光る風を超えて   作:黒兎可

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そろそろ何かに気づく人は出てくるかも


ST192.胸の中の柔らかいところ

ST192.Kick Back Uh-Huh Days.

 

 

 

 

 

「え、ええ、エヴァンジェリン、サン……?」

 

「どうして片言になったでござるか」

「何故私の名前を知っている、この小娘」

 

 我を取り戻したキティちゃんに塩水のお湯(下手に真水にするとメイリンは腹を下す可能性があるので、全員まとめて薄めたぬるま湯)を出していると、こちらも今気づいたかのように動揺しておののくメイリン。ついさっきまで虎柄風の原始人スタイルめいたパレオ風な衣装は、流石にずっと全裸だと悲しいだろうと言う私の気遣いで適当に狩って来た魔獣を剥いで作ったものだが(まさか肉丸からの食肉やらケモノの捌き方の知識がこんな形で役立つとは……)、流石にキティちゃんが同情してミニスカメイド服を一着貸し与えていた。なんとなくだがせっちゃんを思い出すあたり、遺伝子的な素体なのか何なのか。師匠の言葉が若干だが思い出される……。

 なおその時の彼女の発言が前述のそれであり、私、キティちゃん共々半眼を彼女に向けていた。まあ私は編み笠……というか天蓋? を外していないので、顔までは見えていないのだろうが。

 

「というかそもそもだ、貴様この小娘は何だ?

 こっちに落とされた時に私も貴様も一人だったはずだが」

「おそらくこの試練とは何も関係がない女でござるよ。何やら複雑な事情がある様子でござる」

「ど、どうも………デス」

 

 口調が堅いメイリン。怖がっている、と言う訳ではないのは「第四の目」でわかるのだが、どうやらこっちに来る前の時系列、つまりはお師匠にペナルティを与えられる前にやらかしたことの時系列で、エヴァちゃんと出会っていたということが発端のようだ。詳細は思考の底に埋もれて表出していないので見えてこないが、なんとなくタイムパラドックスを気にしているだろうことは私個人の経験値から察しがついた。

 当然だろうが、彼女の遭遇したエヴァちゃんはメイリンのことなど知らなかったのだろうし、このエヴァちゃんというかキティちゃんがメイリンを知っているとそれはそれで拙いということになるのだろうか。

 ガバは怖いからなぁ……(便乗)。

 

 というかこれで歴史が分岐しちゃうのでは? お師匠。そんな疑念を抱いていると「その時は違う恰好で違う名前を名乗ってるから気づかれないよ」という文字が視界の端に踊った。いや、あの、どう考えても物理的時間軸的に超距離がありそうな位置関係だと思うんですが……、何をナチュラルに思念だけ私に飛ばしてきてるんですか師匠。(ダーナ「アンタと違ってそのあたりはぬかりないさ」)

 

 だったら素性だけぼかせば問題はないか? ということで、詳しくは知らないが異世界島流しの刑のようなものにあっているらしいと紹介しておく。キティちゃんは「貴様も大変だな……」と主に師匠の修行の類だろうと思いながら同情する視線を送っているが、対するメイリンは全然違うことを考えているため恐縮しっぱなしであった。

 

「どうした?

 さっきから私相手に怯えて……、確かに吸血鬼の類だがいたずらに血は吸わんぞ?」

「そうでござるなぁ、愛しの彼の血液だけで心も体もおなかいっぱい―――――って冗談でござるよ影操術を止めるでござる」

「言いながら何を平然と血装術で回避しているか貴様ッ!

 少しくらいは死ね!

 というか何だその『白い色』はッ!

 魔力が掻き消されるッ」

 

 私の軽口に割と本気でブチギレながら羞恥に震えたキティちゃんは、自らの影に魔力を通し「物質として」操作しながらこちらをくし刺しにしようとしてきた。当然のように錫杖黒棒を使って防御してはいるが、そうまで怒らなくても良いではないか。そんな無慈悲なこっちはただ単に空気を和ませようとしているだけなのに(煽)。

 

 まあ想像通り注意を逸らせたかいもあり、メイリンは少しだけほっとすると目を閉じ深呼吸。

 その後目を見開いた後に「白く光る」錫杖黒棒を見て、ぎょっとした表情をしていた。「火星の白!?」と思考がびっくりしているのが視えるが、おや? そうか流石にお前さんは知っているか、素性を思えば当たり前なのだが、ついぞそういった話をされたことがなかったので、むしろびっくりである。

 

