今回一つの事実が解るか解らないか…?
ST174.Through The World Of Shadows Ruled By Fear.
現在、私とお師匠はエレベーターの中である。
この施設にまずエレベーターがあったことも色々驚きだが(というかミスマッチすぎる)、そのエレベーターもまた古いタイプのもので、昭和ノスタルジーでも感じそうな模様扉の向こうにあったりした。
体育館エリアを抜けてすぐの場所、一見して壁にしか見えなかったそのこを「取り外す」と、壁の下に古めかしい横扉があったわけだが、いや伏線も何もないところから突然に新施設が湧いてくるとこの師匠のことだから突貫で増築してるのではという疑念を抱いてしまう。別にそれが悪いという話ではないが、作画班のCGとか大変そうだなと個人的にスタッフへと配慮した方が良いのではと思ったりしてしまう(良心)。
まあ、そこで何か会話があるかといっても、ひたすら無言空間が続くわけだが。
私としては直前までのアキラさんとの別れで胸の内に妙な寂しさと空虚さと「分裂しそうな」胸の痛みを覚えているし、それを誤魔化すためひたすら脳裏に夏凜との…………、いや、あれはあれで胃が痛くなる話なのだが、この際もはや使えるものは何でも使えである。少なくともそれで正気を保てるなら、私の自我を安定させられるなら、それに越したことは無いだろう。
ただエレベーターの到着した先は、これまた世界観が色々崩壊しているような場所である。一言で言うと巨大な宇宙船の展望台か何か? ガラス張りなのかアクリル張りなのかは知識がないのでわからないが、近未来的な機械に埋め尽くされた広大な上下移動のあるルームの、いたるところにある窓からは宇宙空間が見えている。PCスペックが極まった後のFPSとかの宇宙船ステージのような、と言えば良いか……。
「ここは何の場所なんスかね?」
「100ステージ目だ。人によっちゃボーナスステージかねぇ?」
「いや意味不明なのだが……」
大河内アキラ遭遇時のアレのような場合でもあるまいに、とそんなことを返すが、師匠は「アンタ側には関係ない話だがねぇ?」と言いつつ、指を弾く。と、私たちの下りた後ろのエレベータからもう一人出て来た……というより、到着音みたいなのがもう一度鳴ったので、また何か時間か空間かを好き勝手に滅茶苦茶した結果なのだろう。
なお、出て来た相手は例のメイリンさんであるが…………、えっと、そのチャイナドレス風だけど微妙に違う恰好はアオザイと言えばよいか。それにしては微妙に柄模様が幾何学的でちょっと近未来感あるのが何とも言えないところだ。
「ど、ドーモ、キクチヨ君」
「あ、どうもッス、メイリンさん……」
そして流石に私たちも何度か大河内アキラと一緒に顔合わせしたり食事をとったりと色々あった結果、以前ほど問答無用で殴りかかられないくらいには微妙に関係改善されていたりした。
それはそうと、その恰好は一体…………?
「アタシからして、最低限は弟子入りできるくらいには落ち着いたからねぇ? いつまでもあのダサい恰好ばっかりじゃなくて、もっとまともな服を着ろってことで用意したのさ。どうだい?」
「ダサいとか言わないで欲しい、です!」
「あー、まあ似合っちゃいるとは思いますが……」
ダサいというよりコンバットスーツ姿は単に当世風ではないというだけの話なのだ。キャットスーツが可愛く見えてくるくらいに装飾もなく着脱方法すら予測できなかったりとか、そういう話で……。ある意味「ネギま!?」のエヴァちゃん暴走姿をSF風にしたような恰好というとダサさがわかりやすいか(逆に判りにくい?)。
そして何故彼女を呼んだのかといえば、話はシンプルなもので。
「簡単に言えば、殴り合いをしな。トータとメイリンとで。その過程を見て、メイリンを弟子にとるかどうか決める。ある意味試験だねぇ」
「あの、私の方は……」
「アンタにとってもレッスン2の最終確認だよ。アタシがわざわざ『竜宮の遣い』を使用する人間でも、特に大河内アキラを呼んだ理由にイマイチ思い当たっていないようだからねぇ。悪いが今のままじゃその剣の修復もさせてやるわけにはいかない」
そう言われてしまえば、メイリン共々お互いに断る理由は無い。……いや痛いのは嫌な事実に変わりはないのだが、いきなり無差別無鉄砲無計画に斬りかかったり殴りかかったりしてこなくなった分、多少は彼女と付き合いやすくはなっているのだ。
ただそんな話をして、共に武器ありでの殴り合いだと言ったにもかかわらず。師匠が「始め!」と合図をした瞬間、手に持っていたヌンチャクをメイリンは投げつけて来た。
とっさに黒棒で受けるが、それにより発生したラグが、彼女に準備を終えさせてしまう。
「コード[9784063954845]…………呪紋回路、起動……ッ!
