ST185.Number Of LIFE Required To Propose.
その名前がアトラクター。一刀振ればそれだけで、周囲へ超重力の衝撃波を放ちダメージを与え、フィールドを損壊させるMAP兵器である。
『神を称する敵を屠るための剣か……、何っていうのかな、因果なものだ』
星月からのそんな感想コメントはともかく。ともあれ、その文字の読みを継承させた黒棒は、本来の「百の顔を持つ英雄」ではなく「重力剣」というカテゴリーに追加される形になり、その結果が現在だ。
前方で「何故か」血装術を発動できた「僕」、改め「私」の姿を見て困惑するオティウスとメイリン。オティウスの言った通り、本来なら血装術は使用できなかったのは間違いない。そもそも「本来の」意識で無かったさっきまでの私では、血装術に必要な「金星の黒」の扉へのアクセスに問題が発生するはずなのだ。それ以前に完全解除された状態では、自動回天のない今の身体では当然発動できるはずもない。
それを可能にしたのが、今の黒棒である。
「血風――――」
黒棒を振りかぶり、ダイヤルを今までの「軽」ではなく「重」の方に親指で回す。と同時に、黒棒の刀身からあふれんばかりに「大量の血」が噴き出し、「金星の黒」を経由してその操作が可能になる。
この状況にも困惑、あるいは驚愕するオティウスのことを無視し、私は黒棒を袈裟斬りの要領で振り下ろした。
「――――創天!」
「…………っ!? くっ、
飛び散った剣八本が自動的に彼女の目の前に集まり、盾のように折り重なる(持ち手が黒いからおそらく影操術でも使用しているか)。そんな彼女相手に高速機動で背後に回り、もう一発血風創天。前後からのサンド攻撃は本家
流石に咄嗟に攻撃が切り替わったせいか、オティウスも咄嗟に一本背後に回すが、受けきれない――――今までの血風とは、それこそ「血液の量」「質量」が違う。同量の速度で打ち出される血のウォーターカッターとはいえ、そもそもの重量で叩きつぶす形になっているのだから、相手からしたらたまったものではないだろう。
実際こちらの一撃で、右足が根元から
「計算外……、まさかここまで、容赦がないとは」
「当たり前だろ敵対してんだから」(※キリヱ大明神の敵討ち的な意味合いで)
「いえ、そうではなく…………。そもそも『こちらの』コノエ・トータでは出来なかったのかもしれませんが、それほどの移動速度で、不意打ちめいた真似をし、なおかつ本体を倒すのではなく、部位破壊に来るとは」
「多分、やる必要がなかっただけだと思うぞ? 敵が軍団なら一気に『血の津波』とかで呑み込んだ方が手早いし――――
「ッ!」
言いながら黒棒のダイヤルを「操作せず」一閃――――先端の、それこそ以前ネギぼーずに「折られた」位置までの刀身が「解け」「再形成され」、血風のブーメランと化して彼女目掛けて放たれる。
オティウスはそれを周囲の剣で防御するが、その3本ともが今の血風を受けて「制御を失い」、その場に落ちた。厳密には剣に接触した時点で分散飛沫した「死霊属性の血」が、オティウスの影操が「這っていた」柄へと接触し、それを断ち切ったのが正しいのだが、いきなりそこまでされたことが彼女にはわからない。ただ自らの剣に送っている影の操作が利かないことだけは理解したのか、もう一本、いまだ無事な剣を「血の義足から生やした」「もう一本の腕」でつかみ取り、瞬動をもってこちらに移動し。
それを私は、刀を構え「前進するモーション」をしながら「後退し」、ついでに黒棒のダイヤルを操作して刀身を「再形成させた」。再生させ、そして延長させる。送る血の量を増幅させ、刀身そのものを長くし、距離を離しても斬りかかることが出来るようにする。
死天化装必殺、実際の動きに関わらず座標軸だけは自由自在なバグ動作である。やりすぎると私も混乱するので最近はあまりやっていないが、初見相手では確実に有効だという判断だ。
現に「第四の目」越しに見たオティウスは、こちらの意味不明な動きへ混乱のあまり血の制御が少し緩んだ。
それを見計らって、「聖属性」の血を送り込む。
「血風聖天――――」
「――――ッ!?」
吸血鬼や魔族にとって、聖属性魔法は毒ないし電子レンジ的な威力を誇るのは既に体感済。
