光る風を超えて   作:黒兎可

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毎度ご好評あざますナ!
 
カトラスちゃんのパラディンもそろそろ 100/100


ST173.しのべぬこころ

ST173.Unrequited Love, Mutual Love

 

 

 

 

 

「――――――――ぁぁああああああああああん! に゛ゃん、もうッ! えらい目に遭ったわッ!

 ってええええッ!? 水無瀬小夜子ォ! なんでここいるのヨ!?」

 

「あっお帰りキリヱちゃん」

「お帰りッス」

 

 オレと九郎丸とで、キリヱ先輩を出迎えた。

 場所は、あん時のアレアレ、俺たちが白い扉に呑み込まれた時のそこ。

 空は快晴でちょっと熱くて、ブルーシート敷いて俺達は一緒にスポドリ飲んでた。なんか烏みたいな仮面つけた、ちょっと髪が光ってる巫女さんが持って来たやつ。

 

 そしてオレの横で、キリヱ先輩の反応を見て楽しそうにしてる――――。

 

「クスクス、相変わらずリアクション面白いわーキリヱちゃんさん。あんまり絡みはなかったけど、思ったより揶揄い甲斐がありそうな人ね。子供っぽくて」

 

「子供っぽくては余計よ! あと、ちゃんさん止めなさいヨっ! ちゅーにみたいな言い方してーっ! っていうよりどーゆー距離感ヨ、そもそも面識だってロクにあって無いよーなものじゃない貴女ッ!!?」

 

 ――――黒いフリフリしたワンピース姿の小夜子。水無瀬小夜子。……オレんところの特別レッスン終わったら、ナンかそのまま消えないで「もうしばらく一緒にいられるしー♪」とか言って付いてきた小夜子。

 なんか凄い楽しそうにキリヱ先輩を煽ってる。前よりも言葉に毒というか性格のワルさみてェのが出てる。これは、まァ成仏(?)前にオレと色々言い合ったせいなのか……?

 

 まァ楽しそうだから別に良いか。

 

「ちょっと佐々木三太ァ! ちゃんと彼女のストッパーになりなさいよ役目でしょ、彼氏のくせにッ!」

「か、カレ……!?」

「か、カノジョ……、うん、まあ、彼女だから別にね! ちゃんと好きな子に告白して、付き合ってるもの! 超遠距離恋愛だけど!

 キリヱちゃんさんと違って! 九郎丸くんちゃんとも違って!」

「うがああああああッ!」

 

「何で僕にまで飛び火したのっ!?」

 

 さっきからほぼ黙ってた九郎丸も、小夜子からは逃れられない……。つーかキリヱ先輩くるまで、ずっといじられてたからな、九郎丸。そりゃ遠い目して話を聞き流してるか。

 九郎丸もオレがストッパーとかにならないってのはわかったみたいで、ほぼ無抵抗だったし。

 

 ま、まァ小夜子もそこまで酷い毒は垂れ流したりはしねェから…………。

 

「あー、でも酷い目に遭ったわ……。まさかまた百年くらいカンヅメされるとか思ってなかった…………」

「ひ、百年?」

「よくわからないけど、大変そうね」

「そーよー九郎丸も水無瀬小夜子もー。……って、ちゃんと現代に帰ってきてるわよねこれ? あの魔女さんのそーゆー能力なんでもありすぎて、逆に心配なんだけど。ざっくばらんに適当な時間に戻されたりしてないわよね? 大丈夫?」

「だ、大丈夫じゃないかな……。刀太君やカトラスちゃんはまだ終わってないみたいだけど」

「ちゅーにが終わってないとか、なんでわかるのヨ?」

 

 これ、と九郎丸が指さした方。水瓶が二つ。一つの底はずっと真っ暗で、もう一つの方は水面に映像が映ってる。どんな原理か全然わかんねェけど、なんか戦ってる映像の実況中継みてェのが映ってるんだ。

 片方はたぶん刀太のなんだろうけど、そっちは映像がずっと見えない。でもカトラス、刀太の妹っつーあの女の方はずっと見えてる。

  

「古い映写機じゃないんだから、何ヨこれ……」

「あー! わかるんだキリヱちゃん。エジソ○のやつ。流石、年の功――――」

「そのネタでいじるの止めなさいヨ!? あっちの魔女さんに散々いじられたしーッ!」

「あー、はいはい、でも、カトラスっつったっけ? の方も佳境ッスよキリヱ先輩」

「うがー! がー!」

「き、キリヱちゃん落ち着いて……」

 