プラクテ・ビギ・ナル――――――」
いやまたかよ!? ネギま本編で魔法を使用できなかった超鈴音が、自らの生命力を使用して魔力をひねり出すとかそんなシステムと予想される呪紋回路!!? アオザイ風の恰好のスカート部分がひらひらしてギリギリになっているメイリンだったが、体表に鈍く光る妙な回路めいたものを浮かび上がらせた直後、私に向けて掌を向ける。
次の瞬間、周囲一帯の音を私は聞き取れなくなった。
突然の失聴に一瞬反応が遅れるが、こちらに走る彼女の動きは目で追える。速度感が若干怪しくなるが、それに合わせて彼女の口元が動いており、表情が歪んだ。
おそらく何かしら魔法を使われて音を拾えなくされたのだろう、わずかにごうごうと風音のようなものが聞こえる。ならば向こうは詠唱をあえて聞かせないようにしていると判断できる。こちらも黒棒を投げて追加の魔法発動を妨害しようとするが、それを強く踏み込み手の甲と腕で払いのけるメイリン。……血装術が使えればここは血風一択なのだが、それ以外の飛び道具が全くないのがいけない。
とはいえ防御されるくらいは想定済なので、反射で動くまでもなく既に蹴り上げの体勢には入っており――――。
「――――――――ッ!」
「
あっ、自分の声も聞こえないのか。変な感覚のままメイリンの迫る拳を蹴り上げ、その勢いを若干左斜め前にそらして自らも前身。お互い背面同士になった瞬間、振り上げていた右足で彼女の両脚を大外刈りの要領で払おうとした。
それと同時に、私の両目の視界は光を失った。
否言いすぎだ、シルエットがもやもやと映る程度にされてしまったが正しい。これは……? 脚が空ぶった感覚はあるが、それと同時に体勢を整えようとしても脚から崩れ落ちてしまう。今の身体の使用状況というか、反射感覚では、聴覚と視界を奪われたままでは直立や歩行に問題が出る。
具体的に言うと、緊急時はバランスをうまく取れない…………、いきなり立ち上がって走って斬り合うというような動作は当然難しい。
ここまでくると薄らぼんやりしているシルエットすら映らない黒の視界に頼るのも難しい。いっそ目を閉じて、普段通りの妙な感覚に頼ってしまった方が早いだろうと、目を閉じるが。
普段来るはずの嫌な感覚が――――――――どこからも感じ取れない。
「――――ッ!?」
声をあげるまえに、なんとなく目の前に黒棒を構えたが、それと同時に「鳩尾に」打撃を喰らって撥ね飛ばされた。
いやちょっと待て、えっ? 死天化壮時とかでも自動迎撃に使用している例のアレが使えないと? えっ? えっ? それは使用する際どう考えても大前提として必要なものだし、大河内さんとトレーニングしていた時も当然感知していたものなのだが、えっと…………。
詰みでは?(震え声)
※ ※ ※
「…………敵意や悪意がない攻撃を感知できない、ある意味今の相棒の弱点だからな」
「嗚呼、出て来たのかい×××」
一方的な戦況。メイリンに殴られている刀太を見て気を抜いていたダーナだったが、そんな高級椅子に座り優雅に紅茶を飲んでいる彼女に、声をかける何者か。黒と白のローブ姿で、顔は影になり見えないが。除く鼻から下の造形は美女と形容できる形をしている。
「アンタのことだから、てっきりトータの中で色々アドバイスでもするかと思っていたがねぇ。まあ×××が過保護なのは今も昔も変わらないが」
「…………その呼び方は止めてもらいたい。今の私は『星月』だ」
「そうかい。だったら姿かたちを早い所取り繕うんだねぇ。その姿を見られたらまたガバだ何だしつこくやかましく文句言ってくるだろうがあの男。アタシはそれはそれで楽しめるが」
「そうさせてもらう」
そう言われた直後、女の姿は変化する。やや色の抜けた桃というより茶寄りの髪。後ろで適当にまとめ、また眼鏡をかけた半眼姿。刀太が見れば「ちう様!?」と驚愕すること請け合いの容姿であり、腕を組んで「ハッ」と笑う仕草や声音から何から何までまさしく、ネギ・スプリングフィールドのアドバイザーであった長谷川千雨のそれであった。
