光る風を超えて   作:黒兎可

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プロットを何話か一気にまとめたので話が急展開過ぎるかもしれませんが、色々ご容赦くださいませ……
 
言葉にならない言葉


ST194.みんな消え去ってしまえば良い

ST194.Please let all love fallen dirty.

 

 

 

 

 

『いや参ったでござるよ。真面目に反抗すれば今からでも何とかなるにはなるが、今の実力でよくぞここまで、でござるな。かの魔女から実力もまだまだだが、基本的には努力の女と聞いていたでござるし、精神が落ち着いていれば順当に、というところでござろうか』

「ハッ! 何を聞いていたかは知らぬが、この私を甘く見たな?」

『うむ。子供は日々成長するものでござるか』

「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック――――」

『じょ、冗句にござるよ冗句に!? そう殺気立たないでほしいものでござるなぁ……』

 

 ふん、と苛立ち交じりに、手前に魔法の矢を十数発放つ。

 完全に八つ当たりだが、我ながらますます子供じみた挙措に感じられて、苛立ちは増すばかり。

 どこかで抑えなければならないのだが、ここ数日のストレスが出たのか私の苛立ちは収まる気配がない。

 

 魔術の空間座標での固定。

 発動直前の状態で複数待機させるという形で運用したが、本来の扱い方は異なるはずだ。

 あの男、果心居士(カイン・コーシ)が行っていたのは「術を自らに取り込む」というそれ、であるように見える。

 その術自体は、敵が使ったかどうかは問わないということなのだろう。

 修行に際してこの技をあえて使用したと言うことは、つまりはこの固定した術そのものを素材に何かするのだろう。

 

 だからこそ、そう考えれば考える程あの男が私にさせた修行や、言っていたことを踏まえれば。あの男が伝授させようとしている術を扱うのは、私には「まだ」早いということだろう。

 それこそダーナ・アナンガ・ジャガンナータ・ロー・マンティ程ではないにしろ、カイン・コーシもまた人外の類。

 人外になっていまだ100年に満たない私など、赤ん坊に毛が生えたようなものだろう。

 

 だからこそ途中で思考を切り替え、現在の手札で精霊たちを倒す方法を組み直したのだが。

 

 

 

 ――――だからこそわからない。目の前に「トータが四人現れた」ことの意味が。

 

 

 

「…………なん、……だと………………?」

 

「行くぜ、キティ!」

「負けるなよキティ!」

「隙あり、だぜキティ!」

「パンツ見せてくれよキティ!」

「「「いやスケベすぎるだろお前だけ!!!」」」 

 

 いや、約一名何を考えているか。()て砕くぞ。

 

 雷の上位精霊から、例の「闇の魔法 構造解説書」とやらのありかを聞き出そうとした瞬間、私の周囲にさっそうと降り立った四人のトータ。

 どのトータも見たこともない髑髏の意匠が施されているような独特な恰好をしており、はっきり言ってダサい。

 手に持つ剣も直剣にしては短く細く、それらで斬りかかってくるトータたちに、即興でまだ複数固定されている吹雪(テンペスタース)氷槍(グランディニス)に置換。

 発動と同時に私と連中の間に放ち、突き刺さったそれを手に取り振りかぶり、空中戦に移行する。

 

「やるじゃねぇか!」

「多対一だってのに、随分余裕じゃね?」

「キティ、身体ちっちぇーからすばしっこいなぁ、ハハハ!」

 

「良い気になっているのも今のうちだぞ? 奇襲により魔道人形の準備をする暇を奪ったのは評価してやるが、その程度でこの私を倒せると――――む?」

 

 斬り合う最中、声の数やらを見て違和感を覚える。

 三人? もう一体は何処に行った。

 

 違和感を感じながらも、私は氷の槍を振りかぶって投げる体勢に入り――――。

 

「…………うん、白は良いと思うぜキティ」

「はっ――――――!?」

 

 今にも槍を振り下ろそうとして空中を舞う私の下から、さっき下着を見せろとのたまったトータがしゃがみ、半眼で目を細めて何を納得してるのかしきりに頷いている。

 視線は当然のように私の脚の付け根に集中しており…………、ッ!!?!!?