 現在の黒棒は、血装部分が白く変化している……、が、これは夏凜から複写した聖属性の魔法ではない。

 カトラスの「アザーメタトロニオス」、つまりはあの左腕のそれだ。

 以前黒棒の内部での見解の相違によるケンカの際、不完全ながらにも使用したあれの完全版である。しいて言えば白血風ということになるのだろうか。

 

 とはいえ飛ばしていないので、せいぜいが「ネギま!」における神楽坂アスナがギャグ補正のようにエヴァちゃんを殴り飛ばしているときの程度であった。まあこちらから殴りに入っていないので、そのあたりは容赦願いたい。平に。

 

 と、そうこうやりとりをしているとメイリンが「ちょっと来て」とキティちゃんに断りを入れてから、私の手を引く。山小屋の外まで連れ出した後、彼女はキティちゃんの方を意識しながら私に防音できるかと一言。

 

「魔術的な防音なら問題ないでござるが、それで構わないでござるか?」

「その先輩の口調、ちょっと調子狂うな……って、ひっ」

 

 まあつまり、私にとって可能な防音など盗み聞きを弾くために血風を出して周囲を覆うようにするくらいなもので。唐突にふって湧いた血のドームのようなそれに、メイリンは身体を抱きしめながら顔を青くしていた。

 閑話休題。

 

「…… 一応先輩に言われた通りに話を合わせていたけど、どういう状況、かな? あんまり過去のエヴァンジェリンサンに会うとか、色々不都合があるんだけれども」

「これに関しては成り行きだし、メイリンの方が後から来た立場になるでござるよ」

「口調そのままでいくの!? というかその天蓋の編み笠とらない? 話しづらいよ、ね」

「いや、万一ということもあるでござるからなぁ。もともとそういったガバに関しては、拙者割と多いでござるし万全の体制にしておくべきでござる」

「努力のポイントがなんかズレてる気がするんだけれど…………」

 

 このやりとりの通り、キティちゃんを助けに行くよりちょっと前にメイリンへ「私に話を合わせるように」とやりとりしていたのだ。カイン・コーシと名乗っていること、姿形がこの似非幻術師? めいたものになっていることなど、こちらのビジュアル面やら何やらについて多少共有した上での現在である。

 この程度の適当なやりとりでなんだかんだよくわからないままに衣服を入手したり誤魔化しを成功させたりと言った私にちょっと引いた目をしているメイリン。思考には「詐欺師」だの「女たらし」だの色々こちらを愚弄するフレーズが飛んできているが断じて違う(震え声)。将来的に世界を守るためには、必要! そう必要故の善行に違いないのであると鋼の意志で断言しよう。

 

 へっ夏凜にバレたら? ……………………ま、まぁそれはともかく(震え声)。

 

「断言はできないが……、ダーナ殿(師匠)がお前さんをここに送り込んだと言うことは、お前さんはここで何かやるべきことがあるということ、あるいは見ておくべきことがあるということにござろう。能力的に何も出来ない状態にされていると言うのなら、拙者に庇護させたうえでということになるのだろうが」

「そうなの、かな。…………何というか、そこは迷惑をかけるんだけどさ。

 ただ先輩も、エヴァンジェリンサンに正体がバレちゃいけないんだよね。じゃなきゃ、そこまで変な恰好したり変な口調したりしないし」

「変なの、だと…………?」

「何でそんな傷ついたような声出すのさ、先輩……?」

 

 いつかのキリヱ大明神の「変なの!」の一言が、メイリンのそれに重なってフラッシュバックしてちょっとだけ傷ついている私だが、OSR(これ)について小一時間教育しわからせるというだけの時間的余裕はない。あまり長引くとこちらを盗聴しようと四苦八苦しているキティちゃんがしびれを切らして直にやってくるだろう。

 

「まあ色々心配な状況なのでござろうが、問題はないでござるよ。キティちゃんというかエヴァちゃん相手に誤魔化すのは、だいぶ慣れているでござる」

 

 何せこちらは二年間の「そういった」ごまかしを前提とした関係である。完ぺきとは言えずとも八割がた誤魔化しが利くなら、おおよそ後はアドリブで何とかなる。そういった実績を積んでいるのだから、そこは大船に乗ったつもりになってくれても良いと少しだけ胸を張った。

 

 …………ん? 何が「そゆとこが女たらしじゃないかナ?」とかメイリンから思考が漏れてきているが、一体何が女たらしだろうか?(ダーナ「分野によっちゃ泥船だからじゃないかねぇ」)

