光る風を超えて   作:黒兎可

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おかしい、これでも展開と描写を削ったのに文字数が1万文字近い・・・


ST199.映せぬはずの冥夜(後)

ST199.From Behind The Persona.(2/2)

 

 

 

 

 

 ぬわああああん疲れたもおおおおん! 辞めたくなりますよぉ人生。当たり前だよなぁ?(連続死亡回数100回越)

 

 妄言はともかく、あまりにもダメージの蓄積が多くなったせいか精神が回復せず、内在世界の方へと飛ばされたらしい私である。空に見える現実世界の私の身体は「あ゛~」と潰れた声を垂れ流しつつ倒れて再生途中であり、復帰する余地が今のところない。というか私のメンタル的に復帰したくない。卒業試験と言いつついくら何でも卒業させる気ないんじゃないっスかねお師匠!? 斬ればなます斬りされ返し、殴れば粉砕、血装による攻撃は血を沸騰させて人体ごと粉微塵。どう考えても原作より扱いが酷い気がするのだが、一体何かやらかしただろうか。特に私。九郎丸はまだ原形が残る程度、三太は何度か成仏か滅却されかけたし(おそらく水無瀬小夜子が戻した)、カトラスも腕をもぎられたり、キリヱはかわしきっているが毎回悲鳴を上げているので筋肉痛が限界を超えてるのか、あっちで倒れて眠ってる。

 せめてチュウベェがいれば状況はもうちょっと違ったのだろうが、あっちはあっちで現在は超のもとである。試験前に「少し使わせて欲しいネ」と借りに来られたのが運の尽き。あのタイミングではまだまだ師匠が課する試験内容を甘く見ていたせいもあり、こころよく引き渡したのだった。チュウベェ本人(人?)も「たまにはビッグブラザァじゃない人のチリドッグも乙なもの」とか言い出して乗り気だったので放置した結果が現在である。まあ疾風迅雷したところでお師匠なら当然のように対応してくるだろうと言う確信はあるが、それはそうとして手が一つなくなったのはそれなりに大きい。

 

 と言う訳で現在、寝大仏様状態な私であった。右ひじをついて体を横にしてうつらうつらしている。肉体も無い精神世界でうつらうつらとはこれいかに、と思わなくもないが、とにかく軽いストライキ状態だ。

 

「だからって、そんなことしてても全然解決しないと思うけど……」

 

 弱ったなあという表情でこちらを見降ろしてくる、星月。相変わらず大河内さんスタイルなのは良いのだが、マントの下が完全にスクール水着なのは一体何がどうした。胸元に「せいげつ」とかひらがなで書かれてるあたり妙にマニアックで、そこはかとなくクウネル・サンダース(元祖「ネギま!」変態筆頭)の影がちらつく(猫耳セーラースク水エヴァちゃん的意味で)。いや別に私の精神世界にいるわけはないだろうが、「私」基準でその知識を読み取ってネタをふってきてる可能性もないわけではないので、このあたりのボーダーラインは微妙な所だ。

 いやでも実際、こう、救いは無いんですかね。

 

『――――あるわけないだろ、救いなんざ』

「現実世界から精神世界に向けて文句言うの本当おやめくださいませんかねお師匠(震え声)」

『キティの救いにもなれなかったアンタがそれ言っちゃお終いだよ』

「人が気にしていることを…………ッ!」

 

 そして当然のように上空に映る現実世界の映像より、お師匠がこちらをちらりと横目で見て肩をすくめながらの一言が頭上から降ってくる。今までの実績から言って当たり前と言えば当たり前なのだが、心休まる状況はどこにもないらしい。

 いや、まあ実際問題仮に「完全なる世界」との戦闘中に今の状況になると大変危険なので、お師匠が呆れた風になるのも当たり前ではあるのだが。

 

 まあ諦めて戻るか、と立ち上がった時に、星月が「ちょっと待つんだ」と私の肩を背後から持つ。というか、持ち上げる。何だそのパワー!? 普通に力持ちすぎて、完全に大河内アキラのそれだ。

 

「今そのままあっちに戻ったとしても、このままだと対策がないからジリ貧だ。相棒のやる気が削れるだけ削れて、何も進展がない」

「だからといってこのままだと、まーた九郎丸の首がへし折られることになるのだが」

 

 こうして話してる間も、私の身体を呆れたように見つつも首を握り持ち上げられる九郎丸の方は色々とヤバイ。何がヤバイかといえばお師匠の細くお綺麗になったお手々の親指がお食い込みあそばされて、徐々に徐々に赤い血が噴き始めている辺り。人間なら完全に手おくれの類であり、救出するなら今すぐ向かうべきであろう。

