今回は当社比でいってもガバが少ない回、のはず…
ST172.Lacking Out of Basic Skills about...
ちゃぷちゃぷと水の音が鳴る。風呂ではない、もっと広く、もっと深い水色で、湯気は上っていない。だが先ほどの温水と冷水の中間くらいのこのぬるま湯が今の私には心地よく、このまま意識を手放してしまいたいがそうはいかない。
何故ならば。
「がばばばがぼぼがぼがぼ――――――――」
「き、キクチヨ君っ!?」
現在、温水プールにて絶賛沈没中であるためだ。
冒頭早々溺れっぱなしで申し訳ないが、水泳など久々と言い訳するのも烏滸がましい程に、当然のように私は簡単に溺れていた。底の深さは私より大河内アキラに調整されているせいか水を入れると彼女の胸より少し上くらいの高さなのだが、お陰でこちらの頭はデフォルトでは完全に浸水する。だから当然犬かきとも平泳ぎともつかない方法で手足をゆるくばたつかせるか浮かぼうかというところであったのだが、準備体操など一通りしてから着水した時点で速攻ガボガボと浮かび上がることは無かった。
「よい、しょっとっ!」
「ひっ…!?」
そしてそのまま沈み込もうとした私を、当然のように背中から抱きしめて持ち上げて抱っこする形で浮かばせる大河内アキラ。原作でもたまーに見かけたクルクル巻ポニーテールである。彼女はそのままプールのへりの部分まで私を誘導し、階段に足をつけさせた。
これが夏凜であれば背中に当たっていたおっぱいやら何やらをそのまま意識させながら色々と囁いてくるところだろうが、一瞬感じた弾力も常識的な時間で離脱させてもらえたので私としては大助かりである。うん、これが普通の異性の子供への距離の取り方だよね!(震え声)
こちらが梯子に捕まって、息を整え始めたあたりで背中をさすり、咽返るこちらを気遣う大河内アキラ。特に赤くもなっておらず、真摯に心配してくれるその表情好き(好き)。
一先ず状況整理だが。
このプール自体は先ほどの体育館からそう離れていない場所。大河内アキラによって誘導され、ついていった先にあったここは、お金持ちとかの豪邸にありそうな温水プールでありながら、構造やら何やらは完全に市民プール然としていた。造形については室内移動で至ったこともあって、こちらもまたローマ風なんだかギリシア風なんだかという古めかしい造形だが、要所要所の排水まわりやら給水まわりやらは現代基準のもので、作成年代がさっぱりである。
『私は水泳部なんだ。それで、学校のプールが今改装工事中で、練習場所を探していたんだ。話したかもしれないけど今回のアルバイト、ダーナさんにその補填というか、練習時間を確保させてほしいっていうのを報酬の一つにしてもらってるから、こうして場所を貸してくれてるんだ』
まあ私室の話とか全然教えてもらっていないで、こっちだけ先に教えてもらっちゃったんだけど、と笑う彼女に、私は「はぁ」と間の抜けた返事しかできなかった。
と言う訳で、ここは最初の頃に大河内アキラへとダーナ師匠から場所を教えられたらしい。予定では、私の修行の面倒を見終わったらここを利用して水泳の特訓をするということらしいのだが。
「何故一緒に温水プールに入る流れに?」
「気分転換かな。あとさっきの雨で身体を冷やしてるようだったし」
「それはそれは、あー、ありがとうございます。……それはそうとして、えっと済みません、着替える場所とか色々準備がないんスけど……」
「へっ?」
仮契約カードを使用し一瞬で競泳水着にコスチュームチェンジした大河内アキラを前に、未だ濡れ水漬で困惑した私であった。水着の持ち合わせは無い訳ではないが、それとてこの拠点の私室の方(例のオタク部屋)に支給品で、である。流石に全裸で入る訳にもいかないという話なので、少々お待ち頂きたいのだがと思ったら。
『――――はい、どうぞ「菊千代」君』
「はいッ!?」
師匠が派遣したのか、当たり前のように
こちらの意志が伝わったのかは不明だが、しばらく私の顔を見つめてゴーグルやらバスタオルやら着替えの水着やらを渡した後、少しだけ微笑んでから姿を消した。本当に「ぬるっ」と音もなく塗りつぶされるように瞬時に消えているので、おそらく師匠の側が色々手を貸しているのだろうが、大河内さんと戯れてから全然コメントが飛んでこないのはどういうことなのだろうか。