ローブを後ろに流し、半眼で刀太たちの方を見る。丁度黒棒を構えた刀太のそれを「見てから」背後に回り、蹴りを叩き込んでいるメイリンの姿。それにもどかしい様な顔をするが、しかし千雨の姿をした星月は何も言わない。
そんな彼女へ、ダーナは肩をすくめた。
「毎度思うが見事なものだよアンタそれは。只のコピーとか変装とかじゃなくって『ほぼ』本人になっているからねぇ。それでいてアンタ自身の自我は抜けていないし、どういう原理なんだい?」
「いや、人格についちゃあんたの方が色々わかってんだろ? 言葉にしなくったって。……まあトレースするって話に限っちゃ、相棒が知っている人類なら『誰でも可能』だけど、完成度が高いのは相棒と縁のある相手だな。
得手不得手で言えば、相棒の遺伝子上に『残っている』相手が楽だ」
「まー、そうだねぇ。キクチヨ風に言えば、今のトータは漫画とアニメの相の子みたいなものだし、そこは納得できるよ」
ふと、突如現れた星月にぎょっとしたメイリン。もっとも刀太相手への攻撃を緩めることはない。……緩めないと言っても、彼女も彼女で涙目であった。全身に時折、切り傷のような亀裂が走り、そこから勢いよく血が迸る。それを無理やり魔力で押さえつけながら、涙ながらに刀太を殴っていた。
「丁度今、やかましくキクチヨも思っているが、呪紋回路の使用はあの娘には大分負担だからねぇ。戦闘していてもそれを察しているっていうのに、あのトータは……」
「そこは私も知らないんだが、あの、メイリン? っていうの。結局何であんなものを付けてるんだ?」
「それは簡単さ。単純に『呪文詠唱できない』体質なんだよ、あの娘も」
魔力自体は無い訳ではないが、身体がそれをひねり出すための呪紋回路の出力に耐えられないって言うのが問題だねぇ、と。そんなダーナの返答に、星月は首をかしげる。
「一番は『開発時間』なんだろうが、そういう戦闘技術も含めて修行できる場所が欲しいっていうのがあっちのリクエストなんだろうがねぇ? 確かにあの女にアドバイスできるのは、あの女のいた時間軸で考えてもアタシしかいないからねぇ」
「あー、それも気になってたんだが、そうじゃねー。アレ、相棒になんでメイリンは攻撃当てられるんだ? いくら敵意が低くても、相棒が感知できない訳はないと思うんだが……」
「まぁアドバイスしておいたからねぇ」
「は?」
涙目で拳を振るうメイリンを見ながら、ダーナは軽く肩をすくめ。
「簡単に言えば、大河内アキラ相手に好感度を稼いでいたように、あの娘もトータに好感度を稼がれていたんだよ。つまり『敵意』や『害意』を抱きにくい心理になりつつある。だから普段のようにアタシのことを考えず、トータのことだけを見て戦えってねぇ。
そうすれば感情のベクトルは、以前よりも明らかに変化しているのだから、他の感情が勝って敵意や悪意を感じ取れない――――初動にすらそれが無いくらいには、だいぶ絆されてるってことさ。あの娘も結構、苦労してるからねぇ。刺さりやすいんだよ擦れた心に、トータみたいな何でもかんでもふんわり受け入れてくれる相手は」
「エグい仕打ちじゃねーか、あんた……。あのメイリンって、要は
「いや、あれはあれでもう既に刑を執行済みだが、まだ『統合される前の』時系列の世界線だからね。罪を犯す前まで厳しくは、流石にアタシもしないよ。
あの子も
「駄目じゃねーか!? って、いや私がツッコんだところで何も変わらねーけどさ。
それに、本当に罰とかじゃねーのか? だって、相棒相手にあれだけ絆されてるってのに、抵抗できない状態の相棒をああやって甚振らせて…………」
「大河内アキラに限らないが、今の『自覚していない』トータ相手に数日も一緒にいれば、大体ああもなるよ。カトラス・レイニーデイの件でわかっているだろう?
