ST193.Something Feels Very Very GOOD!
キティちゃんの修行パート? ねぇよそんなもの(逆ギレ)。
いや、正確に言えば修行パートをわざわざ回想するほどの時間をかけずに修得してしまったと言うべきか。このあたりは腐っても我がカアちゃん、魔術師としての出来が違う。そのお陰でこちらの思惑は一切合切が潰れてしまっているので、色々とどうしようもないのだ。
まあそれこそ
具体的に言うと…………。今ちょうど目の前で、雷の上位精霊のルイン・イシュクル相手に、かなり善戦しているのとか。
廃城、というか塔が見える森を抜けた一角。あえて開けた場所に相手を呼び寄せたのは、自らの魔法の邪魔にならぬよう周囲の障害物がない状態で戦いたかったからか。とはいえその状況を見れば、もはや障害物がどうこうというレベルですらないのだが。
「
『いくら何でも魔力に物を言わせすぎではござらぬか?』
けらけら嗤いながら自らの周囲に大量の固定された
だからといって様子見をしていても、それはそれで
既にこの戦法を取って、他の3精霊を下しているエヴァちゃんである。途中途中で後方の私やメイリンの方にもとばっちりの攻撃が来たりして、ついでなので「掌握」しておいたが、しかし本当にいくら何でもあっさりとし過ぎだ。
闇の魔法に繋がる要素として、術を取り込むための思想、すなわち彼我の力を取り込むための大前提としての「自らの心にすくう闇」すら呑み込むための、良きにしろ悪しきにしろ許容し受け入れる素地のためのカウンセリングもどき(と言いつつ「第四の目」で思考を確認した上での徹底した煽り)、そして空間への術式の固定の練習だ。
何故そんな固定が必要なのかとキティちゃんに問われれば、術を身にまとうという原理である以上は術を発動直前状態で待機でもさせなければ、普通は取り込むのが大変であると言った。これ自体はおおよそ原作通りの話であり、特に何をせずとも彼女本人が自分でその結論に到達する話であろうという軽い判断だったのだが。
『発動直前で固定。か。
…………ふむ、なるほど使えるな』
その一言と共に、あっという間に
ネギぼーずであればおそらくそこに展開される術を一つ一つ全く異なる魔法に仕上げてきたりするだろうが(エヴァちゃんも認める開発力的に)、それをしても一晩でそれとなく現在できる範囲での最大レベルの対策を出せてしまうあたりは、流石である。
……そしてそんな物騒なキティちゃんを前に、メイリンは震えながら私の腕をつかんで隠れるように身を寄せているのだが。
「あわわわわ…………」
「いや何をビビってるのかお前さんや」
「だて、だって先輩、アレ空中に浮かんでるの、合計で100個くらいあるよ!? どれだけ魔力が走
「衣服の採寸したりするときに、多少話したんだろ? その時の感じだとあんまり恐怖心とかは抱いていないように見えたが…………」
「それとこれとは話が別っ!」
ちなみに現在のメイリンの服装は、ミニスカメイド服から中世ファンタジーゲームのモブ的なパンツスタイルの衣装へと変わっていた。つまりあまりかざりっけが無い恰好である。
修行の最中で何やら開発していたらしいキティちゃん(あの多重固定の技なのだろうが)が「少し詰まった」と一時中断した時、ミニスカメイド服のままのメイリンの採寸をしたのだ。その際に多少なりともコミュニケーションを取って態度が軟化したと思ったのだが、それはそれこれはこれということらしい。