 だがそれだけだとまずい、と星月は言う。

 

「今の相棒は、以前の相棒より「金星の黒」との結びつきが少ない。胸にあった傷はそれだけで最悪致命傷ではあったけど、そのお陰で常時、相棒は「金星の黒」とつながりがあった状態だって言える。

 この状態から傷だけ無かったことにされている以上は、今の相棒の金星の黒は自動で発動しているのと同じ位、相棒の心が大事になってくる」

「つまり何が言いたいのか」

「相棒がやる気をなくした状態で死ぬと、本当に死にかねない」

 

 ダーナさんのことだから復活の手段は残してくれてるだろうけれど、という一言すら頭の中で右から左に流れるくらい、中々に重大発言であった。

 

「……えっ、死ぬの?」

「うん、たぶん。特別、相棒の心が弱いとかそういう訳じゃなくって、仕様上の問題だ」

 

 となると今の状況で戦闘を繰り返し続けると拙い、というのは流石に理解させられる。「死ねばもう痛くも何もないだろうがねぇ」とか皮肉で言ってくるお師匠はともかく、いくら何でも流石にそこまで人生割り切ってはいない。というか「一度死んだ後に復活した」場合の「人格の同一性保持」というものについては、私はかなり恐怖しかないので文字通り洒落になっていない。

 現在の「私」ですら様々な認識が微妙に入り混じった結果の不安定なそれであるにも関わらず、完全に死んだ場合何がどうなるかなど嗚呼考えるだけでも恐ろしい、身の毛がよだつ。「今日の自分が明日の自分と完全に同一のそれであるか」など幼少期に思いつく恐怖体験の想像力の暴走だと思うのだが、こんなものリアルに身近にあってたまるかと言う話だ。

 

 だから何か作戦を考えろ、と言われれば考えない訳にもいかず、お師匠も「お情けだが視ないでおいてやるよ」とここから視線を逸らす。つまりは星月の言ってることは実際事実であり、否定する要素はないということだ。そうか、そうか…………、そうじゃなよ(非便乗)。

 

「とにかく何を考えるべきか、原作でいうと8巻と20巻、21巻くらいだったか? お師匠とのバトル描写あるの。なんかあんまり覚えていないが……、流石に今から読み直すことはできないだろうし」

「大丈夫、あるよ」

 

 はい? と問い返すよりも前に、しれっと「UQ HOLDER!」と「ネギま!」の漫画がずらっと目の前の地面に積まれる。いや、ちょっと待て何でこんなものあるのだお前さんや。

 

「相棒が直近まで読んでいたからだよ。うろ覚えってことは覚えてるってことだからね」

「あー、まあ、ありがとう(素直)」

「うん、どういたしまして」

 

 とにもかくにも色々とガバは多いが、ここから何か対策を見つけられるものだろうか。そしてそうこうしている内に当たり前のことだが、タイムアップということなのか九郎丸の首はねじ切られ、頭部はお師匠に蹴り上げられた。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

「神鳴流・雷鳴剣――――って、えっ!? そのまますり抜けた!!?」『(甘いよ僕!)』

「受け流してるんだよ。桜咲刹那でもこれくらいはしてくるから、学んでおきな」

 

 ダーナ師匠はそう言いながら、僕の振り下ろした電気エネルギーの刃をすっと抜ける様に「剣も使わず」躱し、受け流し、一歩踏み込んでくる。そのまま僕の首に手を伸ばしてくるのを「自分の脚を斬って」瞬間的に体勢を崩して躱すと、そのまま足が再生するより前に斬り上げる。

 さっきはそのまま首をねじり斬られて、目の前で見てたカトラスちゃんを気絶させちゃった。刀太君が死んだ時とか何度か気絶させちゃってて申し訳ないけれど、復活早々に「殺す……!」って殺意マンマンで向かっていくのは、なんとなく刀太君のちょっと追い詰められている時に似てる気がした。

 それで何とかならないから、今カトラスちゃんは両腕をもがれた上で下着姿に剥かれて転がされてるんだけど。

 

 ちなみに三太君は突然姿を消してるし(ダーナ師匠いわく「神隠しとは恐れ入ったねぇ、ドクターストップじゃないか」と言っていた)キリヱちゃんは途中で「アンタは合格でいいよもう」と言われ、筋肉痛だから代わってとダウンしてた。