であるが、今回に関しては何一つ問題がない――――「私」自身の肉体と、黒棒から放たれる血とは「直接接触していない」。であるがゆえに、それが私の全身に回りスリップダメージを発生させることもなく、正しく、聖属性の血風創天を発動することができていた。
つまり何が起こるかと言えば。オティウスは見事に左半身が切り裂かれ、その上から胴体だけが残った状態となった。後の部分は「蒸発」し、焼け焦げ、その影響かいまだ再生が追い付かず、その場に倒れ伏す。
左腕や肩と胸元、頭部と随分「小さくなった」彼女は、断面から血や影を使役できないことに明らかに焦り始めた。
「こ、こんなことが……!? 一体何をどうすれば、そんな相反する属性の技など扱えるというのです!」
「…………………………………………」
「何か言え! いえ、言いなさい!」
こういう時は無言のままの方が
やはりというか、戦ってて伝わってくる感情はよくある敵キャラクターとかが言ってくる少々傲慢な上位種目線のあれそれとか、それが乱されたことによる恐怖とかが主ではあるのだが、そんなキャラ付けの薄さに少々「看過できないもの」があったので、少しだけ思案する。
そんなこちらの状況に、メイリンは一人正しく私と黒棒がどうなったかを、状況から推察できているようだった。
「失われた質量を、先輩の血で補填している……?」
正解である。「第四の目」越しに見ると色々と魔法理論やら何やら細かく思考が展開していてむしろ本当に正解かどうか分からなくなってしまうが、簡単に言えばそういうことだ。
黒棒の内側に残して来た「私」の魂の一部(らしい存在)。それを起点に、「魂が残っている」状態を「金星の黒」の側に「死にかけている」と
これにより「金星の黒」と黒棒とも「魔術的に」つながった状態が形成され、これをもって黒棒の「折られた刀身」という事実を解消したものが、今のこの
「よっと」
つまり――――ダイヤルを回すことによって変化するものが、黒棒の質量ではなく「私の血」、その量、密度、圧縮度に関係してくることになった、らしい。本当なら黒棒本来のポテンシャルたる超質量とかどうなったんだ!? という話なのだが、まあ例によって細かい部分は星月が調整しているらしいので、シンプルに「ダイヤルを回せば血がいっぱい出てくる」と考えて問題はない。
さきほどの血装もこれに由来する――私自身に回天が存在せずとも、体外に存在する部分から「私の魂」から「私の血」が出てくるなら、それが帯びている金星の黒を経由した私の魔力を、こちらでつかみ取ることが出来る。
結果、副次的な理由からの解決ではあるが。血装術によるスリップダメージや、血本体を狙った概念的な攻撃などに、ある程度の耐性を獲得したと言う事だ。
確かに師匠の言葉に偽りはなかったと、一応は納得した私である。
「まぁ納得したとはいえ、『私』のうちの
思わず半眼になって虚空を見上げるが、お師匠からのツッコミは入ってこない。便りが無いのは大丈夫な証拠か、あるいは呆れてコメントも寄越さないのか…………。どちらにせよこちらから手出しは出来ないので、ここは一旦考えるのを止める話だろう。
『…………これは酷いな。惨いが正しいかもしれないが』
「ん? どーしたんだよ、黒棒。このくらいの攻撃ならクウネル=サンダースとかでも――」
『いや、何でもない。こっちの話だ……「こちらの世界の話」というのが正しいか、しかしいや、これは………………、そうだな。「星月」を名乗るあの女の判断に任せよう』
「いや、何かスゲェ恐ろしい事実でも知ったみたいなリアクションとるの止めろ」
ただでさえ何か「私」自身について、もはや厄ネタめいたものが多数存在するだろうことは否定することは出来ないのだが、それにしたってフラグめいた発言は止しておくんなまし(混乱)。
オティウスが「無視するな」と怒鳴りながら(呼吸器も半壊どころでないのによくしゃべれるな)、それでいてこちらの隙を伺っているのを視ながら、わずかに彼女の手先から伸びた影へ「聖血風」を投げて切断。あまりにも無駄のない手際過ぎるせいで、舌打ちしてキレるよりも先に彼女の内の恐怖が勝った。
「何と言うか、あんまりしゃかりきにやりたく無ぇんだよな……。とりあえず『この場で死んだら』『異世界の自分の肉体を乗っ取って』復活するみたいだし、一旦封印してお師匠に相談だな」