 

「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック――――百の氷爆(ケントゥム・ニウィス・カースス)

 

「おわッ!?」 

「「「だから止めとけって言ったのに、俺」」」

 

 ノータイムでキレた私は凍気の爆風で砕き殺そうとしたが、情けない声を出しながらもスケベなトータは腕を犠牲に斬り落とし、それをこちらの術の対象として逃げ切った。

 そのまま「生えて来た」腕をぐーぱーして「よし」と言い、また私の身体をじっと見つめて、見つめて……。

 

「ええい、貴様だけ何かおかしいだろ!?

 トータも流石にそこまで積極的な変態ではない! というか、あってたまるかッ!?

 例え偽者だとしても、貴様、もう少し本物に寄せる努力をせんか!!? この出来損ないがッ!」

「えぇ~? だってキティだって見られたいんだろ? そんな滅茶苦茶短いスカートひらひらさせて」

「断じて違うわっ!?」

 

 いや、確かに短いのは認めるが、これはそもそもフリッフリで子供趣味が極まったような恰好を強要してくるあの狭間の魔女に対する反抗という意味が強いのだし……。

 その類の恰好は嫌いではない、むしろ好きな部類ではあるが、誰かに強要されるのはそれはそれで真っ平御免なのだ。

 

 だというのに、私の一言にスケベなトータはともかく、他の三人も「あ~」「やっぱり?」「痴女か……」などとブツブツと無駄に物を言いおってからに……。

 しかも何が嫌かと言えば、おそらく偽者だろう全員が、そのどれもにトータらしさを感じてしまう私の心がだ。

 

 かれこれ数十年は会っていないというのに、たとえ偽者だとしても、こうして現れれば記憶の中から類似点を見つけて、どこか喜んでしまっている私の心がチョロく、情けなく、腹立たしい。

 

 まぁ良い、魔法の射手(サギタ・マギカ)を追加で詠唱して腰回りにロングスカートのように纏う。

 スケベなトータが「あっ……」とか残念そうな声を出しているが、貴様本当に冗談抜きで変態かッ! こんな胸も全然膨らんですらいない、幼児体型の小娘の身体に欲情しおって、創造者の趣味を疑うわっ!

 

 内心キレちらかしながらも、仕掛け人だろうあの男――――東洋から来たらしいカイン・コーシの方をちらりと睨み。

 

「――――――――」

 

 何故かこちらに向けてサムズアップしてくるあの男を、今度こそぶち殺さなければなるまいと決意を新たにした。

 全く意味が解らんわ! あの様子から敵対に態度を変えたわけでもないようだし、一体何を考えているあの男!?

 

 というかこのトータたちはアレか?

 散々揶揄いながら私から聞きだしたトータのイメージから再現したとでもいうのか?

 

 ………… 一体何だと言うのだ、東洋の神秘とか謎の技術力とでもいいたいのか。意外と再現度が高いから余計に腹が立った。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

「先輩が何したいのか良く分からないヨ、ね……」

 

 動揺しているのか何故か片言になっているメイリンと共に、私は空中戦をするキティちゃんを見上げている。足元でルイン・イシュクルが「拙者は何を見せられているのでござろうか」とか思っていそうなことを考えているのが視えるが、それはまぁお師匠からアルバイト? させられている以上はドンマイということで。 

 

 キティちゃんの戦闘が一段落ついた直後。私がやり出したことを見たメイリンは一番最初に「うわぁ」と述べて、それ以降何も言わなかった。というかドン引きしていた。そりゃそうだろうと私が第三者だったら間違いなく同じような感想になるだろうが、こちらはこちらで多少自覚的だった。

 何をやっているかと言えば「血装で分身を作った」。このカイン・コーシとかいう怪しげな男の姿ではなく、すなわち近衛刀太の姿。

 それも4体。

 形成したそれぞれに死天化壮(デスクラッド)をまとわせる。ただし形状は卍解(オサレ)天鎖〇月(オサレ)のヒラヒラではなく完現術(オサレ)骨骨スーツ(オサレ)な感じにアーマーを成型。色味やら何やらも調整しつつ、黒棒を複製できないのでついでに代行証(オサレ)ソード風のアイテムも装備させる。おお、完璧! 漫画的には中々にクソダサ(ノット・オサレ)であったが、立体物として見ると結構イケてると個人的には思っているので、中々様になっているではないか。おそらく細かい部分の調整に手を貸して大忙しだろう、星月には本当に感謝感激である。

 

『その割にやろうとしてることは悪趣味なんだけどね……(私のせいじゃないだろうな、まさか)』

「ぼそぼそ言ってて何言ってるかわからないからスルーするぞ、星月」

 

