々徐々に徐々に腹をくくりな」
解説らしい解説がない…………。そんなことを考えた瞬間「見れば判るだろう」と言わんばかりの目を向けて来るお師匠に、無言で首肯して私は画面を見る。気分はもはや囚人も同然なのだが、そんな流れで切り替わった映像が、ニキティスにより私の好みのタイプがばらされた直後の夏凜で…………、その笑顔何だその笑顔やめろ!? だから満面の笑みが怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い!
「胸がどきどきしてるそれは、恐怖より恋とかそっちなんじゃないかねぇ」
「ゼロとは言わないがッ! それ以上にもうこの時点で後々何されるかわからない恐怖が強すぎるのだッ!」
やれやれと言わんばかりに肩をすくめる師匠の操作のままに映像が切り替わり、噂に聞く伊達マコトに色々言いまくって陥落させている映像…………、無表情のまま私の写真を見せるな何だいつ撮影したそれ!?
特にそこには解説をつけず映像はスラムの頃のものに巻き戻る。戦った映像より日常風景での映像で、ちらちらと夏凜が私を気にしている、のを九郎丸が気にしている、のをさらにカトラスが見てドン引きしている映像が流れた後。
「何か知らない会議が始まっているんですが(震え声)」
おそらく体内をまわした血風暴発後の映像なのだろうが。ドン引きしているカトラスを前に、原作でもあったような流れをふまえて色々とっちめているのだが。…………いや、ついでとばかりに九郎丸を和尚が説教した結果堂々と「刀太君が大好きだから!」とか叫んだ映像いらない、というか前の時に出せ(震え声)。
『…………で結局、ユウキカリンは兄サンの何を知ってるんだ?』
「いよいよ今、テナ・ヴィタの言った話に注目していくことになるんだが、覚悟はできてるかい?」
「覚悟って、一体何の?」
「――――今の自分の自己認識、自我がよって立つその場所の『安心感』が、
今の時点ならここまで見せてもいいだろうと。そういった師匠は、画面をその問題の映像へと切り替えた。
…………その映像から、わずかに「嫌な感覚」を覚えながら。
※ ※ ※
『どうしましたか? キクチヨ君』
『えっと……、いや、なんっつーか…………』
『あら? ひょっとして見とれてたとか』
『……まあ、夏凜ちゃんさん、普通に美人なので、まあ、はい』
『素直に返されるとは思わなかったので、お姉ちゃんちょっと驚いています』
まあ照れるほどでも? ありませんが、と。そう画面の中の私に語る浴衣姿の夏凜…………、湯上りで首元胸元がちょっと無防備になりかけてる具合のその姿は、なんというか懐かしいものを見た感想だ。
「初対面の時の夜の映像…………?」
「大体、今のアンタとあの聖女の関係がおかしくなってるのは、この日にあるからねぇ。懐かしいだろう、まあ半年も経っちゃいないんだが」
熊本を出てすぐの頃、九郎丸と一緒に雪姫相手の修行中。彼女の手違いで秒速13キロメートルのまま吹っ飛ばされた先で夏凜とこんにちはした、そのあたりの映像。
最初期の夏凜の雰囲気は、私というより「神楽坂菊千代」を名乗った近衛刀太を、そうとは知らず行きがかりで拾った子供としてお世話していたのが大きい。大きいのだが、そうはいっても一定のボーダーラインが間違いなくあっただろう。なにせ私の視線が彼女のボディラインに伸びようとすると、微笑んでいた表情の目がすっと細くなる。この時点ではお互いの距離感というより、夏凜側の距離感がまだ遠いというか。このあたりの視線の鋭さには原作の夏凜を思い出してもはや懐かしさすら覚える始末。キリヱと三太の時が妙に長かったせいで、なんだかそれこそ1年くらい経過してる感じがするのは決して気のせいではないだろう(メタ)。
そのまま温泉卓球して、大人げなく勝ちに走る夏凜がちょっとポロリしかけたせいでそれに気をとられ顔面にラケットがシュート! 手から滑ったせいで夏凜も意識が当時の私に向いておらず、それでいて浴衣を直す素振りもなかったのでしばらくは焦ったなぁ…………。流石に途中で本人も気付いたが、その後の夕食では相当緊張したし…………。
『ほら。もっと食べないと力、出ませんよ? はい、あーん……』
「こんなことされてましたっけ(震え声)」
「だいぶ緊張していたようだから、そこが曖昧でも仕方ないかもねぇ」
なにせアンタ当時、この女相手には原作好感度とリアルのお姉ちゃんぶってる好感度と、同時にその全てを台無しにする恐怖とでデッドロックされていたようだし。師匠のその一言通り、常に彼女が何かするたびに正体バレした時の恐怖心が全てを塗り替えていた。
『おやすみなさい……、寂しかったら、背中撫でてあげましょうか?』
『け、結構ッス!』
『フフ、てれなくてもいいんですよ?』
そんな風に、まだ一定の距離感を保ちながら揶揄っていた夏凜に対して、これが本当、どうして今の様な名状しがたい有様となったのかと軽く頭を抱えたくなったが。
