チャン刀、調子に乗る
ST182.They Are All People Who Go at Their Own Pace.
深く考える意味はない。自分の内側には「材料は揃っている」はずだ。なんとなくその確信があるので、1周目の私もしくは星月が既に準備はしていたということだろう。少なくともこれが対抗手段になるという確信があり、かつそれが使えるというのは判っているので、後は私自身が自力でそれを引きずり出し、成型し、戦闘用に扱えるかどうか、だ。
もっとも、その最後の部分が一番難しいのだが。
「…………うーん、何か絵面が酷いな」
全身からにじんだ淡い光、それらを血風に込めようと集め始めたら、その輝きは「形状を変え」、もはやオーラのようなそれですらなくなっている。例えるなら……、惑星? 白く小さな月みたいな何かが、重力剣の先端に固まり、その発光すら点滅してるというか、上手に出力出来ていないことがよくわかる。
と、黒棒と戦っている私の視点で、黒棒が重力剣に何か得体のしれないことをしているのを発見したらしい。目の前の私に斬りかかる振りをして蹴りとばし、そのまま色々お試ししている私の方目掛けて超高速で迫ってくる。
とはいえそれも、自動迎撃の範疇だ。第四の目が利かずとも感知できる「嫌な感覚」に従い思考を放棄し、ただ条件反射で重力剣……、先端に惑星がくっついたみたいな重力剣メイスを振り回す。いや見た目ちょっとダサいなこれ、あと眩しい。
『――――ッ、何だそれは?』
「
そして、黒棒は顔をしかめた。自動迎撃にまとわりついている、その白く輝く血の塊、メイスと言うかハンマーというか、そんなのの槌部分に相当する白い塊は、黒棒のハマノツルギで「解けなかった」。どころか自動迎撃中も、死天化壮が解ける気配がない。当たり前だ、性質を集中してはいるが、これはあくまで私の血に繋がったもの――――であるなら血装術の範囲であるから、これは同様の性質を帯びる。具体的に言うと、ほぼ肉眼で差がわからないレベルだが、未だに私の全身もまたごくごくうっすら光っているのだ。
そして、ハマノツルギを現在扱っているからか、黒棒も私が何をやっているかに見当がついたらしい。
『そうか……、「
「いや、どうなんだろう? 全然使いこなせてはいないから、使えるようになったというのはあんまり認めたくないな……
『オサレ?』
「なんでもない。あくまで『太陰道』で吸収解析したっぽいのを、無理やり引っ張り出しているだけだし」
ハマノツルギを発動した黒棒は、現時点においてその能力を、おそらくかつての神楽坂明日菜相当に引き上げている。そんな彼が帯びている魔法無効化能力に太刀打ちできるものが何かと言えば、準物理的な全てを解決するパワー、もしくは同質の魔法無効化能力だ。
この「火星の白」自体は、もともとはカトラスの『
ただ、調整がされていないので全く制御できていない。こちらの意志に反して、形状を形成するという意思がマジックキャンセルされているせいか、刀身にまとわりつかない妙な有様である。結果的に殺傷能力は低く(打撃力は高い)、こちらの意図通りに動いているかと言えば否だ。
とりあえず対策を考える必要があるなぁ…………。
「血風
『何を、今更そんな技が通じるはずが――――――って、どこに撃ってる!?』
あらぬ方向に血風の斬撃を放つ私。もっとも斬撃とはいっても、動きは刺突なのでより直線的な点攻撃のようなそれだ。ただ避けるように動いた黒棒は、それが延々と伸びていく様を見てツッコミを入れて――――――――その先に、両手を広げて血の斬撃を受け入れた私の姿を見ていた。