――――お前が干渉した結果、近衛刀太は『共鳴して』『共振して』、相手の心の根にあるものを感知できてしまうんだから」
その言葉を聞くものは星月以外にいない。そして、それは彼女にしても、改めてダーナから言われるまでもなく知っている、判っている事実。
「あの子は魂が入り混じった結果、他人の心ってものを、痛みを、辛さを、好意を、感情を、それらを色々ひっくるめて他の奴より鋭敏に感じやすいようになっているのだから。もっと研ぎ澄ませれば、別なことにだって応用できるだろうさ。
普段やってるように、人間関係とかでの変な察しの良さっていうのは、そういうことなんだからねぇ」
だから、それに自力で気づかないといけないんだよあの子は、と。ダーナのその一言に、星月は深くため息をついた。
つまりは、そういうことである。星月も刀太本人には語らないが故に、刀太は今まで認識していなかった事実。彼の妙な察しの良さは、原作知識に基づいたそれだけではなく。その時々で相対している相手の心と意図せず「繋がり」、故にその心の根にあるものをなんとなく認識しているという事実。
だからこそ、今の刀太、神楽坂菊千代と自らを認識しているその人格は。原作の刀太に流れるネギ・スプリングフィールドの血筋らしさと、自らが空虚であるがゆえに世界全部を愛そうと努力していたその人格を前提として。その上で、多くの事を相手本人から「知り得て」、相手が欲しい振る舞いと言葉を、意図せずに返してしまう。
それが、ダーナの言う通りに「擦れた心」への劇薬であると知らず。
「ま、流石にそこまで気づくとは思ってはいないがね? それでも、自分が把握できるものが悪意や敵意だけではないっていうのは、そろそろ自覚させないと拙いんだよ。特にディーヴァ・アーウェルンクスを相手にしてるから。下手すると『気付かれる』」
「あー、…………」
「あの魂は『あえて』無垢なまま、トータに強い感情を抱いた状態のまま復活させてるようだからねぇ。『共振する』力については知らないだろうが、悪意や敵意の欠片もなく最上級の魔法使いに襲われて何とかなる、というのは、そんな
「否定できねーかな……」
あっと。その時点で何かを察したようにダーナと刀太を見比べた星月は。だがそれ以上言葉を続けずに「趣味が悪いことで」とため息をついた。
「それはそうとして、今のトータを一方的に殴れてる時点でメイリンも、もう合格でいいんだがね?」
「理由がある意味複雑そうだな、本人からしたら絶対……」
※ ※ ※
し~~~~~、ぬ~~~~~~!
いや私は死なないが(不死身)、それ以上にメイリンさんの方が死ぬだろどう考えても!? いくら痛がったところで楽に死ねない「闇の魔法」実験体ナメるな貴様、少しは自分の身体労われ少しはさぁ!?(マジレス)
音も聞こえない、目も見えない、しかし触覚と痛覚が残っているので中途半端な
先ほど両手フリーとなってしまい困ったが、転がされているうちに黒棒を踏みつけて転んでしまったので、その際についでとばかりに回収した(したがストンピングは回避できず)。なので現在一応は手持ち武器は有るが、当然投擲しようものならまたリーチが少なくなる。
そういった私の方の問題よりも、気がかりなのはメイリンだ。
おそらくだが私にかけられているこの魔法、ものとしては何かしら結界とかそういう類のタイプに近いのだろうが、だとすると術の発動に「魔力を消費し続けている」。つまり、こうして私の5感の半分近くを奪っているこれは、常に彼女がかけつづけている魔法であると仮定できる。
とするなら、例の呪紋回路により身体から延々と魔力を消費させ続けているということに他ならない。
彼女自身、何故それを使用して魔法を使っているのかはさっぱり不明だが、使用するということはおそらく必要があると言う事だろう。決して未来世界の出身者だからわざわざ超に設定を寄せているという事ではあるまい。
だとすると、この状態を維持すれば維持するだけ、彼女の魔力つまり「余剰ではない」生命エネルギーを消費し続ける――――消耗程度ならまだしも、下手すると起動だけで命に係わる可能性もある。
加えてだが、先ほどから殴られ続けて痛みを覚えているが、それはそうとして威力が弱い感覚がある。否、そういうと微妙に誤解を招きかねないが、拳を交えてわかる感覚のようなものなのだろうか。明らかに向こうの攻撃に躊躇いが生まれている。
多少なりとも仲良くなってからの戦闘でもみられないこれは……、おそらく一方的に、今の私をボコボコにしている状況に罪悪感や躊躇いが生まれていると思って良いだろうか。とにかく、この状態での戦闘は本意ではないということだろう。
とはいえこちら側から終了させる訳にもいかない。私の立場でも、メイリンの立場でも。師匠は勝負の結果でメイリンの弟子入りを決めるとは言わなかった。過程を見て結果を決めると言っていた。つまり私が適当に戦って負けた場合、師匠の気分一つで不採用になる可能性が高い。
中々困った状況だ。
例の「嫌な感覚」がきれいさっぱり感じられぬ今現在。……いや、何度か打ち合って思ったがこう、ちょっとは嫌な感覚が有るような無いようなというところだが、すぐさま何か別なものに押し流されて霧散してしまっているような、そんなレベルまで薄められているというべきか。それをベースに受け方を決められないレベルである。
正直この状態だと、後にも先にもどうしようもないと言うか…………。ん? いや? 待てよ?