さて、その後の展開は、本当に私には語ることが全然ない。凱旋するがごとく悠々と一歩一歩いっそ意地悪く歩いていくキティちゃんと、それに圧される雷の上位精霊。中々格好良い感じの魔物的デザインなシルエットが、いいように行動を妨害され続けて悲鳴を上げる姿は色々と見ていて痛々しいものがあった。
「許せよ。
あまり誇れる勝ち方ではないが……、いつトータがまた来るかわからないのだ。
メッセージを残しているとはいえ、会えるならば会うに決まっているさ」
キティちゃんの意志はどうにも固く、仮にこの場で私が対決して期間を伸ばすというのも、どうにも忍びない。現状、5日にはならない程度の4日であり、お師匠から提示された期間としては1日ほど余裕がある状況だ。
これについては何かしら対策を打たないといけないのだが、さてどうしたものか……。悩んでいる私に、メイリンがキティちゃんの砲撃(ほぼ砲撃と言って良い)の余波による刺すような冷気から逃げるように私の後ろに回り盾にしてくる。私も私でついでとばかりにその余波を黒棒(錫杖モード)で「吸って」防御しておくが、そんな私に「やっぱり理不尽だと思う、よ」と何故か不満げだ。
「キティちゃんの基礎能力が高いのはお前さんも多分知っているだろうに……」
「その話じゃなくって。……あれだけちゃんと制御してる、つまり、いつでも私たちに攻撃できるということ、だよ? だけどそれでも『競合相手』である先輩を攻撃してこないくらいには、心許してるとか、やっぱり先輩は女たらしだっ」
「冗談じゃねぇぞ止めろ(震え声)」
脳裏で水着姿の九郎丸と夏凜とキリヱと忍とみぞれあたりがバレーボールを始めてる映像がフラッシュバックする。いや、どう考えても
動揺から血装が解けそうになったのを慌てて再血装し、黒棒の錫杖を背負っておく。
「いや、具体的に何もしていないだろうが。揶揄うだけ揶揄い倒してある程度距離を置かれるのを想定していたのだが」
「フォローとして、先輩いわく『本来の』近衛刀太の話をちゃんと聞いてた、よね。いまいち何言ってるかわからなかったけど」
「それが?」
「普通に恋愛系のアドバイスとかしてたよ、ね」
「それが?」
「……………………タロ、いや、ダーナ師匠よりも恋愛方面で味方、みたいな振る舞いだよね?」
「…………そう?」
「うんうん」
あー、いやー、それに全然敵意もないし、話しやすいし、と続けてくるメイリンに、お師匠から見せられた九郎丸、キリヱ、カトラス、夏凜の時の映像がダーッと脳裏に流れる。つまり、キティちゃんは本命がいるからそういう話にはなり得ないが、少なくとも距離感としてはかなり絆されていると?
いやちょっと待て、だってまだ一日二日程度だぞ? お師匠の下で修業していたキティちゃんはそれこそ半世紀以上はあちらと付き合いがあるのだから……。
「その付き合いが長い相手よりも気遣うし優しくしてくれるし、恋の応援もしてるようにしか見えなかったよ? それは、いくら恋愛ネタでからかうような人でも好感度が大きく変わると思うけど、ね」
「……………………」
これはアレか? つまり九郎丸パターンか? そもそも突き放す必要がある相手とは接触しないでおくべきだったとか?