あちらの、黒棒が蹴り飛ばして距離を空けた私は、こちらの尸天の先端を特に抵抗せず受け入れ、「心臓を貫通させる」。貫通したそれが胸部を破壊し、一つの穴をあけ、ある種の暴走状態に陥り――――仮面のように悪魔めいたツノと顔が形成される。
「―――――
『完全版、だと――――ッ!』
そして完成した暴走状態の私は、こちらに向かって瞬間移動し黒棒を「殴り飛ばした」。手元の死天化壮が解けかけているようだが、それよりも移動速度が乗った拳の一撃が、魔法無効化能力をキャンセルしている。
煙を上げながら再生する暴走状態の私は、火星の白を制御できていない私を一瞥することもなく、そのまま黒棒本体のもとへ急速移動。こちらに一切ダメージを入れるようなこともなく、それを横目に私は「火星の白」の操作を考えることが出来た。
何をやったかと言えば、かつてサリーがやろうとしていたことの完全版――――魔天化壮の外部からの遠隔操作である。
分身出来ると聞いて、ふと思いついた。なのでやってみたら出来た、以上! という、さきほどまでの分身とほぼ同じノリでの技の発動だ。ただこれについては、「私」本体ではなく血で作成した分身の操作の範疇なので、死霊属性魔法を帯びた尸血風による操作ならばいけるだろう、と軽い気持ちで作ったのは否めない。
正直な話、精神世界なので、失敗しても最悪分身を解除すればそれで終わりだ。
まあ、とはいえ向こうは大惨事そのものなのだが。
背部から形成する無数の腕やら、黒棒本体を刀だけじゃなく時にうちわみたいに血を這わせて形成し、殴ったり跳ね飛ばしたりハマノツルギを蹴り上げたりともうやりたい放題である。攻撃に一貫性がなくムラはあるが、やっぱり「必ず殺す」ことに特化しすぎているだけあって、攻撃に間隙が1ミリたりとも発生していなかった。
流石の黒棒も部位欠損とかそういうことまではなかったが、さっきまでより明らかにダメージを喰らっている。
引きつった顔で何か言おうとしているので強制的に暴走状態の私の動きを止めた…………、重力剣をもって特にポーズを決めず少し俯いた感じが
『これは……、流石に反則ではないか?』
「うっせ。そもそもお前さんがちゃんと話を聞いて、いきなりバトルするとかならなければよかったんだろ? おかげでこっちも新しい技を準備したところで、練習時間とかも捻出できないし」
いくら何でもやりすぎだろ、という顔をしている黒棒だが、こっちだって話し合いで解決する部類だったろうと文句を言いたい。
というより、下手に戦闘を開始してしまったせいで、思考が完全にそっちに振り切れて、黒棒が懸念していた部分について考えを回すことが出来なくなってしまっていた。
早い話、ゴリ押し状態である。
ただ、ゴリ押し状態の思考も案外良い面もあるというのは、今戦っててなんとなくわかった。おそらく私の血装術のスキルというのは、現状自分が想像しているよりもはるかに高いのだろう。となれば、キリヱが同伴していた「私」の魂というのは、一体どれくらいの錬磨をしたのか……、どれくらい絶望的な状況で戦ってきたのか。
そしてゴリ押しついでに、私は一つ覚悟を決めた。
「とりあえず、もう何かロクにアイデアを出せるような思考回路ではないな、私も。…………とりあえず『参加者』を増やそう」
『参加者だと? 何を言ってる。この場所は私の精神世界。お前が師匠と呼ぶ魔族の、古い魔術を使ってこちらまで来たのでは―――――――』
「――――だから、かな? 古い魔術とはいっても、それは『古代金星文明』に由来する魔術の系統、つまりは私に使われている『