その時、暗がりながらしっかりと映像で私とわかる存在は、目を見開いて、震えはじめた。
「これは…………?」
「恐怖だよ」
「恐怖というと――――」
「この時のアンタは、この世界でアンタの意識が生まれてからの2年間、ずっと一緒だったキティと初めて離れ離れになった。だから、怖くなったんだろう」
夜、一人誰も心の内で頼ることが出来ない状況になって、自分の過去を思い返すくらいには。
どくん、と。その言葉に、この当時の私が何をしたかを、何を思い返したかを、「何に気付いてしまったのか」を、私は、何故覚えていないのか。脈動が聞こえる。何か、それを思い出してしまっては拙いとでもいうような、そんな嫌な感覚を覚える。
だが、目を離せない。画面に続く映像は、そしてそれに巻き込まれて「今の自分の認識」も、当時のそれをトレースするように引っ張られていく――――。
「キティと離れ離れになって一人ぼっち――――ここでアンタは初めて、この世界に来てから『本当に』一人ぼっちになったんだ。その時の心を、その恐怖を、アンタが『思い出せない』というのなら――――それは余程、アンタには堪えるものだったんだろう」
もともと、原作刀太のようなことが出来る人格だとは思っていなかった。だからこの状況に、夏凜によっていつ殺されてもおかしくない状況におかれることが、たとえ不死身であろうとも恐怖しかなかったのだ。そこは、間違いない。
だから、私は「私」が何であるかということに想いを馳せ、記憶をめくり、一つ一つ整理し――――。
気付いてしまった。「私」の全て、全ての記憶が矛盾していたことに気付いてしまった。
『時期が、合わない……?』
幼少期の記憶、義理の母親代わりの存在に育てられた記憶も、妖魔を収集して生計を立てていた自分も、サラリーマンしながら漫画を買っていた記憶も、学生で普通に恋人をつくったりといったごくごくありがちな記憶も。
その全てを「時系列で整理できない」――――整理した瞬間、その全ての家族構成や、友人関係や、社会情勢や、とにかく「何もかもが違った」のだ。
『ちょっと、いや、待ってくれ待ってくれ…………』
全身が震えていた、映像の私も、今この場にいる「私も」。
いわゆる前世の記憶がある私というのは、間違いなく私自身であると当時は思っていた。記憶の不確かさ、前提条件が違うと恐怖した今の私でも、『私』自身の安定性だけは疑っていない。何が有ろうと私は私なのだという、その自己同一性だけは揺らいでいない。
だが、しかし。その「私」を構成する記憶が、まるで『継ぎはぎされた』『フランケンシュタインの怪物のような』ものであったと『気付いてしまったら』――――――――。
『――――まて? どうしてだ? 私? ぼく? ボク? おれ? オレ? ワタシ? わたし? 俺? 何が――――自分は何だ?』
覚えている、嗚呼思い出した。何故今まで忘れていたのか「ではない」。忘れたことに「して」、絶対に思い出さないようにしただけなのだ。
だってそれは「神楽坂菊千代」という存在の根底を揺るがす何かであり、今でも辛うじてその可能性を認識していられる、自己の不安定さ――――「自分の記憶の」「継ぎはぎされたような」不自然な横断。
『私――――』
例えばそれは、漫画を自宅に収めた普通のサラリーマン。少しばかり妙な出会いもあったが、それきりで何の変哲もない自分。
『――――俺、』
例えばそれは、7人の超人的な達人集団に加入した少年。義母と呼べる彼女から魔剣「雪羅姫」を譲り受けた、親もない捨て子の自分。
『――――オレ、』
例えばそれは、ルキのようにスラムでジャンクを集めながら生計を立てていた男の子。エヴァちゃんのような少女から勧誘され、彼女の率いる集団で剣を振るう妖魔を集めていた自分。
『――――ぼく、』
そして例えばそれは、本当に何の因果も何もない只の子供で――――。
『…………、どうしましたか? キクチヨ君……、キクチヨ君!?』
眠っていた夏凜が起きるのも当然である。隣の布団で、私は、「あの時の私は」、過呼吸を起こしながら、全身を痙攣させ、泣いていた。
「『
画面と、私の、「ぼく」の声が重なる。倒れて、また私も。当時の「ぼく」程ではないにしろ、全身が震えていた。
いつか、それこそ学園にて。近衛
抜けている記憶。育ての義理の母の顔を、名前を、周囲の存在を思い出せないことや、サラリーマンをしていた頃の詳細、妖魔を集めていたスラム育ちの自分のその後など。あまりにも断片的な情報が、記憶が、縦横無尽に行ったり来たりして虫食い状態になっていたり、補完しあっていたりするそれは。明らかに「私」というアイデンティティの、自己同一性の、その崩壊を意味していた。
こんな、気を抜けば誰でもすぐ永劫の死に閉じ込められる世界に。そうでなくても過酷な運命を背負う少年の肉体に。入り込んでいるこの精神は何か?