 映ってるのはなんていうか、ファンタジーなんだか近未来なんだかみたいなゲームみたいな映像の中で、なんか色々戦っていてる。手持ちの銃(弓?)とか剣とかが通用しなくて、段々とボロボロになっていってる姿。古いSFバトル映画とか思い出す。フラ○シュ・ゴード○みてェなやつ。

 流石にジリ貧ってなった時、収納魔法アプリみたいなやつからカトラスは何か取り出した。

 

『くそ……っ、雑魚倒す分には全然使えなかったけど、これならイケるか? もうこれしか無いんだけどな――――』

 

 

 

 ――――重力剣・アトラクター!

 

 

 

「……重力剣?」

 

 九郎丸は何か名前が気になってるみてェだけど、画面はそれどころじゃねェ。そう言って取り出した両刃の剣を振るって…………、その振るった衝撃と一緒に、タイツ風のムキムキコンバットスーツっぽい姿のアメコミみてェなラスボス共々、カトラス、一緒に壁に叩きつけられてた。

 

 自爆してんじゃないのヨ!? って言うキリヱ先輩の一言に、小夜子は意地悪そうにクスクス笑っていた。……あの、お前の性格は十分わかってるつもりだけど、そういう顔はもうちょっと自重して欲しいっつーか、もっと普通に可愛く笑えンだろお前よ…………。

 

 

 

 

  ※  ※  ※

 

 

 

「ごちそうさま」

「お粗末様ッス」

 

 大河内アキラと正面から顔を合わせ、本日の朝食であるスパゲッティペペロンチーノをたいらげた。……うんそもそも何故彼女と一緒に朝食をとっているかと言う話になるのだが、これについてはしばらく時系列が飛んだものだという前提から説明したい。

 我が最推しであるところの大河内アキラと、師匠による計らいか修行編が始まって早々だったが、なんとその日の夜中早々に彼女が私室(例の漫画アニメ部屋)へと尋ねて来た。これが夏凜だったら夜這いか何かを疑わないといけない話だが(深夜ではなかったが)、本気で困った様子の彼女に手を引かれてついていくことになり。

 

『くっ…………、コロせッ!』

『いや何でアンタ捕まってんだよ……』

『やっぱり知り合いだったか。えっと、殴りかかられたものだから、つい……、拘束できるものがなかったから、その、ごめんなさいだ』

『ううっ……』

『まー、ガムテ拘束は痛いからなぁ…………。どうせ問答無用で殴りかかったんだろうから、同情はしねーけど』

 

 大河内さんに割り当てられたらしい部屋(間取りは一緒)の手前で、四肢をガムテープで適当に拘束されたメイリンが、何やら色々とアレなことを言いながらこちらを睨んでいた。

 日に連続で、どうやらダーナ師匠へ強襲をかけたらしい。朝は私の部屋、夜は大河内さんの部屋へ誘導されたらしい。まあ結果はお察しではあるが、このあたり大河内アキラもそれなりに場数を踏んでいると見るべきか、何かメイリン本人がガバでもやらかしたか(結構ポンコツっぽいし)。

 とにもかくにも、師匠が登場して彼女は彼女で別な部屋に案内されて早々にこれであったため、あまりにも意味のない再会ではあった。

 どうしたら良いかな、という大河内さんからの話に「とりあえず落ち着いたら解放しときましょうかね」と適当に話を合わせていると、ぐぅ、と腹の虫の音。大河内アキラは不思議そうにこちらを見ており、私含めお互い違う。ということはとそろってメイリンに目を向ければ、彼女は屈辱らしく舌打ちしながら顔を地面に伏せていた。

 

『……せっかくだから何か作りますかね』

『なん……、えっなんで?』

『あっ、キクチヨ君お料理できるんだ。ふぅん……、お姉さんちょっとポイント高いよ』

 

 何のポイントなのかはともかく、ちょっとニコニコした大河内さんとキッチンに並んで、備え付けの冷蔵庫の中から適当に見繕って温かいおそば(天ぷら付き)を作って、嫌がらせのようにフーフーしてメイリンにあーんさせたり(嫌がっていたが味については何も文句を言われなかった)。