「ッ!? ッッ!!? ッッッ!!!?」
「何故それを、って顔して(思って)るところ悪いが、一切話すつもりは無ぇからな」
ついでに言えば、原作におけるオティウスはそもそも「気が付いたら出てて」「気が付いたら退場していた」タイプの敵である。主人公である刀太は対面すらせず、キリヱ大明神と相打ちになったかで既にこの世界にはいない、みたいな扱いを受けていたはずだ。そして原作においてキリヱが帰還する際に、彼女が障害になるようなことはなかった。
つまり――――本当にこの場で倒しても問題がない相手なのだ。
彼女の能力による「異世界転移」めいたそれさえ考慮しなければ。
さきほど口頭でも言った通り、彼女はどこかの世界で死んだ際に、そこに近い世界線のいずれかの自分自身の肉体を「乗っ取る」ことで復活することが出来る、らしい。そもそもの固有能力である
まあその結果、単純に戦う分にはかなり厄介極まりない相手であるようだ。いくら「この世界程」キリヱ大明神の性能がぶっ壊れでなかったとしても、相打ちと言う結果に持ち込んだだけ大金星かもしれない。
だからこそ、これ以上の追撃をさせる訳にもいかないのだが。
「よっと」
黒棒のダイヤルを再び回し、刀身に血の奔流を纏わせる。属性は「塊」、つまりフェイトの石化魔法。
こちらの攻撃準備が整っていることと、今までのやりとりから弱点を把握されているだろうことを察してか、目を見開いたオティウスが震えながら首を左右に振る。その動きや本心を「視る」に罪悪感や同情もしないではないが……。
「アンタ、今のアンタ以上に情けない顔してたキリヱ相手に何やった?」
「そ、れは――――」
視えるのだ。言葉にはしないが、こちらには「彼女の記憶越しに」視えているのだ。
キリヱ自身も
それをオティウスが実際に見た記憶越しに見た以上、私もこの場で手は抜けない。
「この世界のアンタが、今のアンタほど色々やらなきゃ、それはそれで対応するけど――――アンタ相手には、無理だ」
「…………では、精々祈りましょう」
この私の願いを、いつか「どこかの世界の私」が果たしてくれんことを――――。
そこだけは私の知るオティウスのようなことを言い、閉じた彼女に向けて。私は血風塊天を振り下ろし。秒速で、彼女の残った全身は石化した。
※ ※ ※
特に何か呼びつけることもなく現れた師匠は、とりあえずは私が預かっておいてやるよ、と言ってオティウスの封印された石像を、指パッチン一つで「亜空間へと送った」。そうとしか言いようがない、しいて言えば
それはそうとあまりに狙ったタイミングすぎる介入で、出待ちを疑ってしまう私であるが…………、いや実際問題、こちらの慣らしを兼ねて出待ちしていたと返されそうなので、あえて聞くまでもないだろう。
あと隣でメイリンが目を丸くして「原理どうなってるのかな」とか師匠の行った謎現象に仮説を複数おったて始めたあたりで鬱陶しかったので「第四の目」もオフにしたのだが。
一応、さきほどのオティウスとのやりとりで、別に私に対して忌避感情を抱いたりしてはいないようなので、その点については有難い。
「しかしアトラクターとそれに名付けたか……。んー、これは、セーフかねぇ? いや『世界観的に』『メタ読みすれば』何もかも間違っちゃいないネーミングなんだが、刀太も狙ったわけじゃないだろう?」
「狙ったとは?」
「あー、なるほどねぇ。カトラス経由か。何だいちゃんと覚えてるじゃないかあの小娘も。リアル
「リアルパラ……? いやそれはそうと、ネーミングの由来を今の一言からどう察するだけの情報量があったんスかね?(震え声)」
「細かいことは良いから、早い所解除しな。こっちでも使えるか確認くらいしたらどうだい、その『
「あー、まぁそれもそうっスか。…………『
全身の血装術が解除され黒棒の刀身に戻った瞬間、黒棒本体が「淡く光った」。ぎょっとするメイリンだが、そんな彼女のことなど知らぬとばかりに黒棒は姿を消し、代わりに私の手元には一枚の仮契約カード。描かれているのは、それこそ原作「UQ HOLDER!」1巻の見開き扉絵に描かれていた刀太の姿(表情は半眼なので私のようだが)と、「KIKUCHIYO」の文字…………いやちょっと待った、それは流石に色々マズいのでは(震え声)。