「顔をあげな。そして前を見るんだ。こればっかりはアタシがやってやるべきことじゃない。アンタがどうやって立ち直ったのか、『立ち直らせてもらったのか』、正しく正面から見据えるんだ――――」
『キクチヨ君ッ! 一体どうしましたか、落ち着いて……っ』
ばたばたと暴れ出しかねないほどに動揺し、恐怖に震え、まさに「生命の危機に遭遇した」かのように、壊れたように泣き叫ぶ「ぼく」。その醜態を前に、しかし夏凜は押さえながら落ち着けようとする。するが、乱暴に殴りつけるように彼女をどかそうとしていた当時の「ぼく」に、その一撃一撃に顔を苦悶に歪める夏凜が。……今更だからこそ申し訳なく、しかし当時の「ぼく」には、最も身近な恐怖だったのだ。
『しにたく、ない……! 何が、なにが、どうして、ぼくって何? 私とは? 俺とは? オレとは? なんだよ、どうして、「誰だってお前!」「俺は俺だ」「違う、ぼくは俺じゃない」「私なんていなかった」「わたしはどうなるっていうんだ」――――――――』
混乱した記憶が、まるで人格を裂いたかのように分裂した言動を繰り返し続ける「ぼく」。震え、乱暴に当たり、しかしずっと泣きはらしたままの「ぼく」。
『ぼくは、だれ――――――――ッ』
『…………あなたは、キクチヨ君、でしょう?』
夏凜はそっと、当たり前のように泣きわめく「ぼく」を抱きしめていた。
落ち着かなかった「ぼく」の頭を、ひたすら撫でて、大丈夫だと。ここは怖いものは何もないと。私が守ってあげると、ずっと、ずっと言い聞かせて。
やがて発作の周期が少し落ち着いたかのように、困惑する「ぼく」の頭を撫で、顔を上げたその涙を拭い。
『…………私は、決して誰かを救えたような女ではありませんが』
そっと、当たり前のように口づけをした。
母親が幼子をあやすように。あふれ出た愛情を注いであげるように。特に気負いもない、ただただ母性から出たその行動――――。
『貴方がもし一人なら……、もし、どうしようもないのなら。私のところに来てください。ずっと、貴方が死ぬまで面倒を見てあげましょう。貴方と、死が私を別つそのときまで』
驚いた顔をしている「ぼく」の額に自分の額を重ね、目線をあわせ。
『それなら、もう大丈夫です。怖がるキクチヨ君に、何があるのかはわかりません。何を知って、何を見て、どう生きて来たのかもわかりません。だから今、何を、どうして怖がっているのか、お姉ちゃんにはわかりません。
だけど、それでも、「死なないように」してあげることくらいはできます』
だから、今は一緒にいましょうと――――――。
彼女からしたら見ず知らずの子供だが。死にかけて、自分に妙に壁を張って、それでいて心から安心を、誰かの救いを求めていたその「ぼく」の姿は。
その相手の正体が何であるかを知らなかった当時の彼女にとって、まぎれもなく守るべき子供の一人で。
「…………だから、なのか」
今の「ぼく」が、「私」が、ここまで取り乱してはいなかったのは。この後、自我の不安定さを、「自分自身の存在の曖昧さを」、人格が崩壊しそうな恐怖を、うっすらと自覚しながらも、それでもなお立っていられたのは。
そして同時に、私が壊れかけた時、当たり前のように彼女が抱きしめてくれる理由。なんのことはない、彼女は初めから知っていたのだ。理由も正体もわからないながら、私と言う人格が一体どれほど不安定な状態で存在していたのかということを。
原作刀太にすら当然にあった「自分は自分である」という、その自覚すら崩壊しかかっていた、この私の有様を。
『ずっといっしょ……』
だが、ここからが良くなかった。
顔を赤くした「ぼく」は、照れたように夏凜から顔をそむけるが。彼女は私と無理に視線を合わせようとして、そして、無理に向かせた結果言われてしまう。
『……けっこん?』
『えっ』
『おねえちゃん、ぼくと、けっこんしてくれるの?』
「おいそれはちょっと待て(震え声)」
