筆者は夏凜や近衛姉妹が恋しいけど、消化タスクがまだまだ残ってるのです汗
ST181.Un Self Control
よく「高度に発達した科学は魔法と区別がつかない」という言い回しがあるが。アレに倣うなら「高度に熟達した戦闘は相性ゲーと区別がつかない」と言ってしまって良いかもしれない。
具体的に言えば、今の黒棒と私の戦闘のように。
「血風、創天――――!」
『手数を増やしても状況は変わらないぞ、刀太!』
超高速迎撃をしている時のように、乱雑多重に剣閃を振り回す。その軌跡になぞり、追いすがるように放たれる無数の血風創天。
そもそもハマノツルギを展開してから、黒棒本人を中心とした球の周およそ1メートル前後には
とはいえ、辛うじて血液のウォーターカッターという
今更ながら、神楽坂明日菜を敵に回していた
しかし精神世界なせいか、痛みに関して普段よりも若干鈍感に振舞えるのは良い事なのか悪い事なのか……。両断された胴体を断面から血装術で生成した縄で引っ張り上げて接合したり、我ながら挙動が完全に化け物じみているな…………、今更か。そもそも血装術の時点でカトラスギャン泣き案件であった。「第四の目」の訓練のための組手? ですら、我慢していたようだが時折表情が引きつったり、ひぇっとか言ったり、その際に勢い余って「火星の白」を左手からぶつけられたりとそれなりに散々である。
だが、デメリットもそれなりに大きい。
ここにおいては星月はおろか、チュウベェすらいないのだ。
「私の能力で対応できる方法を考えると、それこそ
当然チュウベェがいないので絵に描いた餅である。やれやれと、武器の重力剣を構えながら、反対側の腕をポケットに入れほぼ直立姿勢で後退。ぼそっと『直に見ると気持ち悪い動きだな……』とか黒棒が感想を言ってくるが、そのあたりも込みの技なので特に違和感はない。それに直立不動の姿勢のまま斬りかかってくるとかそれなりに
「血風…………」
『何をするつもりだ。……ム!?』
「…………創、天ンッ!」
速度で押し切ることは難しいとなれば、後は威力で押し切れるかどうか。ある程度後退した状態で重力剣の柄で回転させる血風、その出力をある一定値で押さえ、加速。急接近しながら刀身に血を纏わせ、振りかぶり斬りかかる。この際に回転を再加速させ、抑え込んでいた血量を一気に放出。血風創天の切れ味そのものの増強と、加速による威力の増強を同時に試してみる形だ。
本家
とはいえ、それで話が終わるならば流石に黒棒もこう斬りかかってはきていない。
気と魔力の併用、それこそ本家神楽坂明日菜のようにはしていないだろうが、こちらが放出した血による剣閃その残影を、重力剣本体を受け流すことでそのまま躱した。ハマノツルギに接触した時点で私の制御から外れているため、そこから再度操作を行うことは無理である。
なんなら右腕の死天化壮も解除されかかっているため、黒棒が反撃してくるよりも先に後退を選択。
構え直した黒棒が斬りかかってくるのに対して、一旦は受けたがそれは失策だった。
「って、オイオイ……ッ!」
『出力を上げたから、なッ!』
ハマノツルギからほとばしる閃光がより強くなり、両腕に纏われていた血の衣が完全に霧散した。座標制御、位置制御が利かず、押し負ける……ッ!