そもそも私はさっき何と自分で言った?
何か別なものに押し流されて、と言ったか?
何かって何だ? 疑問に思いながらもメイリンに右フックを喰らってその場に転がる私であるが、思考は停止しない。何かとは? そもそも嫌な感覚というのは解るのは理解できなくもないが、そうではないものを識別できている?
一度疑問に思い出すと、また少し、視界ではない何かの「視え方」が変わってくる。
大河内アキラとの戦闘時、反射の関係もあってかいまいち嫌な感覚に対して思うように動くことが出来なかったときはあったが。果たしてそれは、どう感知していたからこそのそれなのか。正確には「嫌な感覚」を感知できなかった、ではなく、「別な何か」で「嫌な感覚」の感知が遅れていた、ということではないだろうか。
――――そこの刀太は『悪意』や『敵意』については共振して判ってしまうから。
以前に師匠の言った一言が脳内でリフレインする。正直何かしらのガバの塊のような情報であるが、そこの刀太が指し示すのは「私」である以上、この人格が不安定な私である以上、そもそもそんなものを感知出来てしまうというのが異常極まりないが。
共振、と言ったか。
つまりそれは――ひょっとしたら、悪意や敵意に限らないのではないだろうか?
「――――――――ッ」
声は聞こえない。だが、こちらを殴った瞬間にメイリンの躊躇いがちな感想やら、痛みを覚える感覚やらをなんとなく察してしまう。察せてしまう。「感じ取れてしまう」。
思えばそれは、黒棒を振るっていた時に刀越しでなんとなく、何かが解ってしまっていたそれとも似たようなものなのでは?
「――――
その疑問に至った時。その思考に至った時。黒い靄に覆われた視界が、「黒いまま開けた」ような錯覚を起こした。それは、まるで今まで只の壁だと思っていたそれが、実はクジラのような巨大生物の肌の一部であったことを認識したかのような。スケールが違いすぎて理解できなかったものを、正しく捉えることが出来たときのような。アハ体験! とか言うとスケールが小さくなるが、それにも近い、ひらめきのような。かといって、それとも違う、文字通り得体のしれない感覚であった。
例えるならそれは…………、実体の見えない視界全てが「文章で覆いつくされているような」光景が近いか。
実際のところそれは文字ではなく、感情というか、感覚というか、上手くは形容できないがビジュアルで例えるとそれに近い。
シルエットのように形成された人体、そこにびっしりと書かれ紡がれ周囲に垂れ流される文字群。眼前、こちらに平手を向ける少林寺拳法めいたポーズをとっている彼女のようにみえるものから垂れ流される「痛い」と「悲しい」と「寂しい」、そして揺らがない「使命」「過去」の文字。抜け出たそれらは空中に霧散し、時に壁やら地面やらにぶつかって周囲の実体がなんとなく見えるような光景。
遠くでは真っ黒に塗りつぶされた誰かと、その隣に紫色の文字で「ようやく見えるようになったかいキクチヨ」と文字が垂れ流される……、あっこれは師匠だ。完全にコミュニケーション取りに来てる。
「
そんな不気味極まりない視界(?)を前に、正直私は気持ち悪さが勝った。
ガバとかそんな次元ではなく本当にこれ、何なのでしょう…………?