それを恐れず
ST2.Origin Pile Up
いつまで経っても原作第一話のイベントが進行しないと思っていたら訳はない、私が私であるが故に相手が全く身動き取れなくなってしまっているのだと気づいた。
問題の相手は橘という教師。年若い方だがおそらく三十代だろう。村の学校に赴任して半年程度だが正体は賞金稼ぎである。雪姫ことエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルの首、その賞金を狙い潜む新手の魔法使いだ。
腕としては一瞬とはいえ、最強クラスの雪姫が不覚をとる程度には熟達している。また潜入中は一切の不信感を抱かれなかったことからも、その腕の良し悪しが伺える。
そんな彼が何故手をこまねいているかと言えば、ひとえに雪姫が強すぎるからだ。今朝だって私の目の前で、いつもの四人が川に放り投げられている様をちらちら伺ってはいるものの、全く襲い掛かる気配も、殺気すら出していない。わずかに一瞬、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる程度だ。
「予想以上に私の原作ブレイクが影響してしまったということか、ままならない……。だが最終ラインは変わらないだろう、そういう意味ではまだ大丈夫だ。原作知識によるトラブル対策もとれるだろう。
しかし橘……、大前提として、雪姫は隙が全然無いからなぁ……」
当たり前である。言うなれば普段慢心するのが常のボスキャラが、庇護する対象が発生したことでその慢心を捨て去り、手加減はするものの警戒だけは全力全開で行っているのだ。この場合の庇護対象とはすなわち私であるが、彼女の警戒は結果的に自分自身の身を守る事にもつながっている訳だ。
様々な名前を持つ古い時代からの吸血鬼……。見積もった感じ5世紀以上は軽く生きて居そうな彼女だが、当然それだけの年数生き延びられる程度には強大な吸血鬼であり、魔法使いである。闇と氷の魔術を得意とし、その気になればこんな小さな村どころか都市部まで壊滅させても平然としてお釣りがくる。どれ程優れた魔術師が襲い掛かったところで、返り討ちどころか鎧袖一触ですらない。
だからこそ橘は、雪姫を抑えるためにいくつかの手を講じる。その決め手になるのが、彼個人の手製らしい封印術……、魔術の発動そのものを封じる術なのだが。そもそもそれを、どうやって雪姫に仕掛けるかという話だ。
例えば近衛刀太もまた打倒雪姫を掲げているのなら、近づくのは容易だし、中学生くらいの男子をそそのかすのも簡単といえば簡単だったのだろうが……。
帰りのホームルームでも、教室内で雪姫が他の生徒たちに講釈を垂れている。大体週に一回くらいは繰り返している、若者の無謀な上京指向を抑え込む説教だ。私は特に響くものはないので思考を逸らすが、あまり露骨にやるとチョークが飛んでくるので聞いているポーズはとっておく。がこちらの思考などお見通しとばかりに「帰ったら説教だ」と言わんばかりの良い笑顔(と青筋)を浮かべていた。
放課後になると、私はとりあえず山に向かった。ここ最近は毎日だが主に
ため息をつき家路につく。家に帰って夕食を食べたら、そこから一時間は剣術、あと勉強に充てることになるのだが…………。
その帰り道、雪姫が早々に襲撃に遭っているのを目撃することになった。
剣で上空から斬りかかった少年……いや少女か? 身体的にどちらとも断定が難しい。長い髪を束ね、片方の目が隠れている。顔立ちはすっきりと整っており、こちらも男性とも女性ともつかない。
「時坂九郎丸……? 馬鹿な、早すぎる!?」
不死のバケモノ狩りを主とする神鳴流の剣士の一人。雪姫こと“闇の福音”エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルの抹殺を命じられた相手だ。
本来なら原作3、4話くらいの時期で遭遇するはずなのだが、まだ1話すら始まっていないかもしれない現段階での強襲である。……しかし考えてみれば道理か、原作で九郎丸自身、雪姫の命を狙ってこちら方面に向かってきていたのだ。いつまでも村でモタモタしてればこちらが先に合流する。
もっとも対する雪姫は余裕しゃくしゃくといった風で往なしていた。そして当たり前のように心臓を抜き手で貫いた――――!