とっさに左腕を盾に庇い、ハマノツルギの一撃を受ける。そのまま閃光が私の全身を包む前に、斬られかかった左腕を「その場に放置して」、私は全力で後退した。
「全く、本当に隙がなくて洒落にならない。……というか、右手の親指がダイヤル操作し続けで痛いのだが」
『しばらくやっていなかったから感覚を忘れているだけだろう。それは私の管轄外だ…………、オイ、何をしている刀太? 私のダイヤルに何を――――』
「いや、内部に血装して内側から操作すれば、わざわざ指突っ込んでやる必要ないかなって」
『――――気持ち悪いわ!? 大概お前も発想がバケモノじみてきているぞ』
そもそも魂の基礎から一般人と同列に語って良いかどうか定かではないのだが、自虐でなく他者からそう言われるのは、それはそれでダメージがきた。
よし、血が内部まで行きわたったので、これで直接ダイヤルを回せる。難点はやはり「火星の白」によってリセットされた際に、全く効果がなくなってしまうことだが。
「どちらにせよ、魔法無効化能力をどうにかしねぇと話にならねぇんだよな……」
ため息混じりに次の方策を考えながら、私は黒棒に再度斬りかかった。
※ ※ ※
改めてメイリンさんの自己紹介とか、カトラスちゃんとようやくの再会とか、あとは水無瀬小夜子がまた遊びに来たりとか、色々あるんだけど。
そこから個人個人で修業をしながら、大体一週間かな。ダーナ師匠いわく「今日は休暇をだしてやるよ」の一言で、僕たちは自由時間となっている。
なってるんだけど、僕とかキリヱちゃんとかは刀太君が気になり続けていた。
二人して微動だにせず瞑想する刀太君の前に行って、状況の推移を見守っている。
見守ってるんだけど……、ある一定ライン以上は、九龍天狗さんが立ちふさがって行かせてくれなかった。
『――――――――』
「な、何ヨあなた! いい加減通しなさいよ、というかちゅーにどうして一週間もずっとその姿勢のままなのヨ! 食事すらとってないじゃないッ」
『――――――――ぁ、ぃゃ、……、――――』
相変わらず仮面をつけた巫女さん風の装束で、背中が開いていて、複数の羽根を持つその天狗さん。彼女はプラカードに(プラカード!?)「立ち入り禁止」とだけ書いて、キリヱちゃんに押し付ける。言葉は発さないけど、あっちもあっちで困っているみたいだった。
まあ、強行しようとしたら攻撃とかもしてくるんだろうけれど、キリヱちゃんが非戦闘要員っていうのをわかってるのかな。手荒なことはしなかった。
そんなキリヱちゃんに、カトラスちゃんが声をかける。
「諦めろよ、桜雨キリヱ。兄サンまだ終わってねーってことだろ。そのうち戻るんじゃね?」
「それはそれで問題よ、だーいーもーんーだーいー! 一番料理スキル高いのコイツなのに、当番の日に出来ないって終わってるじゃないッ!
っていうかアンタもアンタよ、何そのフリフリの恰好! 可愛いじゃないッ!?」
「ヴぇッ!?」
凄い声を出してカトラスちゃんは一歩後退した。……そう、カトラスちゃんの恰好はスポーティーな感じのものじゃなくなっている。
今の彼女は、こう、ゴスロリでいいのかな……。白いフワフワした感じのお人形さんみたいな恰好をさせられていて、ついでにお帽子までつけられていた。肌の色とドレスのコントラストがミスマッチで、逆にそれがカトラスちゃんの地肌を引き立たせてる。
似合っているかどうかは意見がわかれそうだけど、本人は嫌がってるのか顔を真っ赤にして、キリヱちゃんに指さした。
「こんなの俺が好き好んで着るって思ってるのか桜雨キリヱ!? お前よ! 師匠だよ師匠、この間の修行用になんかやらされたやつの宇宙服、気が付いたらいつの間にかこの服になってて、こっちに来るとき持って来た服もなんか厳重に封印されてて取り出せなくなってるし!」
「帽子までつける意味ないじゃないっ!」
「つけてねーよ! むしろつけてねーんだよ! ただ気が付くといつの間にか装着されてんだよ、何だよこの衣装よォ……」
「か、カトラスちゃん、落ち着いて…………」
段々と目に涙が溜まって、その場で膝をついてしまった。「くちゅじょくだ……」って口調までぐちゃぐちゃになって、嗚呼……。
流石にキリヱちゃんも同情したのか「終わったら服、買いに行く? お店教えるわよ?」とか聞いてるし、カトラスちゃんも無言で首肯してる。
「――――アタシが用意した衣装に何か文句でもあるのかい? カトラス・レイニーデイ」
「ひゃあ!?」
『ひゃあ!?』
「ぎゃっ!」
「に゛ゃんッ!?」
そして僕たちの後ろに、一人に一人ずつダーナさんが現れて、僕たちを摘まみ上げた。天狗さんもつままれて、僕たちと一緒にリアクションをとってる……。
師匠、ダーナさん達はそのまま僕ら全員をテラスの中程、テーブルとか椅子とか置いてあるお茶会とか出来そうなところに投げ捨てた。明らかに距離が開いていて軽く投げ出しただけじゃそこまで行かないはずなんだけど、それでも軽く投げ捨てる動きで、僕たちをそこまで放り投げた。
カトラスちゃんは顔面から(危ない)、キリヱちゃんはお尻から、僕は横に投げ捨てられて天狗さんは綺麗に着地してる……、キリヱちゃんが「うなああああ!」って絶叫して立ち上がって、ダーナさんを指さした。
「おかしーわよ! どう考えても10メートル以上距離離れてるのに、なんで数十センチくらい先に投げ捨てるような動きでこんなところまでぶっ飛ばされてるのヨ私たちッ!?」
「随分な口を利くじゃないか桜雨キリヱ。人がせっかく邪魔にならないよう撤退させてやったっていうのに」
「邪魔になんないようにって何ヨ!」
痛ェ……って額をさすりながら起きるカトラスちゃんや天狗さんに手を借りる僕を一瞥しながら、ダーナ師匠は(いつの間にか一人に戻ってた)親指をサムズアップして、そのまま持ち上げ後ろを指さした。くい、くい、と示してる相手は刀太君。
「つまり…………、修行の邪魔になるってことですか?」
「そうだねぇ。お前もだよ九龍天狗、近づけるくらいなら声をかけずに斬りかかれと言ったじゃないか」
『――――っ!? ッ、ッ!』
天狗さんが抗議しようとしてるみたいだけど、喉から声が出ないみたいに口がパクパクと動くだけでうめき声みたいなのしか聞こえなかった。
すぐさまフリップに切り替えて、「流石にそれは可哀想です!」って文字で書いてダーナ師匠に示してる。……今更だけど、少し字体が僕に似てる?