 そんな初日以降、なんとなく大河内さんに食事へ御呼ばれする頻度が増えた。既に3週間くらいは経つが、トレーニングついででほぼ毎日お呼ばれしている。身体の基礎運動と、水泳と、あと例のテレポート戦と、それらが終わった後に彼女の部屋にお邪魔して、一緒にお料理する流れが出来上がっていた。

 

『流石にルームメイトと連絡が一日一回だけOKらしいからね。高校生にもなってこう言うとアレだけど、一人で食事とかは寂しいんだ。

 ……あっちの皆と時間の進み方が全然違うって改めて実感しちゃうのもあるし』

『どれくらいずれてるんスか?』

『大体、こっちが向こうの倍くらいの時間が進んでいる感じがするかな。見てるドラマとか、雑誌の話題的に。……学校の勉強もちょっとやっておかないと、色々忘れちゃいそう』

『それはそれは』

『キクチヨ君はどうなのか? 見た感じ、中学生だよね』

『地理は苦手ッスね。カアちゃんが』

『へぇ……、キクチヨくんのお母さん先生なんだ。…………あっ、このレンコン美味しい』

 

 そんなこんなで雑に半月経過するさ中、彼女と一緒でないときはひたすら自室でマンガ読んだり小説見たりアニメ()たり映画()たりを繰り返していた私だった。流石に最初の一週間で水泳はかろうじて出来るように回復し、後は自分でやりますと大河内さんを自分の練習に集中させたので、罪悪感的なものも少しずつ減っていき、時折カンフル剤のように強襲をしかけてくるメイリン(どう考えても師匠の仕業である)に二人で応戦したり、捕らえた後は頭を冷やさせて一緒に三人で食事をとったり……。

 

 ある意味では平和な状況が続いていた。

 これをモラトリアムとみるか、嵐の前の静けさと見るか…………。

 

 少なくとも、私にとってはそこそこ騒がしく、かつ適当に過ごしても気を許せる時間であったことだけは救いだった。

 不用意な(ガバ)発言をしても大河内さんはあまり深く追及してこないし、あまりに酷い話だった場合はオフレコでお願いしますと頼めばこころよく頷いてくれた。また、本当に口が堅いと信頼できるだけの関係が、私たちに形成されるくらいの時間は一緒にいた。

 

 推しだ何だとか以前に、本当に彼女とは一緒に居て心が疲れることがない。

 あまり深くは干渉せず、それでいて存在をあるがまま「それで良いんだよ」と言ってもらえているような、そんな深い安心感。

 それでいて私の調子がおかしい時には気を回してくれるし、気にかけてくれるし、正直言って幸せだった。

 

 だからこそ、忘れていられた。

 私自身の人格が何であるかと言うその突き付け――――夏凜の手でその主題を忘れ去ってしまっているが、ずっと頭に引っ掛かっているその強い、自分の足元どころか自分自身でさえ、気が付けば砕け散ってしまいそうな、その不審感と不安定感と、切迫感を。 

 

 エヴァちゃんを始めとして考えなければならないことは多いのに、結局最初に回ってくるのがこれなのだから我ながら情けないというか……。だが、そんな話をしてもいないのに、大河内さんは、アキラさんは緩く微笑んで頭を撫でてくれた。

 

『君が何を怖がってるかわからないし、きっと私以外の人も言うとは思うけれど……、だって、君はちゃんとした男の子なんだから。そんなに長期間過ごした訳じゃないけど、色々わかることはある。

 その、私みたいな女の子? が好きとかそういうのはともかく……。料理だったら味はシンプルな方が好きだけど風味は強い方が好きで、でも自分が作ると少し濃いめの味付けになっちゃうのを気にしてるから、意識的に味付けを薄めにして調味料を後から自分でかけてくれってしてたりとか、洗濯物のたたみ方がちょっと変だとか、文字の書き方が少し上下に蛇行しちゃってるとか。あと、色々気を遣ってくれるし、冗談も結構好きみたいだし……。初対面に近いんだろうけど、なんだかんだこうして、数日一緒に居てトラブルも起こっていないし。

 キクチヨ君は、そんな男の子だってことくらいは、私にもわかるから。うん……、君は良い子だ。だから、きっと大丈夫だよ』

『済みません好きです……(爆)』

『えぇッ!?』

 