 

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

 先輩は女たらしだ。

 それは私が跳んだ(ヽヽヽ)過去を踏まえて、あの時過ごした数年間の思い出を前提として。その上でなお、多くの平和な時代の人を見た上で、改めて見ても感想は変わらなかった。

 

「――――お嬢ちゃんは、おそらくは向いていないでござるな」

「向いていない?」

「そうでござる。ベースとなる思想は八卦に通じるものでござるが、座学とは言えお嬢ちゃんはそっちの方面を体得はしていない。知識として存在するのと、理解にまで至っているのではまるで異なるでござる。

 これについては東洋と西洋、それぞれの魔術観や世界観の違いがおおいに作用している故、今更無理にそっちの理解を深めると、逆に西洋魔法が使えなくなる可能性が高いのでござる。費用対効果には見合わないでござるなぁ」

 

 むぅ、とふてくされるエヴァンジェリンさん、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルというこの魔法使い。私が知るよりだいぶ若く、態度のふてぶてしさもどこか青いというか、尊大さが足りない。もしかしたら自信が無いということなのかもしれない。私の知るあの小人形、チャチャゼロすら横に置いていないのだし、あの先輩程度に翻弄されてるってことは、それだけ人生経験とか色々足りてないんだろう。

 以前の私ならそんな彼女を揶揄うだけの余裕はあったが、流石にほぼ生身で放り出された状況でとやかくは言えない。……というか、ほぼ全裸だったところに文明的な衣装を提供してくれた相手にそこまで偉そうには出れないと言うか。流石の私も自重を覚える、ネ。

 

「ならば、貴様は何なのだ東洋かぶれ。

 貴様が使ったアレは何だ、術の形態は違うがそれこそ、以前トータが使った――――」

「トータ?」

「あ、いや…………、そうか話してなかったか」

「まあ文脈からおおよそお嬢ちゃんの想い人であることは察するでござるが、ちょっと恋に盲目になっているでござるなぁ。多少コントロールできるようにならねば、後々面倒なことになるやもしれぬでござるよ?

 例えば………………、悪の大ボスがお嬢ちゃんの想い人の姿を形どって現れてキスかましてきて、心まで絆した隙にお嬢ちゃんを殺そうとしたり」

「ハッ! そんな初歩的な攻撃に引っ掛かるかたわけが。

 私とてまだまだ若輩だが、これでも吸血鬼の真祖に近い存在だぞ、心乱れるわけもあるまい」

「ふぅん…………フラグでござるな」

「……おい、何だその小馬鹿にしたような目は。

 というか()が何だ? 何を言いたい貴様」

「口は災いの元……(ボソッ)」

「聞こえているぞ!?

 この、今度と言う今度こそ切り刻んでくれるわッ!」

 

 両手の爪をとがらせて、影で形成されたマントを羽根みたいにして、変装した先輩に襲い掛かるエヴァンジェリンさん。距離にしたら数十センチもないのに急加速するために「魔術的に」形成しただろうその羽根を、先輩はどこからか取り出した錫杖? でちょんとつついて、無力化してる。

 壁に激突して「ぎゃふん!?」とか言っちゃってるエヴァンジェリンさんは、何と言うかこう…………、あっちでもこんな所あったなぁ、ここまで揶揄いがいがある感じじゃなかったけど。

 

 いや、それでも……、あっちの彼女が「私の目的」に不干渉を貫いてくれたことは、そのことだけは結果がどうあれ感謝はしているのだ。

 

「はっはっは、まだまだ愛い愛い」

「そ、それくらいにしてあげて…………、流石に可哀想だ、よね」

「いやそれは悪手にござるよ」

「へ?」

 

「――――ほう、この私相手に同情するか貴様。

 何様のつもりだ只の人間のくせに」

 

 わっ!? とびっくりした私の背後に、当たり前のようにエヴァンジェリンさんの頭部だけが「空中に浮かんでいた」。と、徐々に足元から影が解けて彼女の胴体に集まり、その姿をしっかりと彼女のものとして再形成した。

 ついでに「ぎゃふん」と言った方の彼女もいつの間にか姿を消していて、一体何をしたのかっていうか。多分吸血鬼スキルの類なんだろうけど、それをわざわざここで披露する意味がよくわからないというか。

 

 …………ひょっとして怖がらせて、威厳を取り戻すため。

 あいや、昔からこういう可愛い所もあるんだネ。

 

 ちなみに先輩に言わせると「意外と借りて来た猫のように初対面の相手に警戒しっぱなしでござるし、仕方ないでござるなぁキティちゃんは可愛くて」とか言ってまた怒られてるし……。

 そしてこういったやりとりを繰り返して、彼女の警戒心をほぐした末に、先輩は言うのだ。もし本気で強くなりたいのなら、先輩が数日は面倒を見ると。

 

「さきほど拙者が使った技――――俗に術式兵装とか彼我不問(ひがふもん)などと呼んだりもしているが、これを伝授しないこともないでござる」

「しないこともない?