まぁ空気を読んでもらっているというのなら、それは本心から有難いところではある。……有難いからと言って私の胃にダメージが行かないかどうかとは別であるが。
閑話休題。
そして冒頭に戻る訳だが。
「大丈夫、キクチヨくん。入っておいで――――」
「ぶぶぶくぶく……」
「――――って言ってる傍からまたッ!?」
ひたすらに泳げないのである。
いや、絶対におかしいのだが……。原作刀太の水泳技能については不明だが(多分泳げるだろうが)、私に関しては「私」も近衛刀太の肉体も決してカナヅチではない。
それは、蹴伸びをしようとすると身体が沈んでいくとか、まるで身体に妙に強い重りをつけられているような、そんな状況とでも言えば良いか……。
「だ、大丈夫っ!?」
「――――――――ッ!?」
あと彼女も彼女で本当に私の事を近所のちびっ子くらいの感覚で見ているのか、救い上げる際にハグしたりするのに全然躊躇いが無かった。だから正面から思いっきり抱きしめるの止めてクレメンス……、クレメンス……、そろそろ何か変なガバを疑い出しかねない。
「なんつーか……、余計な手間かけまくってスミマセン」
「はは……、気にしなくて大丈夫だよ。大体、1月くらいここで訓練しても、あっちでは数日経過した程度らしいから」
「時空が歪んでいる……」
それはそうと、今度は二人ともあがり、ビーチサイドでバスタオルにお互い包まって休憩。ついでに雑談となったので、何故私に対して距離感が近いのか聞いてみると。
「あぁ、えっとね? その、少しだけどネギ君を思い出しちゃったから、かなぁ」
犬上小太郎の言っていた話と同様のものなのか、大河内アキラから見ても私には何かしらネギぼーずの面影のようなものがあるらしい。
「こう、何て言ったら良いかな……。困った時の顔とか、慌ててる時の顔とか、あと笑った時の感じとかが、さっき話してたネギ君みたいな感じがしたんだ。…………えっと、一応聞いておくけど、君、血縁者にアスナとかいないかな?」
「いや、知らないッスけど」
割と近衛刀太の出生と言う意味ではクリティカルなことを聞いてくる彼女にお茶を濁すが、「あ、あんまりそういう話を聞くとタイム・パラドックスだっけ? 超さんも言っていたから、いいよ」と回答を保留にさせてもらえた。一体いつその話を聞いたこの美少女は……。
いや、自発的に余計な情報を聞かないようにしてくれるのは大変ありがたいので、こちらとしても色々万々歳なのだが…………。
「こう、ネギ君だと私以外に好きな子が、たぶん居るんだ。アスナ、さっき話してたずっと遠い所に行っちゃった友達とも別に。だから年上のお姉さんとしては、男の子のそういう、複雑な心の機微を考えると、ちょっと接し方がわからなくなっちゃって……。
だから逆に、キクチヨ君の場合は、気兼ねなく接することが出来るというか、なんだ」
「何でっスかね」
「ちょっと
「何でエッチとか言っちゃってるんだアンタッ!?」
「仮契約カードで水着姿に変身するときとか、コスチューム変更するときとか、じーっと凝視してたし。大事なところはぼやけるみたいだけど、一瞬全裸になるのは知ってるよ?」
「あー …………」
確かにそこの仕様は、この世界だと劇場版「ネギま!」仕様だったりするので、瞬き程度の時間だが一瞬確かに古から伝わる魔法少女ものの変身バンクがごとく身体が全裸に輝いたりしているが。
「君もネギ君みたいに、あんまり甘えるタイプじゃないみたいだ。だけど、そこはあまり気を遣わずに少しくらいなら甘やかしてあげても、自制してくれるって信じられるタイプな気がする。だから、私の尺度で大丈夫と思ったくらいは、色々横から助けてあげてもいいかなと思った。そうやってサポートしてあげるのは好きだから」
「流石にハグしておっぱいに頭挟んじゃうのはアウトなんでは(震え声)」
「へ? …………、えッ!? ちょ、それは、えっと――――キクチヨ君の
今度は殴らず胸元を隠すようにバスタオルで覆うだけだったが、表情やらもぞもぞ動くお脚やらチラ見えする競泳水着やらで正直ご馳走様です、好き(告白)。それはともかく、どうやら無自覚だったようだ。まあ考えれば元々中学高校ともに女子高のノリで進んでいるので、そのあたりの距離感やら機微(本能)やらに疎いのは仕方ないのだろうか。
「でも、ごめんね。身体の感じからして、まさか泳げないとは思ってなくて。ビート板とかの用意は流石に無いと思うんだけど、このプール……」