 とにかく形成されたコピー刀太たちは、私の目を見て頷くと、そのまますぐさまキティちゃんの方目掛けて空中を駆けて行く。錫杖モードの黒棒をふるのに合わせて動いているため、見た目は完全に悪の魔法使いのそれだ。

 

 もちろん、動揺を誘うためにコント調にして適度に緊張感を削ぐのも忘れない。

 

 緊張感を削いだところで実質的には何も変わらず私のオーダーを履行するコピー刀太たち四人。まだ固定されてる術式に突貫して誘爆を狙う2人と、素直に正面から斬りかかる一人、ついでに背後に回ってしゃがみこんでどう見てもパンツを見ようとしている一人。おかしい、あんな性格設定したっけか……?

 

 ともかくそんな連中の戦闘が続いているのを見て、沈黙に耐えかねたのかメイリンの先ほどの一言である。それに対する回答としては、何になるだろうか。

 

「時間稼ぎっていうのが間違いなく一つなのだが……、後はまあ、罪滅ぼし?」

「罪滅ぼし? 何で疑問形なのかな」

  

 実際問題、このままキティちゃんをお師匠のもとに帰すと早すぎるのだ。何かしら時間稼ぎをする必要があるのは間違いない。だからと言ってこれ以上は何をやっても不自然なことになるのだが、そこは今の私の姿形がカギになる。

 そう、今の私はガバの温床になりかねない「謎の術師カイン・コーシ」である。キティちゃんのイメージとしては、お師匠程ではないにしろこちらの方がより上位の人外の怪物であると認識させることは出来ているはずだ。

 

 だったら多少、理不尽な振る舞いと言うか、「まだ修行は終わっていない」的な振る舞いをそれっぽく行っても、まだ彼女への言い訳が立つだろう。「意味不明だわっ!」とキレ散らかしはするだろうが、それくらい訳の分からないことをしても不思議がないと思われる程度には、私は彼女から微妙な反応をされるようにふるまってきた。

 実際「第四の目(ザ・ハートアイ)」で視ても特に問題なく心の動きはそうなっているので、このあたりは私の作戦勝ちである。

 

 そう、だから。

 彼女が愛した刀太「そのもの」のような何かが襲い掛かってくることで動揺を誘う。これだけでも十分混乱するだろうが、だからこそ敵意もなく斬りかかってくるような、つまりは「キティちゃんにとって理解不能な状況」を作り出すことが、この場合の目的だった。

 ……何か一人だけ、私が設定してないような変態さんに仕上がっているが、それは置いておいて。

 

 少なくとも、彼女にわかる尺度で物を見て考えて、足止めを喰らっているという結論にさえ至らなければ良いのだ。

 ただそれはそうと。

 

「罪滅ぼしにしちゃ業が深いことになってるからなぁ」

 

 本来なら彼女が出会えたかもしれない「本来の」近衛刀太。私ではない、本来あるべき時間軸にそって、原作の軸で彼女と出会った近衛刀太。その再会を、いかにお師匠から言われたからとて、いかに原作から逸脱するガバの類になるからとて、積極的に妨害をしているのだ。当人からすればたまったものではない。それこそ何度八つ裂きにしてもお釣りがくる程に憎まれるような所業だろうと、「私」はそう考えている。

 こういう巡り合わせみたいなのも含めて本当にキティちゃんと色々巡り合わせが悪くて仕方ないのだが、だからといってそこから逃げる訳にもいかず。

 結果的に、こうして疑似的に刀太と話すということを実現させるくらいしか、私には出来ない。

 

 あそこに立つ刀太たちは、彼女が求める刀太ではないかもしれないが、それでも「原作」を改めて読み込んだ私が、今までの近衛刀太としての経験をもとに導き出せる近衛刀太としてのすべてを乗せた刀太である。

 人数が多いのは単純に「現時点での」本来の刀太で、動揺したキティちゃんとギリギリ引き分けられるくらいの実力を配分するとあの人数になったというだけなのだが。だからこそ、そういった一通りを含めて所業として、業が深い。

 

 罪悪感で胸が一杯で、申し訳なくって――――カアちゃんにすら合わせる顔がなくなってしまいそうだ。

 それでも状況を変える訳にはいかないのだから、嗚呼、いっそこれは悪い夢であれば良いのだと。…………それでも辿り着く先から、逃げてはいけないのだと、空元気で、勇気を出した。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