い、いや、しかしそもそもアレアレ、時間稼ぎは必要だった訳だし、このカイン・コーシとしてはキティちゃんからの信頼値が多少高くなっても別に問題は……。
…………何故だろう、我らがカアちゃんが雪姫の姿で腕をくんでため息一つつく映像が脳裏をよぎる。
つまり、ガバると? うっかりミスで正体が発覚すると? そこまで自分自身に信用がないのか? 私は。……そこまで自分自身に対して信用がないな、私は。
『諦めたらそこで試合終了らしいわ、キクチヨ君』
「いや夏凜の姿にもなれるんかいっ」
内側から「はひゃー」って感じの声が聞こえ、なんなら脳裏にもチュウベェの入った血装の球体を手元で弄ぶ星月と思われる夏凜の姿が過った。間違いなく星月がこちらにメッセージを送ってきたのだろうが、思わず声に出して突っ込んでしまったのでメイリンが困惑している。第四の目を向けてはいないが、向けずともそのくらいは察せられた。
とりあえずそのクールなお顔のままお可愛らしいお声で囁くのおやめ下さいCV的に(懇願)。アニメだとクールなお声だったが、ちみっ子じみた声の方が普通に飛んで来ると、ビジュアルとのギャップで頭がおかしくなりそうである。
「いや、まぁ、何と言うか今までの実績的に否定するのが難しくなりつつあるが、いや、それだってアレだろ? お前さんだってそれを言い出すと、あー、自意識過剰ではないが、私に対してそのテの感情を抱いていても不思議ではなくなるのだが……。別にそうでもないだろ?」
ここでちょっと恐怖のあまりに第四の目を切ってメイリンの方を振り返れば、私から顔を逸らしてる彼女は、腕を組んで「何で自分に関しては自覚が薄い、かな」とか言い出している。
ううん、つまり……、どういうことだってばよ?(現実逃避)
「…………まあ違う、けどね。でもどうして先輩は、そんなに胸の奥の柔らかいところに根を下ろすのが得意なのさ。趣味?」
「おそらく人類最低レベルの趣味なんだが、それ……」
とはいえそれも理由の七割くらいは「見てくれが良い」という一点に集約されるのだろうし、このあたりはスプリングフィールドの血筋や近衛、桜咲の血筋の問題が大きいだろう。私だけが別に特別何かあると言う訳ではない。所謂「ただしイケメンに限る」というやつだ。
とはいえそのバフも、状況次第であっさり流されるのだから、こと男女間の信用や信頼関係は難しい。「この」立場でなければ面倒と投げ捨ててしまっても不思議ではないのだ。というか「私」の中のダレカはそういうタイプだったみたいだし。
「普通にしているだけなのだがな。…… 一応言っておくが『優しい』っていうことが評価される時代なんてそれこそ100年以上前にすたれてるからな? 皆横一列でほどほどに優しくて、ほどほどに自分勝手で。だからそういう、受け入れるような振る舞いが刺さる相手なんてそう数はいないだろ」
「……無暗に暴力を振るわないって、大事なことじゃない?」
「それこそ宇宙世紀じゃないけど、一番優しい奴は戦争なんてしない、暴力なんて振るわない奴なんだよ。でも、そういうのは人間が『生物である以上』評価項目にはならない。いざってとき、いやそうでなくても自分のために何かしら力を振るって、自分に有利な立場にさせてもらうとか、そういうメリットを感じ取るから相手と一緒にいたいってなるんだろ、人間。
だから暴力性を見誤って家庭内暴力に発展する場合もざらにあるし『守るべきもの』が出来た時にふるまいが変わるとか、そういうのもあるが。まあ総じて人間なんてその時その時で求められる役割に対して振る舞いが変わる訳で、所詮はブラックボックスとケースバイケースのクジみたいなものだ。それでも人生、相性30点同士でもお互いルール決めて添い遂げようって前提さえあれば何とかなるし」
「随分ドライな考え方じゃないかナ……」
「100点を求めない、というのも一つの救いだぞ?」
「諦めの境地
何故片言? というツッコミは置いておいて。これに関しては「前世のうちの一つ」、妖魔退治のエージェントとして働いていたダレカとしての記憶が強い。潜入調査で勝四郎(その前世における九郎丸的ポジション)と一緒にとある財閥系列の会社に潜入し、何をバグったか令嬢に気に入られてお付き合いすることになったが、調査が終了する前の段階で破局している。あのあたりの経験から察するに、チーム内をいかに円滑に回して業務をこなすかーとか、そういうのよりも自分のために直接的に何かをしてもらいたい、という評価項目で彼女が私を見ていたのは明白だ。
