ちょっとイベント整理もかねて時間かかってます・・・、次はもうちょっと早くしたい汗
ST183.Daemon Cleaning Up
「つまり、ここに私を一人残していくと?」
星月の提案に思わず困惑する私だったが、黒棒はそれで得心がいったらしい。なるほど、と一言言うとともに、自らの手元の重力剣を消した。
『つまり「私個人に」というよりも、重力剣たる武器そのものに機能を追加する、ということか。書き換えではなく刀太の魂の一部が封入されることで、それを軸に新たな名前をつけると』
『少し違うかな。追加って点はあってるけど、相棒の魂が一部残留することで重力剣の特性がより相棒に寄るというか』
どうでも良いのだが(良くないが)、そんなことをして本当に大丈夫なのだろうか。下手をしなくてもそれはキリヱにかつての知らない私が魂を残したようなノリであって、何かこう、致命的に原作からズレるような事態を引き起こすのでは……。って、魂? いや、血を使って分身させただけだから、そんなトンデモ現象の類ではないはずだが。
こちらの感想が露骨に顔に出ていたのか、星月は苦笑いして「大丈夫なんだ」と言った。
『そもそも重力剣が折れてることの方が致命傷だから、誤差の範疇だよ』
「アッハイ(素直)」
『それに、相棒の分身を残したうえで新しく機能と名前を決定するというのなら、必然的に相棒が封じられているものの一部が外に出ているということになるから。これがどういうことか、わかると思うけれど』
「いや、判らん」
『つまり以前の、刀太の胸に傷があった状況に似通うと言う事ではないだろうか』
さっぱり状況が判別できていなかった私に、黒棒が指摘する。…………「他人に対してはともかく自分に対しては察しが悪いのは何なのだろうか」とか思っているのが第四の目経由で視えてしまい、思わず「いやいや」と相手には意味の分からないだろうツッコミを入れてしまった。ハマノツルギのコピーが解除された結果、必然的に魔法無効化能力も解除されており、こちらのマインドスキャン的な何かを防御することができないわけである。
なお、やはり真っ黒で何を考えているか気持ちが伝わってこない星月も「うんうん」と頷くので、黒棒の言ったことは彼女的にも正しいことなのだろう。とすると……。
「傷があった頃って……、いや雪姫に負けるまではフツーにあったから、それはそれでおかしな話でもねーけど、ん? つまり黒棒を起点に自動回天して、魔力が分散されるってことか?」
『それだけじゃないよ。
相棒の分身は、相棒の認識がどうであれ「相棒自身」であることに相違ないんだ。つまりここには相棒の魂の一部が存在しているってこと。そこに分散した魔力を遠隔で扱えるとなれば――――――――』
なるほど菊千代、理解した。
「つまり黒棒が本当に
思わず星月の手をとってテンションが跳ね上がった。それはもうビンビンにである。いきなり迫られて少し挙動不審そうに一歩引く星月と、腕を組んで困惑しているらしい黒棒。こちらのテンションの上がり下がりにというより、星月へ突然急接近したことへの疑問か。いや、疑問か? 「あれだけ女性関係がややこしいというのに、自分から更に拡張するのはどうかと思うが」ではないぞ黒棒。そもそも星月は「一周目」の私から一応は味方だとお墨付きが出ているのだ。その上でこちらの事情を色々知っているのならば、そりゃあ、普通より距離感が近くなっても不思議ではない。信頼までは出来ないが、それはそうとしてもし現実世界に出てきているなら、タイミングさえあれば料理を振舞うくらいには親しんでも問題はないだろう。
星月がそもそも原作「UQ HOLDER!」に影も形も存在しないことを考慮しなければ(爆)。
『相棒、言葉にしないと伝わらないからそういうのは……。ここ精神世界ではあるけど「魂」は精神にあって別々なんだから』
「いや聞かれた方がまずいだろうが」
『だったら何でそんな語るような口調で考えてるんだ…………』
そんな漫才はさておき。改めて星月が私と黒棒向けに説明をした。
『魂だけの状態の相棒も、「金星の黒」からみれば「本来なら」「肉体があるべきはずの」魂ってことになる。つまり相棒は、この重力剣の中にあって「死に続けている」って判定になるんだ』