 朝日。

 狭間の世界と揶揄されるこの場所でも、日が昇り沈むというサイクルだけは確かに残っている。果たしてそれはかの魔女ダーナが意図してそう規定したせいか、はたまた時空を超越した彼女にとってもその惑星のライフサイクルまでだますことが出来ないせいなのか。

 

「キティ!」

 

 そんな朝日差し込む異様に長いテラスに、制服姿の少年が一人。半袖のワイシャツにネクタイ、ズボンと簡素な格好だが、何かに期待し、何かに焦燥を煽られ、駆られ、足早にたどり着いた彼の声は、響き、そして返ってこない。

 

 ただ雲海から日が見えるのみ。そんな光景に、どこか寂し気に乾いた笑いを浮かべる。

 

「は、はは……、いるはずねぇ、か」

 

 安心したようにも、あるいは気落ちしたようにも見える少年は、そこまでの元気さが嘘のように気落ちし、「どの時間軸においても」まるで当然のように設置されたテーブルとイスとのそろったお茶会でも開けそうなそこに、しゃがむ。

 

「フー、四十年だもんな。……たった数日、しかもバラバラで全然連続しちゃいない。そんな風にしか出会ってない俺のことなんて、覚えてる方がどうかしてる、か」

 

 弱音を吐く少年。すなわち「近衛刀太」は、むしろこちらの方が素の性格なのだろう。キティと彼が呼ぶ少女も薄々は感じただろう、単純な馬鹿や阿呆ではなく。その振舞う根の部分には、自分の人格と立場の不安定さと、自らの正体への恐怖と。そして自らが愛する誰かへの気持ちの所在の置き所が、どうにも据わりが悪く、よく悩む。

 そういった点では、彼の祖父とされるネギ・スプリングフィールドそっくりの性格であり。根の暗さだけで言えば、「神楽坂菊千代」を自任する近衛刀太のそれとも近い。

 

 もっともそれがどういった意味を持つのかを、この時点の神楽坂菊千代は把握できているわけもないのだが。

 

 さて。そうして落ち込んでいた刀太だったが、ふと、手元に違和感を覚え。目を開けじっと見て発見する。それは、おそらくはキティからの書き置き。わざわざ地面を刻んでいる以上、もしや彼女は何かしらの事情で今、この城に居ないのやもしれないが。それでも自らの事を忘れず、この場にメッセージを残していた――――自らを忘れず、再会を祈ってくれていたと。

 それだけで刀太の心臓はドキリと跳ねる。

 

「えっと……、『今回は会えない。287年後、お前にとっては4日後の朝、また会って欲しい』。

 …………287年? ……287年…………、キティ……」

 

 彼の胸に去来したのは、果たしてどういった感情か。

 どこか遠くを見るように立ち上がった刀太は、思うままが、口から零れる。

 

「40年……、アイツ、俺の事覚えてたんだな。本当に。それどころか、会って欲しい? 会って欲しいか、そっか…………。

 あー、でも喜んでばっかいる場合じゃねぇな。大体300年くらい後? だってのに、また会ってくれって。アイツ、一体どんなつもりで、これをさ……。

 …………雪姫」

 

 自らの掌を見つめ。握り。

 何かの決意を新たにした彼に―――――。

 

「トータ――ッ」

 

 ――――姿の掻き消えた彼に、声は届かず。

 

 こつこつと「たった今」戻った彼女は、懐かしい「血の匂い」に急いでテラスまで駆け。嗚呼、だからこそ見つけたその彼に、自らが「会えなかった時の為」時折刻み、狭間の魔女に消されまいと何度も残していたメッセージを読み、自分の心が届いたように、寂し気に喜んでいた彼の姿に、その背中に声をかけたのだ。

 

 声を、かけたかったのだ。

 

「……そういうことか。性格が悪いぞ、魔女。

 あのカイン・コーシとやらを呼び出したのも、そういう筋書きのためか」

 

 その声は、やるせなく。

 自棄というにも力がなく、それでいて物言い以上に誰かを責める気力もなく。

 

 そんな彼女の姿を、城の扉の向こうから見る人影が二つ。

 その二人へ顔を見せぬよう、少女は、エヴァンジェリン・アタナシア・キティ・マクダウェルは背を向け、わずかに俯き。

 

「…………」

「先輩…………」

 

 その彼女から決して目を背けまいと、ただじっと視線を送る男は。傘越しで表情の見えないその彼を見て、メイリンと偽名を名乗る彼女は、とても辛そうな顔で、自分の胸元で手を握った。

 

 

 

 

 


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