 

「佐々木三太はまぁ、不合格でも水無瀬小夜子がいるうちはまだ問題はないだろうし、桜雨キリヱは役割から考えたら既に合格水準だがねぇ? 一番問題なのはアンタだよ時坂九郎丸」

「僕?」

 

 そしてダーナさんは、僕だけは駄目だと名指しで指を突き付けて来る。

 

「アンタと九龍天狗の戦いは『決着がついていない』から今回はタイムアップってことで今試験を受けさせちゃいるがねぇ? まるで自分の神刀への理解が及んじゃいない。理屈から言って自力で気づくことは可能なはずだが、そのカギになるものをアンタ自身が蓋をしている状態なのさ」

「気づくって、一体何に……?」

「指摘するのも野暮だがねぇ。アンタだけじゃない。そっちの神刀の方にも問題があるさ」『(うっ、でも無理ですよダーナ師匠、僕が僕を正しく認識するってことは、つまり僕にとって――――)』

 

 僕たちに問題がある、僕が自分から蓋をしている。

 ダーナ師匠のその言い回しに違和感と、一緒にヒナちゃんからも「困惑みたいな感情」めいた何かが伝わってくる気がする。

 

 あの九龍天狗さんとの斬り合いで何をすれば良いのか思った通りになってないねぇ、とダーナさんは肩をすくめた。

 

「こればっかりは人の心の在りようの問題さ。意図したとおりにならなかったからとはいえ、あんまり言ってやるのも酷だろうさ。

 技術的には合格点を出してやれなくもないが、もうちょっとその辺りに自覚的になれるまでぶっ殺してやるのも――――」

 

「いや技術的に合格点なら止めてくださいってお師匠や」

 

 瞬間、僕の目の前に刀太君が……!? 再生が終わったらしい刀太君は、庇うように立ちふさがって、その胸の中央に、ダーナ師匠の刀が貫通して。

 

 なんとなく僕の脳裏に、彼を「不死者の世界」へと引き入れてしまった、あの時の僕と彼の姿がフラッシュバックし――――。

 

「っ!? ほう、妙なことを考えたものだねぇ」

 

 ――――刀太君から貫通した刃の部分が、いびつに歪み、きしみ、砕け散った。

 

「やれやれ、せっかくそこの九郎丸が『あと一歩で』目覚めそうなところだったものを」

「えっ?」『(……)』

「いや、九郎丸が『本当の意味で』神刀を使いこなしたところで、お師匠には勝てないだろって。どう考えても無意味な覚醒だろーが。そういうOSR(それっぽい)のは別なタイミングでピンチの打開に使うのが定石って、大昔の少年漫画から決まってんだろッ」

 

 P・A・L☆ザ・コミックマスター(コミマス)の漫画じゃねーけど、って刀太君はそう言いながら胸元をぬぐって傷を再生させる。

 

「まあ『何度か受けた以上は』解析されもするかねぇ。

 キャスト・イン・ザ・ネイム・オブ・ガッシュ・イエット・ノット・ギルティ――」

 

 ダーナ師匠は始動キーめいたものを唱えながら右手を振り上げて、真っ黒な魔力のうずまいた球体みたいなのを形成。

 あれはさっきから刀太君が何回か使われて全身が砕け散ってるやつじゃ……! ヒナちゃんを構えて駆けだそうとする僕だったけど、声を出そうとした瞬間にはもうダーナ師匠は刀太君にそれを振り下ろしていて――――。

 対する刀太君は、重力剣(?)を下から斬り上げて――――。

 

 

 

分離魔丸(クロマトグラフ)――――」

「――――血風冥天(けっぷうめいてん)

 

 

 

 真っ黒……、いや、単なる真っ黒じゃない。何かが蠢いてる様な、黒々とした墨みたいな水の流れが走ってる様な、そんな刀身になってる重力剣と、ダーナ師匠の黒い玉とがぶつかり合って「何かがひび割れる」ような音が聞こえる。

 ひびわれる、ガラスをこすり合わせてる様な、黒板に爪を立ててギリギリやられるようなののさらに強い音って言ったらいいかな。こう、耳をつんざくっていう表現をしたらいいかも。ちょっと心臓がきゅっとなる。

 そしてその衝撃で、きゃあ、と思わず声を出して吹っ飛ばされてしまった。隣で腕が生えかかってるカトラスちゃんがごろごろ転がってるな。まだ起こしてもすぐ戦線復帰とはいかなそうだし……。

 

『(ダーナさんの時空間制御技を返してる……!?)』

「と、刀太君、それは一体……!?」

「悪いちょっとリアクションとれん!!? 逃げろッ」

 

 僕の声にも刀太君は大慌てで適当に返して、その場で重力剣を震えながら構えてる。ダーナ師匠も振り下ろした体勢で構えたまま「厄介だねぇ」って言ってるし、きんきんと、びきびきというひび割れるような音はずっとなり続けてるしでちょっと頭が痛い!