「肉体が別にあるのに?」
『うん。それは、「魂がわかれている」以上は1つの方は生きていて1つの方は死んでいるというのだとしても、扱いがちょっと違う。上手に例えられる気はしないけれど、今そこで寝てる2人の相棒って、相棒がその気になったらすぐ「血に戻して」体に統合できるはずだ。
けれど精神世界に置き去りにするというのなら、こっちへはそう簡単にこれるものじゃない。結果として、バグみたいな形で相棒のそれは判定されるってことなんだ』
「バグか…………」
まあ元々原作刀太自身が「72人のクローン」のうちでもバグ枠みたいなものだったわけで(主人公補正)、今更私が何かバグめいたものを引き起こしても大して問題にならない……、よね? 大丈夫だよね。なんだかんだ星月の口車に乗るしか他に方法がないのは直感でも理屈でも判断がつくが、この私自身の正気を私自身が保証できない上に、何かの拍子に世界が滅んでも責任の取りようがないのだが。
『これに関してのバグはそこまで大きな問題にならないから、気にしないでも大丈夫だ。仕様の外をついているだけで、悪用している訳じゃないから。悪用していても大した問題ではないけど』
「悪用とは?」
『んん……、降魔兵装の類が一応それにカテゴライズされるけど、そもそもそれを言い出したら相棒の死天化壮とかその時点でアウトな気もするし……』
「あー、なるほど? 再生力以外の面で『金星の黒』を多用するのが悪用で、積極的に使わないのなら悪用にはならないと」
つまりは原作の範疇から極端に逸脱はしていないということらしい。そのあたりに納得できれば、私としてはあまり言うことはない。
完全に安心する訳には今までの経験則的に無理だが、多少の安心というか猶予めいたものが発生した、と仮定してもいいのだろう。
「で、そうすると次の問題があるな」
『ああ、そうだな刀太』
『……? えっと、二人ともどうした?』
星月が大河内アキラな顔のまま不思議そうにしているが、私と黒棒の意見は一致していると言ってよいだろう。ことこの状況で黒棒がこちらを積極的に襲う必要もないとくれば、なんだかんだゾンビ事件の時すら含めてずっと一緒にいた関係なのだ、お互いがお互いにこういう場合に何を考えそうかくらいは予想は付く。仲良くなりすぎると予想がつかない、しかしそこそこの仲だからこそ短絡的に想像に成功するものであるということだ。
すなわち――――――――。
「『新たな重力剣の名前をどうするか問題』」
「というわけでどうしよう。とりあえず俺の血を使って何かするってことだから、ネーミングにそれっぽいのを含んでもいいと思うけど――――」
『いや、色を入れると私のアイデンティティにされてしまった「黒」と重なるから、そこは回避した方が無難だろうな。それより気になるのは、英文字と和文字とどちらを使用するか――――』
「せっかく使うなら両方使いたいな。全然違う文字を当て込んで、意味合いを二重にするみたいな。直訳じゃない感じの方がそれっぽいというか――――」
つまり、お互い相談しあうか競い合うかはともかく、どちらがより
ああ、と何とも言えない表情になった星月を尻目に、私と黒棒とはそのまま延々と話し合いを始めた。
※ ※ ※
先輩があの姿勢のまま動かなくなってから、どれくらいたった、かな。
うーん、私たちの体感だと2週間は経ってないんだけど、どうも「見ていないとき」ってダーナ師匠に曰く「時間がずれている」「主観と客観で時間は相対的じゃない」ということらしいから、実際はもっと経過してるのかもしれない。
一応、知り合いからだいぶ前に貰った設計図とかがあるから、時間計測だったり観測だったりの道具を作ろうと思えば作れるとは思うけれど……。何かしらブレイクスルーがないとキツい気がしているというか。
正直、私がここに送られてきた技術は、あの人が開発した装置を使った自殺行為に等しいものだし。
ダーナ師匠……、「背教の魔女」タローマティに会うための方法として、金星文明の者から得た情報をもとに、時空の狭間に時空間を超越して送り込む装置なんて、それこそ理屈の上では「太陽系が何度も滅びる」ようなものだ。
