冒頭「ネギま!」注意……
ST171.Short-Term Part-Time Fight Job For Her
「アキラー! とうっ!」
「わっ! ……亜子? どうしたんだ」
まだ太陽も眩しい初夏の帰り道、クラスメイトの和泉亜子が私に抱き着いてきた。
時間はまだお昼時。ゴールデンウィークの部活動、今日は朝練。なんでもプールの改装が入るとかで、しばらくは使えなくなるらしい。
上級生は大会前の追い上げなんだけど、丁度このタイミングでの改装工事は、学校の方でも色々トラブルがあったってネギ先生……、いや、もうネギ君って呼ぶのが正しいか。その彼に聞いた。
他のチームメイトたちは、市民プールとかに行こうと計画を立てているらしい。
インターハイの成績を考えると、私も何か別な場所で練習をしないといけない。
だから、久々に彼女の、エヴァンジェリンさんの所に行って例の「別荘」を使わせてもらおうと思ったんだけど…………。
「どうして、そんなに涙目なの…………」
「うぅ~、アキラぁ、うらぎりものぉ~~~~~~!」
「え、えぇ!?」
「そーだそーだ! うらぎもの~~~~ッ!」
「わっ! ま、まき絵までどうしたのっ!?」
少し白っぽい髪の亜子の背後から、明るい色の髪をした佐々木まき絵が「わー!」と飛び掛かってきた。二人とも涙目で、わんわん言いながらぽかぽか殴ってくる。そんなに強くはないけど。
なんとなく、漫画とかの2頭身くらいのキャラクターみたいな可愛いイメージがする…………、じゃなくて。
「朝倉さんから聞いたもん! アキラちゃん、ネギくんとデートしてたーってッ!」
「せやせや! 遊園地いって、ショッピングモール入ってとか色々で揃ってるもん!」
「貝殻ビキニとかスリングショットとか!」
「ウチらに対する当てつけー!!?」
「えっ、えええ……?」
先週末! そうそう! と。二人とも泣き出しそうな風にこっちに迫って来て、ちょっと困った。
人目もあるしこう……、いや、麻帆良じゃそんな騒ぎは日常茶飯事か。みんなあんまり気にしてないみたい。
何だケンカじゃないのかとか、トトルカチョできないとか、修羅場修羅場♪ とか、あと美空と一緒に魔法世界に行ってたあの小さい子が「じーっ」と私たちを見てた。
いや、修羅場ではないから、流石に、絶対…………。
とりあえず場所を移させてもらって、三人でエヴァンジェリンさんの別荘へ。
入口では、茶々丸さんがその……、またこう、私とか亜子とかが向こうでさせられてた服みたいなのを、可愛くしたメイドさんみたいな恰好をしている。
「あぁ、こんにちは。アキラさん。先日はどうも。……おや、佐々木さん達まで。
マスターは現在、朝寝坊中になります。三時のおやつには起床されると思いますが、御用でしたら――――」
「それは……、どうしようかな。別荘を借りたくて来たんだけど」
「では、少しお待ちください。サンドイッチとアイスティーをお出ししますね」
「あ、ありがとうございます……」「茶々丸さーん、お茶菓子もお願いねー♡」「な、何かご飯、たかりに来たみたいになってない? ウチら……」
まき絵、もうちょっと自重して…………。
あっ、でも出してもらえるなら、私ももらおうかな。実際お腹はだいぶ空いてるんだ。本当なら女子らしくなくラーメンとか食べにいこうかなって思ってたくらい。
部屋のソファに腰を下ろして、私たちは顔を合わせてアイスティーを飲む。……あ、美味しい。まだ春とはいえ、夏場の始まりだから特に。
「って、涼んでる場合じゃなーい! アキラちゃん、きっちり説明してもらうからね! きーっちり!」
「うんうん」
「わわっ!? せ、説明といっても…………」
また漫画みたいな可愛い感じになっているよ二人とも……。でもまあ、ネギ君も忙しいから。二人とも、あっちに直接聞きにいけないくらいに、ネギ君はオンの時とオフのときの忙しさがけた違いに変わってしまっているし。
テラフォーミング事業? を始めとして、色々と東奔西走しているらしいというのは、宮崎たちから聞いた。
それでいながら、麻帆良での教職も英語だけは残っているし、フェイトに代打しないで自分でやれるようになってきてるから、はっきり言ってスーパーマンだと思う。