思わず動揺する私に「サービスだよ」と言って、師匠はそのカードをひったくると、ちょちょいと「何か」を表面でなぞり、こちらに返して来た。見れば名称が、ちゃんと「TOHTA」に書き換わっていた。
これには正直感謝の一言。思わず頭を下げる私に、師匠は軽く肩をすくめた。
「…………何、それ?」
「何って、仮契約カードだけど」
もっと言えば「私」と「黒棒」との仮契約カードである。
一応念のために言っておくがキスはしていない(断言)。どちらかというともう一つのパターン、つまりは「契約時に対象者の間に出現する魔法陣同士を一定時間くっつける」ものの応用と言ったら良いか、あるいはもっと古いものと言ったら良いか。この場合、黒棒を膝の上に置いて刃禅をしていたのが、結果的にその意味合いを持つことになっている。
その結果として出来上がったカードが何故私の側に出現するかと言えば……、こればっかりは仕方ない。契約の関係上、どうあがいても「私」が黒棒に負けてしまうからだ。「そもそも精神世界で契約を結ぶ形になる以上、刀太は『金星の黒』のバックアップを受けられないのだから、私とお前とで綱引きをした際にどちらが勝つかと言う問題だろう」とは黒棒の談。なまじ人工生命体(?)であるがゆえに、精神の耐久性的な勝負をした場合はあちらに軍配が上がってしまうということらしい。
まあ結果として、自分の仮契約カード(のコピー)を私が手に入れることになったわけだ。……何故古い術式で最新のカードが手に入るのかと言えば、そこは星月に「お役所仕事らしいし、世界仮契約委員会」と遠い目で返された。古い申請フォーマットで出されたキャッシュカードの契約手続きでも、現行の要綱と遜色がなければ書き直しせずに契約させてもらえる、というような、そんなニュアンスのようだ。もっともキャッシュカードはそこまでファジーさを発揮してはもらえないだろうが。
「初めて見た、かも……」
「ハジメテ? えっと、こっちの歴史はともかく、そっちでも魔法アプリとか存在するんだよな。だったら仮契約のアプリとかもありそうなものだが…………」
「そうじゃなくって、えっと…………、コレ」
言いながらメイリンは、どこからか一枚のカードを取り出す。白紙のそのカードは、サイズ感だけで言えば仮契約カードのそれだが……。
「これは私のカードじゃないけど、私たちの時代だとこういうカードが一般的、だから。個人専用のカードなんてそういう『正式っぽい』の、初めて見た、かも」
「それは、えっと、つまりどういう…………?」
「共通の
全く、そこまで質が劣化したかねぇ、未来の世界仮契約委員会も」
電子化したにしてもそれを通したらザルじゃないかい、とお師匠は何かに愚痴っている。メイリンはメイリンで「へぇ……」とか「色々、何が書いてあるんだろ」とか興味津々と言った風に私のカードを横から覗き込んで、距離感が近すぎる。ちょっとでいいから今の自分の恰好考えろ、下着がスポーツブラとかそういうのでも二の腕とかノースリーブっぽい感じで思いっきり当たってるんだぞ、そういう健康的なタイプのお色気はアウトだこのバーロー(震え声)。
当然不健康なお色気はもっとアウトだが。
『……そんなことより、相棒は時坂九郎丸たちが目覚めた時に、その仮契約カードについてどう説明するか考えた方がいいんじゃないかな。時間軸、もう合流してるみたいだし』
「あ~、…………」
そして星月のコメントと共に、なんだか体感で数カ月ぶりくらいになるようなならないような、そんな再会やら発生するだろう問い詰めやら何やらに、頭を痛くした。
なんとなく夏凜の顔が見たくなったのも、気の迷いではないはずである。癒しが、癒しが欲しい…………!
「そっちはそっちで、お嫁に貰わないといけないレベルの責任問題が残っていると思うがねぇ?」
「グハッ!?」
「ちょ、先輩!!?」
そして師匠によって背中を撃たれて、脳裏に「あァン……っ♡」とか色っぽい声を上げて私をあやしていた夏凜の映像がフラッシュバックし、思わず私は膝をついた。流石にそれを今思い出させるのはルール違反じゃないですかね……、致命的だぜ(致命傷)。