 誤魔化しに誤魔化したのでおそらくこの時のガバ告白については問題ないだろうが……、絶対問題はない。誰が何と言おうがない。イイネ?(震え声) 大体アキラさん側は、完全に弟を見るような目で見てきているし。夏凜の時の様な得体のしれない感覚もなく、純粋にこっちの身を案じてくれている情の深さであり、そう言う所も好きなのだが、もはや二度三度の「好き!(挨拶)」はいくら何でも拙いので自重する他ない。いやそもそも言うつもりも無かったのだが(血涙)。

 だが、楽しい時間には終わりがくるもの。そのことだけはずっと、頭のどこかに引っ掛かっていた。そもそも大河内アキラと遭遇して数日一緒に過ごしているという驚天動地すら、そのリミットというか本題があるからこそなのだ。

 

 だから例の、雨が降り続いている施設の天気が晴れに戻り、そこに久々に見る師匠が立っていたのを見て、私は自然と納得がいった。今日がその日、つまりは最後の機会なのだと。

 

「あれ? ダーナさん、えっと……」

「時間と言ったら良いかねぇ。そろそろ麻帆良の方のプールも直るから、アンタは今日が最後だよ。まあ、訓練以外の報酬の支払いは後日伺うから、そこは安心しておきな。なんなら魔術契約書でも――――」

「あ、そこは、信用してます。エヴァンジェリンさんの紹介ですし。……えっと、つまりこれからの訓練が最後ってことですか? 急ですね。荷物もまとめてないし…………」

「いや、訓練が最後じゃなくて『今が』最後ってことだ。ここで最後に挨拶交わして、それでアンタの出番は終了だよ」

 

 えっ? と。話がいきなりすぎて困惑している大河内アキラだったが、なんとなく師匠がこうやって不意打ち気味に来た理由については察しがついていた。

 と、それについて考えを巡らせる前に、私の頭をバシバシ叩くお師匠。あの痛いです大分…………。絶対意図的にこちらの超速再生がかからないレベルでダメージを留めているぞこの人。

 

「いきなりの話で悪いが、こうでもしないとキクチヨがアンタにべったりになっちまいそうだからねぇ。『一番肝心なことに』全然気づいてないみたいだが、そこはアタシの側で試験じゃないが、色々やるつもりだから、心配はしなくて良い」

「…………べったり」

「否定できないだろ? キクチヨ」

「へ? いや、そこまでキクチヨ君、甘えん坊さんではないと思いますけど……?」

「好みのタイプの女を前に浮かれポンチ化はしなかったようだが、精神的な依存度が跳ね上がってきているからね。これ以上は看過できないよ」

 

 それについては否定できないのですが、と言葉を続けようとした瞬間。師匠は被せるように私と大河内アキラを見比べて。

 

 

 

「後あんまり一緒に居すぎても、アンタだって問題が出て来るだろうさ。大河内アキラ、アンタもちょっとこの男のこと好きになってきたろ」

 

 

 

「いやそんなギャグマンガみたいな…………(白目)。アキラさんも何か言ってあげてくださいよ」

「……………………」

「あ、アキラさん?」

 

 私の念押しの確認に、大河内アキラは戸惑ったように、しかし痛々しいものを見るような目で私を見て来た。

 

「その、恋愛として好きかどうかとか、そういうのは、考えないとしてだ」

「あ、はい。うん……」

「確かに前より気は許しているし、一人で大丈夫かなって思ったりはするんだ。……あっ、キクチヨ君が頼りにならないとか、そんなことじゃないよ? ただ、多分だけれども、君がダーナさんの所で修業しているっていうのは、きっと君の本意ではないんだろうなって」

「…………」

 

 二の句が継げない私に、しかし彼女は言葉を止めることは無い。師匠はそれを、少しだけ肩をすくめて見ていた。いや、あの、どうして分かるんですかねどうして……いや大体ネギぼーずのせいだなこれ。ネギぼーず相手に見てた面影というか、そういう感情やら表情やらがそのまま今の私のそれに重なってしまうのだろう。

 流石にあっちほど酷い人生やら覚悟を背負った覚えはないのだが……。このあたりネギぼーずより私の精神の方がもろいというか弱いというか、そのせいなのだろう。重圧が違っても、それに対して彼より過剰にダメージを受け過敏に反応しているのだ。

 