「い、いや、俺も普通に泳げるはずなんスけど……」
「「…………?」」
どうしたんだろう? と二人して顔を合わせて不思議がる私たちであったが、そのお顔を直視できず視線を下に逸らし、たと同時にお胸のサイズを前に視線をさらに横に逸らした。
「
「ッ!?」
「フフ、冗談だ」
心臓に悪いのでそうやってクスクス笑って揶揄って遊んで来るのお止めいただけませんかねぇ、大好き(告白)。
とりあえずもう一度挑戦してみようということで、今度は大河内さんに手を引かれながら、ゆるくバタ足をして微前進していく私である。絵面としては色々と恰好悪いが、視線が胸にどうしても不可抗力で行ってしまう。お陰で色々と男子中学生が男子中学生してしまいそうなところだが、脳内でひたすら
「うん、上手上手。その調子だ、キクチヨ君。…………本当、なんで泳げないんだろう? バタ足に失敗してる訳でもなく、息継ぎの動きも問題ないと思うのだけど」
「いや、そもそもなんスけど、熊本在住の頃に泳げるように
「そっち出身なんだ。ふーん……。あっ、何か美味しいものとかってあるかな?」
唐突に雑談が始まっているが、話しながらも「もうちょっとキックは力を抜いて」とか「ターンするよここで」とか、基本的なサジェスチョンやら動きやらはしているので、気を紛らわせているというより、私の無意識時の動きを見ているのだろう。
「馬刺しは、まあ滅多に食わないけど美味いっちゃ美味いッスね。何か歯ごたえのあるマグロ食ってるみたいな感想なんスけど。友達(九郎丸)は結構喜んで食べてましたね」
「有名だからね、馬刺し」
「あとは、比較的近所にあったけど一度も行ったことなかったなぁ麻帆良ラーメンたかみちのチェーン店……」
「麻帆良ラーメンたかみち!?」
あっ拙いガバである(白目)。彼女の時代にはおそらくまだ存在しないだろうラーメン屋だ、深堀すると色々問題が出て来るので、その話は適当に濁して話題を移した。
「そういえばなんスけど、アキラさんって彼氏とか居ないんスか?」
「や、藪から棒に聞いて来るな……」
「あー、済みません。話題がぱっと思いつかなかったんで。……ひょっとしてさっき話してた天才先生ネギぼーずに――――」
「いや、それは無いから。私なんか。……まあ、弟がいたらこんな可愛いのかなーと思ったり? 時々年齢不相応なくらい大人びてる時もあるけど。大人に
「(あっ身体の成長が止まってることは知っているのか……)。えーっと、では?」
「う、うん。今の所はいないかな。……いたら流石に、いくら可愛い子でもこうは接していないと思う」
それは確かにごもっともだが、居ても居なくてももうちょっとだけ接し方は改善してもらいたい。嬉しいかどうかはともかく、心臓と胃が持たない(死)。そんなことを考えて油断していたのが悪かったのかもしれない。大河内アキラはらしくもないくらい悪戯っぽい挑戦的な笑みを浮かべて、私に目線を合わせ。
「そんなキクチヨ君には、好きな子はいるのかな」
「――――――――ッ!?」
目の前の貴女を愛してると一言で言える立場であればどれ程良かったことか(血涙)。
脳裏を過る九郎丸やらキリヱやらカトラスやら忍やら夏凜やら、あと睨みつけるような、寂し気な雪姫の顔…………。いや特に夏凜に関しては色々とこの時点でガバの天井を突破して団参宇宙速度でスイングバイ・バイバイされているので(意味不明)好きとか嫌いとかそれ以前に責任問題が絡んでくるので、一言で説明するのが難しい。
そんな私の百面相を見たせいか、彼女は少し慌てたように「や、やっぱり言わなくていいよ? ……私に柿崎の真似は難しいな」とか言って中断してもらえた。何と言うか、色々助かるというか…………。
後思っていた以上に、彼女との会話のペースにストレスを感じなかった。
こういう場合、大体時系列やら情報共有レベルやらのことを現状やら原作やらと照らし合わせて会話したりイベント進行したりする際、ガバ発生にともなってなし崩しで崩壊することが多発するとそれこそ毎回非常にストレスを抱えているのだが。不思議な程彼女もこちらに色々聞いてきたりせず、それでいて不思議と察して欲しい所は察してくれるというか。
その分、彼女に負担させていないか心配にはなるが、外から見る限りそうでもなさそうで。意外と向こうも、私と話すのを楽しんでくれているように見えるのが救いだ。というか、その照れたような反応が癒しだった。好き(脳死)。