「可哀想じゃすまないんだよ、そもそもコイツに色々計画狂わされ続けてる身としちゃ、今更さらに修行計画が崩壊するのは看過できないからねぇ。
本当だったら大河内アキラ相手に1月近くもかける必要はなかったはずなのだし、あの時点で覚醒してとっとと『落とす前に』フラれるのが正解だったってのに」
「だ、誰……?」「本当に誰ヨ?」「兄サン……」『………………』
「まあ大した話じゃないから忘れておきな。
重要なのは、『終わったら』勝手に目覚めるから今はまだ見守れって事さ。個人専用の修行に外部から何か出来ることなんてないよ。アンタたちの個人修行が、誰かの手を借りても意味がないようなのと同じように」
「そうは言ったって気になるじゃない。連日連夜微動だにせずって」
キリヱちゃんの一言に、ダーナ師匠はニヤニヤと笑った。
「久々に顔を見れてハグしてちゅーちゅーペロペロヘッヘッヘしたいくらい嬉しいのは判るがねぇ、もう少し長い目で見てやりな」
「ちゅーちゅーペロペロとかしないわヨ! って、その喜びっぷり何ヨ、犬じゃあるまいしッ! ヘッヘッヘって笑い声じゃなくてベロだして息遣い荒いの完全にそれじゃないッ!」
「き、キリヱちゃん……」
「遊ばれてんな。…………どうでもいいけど、血管キレねぇ?」
カトラスちゃんがため息をつきながら僕に視線を向けて来る。ダーナ師匠に食って掛かっていったキリヱちゃんは、そのままわきの下に手を入れられて高い高いされてた。完全に遊ばれてる……。
「…………何っすかね、この状況」
「あっ三太君」「佐々木三太」
ぽけーっとした感じで、三太君が浮遊しながらこっちに接近してきた。ついに師匠さんは「ほ~れ、高い高ぁい」とか言いながらキリヱちゃんで遊び始めて、キリヱちゃんも踏まれた猫みたいな凄い声を上げてる。
刀太君に接近しようとすると足止めを喰らっているんだ、って話を伝えると、三太君は少しだけ納得したような顔をした。
「確かに、単に座禅してるって感じじゃないしなァ、そんなもンか」
「でも不思議といえば不思議だよね。いつもの刀太君なら、あんな状態ずっとしてたら『やってられるか、責任者出せ責任者!』とか言って、重力剣投げ捨てそうだし」
「その信頼のされ方もどうなんだ、兄サン……? まあ同意だけど」
「そんなこと良いから助けなさいヨ! 目が回る~~~~~~~~!」
ついにピザ職人がピザ生地でも広げるみたいに、お腹のあたりを起点にぐるぐる大回転させられ始めてるのを見て、流石に止めに入った。あっ投げ捨てた。
ひっくりかえって「まだ目がまわってる……」って気持ち悪そうなキリヱちゃんを見て、ダーナさんは腕を組んでため息をついて、刀太君と重力剣の方を見て。
「……いやだから、そういうのをアタシも想定しちゃいないってのにあの男は」
なんだか刀太の死天化壮の肩がうねうねいって…………、あれ? 何、何かヒトガタの何かがぞぞぞって這い出て……。
刀太君から出て来たものを見て、三太君はポカーンとした表情で、カトラスちゃんは「ヒェッ」って隣で引きつった声を上げた。
※ ※ ※
『いや、その状況はどうなんだ刀太……。ついに狂ったか? というよりも、そんなこと出来たのかお前』
「「理論上は出来なくないって感じだな」」「すぅ……、すぅ……」
私
状況を説明すると、「私」が増えた。以上。……これだけだと意味不明だからもう少し言葉を重ねるが、例えば私の一人は現在さきほどまでと同様に黒棒へと斬りかかり、私の一人はそこから距離を取って適当に横向きの姿勢で腕を枕にして寝ている。ついでにもう一人というか「本体」ともいうべき私は、両者の間に入って、攻撃の余波が来たら血風を展開して防御する仕事を請け負っている。
何故こんなことになったかというと、黒棒が「待った」を受け入れてくれないからだ。