「…………見ていたのは流石に気づかれているだろう、ここで出て行かないわけにもいくまい」
死して背中から倒れた九郎丸。それを投げ捨て、ちらりとこちらの方向を一瞥する雪姫だ。肩をすくめながら足を進める私を前に、「見たか?」と聞いてきた。
「何かわかんねーけど、あっちの茂みに投げ飛ばされた奴が雪姫襲ったのは……って、あれ? 雪姫、気のせいじゃなかったらだけどさっき、その血まみれの右手でアイツの心臓を貫つ―――」
「トリックだ、気にするな」
「いやそれ無理があるだろ」
「思っても指摘するんじゃない! 全く変なところで鈍感だなお前は……。とはいえメイ〇リクスと対決したベネ〇トだってそれで生き残ったのだから案外馬鹿にできないぞ?」
「それ最期パイプに貫かれて確実に殺される奴だろ……って、あれ? コイツ胸のあたり服は破れてるけど、傷はないな」
「当たり前だろ? ふふん」
とりあえず担げと言われたので、へーへーと適当に応じながら九郎丸を背負う。先ほどの戦いについて追及する――――フリをする。ある程度の所で、不審な点を言及しない。
近衛刀太、現時点で不死者という概念も彼女の正体も知らない立場であり、また襲撃者のプロフィールについても同様だ。だから「殺された程度で死なない」という事実など、茂みに放り込まれてからしばらくして傷が回復したなどという事実は、知らないことにする。
そういえば雪姫、何故山の中にいたのだろう……。
「ひょっとしてだけど、俺が山で修業してるのずっと見に来てたのか?」
「…………、な、何の話だ?」
「いや誤魔化すの下手か。フツーに考えりゃわかるだろ、なんか知らないけどあんな俺と近い所で襲撃? されてたっぽいの、どう考えても元から俺の近くに居た可能性高いじゃん」
「それは短絡的な結論だな。私はたまたま、本当にたまたまだなぁ」
「いや別にいいけど。ちょっとアレだ、なんだっけ魔法的なやつのきっかけにでもなればって思ってさ」
「何だ、お前もアイツらみたいに知りたいのか。魔法」
「あくまで興味本位の範囲で、さ。いずれ本格的に何か教わったりする必要があるんじゃないかなーとは思ってるんだけど、なんとなく」
「ふぅん……。
というか話題が尽きた。
熊よけに歌え、刀太」
「話題の誤魔化し方本当に下手か!?」
「黙れ鈍感!」
とか言いながらも、嫌がらせがてらアニメOPをしれっと適当に歌う。原作側でハピマ〇が歌われた描写はないはずだが、メタ的な影響か微妙な顔になる雪姫。元をたどれば彼女が大好きな3-Aの面々と縁が深い歌だ、本能的に何か嫌な意図を察知したかもしれない。
「なんだ、その、カラフルだのハッピーだの止めろ、よくわからないんだが私の何か奥深い所に効く」
「そうか? じゃあ……」
適当にOPがEDかを選ぶが、そちらもストップがかかる。そんなメタレベルでの皮肉と言うか嫌がらせもどきはともかくとして。雪姫が「やることがある」と一度別れる。そのまま歩き、家の玄関のあたりで九郎丸が意識を取り戻した。
「き……!? 君は何者だっ」
「いや落ち着けって。とりあえず玄関開けるから待ってろ……」
自力で立てそうなので降ろしてから、鍵を開けて家に招く。御客一人増えるくらいでは大した問題にならない広さをしているので、後で雪姫が来ても狭いという話にはなるまい。それはそうと九郎丸の表情が青い。うなされている様子はなかったが、夢で実家を追われた時のことを思い出したのかもしれない。
ボロボロなのは流石にどうかということで、有無を言わさず私のシャツを手渡した。と、今は男性体だろうに変な照れ方をする九郎丸。コーヒーを淹れにいくと、胸元を隠しながら着替えはじめた。ちらりと見た感じ、腰のあたりにくびれは見られなかったが肩は丸いし幅も狭い。学ラン風の恰好だが、本当に中間と言うか、まだ性別が無い状態のようだ。
湯呑のブラックコーヒーを勧めると、素直に飲む。毒物を疑ってはいないらしい。そして一瞬苦い顔を浮かべたが文句は言わなかった。ぶぶ漬け的対応と思われたろうか?