それくらいの生命力が、エネルギーが必要ってことなんだ。
それを私たちで色々裏技を使って、理論的に正しい魔法式へと組み替えて「何度も試行した」結果、今ここで弟子入りに成功した私もいるのだけれど。
まあ、そんな私のメイリンだって「偽名みたいなもの」だし。私の生きる時代、真の名を知られることは魔術的に致命傷となるから、本名なんて話す機会は全然ないし。
「駄目だなぁ……。先輩がいないとネガティヴになっちゃう、よね」
ダーナ師匠から新たに組まれた特別メニューで、私の「呪文詠唱が出来ない体質」の改善の目途は立った。
立ったというか現状の追認ということになるけど、その修行をすることで私自身が「死なない」という確証を得られた。
だからその分修行も派手になって……。結果、時間は既に夜だったりする。
派手と言うか、とにかく大掛かりで時間がかかるって言うか……。毎度毎度、ダーナ師匠が召喚した魔獣にぶん殴られながら、魔力の分離を頑張るみたいな感じなんだけど。
フラフープを卒業するために意識だけを集中して魔力を練らないといけないって結構大変で……。うーん、だからってフラフープ装備して戦うのは、ちょっと絵面が弱そう、だし? その話を聞いたダーナ師匠が「オイオイ……」みたいな目でどこか遠くを見たりしてたけど。
それで、今日の分の修行が終わった私は、魔力分離の練習。
失敗した時に色々大変なことになるから、これは表でやる。
つまりテラスっていうか、先輩の座禅みたいなのをしてるのが見える位置だ。
「…………はぁ」
やっぱり、あの姿勢が解けない。
意識が戻ってないってことなんだ。
私の料理教室だって、まだまだ中途半端なんだけれど………………。
まあ私に思う所があっても、結局先輩の修行が早く終わったりはしないし。
諦めて直立しながら、手首に引っ掛けたリングを指先にもってきて、フラフープの代わりにぐるぐる回し始める。
……ダーナ師匠いわく、私みたいな呪文詠唱できない体質の人間っていうのは、気と魔力、体内と体外にうずまく生命エネルギーのバランスが相殺してしまう状況を言うらしい。
だから何かしらブーストアップする方法をもってそのバランスを少しだけ傾けてエネルギーを操作するか、あるいは身体的に改造を施して無理やりエネルギーを分離するか。
もともと私に施されていた呪紋回路が後者で、現在ダーナ師匠が教えようとしているものが前者だ。
もちろん、そう簡単に普通はできない。出来るなら私の時代においても、呪紋回路なんて作られたりはしていない。先輩たちの時代においてすら、魔法具を外付けするとかして、ほんの少しだけバランスを崩してひねり出したエネルギーを攻撃に転化するとか、そのくらいがせいぜいなんだ。
だからそれを可能にするのは、結局回路だったり今やっている遠心分離法みたいなやり方だったりじゃなくって、もっと根本的な私に組み込まれた――――――――先輩と同じ、「火星の白」と「金星の黒」の扉が、だ。
「パーセンテージは教えてもらえなかったからなぁ……。イメージが上手くできないんだけれども、うん」
言いながら先輩の方を見る。……うん、やっぱり先輩の状況はおかしい。変だ。数日前の時と同じだ。
だって突然、先輩の姿が3つ、4つ、5つに増えたかと思いきや、そのうちの1体が凄い怖いビジュアルになったり、皆突然光りはじめたり、うん、法則性がない。
割と初期から思ってはいたけど、先輩のその自由度みたいなのが、けっこう怖かった。
なんの脈絡もなく突然変貌する姿には、ちょっと身の危険みたいなのを感じてゾワゾワする。
私の時代だと心霊現象も生命エネルギーの一種として扱われるから、それすら効率よくエネルギー転化する燃料の一つとしてしか扱われない。それでも複数のエネルギーが集まった時に指向性を持てば、変な暴走とかも起こるので、より物理的な恐怖があった。
「集中、集中…………」
指先でブンブンと振り回す小さなリングの周囲に意識を集中して、そこに段々と「自分の意識ではない何か」が注がれていく感覚がある。それに逆らわず、更に力を集中することで本来ならもっと簡単に回るんだけど…………。残念ながらフラフープよりもリングが小さいせいで、上手に回転させられない。