「で、そんなネギ君と、なんでアキラがわざわざデートしてたん?」
「あー! さてはひょっとしてアキラちゃんも……!」
「い、嫌……!? 違う違う、そういうのじゃないって」
「怪しい……」
「ねー。中学の時も、そう言えばずーっとネギくんのこと、可愛い可愛いって言ってたしー…」
「なんか、フツーに体育祭の時に仮契約とかもしとったみたいやしー……」
「仮契約は不可抗力だよっっ!!!!! それに二人とも、その、何とも言えない目は止めてってば…………」
ジーッと、白目でも剥いちゃいそうになってるな……。せっかく可愛いのに台無しだ。そんなにネギ君と一緒に出掛けたのが問題だったのか。
いやでも、最終的には柿崎たちに巻き込まれて、私とネギ君とを着せ替え人形にしちゃって遊んでたし…………。結局本題のところ、ネギ君の悩みは解消できなかったし。
「「ネギ君の悩み?」」
「うん。ほら、アスナが居なくなってから……」
「あー確かに、色々大変だもんねー」
「でも全然、泣きそうにはなってへんよね? ネギ君って」
「うん。たぶん、色々抱えて走って行っちゃうタイプの子だから。で、長谷川から様子見を頼まれてさ」
「なんで千雨ちゃん?」
自分でしないの? というまき絵の一言一言。私もそれは思ったけど、あれはきっと長谷川なりのネギ君への気遣いだ。
長谷川いわく「なんつーか私に対しちゃ、神楽坂相手よりもガンコになっちまってるからなぁ最近。話を聞き出そうとしても、たぶん誤魔化して逃げられるオチだな。その点、お前なら案外ぽろっと零すんじゃねーかと思ってな」と。
実際その読みは間違ってなくて、少しとっかかり、みたいなのは聞けたから、あっちには伝えたんだけど…………。
「それで、聞き出すのにいきなりじゃ警戒心が強いから、一緒に色々遊んで回ってからの方がいいってことで、だから私がネギ君に悩みがあるって体で時間をとってもらったんだ」
「千雨ちゃんが…………」「どんな悩みだったん?」
「それは、私の口からはちょっと言えないかな……、ね、ネギ君の色々、繊細な部分だし」
「あー、でもネギ君とデートかぁ……。最近、あの年齢操作するお薬でちょっとナギさんっぽくなっとるし、ええなぁアキラ。ウチ、そのままネギ君とデートしたらむしろ負担なりそうやし――――」
「――――何やら面白い話をしているじゃないか、貴様ら。
嗚呼、実に興味深い。
あの
わわわっ!!! と、私たち三人で声を上げてしまった。半二階の上から、ゆらりゆらりと眠そうに下りて来たエヴァンジェリンさん。相変わらず綺麗で長い髪をしていて…………、このメンバーの中で最も容姿が変わっていなかった。
恰好は何かこう……、えっと、体格は十歳なんだけど、その露出度はその、どうなんだろう…………、こっちまで顔が赤くなっちゃいそうだ。
「マスター、これを」
「ん? ボタン式のシャツ…………、あー、まあ暑いしこのままで良いだろう。
関東はどうもジメジメしていかん。
……せっかく居るんだ茶々丸、私にもアイスティーだ」
「かしこまりました。チャチャ3?」
「承知しました、お姉様」
えっと、茶々丸さんの背後に、いつの間にか色違いの茶々丸さんみたいな人が出て来てて…………、妹? えっ? また新しく出来たってことなのか。
混乱する私たちを気にせず、一番奥の上座、長方形のテーブルの尖った場所へ陣取り、ニヤニヤしてくるエヴァちゃん。
「しかしまさか大河内、お前までぼーや争奪戦に参戦とは……。
ククク、神楽坂のアホが見てたらさぞやきもきしたことだろうなぁ」
「それは違うっっっ! というよりエヴァンジェリンさん、その顔は絶対聞いていた!」
「そりゃあ、こんな間近で大声で騒がれていたらな。
私の入眠時間を何と心得る貴様ら、と揶揄いたくもなるさ」
「エ
「いや佐々木まき絵、貴様はまず吸血鬼へ朝早く起きろと言うことに疑問を持て」
その調子でよく魔法世界を生き抜いたなお前と明石は、とエヴァンジェリンさんは、やれやれとため息をつき肩をすくめた。
「もっともそんなことを言い出せば、あのぼーやとて似たようなものだがな。
ククク、それはそうと…………、大河内アキラ。実はお前に用事があったんだ」