体感的にはもう10日とか1月分くらいは連続で戦っているような気がしているが(おそらく実際はもっと短いだろうが)、その間に休憩時間が一つもない。なまじ不死身であるという前提で襲い掛かってきているのだろうが、そのせいで睡眠食事その他諸々を完全放棄した状態となっていた。
早い話、脳が飽きて来たのだ。
いい加減終われ、終わらなくても少し違うことをさせろと。なにせ現状は打開策が一つも閃かず、中途半端な防戦一方の状態ときている。
黒棒の方はこちらのそういった話を聞き入れるつもりが1ミリたりともない結果、脳が処理限界を迎えてなお不死性でパンクせずに無理やり生かされていた状況、頭の回転が鈍くなった私の脳裏に過ったのは、つい最近まで読んでいた原作「UQ HOLDER!」の一幕、帆乃香の手で分身した時の漫画だった。
原作的にはいよいよネギぼーずが出てくる12巻だったか。ひょんなことから、忍、キリヱ、みぞれ(こちらはまだ未登場)の三人で刀太をとりあうレース合戦という謎展開が発生していたのだが。その際に景品たる刀太を誰のサポートにつけるか的な話で揉めたさい、札術により一人の人間の能力やら何やらを
そういうことが出来るなら、血装術でも似たようなことが出来るのでは? と。
空回った脳みそがガバだの何だのを完全に無視し始めた暴走が開始された。
なお、それについては何故か絶対に「出来る」という確信があった。言語化できるものではなく、まるで経験やら体験やらだけが先行しているというべきか。妙な納得が「私」の内部に落ちているこの感覚は果たして何に、あるいは「誰に」由来する物なのだろうか。
さすがに「私」を構成している要素の中に、他に吸血鬼がいるかどうかは不明だが、一番高いのはキリヱによって連れられてきた「1周目の私」だろうか。それはともかく。
あまり深く考えず、血装術で「私」を形作り、そこにゆるく行動命令を乗せて「
…………本当に何か出来た、それ以上のことがなくて申し訳ないが、そういう流れである。自分に対してのマインドリーディングはしないことにしているが、分身は血の塊が正体なので「情報と思念を浮かび上がらせる」仕様をイメージして、その通りの運用をすることでクリアした。お陰で本体たる私からすれば、「なんとなく」俯瞰視点で自分の肉体を三つ同時に見ているような、気味の悪い感覚だった。なお分身状態のそれらもハマノツルギの接触があれば融解するのに違いは無いが、逆説的に血液で修復可能であるので、本体たる私が傷つかない分には全然問題がなかった。
分身状態の「私」については、それぞれの私が経験した分の知識はそれこそ
やってみて思ったが、この方法での分身は正直意味がないな。大人しく帆乃香が何かやらかしてくれるまで、原作の流れを待とう。
今回についてはほんの少しでも寝ることが出来れば良いので、全く効果がないわけではないが。
「はぁ……」
そして一人が寝ていることによって多少考えが整理されたのか、早々に「何故分身した自分」とセルフツッコミを入れている。まだ辛うじて「外」でやっていないからガバまでいってないだろうということでマシといえばマシだが、「分身する」というイベントに限って言えば原作3、4巻分くらいの先取りになる。自前でやるというのを踏まえると巻数はさらに割り増しされるが、本当に一体何を考えていたのだ自分は…………。人間、睡眠はとらないとロクなことにならない。
しかも、よりにもよって。
「……………分身が一人寝たお陰で思考が整理されて、打開策まで見つけるってなっているのだから、色々と終わっている」
言いながら本体たる「私」は、黒棒と斬り合っている私を見ながら死天化壮にまわしている血を含め、全身に魔力を回し「淡く輝かせ始めた」。