このあたりは私の練度不足だ。まだまだ修行が足りないってことだから、もっと頑張らないといけない。とりあえずリングを手元に戻して、師匠からもらった簡易フラフープを展開しようか悩んでいると――――。
「……ん?」
違和感を感じた。これは、そう、多分「異次元を渡る」経験をした人間だから感じ取れる違和感。
空気が急に感じたことのない匂いになったみたいな、まるで全然違う気候の国に来て身体がその変調を受け付けないみたいな。
そんなのに釣られて先輩の方を見れば、間違いない。「空間の裂け目」だ。人型にくりぬかれたみたいな、そこだけコントラストが変になったみたいな、色調が崩れたみたいな、そんな見た目の何か。
次の瞬間、鈍く光を放ってから、その人型の
頭には片方折れた角が生えてて、ちょっと肌が浅黒くて、私の時代のそれではないコンバットスーツみたいなのを着用した、腰とか背中から羽根みたいなものを生やした成人女性――――。
「――――アガリ・アレプト様からの
桜雨キリヱ共々、消えなさい。我らがバアル様の未来のために――――『
「ッ!?」
彼女は自らの影から剣を2本出した。白いやつと黒いやつ、どっちも長い。
それを振りかぶって、いまだ座禅状態の先輩に斬りかかろうとして――――。
思わず「擬似収納アプリ」から疑似魔力光線銃を取り出して、狙撃した。
修行中は使わないつもりだったけど、ちょっとそんなこと言ってる場合じゃなさそう。明らかにダーナ師匠の管轄外なところから現れてる、みたいだし。それに先輩、今は動けないんだから。
こちらの銃撃に当たった剣は中程で折れる。白い方が折れて、ぴくり、と表情を動かして彼女は私の方を見た。
「………………これは、ふむ? なるほど。『この時空の』仲間ということですか。貴女、コノエ・トータの周りにいる不死者にしては見慣れない誰かですけれど」
「不死者……? いや、違うけれど、そんなことはどうだっていい、はず!」
そう、だって今、先輩は身動き一つ出来ない状態だ。
出来ないと言うより、こっちの声が届いていないだけ、かも? しれないけど。
そんな先輩だけど、普通にやったらどうやっても殺せる感じはしない。普段は人間らしいのに一度出血した次の瞬間にはバケモノみたいになっちゃうし、最近は特に「こっちの動きや考え」を先読みするようになってからは、時々出血ゼロで完封されることもある。
そんな先輩に対して、あんな時空障壁を無視するような出現の仕方をして、なんの策もなくただ殺そうとするとか、普通に有り得ないと思う。
現にあの剣は、折れたけど少し怖い気がするし。
経験的に魔族のああいう手合いが取り出す魔法具みたいなのは、1つでも人類側が用意する戦略兵器みたいなことである場合も多いんだ。
光線銃を構えながら警戒する私に、彼女は少しだけ不思議そうな顔をしながら。
「…………それはそうと何故、貴女はチアガールのような恰好をしているのですか? ふざけているわけではないようですが」
「…………………………………………罰ゲーム、です」
ダーナ師匠の課したノルマを突破できなかったせいで、私はマイクロビキニかスケスケチアガールかの二択を強要された。うん、ビキニはともかくチアガールはスケスケだけど、一応まともな下着の着用は許可されていたから、そっちにせざるを得なかったって事情はあるにはあるんだけれど……。
そんな形で危機感をあおっても、私、そんなに上達しないんだけれどっていう当たり前の抗議は、普通に無視された。
事情はわかりませんが同情します、と少しだけ苦笑いを浮かべたあの魔族は、ぶんと腕を振ると折れた白い刃も当然のように再生して。
「ですが、思い入れもあるわけではないですし、双方まとめて一思いに殺してしまいますか。それならば、この世界での我々の障害も消えるはずですし。
それでは“一巡周ってまた会いましょう”。詠え、
「いや、させねーからな?」
彼女が両手の剣を振りかぶって何かをしようとした丁度その瞬間。全身を例の血のコートに覆った状態の先輩が、血の斬撃を放って彼女を背後から斬った。