 気で鼓膜の周辺を強化してちょっとだけ音の感度を鈍くしても変わらないし、もしかしてこれって音じゃなくて、もっとこう、何か時間と空間がどうこうしてるとか、そういうものなのかな?

 

「おおよそ解析率は4割強といったところか。ああ嫌だねぇ嫌だねぇ、太陰道による直接の反射とかじゃなく、よりによってこれを解析するか。解析『出来る』時点でまあ『完成度』としてはそういうことなんだろうが、それにしたってねぇ。

 ちょっと『光る風を超えて』きた程度で調子に乗ってるんじゃないのかい? 縦軸と横軸に根を張ってるくらいでアタシの領域に手を伸ばそうとするのは!」

「あっちに文句付けるのは止めてくれませんかねぇ、言い出したのは()なのだからッ!それに……(原作的にもお師匠の技返すのくらいはあるのだから問題ないのでは?)」

「なおさら性質が悪いよ、本格的に人間辞めるつもりかい!?」

「でも、これくらいやらないとお師匠、殺しにかかってるでしょうが!」

「当然さ殺しにかかってるんだから!」

「理不尽ッ!!?(白目)」

 

 な、何を話してるか全然わからないんだけど、刀太君。あと、私? 刀太君が変な一人称使ってる……。別に変ってわけじゃないけど、普段の刀太君らしくない一人称というか、口調と言うか。

 訳がわからない。わからないけど、わからないなりに僕に出来ることは、ないだろうか。徐々に押されてるのか、刀太君の腕とか脚とか、死天化壮から血が吹き上がってる。

 

 折れた夕凪を納刀して、ヒナちゃん片手に立ち上がって。ヒナちゃんから流れて来る妖力を活性化させて、気に織り交ぜて加速させる。感覚的にはもう全身フラフラだけど、それでも。

 

「僕は、刀太君が好きなんだから――――」

 

 

 

『(――――そう、その意気だよ僕……!)』

「えっ?」

 

 

 

 今、どこかから声が聞こえたような……?

 心当たりもないけど、敵対的な意思は感じなかった。だから僕はヒナちゃんを振り上げて。

 

「神鳴流奥義、雷鳴剣・弐の太刀!」

 

 神鳴流における宗家秘伝たる弐の太刀。桃源の神鳴流において、兄様の弟/妹である僕にも、一応は継承されている。対象をとり、その斬撃の範囲のうち「任意の相手」のみを斬撃の対象として切り捨てる、実体なきものの実体すら捉えて叩くための、人ならざるものを斬るための術。

 だからこそヒナちゃん、神刀たる姫名杜の全力でもってその一撃を放ち。刀太君をすりぬけた電撃の刃をダーナ師匠に届かせれば、それだけで少しでも刀太君の助けになると信じ、そして――――。

 

「――――幽波鏡(スタンドミラー)!」

「――――明星風(スーパーローテーション)

 

「三太君! カトラスちゃん!」

 

 それぞれ、僕の隣で「肘を使って上体を支えて」黒く変化した右手から光線を放つカトラスちゃんと、刀太君たちの頭上で両手をかさねて唸ってる三太君。

 カトラスちゃんから放たれたその魔力の光というか、そういうのが刀太君の肩からダーナ師匠の腕を貫通して。

 そしてダーナ師匠の背後に回った僕の雷も含め、それらが跳弾するみたいにダーナ師匠の背後のある距離で跳ね返り、そのまま彼女へと襲い掛かる。

 

 ただ。

 

「悪くないし全員合格点をやるが、それはそうとして概念干渉の域にはまだ届いちゃいないかねぇ? これだと今の(ヽヽ)始まりの魔法使い相手には苦労しそうだ」

 

 嘘、だろ? と三太君。「実体から反射する時に霊体にも干渉できるよう、アプリで波長を変化させてるのに!?」と驚いてる通り、それらの攻撃を受けてもダーナ師匠は傷一つついていなかった。