 何を馬鹿な、そもそも貴様は今私と競っている仲だろうに。

 こちらを助けてくれたことには毛の先程度には礼を言うが、別にそんな助力などなくとも、私一人で逃げ切ることなど出来たに決まっているだろう」

「それにしては大慌てでござったが……、言わぬが花にござるか」

「言ってるぞ!!!? というか誰が大慌てだったと!!」

「まあ、拙者としてもメリットはあるのでござるよ。お嬢ちゃんが戦う時間が長ければ長い程、あの精霊たちを抜き去って城に到達することができる確率は高くなっていく。

 今のままでは、お嬢ちゃん程度ではどうにもならないでござるからな」

「…………あの炎の爆発力が、異常だったことは認めよう」

 

 そして、話題をそらしながらも本題を徐々に徐々に続けて行って、相手の警戒心があるポイントまで崩れた時点で本題を切り出して。何が怖いかって言えば、それが相手の不利益にならない程度に調整された文言になっていること。

 だから、私は心の深い所――――未来において魔法具「いどのえにっき(ディアーリウム・エーユス)」の対策として仕込まれた自己心理操作術でもって、思考の底に埋没させた感情だけで、彼を、先輩を、キクチヨと呼ばれていた近衛刀太を見る。

 

 思考の底は見えないけれど。それでも人の心を(いたずら)にかき乱して、そのくせ自分でフォローして、なんだかんだで自分の流れにもっていく、この先輩のことを。

 

「拙者にとって、今回の報酬は大して意味はないのでござる。知り合い(ヽヽヽヽ)いわく、いずれ判る事らしいでござるからな」

 

 よくわからないけど、その知り合いは女の人だ。

 何故か知らないけどそう直感したよ、ね。

 

「そうなると拙者としても、あのダーナ殿にちょっと一泡吹かすくらいは、あっても良いのではないかと思ったでござるよ。拙者も色々あって癪でござるし……(後、闇の魔法(マギア・エレベア)のヒントくらいは既に得ていても問題はないでござるだろうし、エヴァちゃんが使っていた時期から考えれば)」

「何をボソボソと言っている、貴様。

 …………だが、一泡吹かせたいというのは悪くない提案だな」

 

 それで貴様の師事を受けるかどうかは別にするが、と意地を張るエヴァンジェリンさん。ただ、あくまで口先だけだ。表情や腕を組んだ振る舞いは、どう見ても冷静に状況を分析して、色々な前提条件を天秤にかけている。

 先輩もわかっているのか、何も言わずにエヴァンジェリンさんをじっと見つめていて。

 

「……………………」

「…………」

 

「………‥っ、あっ」

 

 ぐぅ、と私のお腹の音がなって、エヴァンジェリンさんと先輩が同時にこっちを見た。

 い、いやその、呆れたような顔しないでよエヴァンジェリンさんは……。先輩は先輩でニコニコまるで幼児でも見るような視線を送ってくるし。

 

「とりあえず一度、食事をしてから考えてみても良いのではござらぬか? 気分転換くらいにはなるでござろう」

「……まあ、そうだな。

 我々が不死者ゆえに、配慮が足りなかったか。

 許せよ人間、色々あったろうお前は、我々より疲れているだろうに…………」

 

「そそ、そんな頭下げなくても良いヨ!? というか凄い恐縮する、から!」

 

 そしてやっぱり、エヴァンジェリンさんの目には同情の色がうかんでいて。それを見て先輩がしめしめって感じの目を、傘越しに彼女へと送っていた。

 

 うううう…………、これだから先輩は女たらしなんだ。アキラさんの時もそうだしっ。

 確信犯でやろうとやるまいと、人の心のやわらかい部分を徒にいじらないでほしいよ。これだからスプリングフィールドの一族は…………。

 

 あれ? それだとひょっとして私も含まれる?

 あいや、ははは………、まさかそんな、ねぇ?

 

 

 

 

 

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