記憶が混濁しているせいか。言動は「私」の中にあった最年少の誰かのものであり、それが引き出されてはいるものの。混濁した記憶の中には、スパイエージェントのようにとある企業に潜入して社長令嬢と婚約したり破棄されたり色々面倒になったりしてた時のものやら、「初恋の相手だった」「雪羅姫」の持ち主だった彼女といた時の安心感やら。様々なものが混濁していたからこその、壊れた判断基準によるその一言――――。
夏凜は逡巡し、少し頬を赤らめて天井を眺めてから。
『そう、ですね。…………まさか「また」そういう話が出ることがあるとは思ってませんでしたが、そうですねぇ……。
でしたら、はい。キクチヨ君が大きくなってから、その気が変わらないのでしたら、結婚しましょうか』
予約ですね、と。そう言った夏凜に小指を伸ばす「ぼく」。微笑ましそうに指をからめた彼女は、近所のお姉さんが可愛がってる子供と仲良くしている風にしか見えない距離感で。ここまではまだ気楽だった。
ここからが気楽じゃなかった。
彼女も、今の私も。
『おねえちゃん――――好きっ』
『へ? ……あっ! ちょ、ちょっとキクチヨ君!?』
「いや待てそれはおかしい(震え声)」
「言いながら『思い出して来た』だろう? 翌朝どういう状況だったか、そこに至るまでに何があったか」
幼子の精神がベースとなった「ぼく」は、そのまま夏凜をただただ甘えられる相手と認識していたのだろう。旅館の浴衣姿だった彼女の帯を解いて、はだけた肌に抱き着き、ごくごく幸せそうに、「母親を求めるように」して――――そのまま、手を這わせ……。
『ちょっと、こら、止めなさいキクチヨ君……っ!』
指を沈ませ、そのまま
『さ、流石にそれは…………、いけません! も、もうっ、それでは本当に本気で、逃しませんよ?』
『ん…………っ』
『ひゃぅう……ッ♡ だ、駄目ですってば、もう、本当に……、仕方ないんですから。今日だけ、ですから――――あっ泣かないで、大丈夫、大丈夫ですから……、悲しかったら、いつでも甘えて良いですから……、あっ♡』
「なんで受け入れる流れになってるんだ少しは殴り飛ばせ(震え声)」
これアウトなのでは(震え声)。いやさっきから声が震えてばかりで申し訳ないが、いかに自我が曖昧になっているとはいえ「ぼく」はいくら何でもちょっと言動に問題がありすぎやしないだろうか(震え声)?
何が怖いかと言えば、これでも一線は超えていないのだ。ここまで色々アウトにしか見えないような状況だと言うのに。まあ○首券が発券されている時点で既に色々アウトを超えた状況に違いはないのだが、それはそうとして。
そのままされるがままに「ぼく」を甘やか続け、「ぼく」に好き放題されて、しかし我がことながら本当に下心なく甘え続けた「ぼく」にギリギリ寸前まで「されて」悶々とした表情で息の荒い夏凜を前に、すやすやと「吸いながら」眠りについた映像は、もはやこの世のものとも思えないほどの爪痕を私に残している。なんですかねこれ、こんなの許されて良いのだろうか(自分)。
そのまま「ぼく」を起こさないように、ギリギリで色々調整しながら浴衣を整える夏凜だが、そのまま「吸わせた」ままだし、なんなら「弄ばれて」喘ぎ声上げてるし…………。そんなに手つきが「それらしい」風ではなく自由に、反応を確かめるよう「引っ張ったり」「押したり」してる風なので、おそらく「わかる」まで成長していない記憶だの精神だのが表に出てきているということなのだろうが、それにしたって、それにしたってである。
いまだ画面で繰り広げられている痴…………、いや事態から目を逸らしつつ、横に立ってあきれ顔の師匠へ向けて。
「………………やっぱり責任、とらないと駄目ッスよねこれ」
「多分両手広げて手を伸ばして歓迎してくれるだろうさ」
祝福の時ってやつだよ、という彼女の一言に。私は今日の分の記憶を捨て去れないかなーとか思わず現実逃避してしまった。
そりゃ、無理だよ修正最初から。夏凜、これ切っ掛けに色々あって「本当に」私に入れ込んでいるんだもの。雪姫は雪姫として、完全に「私」のことは私のこととして個別にロックしちゃってるもの…………。
もはや「私」の自我がどういう存在かという根本的な恐怖とかそれどころじゃないですよこれ(震え声)。