 バケモンかよ、とカトラスちゃんはレーザーを放ちながら引いている。

 僕だって何も言えないくらいショックは受けてる。受けてるけど、それでも気と妖力の捻出を止めはしない。

 

 そして刀太君すら攻撃がいまだ拮抗してるからこそ身動きできずに固まっている中で。

 

 

 

「負けるんじゃないわヨ、刀太! あの時(ヽヽヽ)みたいに、また私をひとりぼっちにするの――――?」

「――――ッ」

 

 

 

 筋肉痛で動けないはずのキリヱちゃんが、それでも声をかけた瞬間、それは起こった。

 刀太君の死天化壮の右肩に「髑髏じみた仮面」みたいなものが形成されて。それと同時に死天化壮のデザインとかがもうちょっと刺々しい感じに変化して、といったらいいかな。

 

「とはいえ座標は固定されているから、全く効いていないわけじゃない。特に九郎丸、アンタ少しは出来るじゃないか。いっこうに天狗のケツを蹴っ飛ばせないわりに、少し評価を改めないとならないかねぇ?」

 

 そしてそうなった刀太君は、歯を食いしばったまま一歩、一歩と無理やり前進して、腕をガタガタ言わせながら。

 

「それを言い出すのは反則だろ、キリヱ……!」

「おやまぁ、まだ『一周目』が残ってたのかい」

 

 驚いたように目を丸くするダーナ師匠に対して、剣を振り返して。その身体へと「どす黒い血風」が接触すると同時に、その軌跡に沿うようにダーナ師匠の全身へと魔力が渦巻いて。ついさっきまでの刀太君と違い、弾けて血痕も残さず消えた。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

 それは、ずるいんですよねキリヱ大明神……。いくら何でも「一周目の」私に声をかけるのは、色々とズルがすぎるのだ。これでは修行の成果をみせるというのにはならないだろうと思うのだが、そこのところどうなんでしょうかねお師匠。

 

「アイヤー、お疲れネ! ダーナサンは帰てくるのにまだ時間かかるみたいだし、ちょと休憩がてら天心食べるカナ?」

 

 我々の最後の一撃で、姿を消したお師匠。それに安心するに安心できずまだ構えようとしていた私たちだったが、どこからともなく現れた超が「ヤーヤーヤー!」と我々に声をかけた。……どこかで見た中華風ウェイトレスな恰好に蒸し器と皿をかかえて。

 それらを置いて「ヘルプ、頼むネ」と超が手を叩くと、程なくどこからともなくエヴァちゃんの操っていた茶々丸風の人形たちが湧いて来て、カトラスが「ひっ」と引いていた。

 そんな人形たちがテーブルやら何やら配膳してきて、ついでにカトラスの服も着せて……何故全裸だったお前さんや。ともかく気が付けばおやつタイムな状況となっている。

 

美味(うま)っ……!? ん、でも何か味付けがちょっとお兄ちゃんっぽい――――」

「アイヤ、気にせずいっぱい食べるネ! まだまだ育ちざかりだからコレステロールはおっぱいとおっぱいとおっぱいに行くね、女子は」

「それ私と九郎丸への嫌味!? って痛い痛い痛いッ!」

「き、キリヱちゃん無茶しないで……(後多分、僕よりキリヱちゃんの方が大きい気が……)」

「よくあれだけ動いた後に食えるよなァ……」

 

『…………(だ、大丈夫、大人の姿になれば育ってるし、僕)』

 

 人形たちに交じって小間使いのように使われてる九龍天狗が九郎丸を見て少し寂しそうにしていたり、キリヱ大明神が数体に介護されていたりといった妙な光景はあるが、戦闘に関してはともかく終了で良いようだ。流石にそのあたりの判断が読めないまま超が出て来る訳もないだろうし(メイリン時代を思えばお師匠は恐怖の対象なわけで)、一息ついて良いだろう。

 

「おー、お疲れキリヱ大明神」

「だから、神仏扱いは、止めなさいって痛いッ! 喉っていうか首が痛いッ!」

 

 とりあえず私は席を立ち、一人だけリクライニングチェアに腰掛けられてピクピクと震えてるキリヱ大明神に声をかければこの状態なので、うーんまぁ、こればっかりは本当にしかたない。いかに不死者といえどキリヱ個人は「不老」であって「不死」ではない以上、身体的などうこうに関しては原作通りどうしようもないのだろう。もしかしたらレベル2として「部屋」に入れば軽減なりリセットなりされる可能性はあるが、この拠点ではそれも出来ないらしく、完全に重体である……、重体の筋肉痛であった。