「えっと、ふと思ったのだけれど」
状態的に、大河内アキラを見上げる形で視線を合わせて続きを聞く。
「吸血鬼って確か、水、駄目じゃなかったかな」
「海とか川とか渡れないってやつっスかね」
「そう、それ。エヴァンジェリンさんを見る限り、そういうことはないようだけれど…………」
まあ私やエヴァちゃんの場合「結果的に」吸血鬼と呼べるものになっているというだけなので、地球の幻想生物の類の吸血鬼伝承のそれが通じる訳ではない。
「一応、その吸血鬼的パワーを封印されてるうちは、俺もフツーの人間なんスよね。だから、その上で言うと身体能力が――――――――あっ」
そして、思い至った。というよりも今まででは絶対に気付かなかったろう事に気付いてしまった。
そうだ、そもそも私は「こうなったことが無かった」のだ。熊本で暮らしていた時も。
「キクチヨ君?」
「あー、そうか。そういう可能性があるのか…………、いや全然その可能性は検討もしてなかったッスけど」
「何かわかったのか」
「まー、はい。エヴァ……ンジェリン、さん、の話を聞いて、少し」
ビーチサイドに上げてもらってから、座りながら私は彼女を見下ろしつつ、考えを整理する。
「…………そもそも生まれてこの方、吸血鬼性が『本当の意味で』無くなったってことが、俺、なかったんスけど、その上でここ最近はそれが『極まっていた』んスよ」
考えてみれば、当たり前と言えば当たり前であり、今更改めて確認するまでもない前提かもしれないが。
そもそも2年前の事故の後、この「私」が近衛刀太に憑依なのか転生なのか「発生」なのかは不明だが、ともかくこの世界に降り立った時から。その時点で「死んでいなかった」と言う時点で、「金星の黒」による再生は強く発動していたのだ。
でなければ考えてもみれば、ちょっとスパルタの入った雪姫のしごきにもついていけるはずはないし、翌日普通に学校に通えていた体力の根源は、まさにそこだったのではないだろうか。
再生するし血装術も扱える以上、そのつながりは決して0と言う訳ではないだろうが。今までならそれこそ星月が胸部に残していた「自動回天」で血を引き出していた状態を現時点のマックスと仮定すると。
そこからいきなり最底辺に戻っているこの肉体と言うのは――――――――。
それこそエヴァちゃんにおける弱体化状態、歩けば転ぶわ花粉症や風邪に悩まされるわといった虚弱態のそれと何ら変わりないのではないだろうか。
つまり、である。
「吸血鬼性に頼り続けた結果、そっちが基準となって素の身体の基本的なスキル、反射やら身体能力やらはそもそも追いついていない。…………言い方は悪いッスけど、生身のままが『弱く』なってるってことっスかね」
「生身のままが、弱く…………?」
いまいち理解が追い付いていない大河内アキラ。下手な説明で申し訳ないが、私も上手く説明できる気がしない。要するに特撮ヒーローで例えるなら、最強フォームでの秒殺が安定しすぎて基本的な戦闘スキルが疎かになって、最強フォームが封印された結果最初期の頃よりも色々なスキルが弱体化して敵に完敗してしまうような、そんなところだろう。
流石にそこまで弱っているという訳ではないが、洗練のされ方が落ちている。結果として、身体が微成長したせいで勝手が変わっているのもあるとはいえ、完全に泳げなくなるまで「基本的な身体操作」すら弱体化しているのだ。
それこそ大河内アキラの瞬間移動による一撃も、「本来なら」、雪姫が鍛えたレベルであるなら、あれくらいはもっと何か上手く対応できてしかるべきだろう。
まあ一番影響が大きいのは
そこまでくると、次にやるべきことが決まってくるわけで…………。
「という訳でまことに申しあげ辛いんスけど…………、しばらくスパーリング? とか素振りとか、あと泳ぎの練習とか一緒にしてもらえると嬉しいッス」
「それは、必要なことなんだね、君にとって」
「まあ今の所は、ハイ…………」
「うん。じゃあ……、いいよ? 手伝う」
多分、そういうことも含めてトレーニングマシーンとかの場所も教えてもらったんだろうしね、と。そんなことを微笑みながら言ってくれる大河内アキラは相変わらず大好きなのだが(性癖)、それはそうとしてこの結論に至るのまで師匠に察されていたのが少々納得がいかなかった。単にちょっと癪に障ったのだった。
なお結局この日、私は大河内さんのお手引き無しで水泳することは出来なかった。