あれは多分、自分に都合が悪くなったら話をせずに勝手に決めてコミュニケーションもとらず、旦那が病気したりしたらすぐに逃げるタイプだったろうから、私的にはそれで萎えてしまったのもあり、交友関係は特に続けなかったのだが……。あの後全然あの会社とは縁がなかったが、どうなったんだっけか。
いや、そんな「私」個人の話はともかく。
「こちらの時代でいえば、資産とか、魔法とか、あるいはスポーツとか。勉強も多少はアドバンテージはあるが、容姿がそれこそ優れなければ前の方も評価されない。もっと言えば富の集約化と娯楽の多様化、男女の均質化と雑多な時代になったせいで、少子高齢化も行ったり来たりで全体としては人口が減っているし。その余波が強く出て、容姿が良い人間=資産や甲斐性がある、頼れる、上質な教育を受けている、みたいな生物としての集約と淘汰が行われているし。政府は総中流社会をもう一度とか言ってるけど、『社会的な正義』が行き過ぎればそういうのも夢のまた夢に遠のいているしな。
面子が特殊だという事情を鑑みたところで、全員が全員に適用できる話でもないだろう」
そしてそのあたりの「切り捨てられた側の怨嗟」も、おそらくは水無瀬小夜子が神として祀り上げられた時のそれに集約されている一端なのだろうし、所謂ラスボスの身に統合されている「敗者」の念の一つでもあるのだろうから、話がまた厄介なのだが。
夏凜? えーっと…………、まぁ大体あのタイミングで夏凜と遭遇する原因を作ったカアちゃんが悪いと言うことで(責任転嫁)。
全員に適用できる話でもないというこちらの返しに、それはまあそうなんだろうけど、とメイリンは言葉を濁す。
「先輩が何でそんな擦れた恋愛観をしてるかわからなけど、しいて言えば……、タイミング。うん、タイミングなの、かな」
「タイミングねぇ」
「うん。たまたま、というと少し違うかもしれないけど。それでも一番つらい時に手を差し伸べてくれるような。その相手がたまたま先輩だから、というのが重なり続けてるんじゃない、かな」
「結局容姿九割なんだよなぁ……」
「本当に何でそんなネガティブなの先輩……?」
こっちの世界でも朝倉清恵のこともあるし。生きている人間である以上、万事が万事、相手の事を100%好きか嫌いかとか、そういう判断だけで生きる程私たちは恋をするために生きていないのだ。
要するに、そんなことより世界がヤバい。…………それでいてある程度の恋愛をこなさないと世界が滅ぶって言うのが既に色々と無理があるのだ。正気かこの世界!? 正気じゃないなこの世界……。
まあ、だからこそこの恋愛観をもとに「最低限」「判る情報の範囲で」普通に接しているだけなので、惚れた腫れたに関してはたとえ本人たちの心の動向がどうであれ、それこそ何かしらの因果律のようなものが働いているように感じてしまい、妙に申し訳がないのだ。
原作通りのルートでそれなりに相手に愛着を持って接することも必要だし、当然できるし、それなりに恋愛感情のようなものも抱けなくはないだろう。
――――それでも、エヴァちゃんのような例が出ないと言うことではないのであって。
「そうか。……そういうことか」
「や?」
だから、そういうことかと。何故こうも夏凜に会いたいのかというのが、なんとなく腑に落ちた。性的なそれも含めるが、彼女の感情の推移とキャラ崩壊には、原作的には恐怖しかないのだが「私」個人にとっては、その個人を保証してもらえるものであって。「私」が「私」であることを、事故的にではあるが肯定してくれる相手として彼女がそこにいるからであり。
結局そこは「原作に寄せる」と「原作から外れる」、つまり世界崩壊のリスクを減らすことと増やすことの狭間に立っているようなものなのだと、改めて思い知らされた。
これはこれで軽く鬱になりそうな話だと、変な疑問符で頭を傾げるメイリンに特に答えず、私はキティちゃんの戦闘の行く末を見守り。
そして丁度、ルイン・イシュクルの首から下全部が氷漬けになったその瞬間を目撃し。私は錫杖状態の黒棒を背中から抜いた。