 ただ、それはそうとして言わなければならないことがある。小声で、周囲に聞こえないように気を配りながら、私は彼女の横にしゃがんで耳元に囁いた。

 

「あー、最後の一言はありがとな。だけどそれはそうとしてあんまり『あっちの』俺に声掛けするのは止めてくれねーか?」

「な、何でヨ……? だって『居る』んでしょ? 溶けて、アンタの一部になったかもしれないけど、聞いたのヨ? あの、ニキティスっていうちびっ子に」

「ちびっ子言ってやるなよ絶対後々面倒な絡まれ方するから(震え声)。

 と、それはそうとして。……だいぶ無茶した後で俺と融合したから、多分もうほとんど残ってないんだ。可哀想じゃねーかって、他人事としちゃ思うんだけどよ」

「そんなの…………、でも、うん、それは、ごめんなさい。

 だけど、ただの声掛けでも、私は必要だって思ったらたぶん、言うわヨ? ずっと私と一緒にいたんだから」

 

 そう語るキリヱ大明神にそれ以上は言うことも出来ず、おう、とだけ私は返す。

 嗚呼そうだ、これは完全に私個人の都合だ。あの状況で無理やり「私」の中から一周目の私の意識を揺さぶられたことに対する恐怖など、完全に私個人の問題だ。

 

 もともと星月と内在世界会議を行い、師匠によって私が粉々にされていた「黒い球体」の正体が、原作8巻でキティちゃんを守るために刀太が立ちふさがった際の時空間をどうこうする技であるだろうと推測した。「多分、座標を変える技なんだろうけど、あれは相棒のいる座標に相棒を転送して『かべのなかにいる』を瞬間的に再現した結果だろうね……」と遠い目をしていた星月に相談し、今まで受けていたお師匠のアレ、クロマトグラフといったか。それの情報をもとに解析を頼み、例によって血風にエンチャントできるよう調整してもらったのだ。

 ただ問題があるとすれば、師匠のお力は星月の解析能力を超えていたらしく、せいぜいが4割か5割程度の再現度に落ち着く形となったらしい。

 

『初撃は耐えられるくらいにはなってると思うけど、時間が経つとあっという間に相手の攻撃に飲み込まれるからね』

 

 とはいえ状況的に使わない訳にもいかず、というのが先ほどのアレだったわけだが……。ギリギリのところでの、キリヱ大明神の呼びかけに、私の中に溶けた「彼女と共にあった」私が呼び起こされて、一瞬だけ「乗っ取られた」のが正解だ。

 意識は完全に乗っ取られたわけではない。ただ首から下の全身、血流操作にはじまり身体操作、魔力操作およびその他諸々全部を奪い取られ、出来ることと言えば話すことくらい。おまけに乗っ取っただろう一周目の私は自由意思すらこちらに示さず、ただ無理やり物理的に動くばかり。

 

 嗚呼わかってる、あれとて結局私なのだ。だから状況次第で呼び覚まされても、私である以上とるだろう行動に変化はない。むしろ血装に関しては、レベルアップした私よりもあっちの私の方が優れているだろうから、お手軽なパワーアップとしては悪い手段ではないのだろう。

 だが、魔天での暴走以上にそれは「自分が自分でなくなる」恐怖を植え付けて来るもので。

 

「刀太君、大丈夫? 疲れてるみたいだけど」

「あー、まぁ…………」

 

「こゆ時はアレをするべきネ、九郎丸サン。――――先輩、おっぱい揉むネ?」

 

 だから揉まんわ!? と、思考がシリアスに埋没しかかった際に自分の胸を寄せて上げて悪戯っぽく笑う、本当に悪戯めいた超にツッコミを入れ。

 ええっ!? とか言って自分の身体を抱きしめて目を丸くする九郎丸と、やっぱりおっぱい大好きなんじゃない!? と筋肉痛を無視して立ち上がりキレてかかるキリヱ大明神。三太は「あァ、ウーロン茶美味しい……」と現実逃避するみたいに俺から目をそらして、カトラスは無言のまま人形から供給される小籠包をガツガツと食べていた。なお私は私でいるはずもないだろうに夏凜がいないか周囲を警戒してしまったので、これはこれで重症である。

 

 お前さん最後の最後で展開カオスにしてくるの止めろ(戒め)。というか一体何があってその煽りと言うか、胸を揉ませるか確認するネタを続けるのだ。いい加減本当に揉むぞッ!!?

 

 

 

 

 

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