「私に用事?」
「客が来てるんだよお前に。
私にとっての師匠…………、というにはクセが強すぎてそうと認めてやるものかと言う感覚ではあるが、まあ腹立たしいことに否定する材料の方が少ない状況にある女だ」
アルバイト代も出すし水泳の練習も出来るようにしてやるから少し手を貸せだそうだ、私は会うつもりはないが。
エヴァンジェリンさんのそんな言葉に、私は、はぁとしか返せなかった。
※ ※ ※
「…………それで、顔合わせをして雇用条件と、こっちに泊まりだって話を聞いて、色々通して準備して来たのが今なんだ」
「いや、俺もはぁとしか返せないんスが…………。あと一つ聞いて良いッスか?」
「何だい?」
「何で俺、今膝枕されてるんスかね」
私の一言に、「ごめん、つい……」と少し照れながら悪戯っぽく微笑む大河内アキラは間違いなく私のメンタルには大ダメージであり(性癖的な意味で)、口から告白まがいのことを口走らないため太ももを思いっきり抓って我慢だ。痛い。
あれから師匠に従って特訓…………、竜宮の遣いによる瞬間移動とそれに対応するための訓練を重ねていた私だったが、状況は一方的だった。本来なら吸血鬼的(魔人的?)体力も消耗しないはずなのだが、現在の肉体では生憎そうもいかない。疲弊するだけ疲弊して、振り回されるだけ振り回された結果が今の状況であり、端的に言ってバテバテで五体を投げ出していた。
もっと言うと、一度は気絶した。疲労からの気絶であり、ある意味では生命の危機なので「不死者的には」ここでようやく再生がかかったのだろうが、そうとは知らないのが大河内アキラである。師匠や九龍天狗の姿はそこにはく、おろおろした結果、柱の陰で私を膝枕することにしたらしい。膝枕の是非はともかく、柱の陰は確かに雨の範囲外になるので、再生中とはいえ身体を冷やさないためには間違っていないだろうが…………。
とはいえ膝枕は大変心地よいもので結果として頭が痛い(白目)。
「もっと寝なくて大丈夫? さっき凄い顔色していたから、えっと、キクチヨ君」
こっちの反応をどうとらえたのか不明だが、そっと額を撫でてくれるのもこう体温的に少しひんやりしてて悪くないのですがそれよりもむずがるように太もも動かすのを止めてもらえませんかねぇ特にソックス長い訳でもスカート長い訳でもないからダイレクトに体温と体温が接触してしまい脈が聞こえるのだ。
実際現実でやると痺れるとか毛が邪魔とか汗疹になると面倒とか「私」的な女性づきあいで学びはしたが、気候的な問題もあって汗疹やらの心配はないし、案外しっかりした太ももの弾力には痺れている様子はまるでなかった。このあたり、色々鍛え方が違うのかもしれない。
それはともかく。目を覚まして当然のように混乱した私に「無理するな、大丈夫。お姉さんは君を襲ったりしないから」などと向こうも混乱したようなことを言い(混乱)、そして事情を説明するように色々と話した末に今に至る訳だが。
そっか、旧3-Aエロ女帝率いる三人に、ネギぼーず共々着せ替え人形にされちゃったのか…………、ネギぼーずもあの貝殻っぽいの見ちゃったのか、そっかそっか…………。いや、何だろうこの下っ腹がぐらぐらする精神的に痛い感覚は(白目)。
まぁそれはともかく。今の私の口から出て当たり障りないだろう感想は。
「とりあえず知らない名前が多いなーっつーことで」
「あっ、それは、ごめん。えっと、亜子とまき絵っていうのは、中学からの友達で、クラスメイトだった子たちだったんだ。今は亜子とは一緒のクラスだけど、当時のクラスは今でもよく集まるし…………て、そういう話じゃないな。
うん、とにかく友達と色々やってたら、エヴァンジェリンさんって子から言われてね。それで、今日から数日間はアルバイトということで、こっちに寝泊まりすることになるんだ」
とはいっても場所はわからないんだけどね、と苦笑いする彼女にもはや何といったらいいか…………。確かに一朝一夕で、今の身体能力での対応が出来るとはとても思えないのだが、それにしたって師匠は私をどうしたいのかと文句を言いたくもなる。何だ? 慣れろってか? ここで大河内アキラに慣れておけば夏凜と顔を合わせても何とか乗り切れるって?