「だから、ずっと居る訳にもいかないんだろうけれど、もう少し一緒にいるものだと思っていたんですけど――――」

「わかるかいキクチヨ、これだよ。ここから後一週間くらい一緒に居ると異性としてどうかな? とか想い出すんだよこの女。ネギぼーずのせいで、割とその辺の性癖が歪みかけているからねぇ……。その手の男子からしたら都合が良すぎる女だよ本当」

「――――って、ええっ!? い、いや、違……! 雪広とかまき絵とかみたいな、あんなじゃ無……っ!?」

「意味もなく赤面させるの止めてあげてさしあげろ下さい……」

 

 以前にも彼氏はいないと言っていたが、この初心すぎるリアクションは今いないではなく過去にもいたことがないという反応か……。まあ確かにそれこそ、ネギぼーずを除いてそういう機会は早々ないだろうから、仕方ないと言えば仕方ないのだが。その反応の大きさが気に入ったのか、師匠に色々言葉攻めされて顔を真っ赤にして「ち、違……!」とか涙目になっている。この場においては完全にお師匠のオモチャであった。

 流石に見て居られないのと、その師匠の発言の空恐ろしさを前に、私も流石に腹をくくった。……いや全然括れてないしいきなりで割り切りはしたくないが、それでも。

 

「………………まあでも、そういうことなら、ここでお別れするのが一番『安全』だってことッスね」

「あぁ。この女としても、アンタとしてもね」

 

 仮に……、いや流石に師匠が言うほど話がトントン拍子で進むわけないと断言するが、仮にこれ以上アキラさんと私との距離感が近づいて、彼女と私の親しさが上昇したとすると。その場合何が起こるかと言えば、はっきり言って予想もつかない上に、タイムパラドックスどころの騒ぎではない。

 最初の時点でお師匠から「色々まずい」と教わった上で、彼女が私に「そういう」感情を向けたとなると。……いや、何度でも否定したいが自意識過剰で気持ち悪い感覚が強いのであまり言いたくはないが、それでも仮にそうなったとすると。本来時系列における彼女の、それこそ本来なら付き合っていた男性やら、その相手との子孫やらに色々トラブルが生じるかもしれない。「とは言うがこの女、そもそもこの世界線だとネギぼーずの『赤ちゃん騒動』の時に佐々木まき絵やらと一緒にネギぼーずの……」いきなり割り込んでくるのはお止めくれませんかねお師匠ォ!(悲鳴) 聞かない、その話は絶対聞かないぞ私は絶対!(鋼の意志)

 ま、まぁ「私」の側においても、癒しであったはずの彼女すら周辺の女性事情の一つとして取り扱わなくてはいけない頭痛のタネになりかねない。

 

 美しいものは美しいままであって欲しい、というのは。

 それがたとえ本当なら、彼女と一緒にいられるならという期待や希望や願望があるのだとしても。それでもそう強がらなければいけない、そういう立場であって。

 だからこそ、お別れは、言わないといけない。

 

 未だあうあういって「ネギま!」でも見たことないような両手で頬を挟んで顔を赤くし目をぐるぐる回して「年下……、いやでも……」「料理男子……」「す、好き好き光線みたいなのは感じてたけど……」とか色々不穏なことをつぶやき始めた彼女のその手をとって。

 

「うぅ……、ど、どうしたんだ? キクチヨ君」

「あー、まあそういう訳なんで。…………これ以上一緒にいると、こう、超さんも言ってたんでしょ? 時間とかそーゆーの関係でどうのこうのって」

「それはそうなんだけど…………、君はそれで良いのか? キクチヨ君。だって君、きっと本当は――――」

 

 

 

「良い訳はないけど、俺よりはアキラさんの方が心配ですから。俺の方はなんとかなっても、アキラさんの方の安全第一ってことで――」

 

 

 

 だから今ならまだ大丈夫だと。色々と内心をこらえながら、私は両手で彼女の手を握り――――っ?

 

「あ、あの、アキラさん?」

「んっ――――うん」

 

 そっと。当たり前のように私服姿だった彼女に数秒だけ、抱きしめられた。

 お別れの意味を込めたハグだとしても……、この時の彼女の顔を、私は知らない。

 

 ずっと知らないまま、そして、私は彼女と別れた。

 

 

 

 

 




チャン刀側はちょっと入り切らなかったので、キリは微妙な所になってます汗
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