『はずとは何だ、はずとは。おい刀太、お前今、何をやろうとして――――』
「うん、大丈夫だって大丈夫だ相棒。今、私、身体が思った通りに動きすぎて軽いんだ。もう何も怖くないっ!」
『何の台詞かは知らないがそれは完全に死亡フラグではないか!? ちょっと待て刀太――――――――』
慌ててこちらを止めようとする黒棒を暴走状態の私(制御下)の馬鹿力で抑え込み、死天化壮が解けきる前に目的を果たそう。
「大血風――――」
口にした通り、頭上に大きく、重力剣で円を描き、その軌跡を血装で繋いで血風を形成し。
形成した血風を回転させながら、とにかくありったけ血を流し込み、延々と、それこそ無限に等しいレベルで「拡大していった」。
黒棒が「ぐぅ」と気持ち悪そうに胸を押さえる。正直、相手がどう感じるのかまではこっちの知ったことでは無い。そして、血風を起点に周囲へとひたすら、とにかく適当に、かつて胸の中心で渦巻いていた自動回天のように、魔力を流して攪拌し、分離し、それを練り、更に血を生成して「空間全体にいきわたらせる」。
かつての私……、私も知らない私は、自らの血をキリヱに流し込むと同時に、彼女の魂に自らの魂を運ばせる蛮行をした。
ならば、それに近いことが今の私に出来ないはずもない――――血装術がこの世界で発動している以上、この世界の私の体感と現実世界の私の体感とがずれていない以上、この血は私の魂のそれ「だけではない」。現実世界、この場所に入る際に置き去りにされた私自身の血と、繋がっていなければおかしいのだ。
ならば、出来るはずだ。
空間そのもの――――黒棒の魂、精神、心、いずれかは不明だが、この場所の魔力そのものに干渉し、ひずませ、その隙間に私の魔力を流し込み、私の血から、魂から、「呼び出すことが」。
果たして――――確信は現実へと成った。
『……………………』
黒棒の側、軌道エレベータ―の地面側の霧の先。地面の方、都市部を過ぎたあたり。ひたすらその外周が、家庭ごみに留まらないスクラップ置き場のような様相を呈したのが「体感でわかる」。つながった。今この場は、黒棒の精神世界を中心に「私」の精神世界を無理やり接続するのに成功した。
だからこそ、その証拠に、私の目の前に、黒と白のローブ姿の誰かが、現れた。
私の精神世界から、直接この場に呼び出した彼女――――――。
『…………相棒はさぁ』
おっと? 声がつい最近も聞き覚えがあるお姉さん声になっている。フード部分を後ろに流すと、そこには大河内アキラな姿かたちをした星月がいた。
星月は、確実に過去最大級に、「私」に対して呆れていた。目は元気がなく、頬が引きつっていた。
『相棒はさぁ、追い詰められたらガバとか全部投げ捨てるの止めて。本当…………。「私」も事情は把握してるけどさぁ、重力剣の本体と私の遭遇とか、もう取り返しがつかないレベルのガバチャーだ。RTAやってるわけでもないけど、これは酷いって奴だよ』
「いや、お前さんって私の潜在能力的なサムシングだって名乗ってたし――――」
『いい加減もうそれ、真実を話してないってわかってるよね!? 責任転嫁したところで、もうどうしようもないんだ!』
うわ~~~~! と半泣きで私にポカポカ殴りかかる星月……って、アキラさんの姿のせいか力が強いぞコイツ!? 死天化壮してるっていうのに、普通に固定した座標が押され始めている。やはりパワー! パワーは全てを解決する……!
「解決しない! どうしようもない優先順位はあるけど、これは流石に擁護できないよ!