……………………ちょっとその、一理ありそうで否定できない(震え声)。
「あぁ……、キクチヨ君、顔色が悪くなってる」
「だ、だ、大丈夫デス」
「本当に大丈夫かな…………。ダーナさんからは、ツバつけておけば治る、みたいなことを言われたけど」
「一体あのお師匠は俺のことどう紹介してたんスかね……?」
「えーっと…………」
指を唇にあてて上を見上げて考え込む姿勢が大変美人である。好き(好き)。
「エヴァンジェリンさんよりも出来が良い吸血鬼で、色々あって能力を封印されてて、あと女の子にモテモテだって」
「最初のはよく判らないッスけど、一番最後のはどうなんでしょうねぇ…………」
「駄目だぞ、女の子の心を弄んじゃ」
「別に何もやってないのだが(震え声)」
むっとしながらめっと軽くお叱りしてくるのはともかく、その仕草が両手の人差し指で私の頬をツンツンしてくる挙動なのは一体どういう心理なんでしょうかね…………。完全に子ども扱いのつもりなのだろうが、こちらとしてはドキドキしっぱなしで何かがおかしくなってしまいそうだ(※すでにおかしい)。
「私は真剣に諭してるんだから、そんな嬉しそうな顔しちゃ駄目だ」
「えっ? あー、はい、済みません。でもちょっとこればっかりは…………」
「ま、まぁ…………、ストレートに、た、た、タイプなんだと言われて悪い気はしなかったけれど、それはそれ、これはこれ」
言いながらもちょっと頬を赤くしてらっしゃるお姿がとてつもなく胃にもたれる。私もそろそろ釘宮に胃薬の相談をした方が良いのではないだろうか。
「エヴァンジェリンさんから『時空を超えた場所から依頼が来てる』って言われてたし、ダーナさんも『時代が違う』とは言っていたから、わかってるとは思うけど」
「あー、ハイ、大丈夫ッス。別にその、好みのタイプなんでどうこうっていうのは無いです、はい」
というよりも「好みのタイプだから何も間違えてはいけない」という方が色々胃に辛いのです、ハイ。とはいえそんな内心を語るわけにもいかず、胃の当たりを押さえながら苦笑いを浮かべる他なかった。
もう大丈夫だと、これ以上こんな大河内さんのお胸を下から見上げるような構図でいるわけにもいかないので、少しだけ無理をして上体を起こす――――痛いッ!? こう、筋肉痛と筋違えの中間くらいの感覚だ。肉離れほどはいってないのは、そのレベルには再生しているからだろうか。
だがそんな反応をした瞬間に後ろから抱き留められてちょっとまってえええええええええええええええええええっ!!?!?!?! ごめん無理、処理しきれない、私、口調おかしくなっちゃいますからちょっと優しく「ぎゅっ」ってしないで少しはこっちを意識してくれないですかねお胸当たっちゃってるしほっぺとほっぺくっついちゃってるしさああああああッ!!!!!!!!?!?!(大混乱)
「ちょっと、大丈夫か? キクチヨ君、私も結構容赦なくなぐっちゃったから、無理しないでいいんだ」
「は、
「ひ?」
「あの、済みません、本当大丈夫なんで、少しだけ離れて頂けると
「私……? って、そういう訳にもいかない。エヴァンジェリンさんだって、ネギ君から聞いたけど普段は病弱な女の子なんだろう。だったら能力を封印されている今の君も、そこまで差はないはずだ」
「(いや花粉症に朝苦手に運動神経ぐっだぐだなのは完全に本人の問題では……)」
「何かボソボソと言ったかい?」
「あっ、いえ、何でもないッスけど」
「だから…………、よっと」
「きゅ――――――――」
お姫様抱っこであった。紛うことなきお姫様抱っこであった。
ただし、されているのは私であった――――情けないけど仕方ないね!(自棄)
身長差的にこっちの方が運ぶなら早いと考えたのだろうが、腕にお胸はあたるは彼女の顔と息遣いが近いわで思わず石となる私である。そんなこちらの様子を一瞥もせず、空を見上げて「このままだと風邪もひきそうだ」と心配そうに言う大河内アキラは。
「キクチヨ君、水着の持ち合わせはある?」
「…………はい?」
その申し出は一体何を意味しているのでしょうかと、正直問い返したくはない私であった。
追:ちょっと時系列がおかしな部分が残ってたので、少し修正しました