全く…………、本当、どうしてくれようか」
涙目のまま振り返る彼女は。暴走状態の私の拘束を振り切った黒棒がこちらに、驚愕の視線を向けているのを、心底嘆いているようだった。何と言うか、こう、ごめん……、なさい。ちょっと、テンションおかしくなって調子に乗ってた(本心)。
そんな私はともかく、黒棒が呟くように言う。
『………………何故お前がここにいる? いや、そもそもお前、いや、
「お前達?」
『相棒はちょっと黙ってて。あぁ、公開して良い情報の整理が大変だぁ…………』
とりあえず何かよくわからないがスマンと謝り直し、同時に星月は「このオガバちゃんめっ」と、私の額を小突いてきた。
…………その時、一瞬ふんわりした匂いでさらに驚愕した。改めてだが、本物の大河内アキラと一緒にいたからこそわかってしまったことだ。
匂いが一緒だ。まごうことなく、寸分たがわず、匂いが本当に一緒だった。
一瞬感じたその匂いのせいで、ますます星月の正体がわからなくなる私だった。
※ ※ ※
自己紹介、というよりも、状況はもっと酷くカオスだった。
黒棒は星月の姿を見た瞬間に「何か」に気づいたらしく、「ひょっとしてお前は……」と彼女に耳打ち。驚いた星月に対して「私への紹介と言うより、刀太にどう説明するかという話を考えた方が良くないだろうか、お前は」とか、そんな流れで勝手に相談会が始まった。
おかげで私ひとり蚊帳の外という、無駄な逆転現象である。しばらく暇をしていたので、暴走状態の私のそれを解除してから、分身二人に睡眠させて本体たる私は
そんなこんなで数分後。疲れた様子の星月と、何かを納得したらしい黒棒という二人が、黒い奔流……ではなく洪水の様な血液に呑まれて血装したりしてる私に声をかけた。何度か。済まないが大量の血液の勢いのせいで、音が聞き取れなかったのだ。あまりこうしてポーズと演出の検討をする暇が最近なかったので、せっかくだから色々やってみているところだった。
『相棒は何でこんなにたくましいのか……』
『ストレス発散になっているんのではないか?
『その呼び方は、止めて欲しいんだけど……』
英霊? 黒棒は、星月のことをそう呼ぶ。お陰でますます彼女の正体がさっぱり意味不明になってしまっているが、それはさておき。自己紹介が済んでるということなら、ということで、端的に彼女を呼び出した理由を説明した。
『バトル漬けになって考えるのが疲れたからって、私を呼び出すのはちょっとどうなんだろう……?』
「でも真面目に収拾が付かない気がしてな。『分身』とか『制御』だけなら私の意志でどうにか出来るが、『白』の制御だけは難しい気がした」
『まあ、私もそっちはまだ先で良いかなーって思ってたんだ。だから準備不足ではあったけれどもね。…………でも、どっちにしても何とかはなるよ。
心配だって言うのなら、ここでの修行明け前に、相棒とそのあたりについて話を付けたり、修行をするっていうのもアリだと思う。ダーナさんも、きっと否とは言わないよ』
星月は、黒棒の懸念にあっさりと「問題はない」と回答した。
『仮に相棒で対応できなかったとしても、相棒は一人じゃない。色々、頼れる人は多いんだ。
それは、「何でも一人でこなせる」君にはない視点かもしれないけれどね』
『………………それはそうだが、まず一人で確実に倒せる算段を付けてからの方が良いと思うが』
『一人でなんて、最初から無理だよ。そもそも相棒の不死性って、この太陽系を中心としたほぼ全ての惑星におけるエネルギー、生命活動すら含めてそこから魔力を拝借してるんだから』
『元気〇か?』
「いや黒棒、お前なんでそれ知ってるだ……」
確かにこの世界、
それに、と。星月は私の手を引き、両肩を押さえて黒棒の前に立たせる。
『そもそも相棒には、君がいるはずだ。だったら最初から一人じゃない――――相棒が君を直そうとしてるのは、君じゃないといけないってことを判ってるから。違うだろうか?』
『……………………』
「まあ、人格的にもそこまで仲が悪いわけでもないからな」
だったら話は早いよ、と。星月は私の頭に大河内アキラボディの顎を乗せ……、いやしれっと胸を後頭部に押し付けて来るな、色々な理由で泣くぞ(脅迫)。そんなこちらのことなどお構いなしに、声だけでわかる「にこり」とした表情で、こう言った。
「修繕、修理と考えるから、原形を壊す必要があるってことだと思う。
だったら相棒がやらかしてもう色々と……アレだし、『今の状況』を逆手に取るのがベストだと、私は思うよ」
「今の状況を……」『逆手に……?』
理解が追い付いていない私と黒棒に、星月は割とあっさりと、それでいてちょっと文句をつけたくなる解決方法を提示した。