「あー、アレだ。なんか、お前が雪姫襲ってたのは見たんだけど、とりあえず家に連れていけって言われたから連れてきた」
「……っ! 君はエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルの仲間か!?」
「ぅぇ、あ、ああ? 何? ヱヴァ〇ゲリヲ〇・A・T・マ〇真〇波?」
「エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルだ! ……いや、待て、知らない? 君は一体……」
咄嗟に俺が一緒に持ってきた刀に手をかけようとしていたが、外したボケ方に困惑している。とりあえず名乗るならまず自分から言えと諭すと、それもそうかと咳払いをして正座する。変に素直だな、生真面目か! いや生真面目だったな時坂九郎丸。
お互いに軽く名乗る。と、すっと手を差し伸べる俺。
「な、何のつもりだい?」
「いや何っていうか……、俺と同い年であんなに動ける相手って素直に尊敬するっていうか、そんな感じ。リスペクト的な?」
「よくわからないんだが……」
そう言いながらも握手を返すあたり、やはり生真面目だ九郎丸。こちらの意図としては少しずつ距離を詰め、中途半端に仲良くなって襲い掛かられるリスクを下げようという意図があるのだが、そういった腹芸とは無縁らしい。
「雪姫……だったか? 彼女は君の――――」
「一応
「そ、そうなのか……」
「まぁ俺も当時の記憶ってないんだけど……でもアレだ、なんとなくその時の経験から、いざってときに何でも出来て一人でも生き残れるような人間になるのが、目下最大の目標。で今時何あるかわからないしスラムとかもこの先の人生で行くかもしれないから、戦う力というか、そういう技術も学習してる感じ」
「意外と自律してるんだね、考え方が……? あ、なるほど。だからさっき」
「そそ。純粋にすげーよお前! って感じで、感動した」
母親代わりを襲われてもかい? と聞いてきたが、基本的に私の中の認識で雪姫は最強クラスの吸血鬼。それこそラスボス級の相手でもない限りそうそう後れを取ることはないと考えているので、演技とはいえ心配するのを装うのは難しかった。なので事実を織り交ぜつつ、彼女が実際に強いことをエピソードとして語りながら。
「どっちかっていうとお前の方が殺されそうかなってヒヤヒヤしてたけど。雪姫ケッコースパルタだからなぁ。クローマルは何だ、武者修行中か?」
「そ、そんな所だね。……いや、嘘は良くないな。特に君も関係者だ、僕の気が済まない」
改めて咳払いをしてこちらに向き直り、経緯を話し出す。ある人物を探し倒さなければいけない。倒さなければ故郷の地へ戻ることが二度と許されていないと。……本当に腹芸下手かこの九郎丸は? 原作での好意性別含めて隠し通すのは確かに下手だったが。
「君が雪姫と慕う彼女……、最強の吸血鬼、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。僕は彼女を倒さなければいけない」
「ん、んんん……? 倒すってどういうことだ?」
「……殺すってことだよ」
す、と。俺が何か反応する前に、腰の刀に手をかけ立ち上がる九郎丸。
「だから、さっきああ言われて悪い気はしなかったけど……。僕は君の敵だ、関わり合いになるべきじゃな――――」
「いや俺の服着たまま出ていこうとするの止めろって、全然恰好がついてないから」
「っ!? い、いや、僕は真剣な話をして――――」
「そんなコテコテの誠実さムーブかまされても困るっての。大体、たぶんアレだろ? 道なき道を歩いてきて途中でたまたま雪姫見つけて襲い掛かったとか、そんなテンプレな流れだろ? こっちでの拠点とか、協力者とか誰もいないだろ? 聞いた感じの話だと着の身着のまま放り出されたみたいだし、そんなんでこの微妙に狭い村周辺に住み着いていられるのか? 目撃情報次第じゃ普通に不審者というか警察補導対象だろ」
「あ、あ、う、う――――っ」
わ! と浴びせた情報量に頭が混乱する九郎丸。こういったところは女子らしい微妙な慌て方だ、顔の赤らめ方とか脚が内股になってるのは完全に女子だ。あえてそれは指摘せず、ぴ! とテレビをつけた。
「とりあえず雪姫来るまでどうするか、考えるくらい訳ねーだろ? あと外から来たっていうなら、色々話聞かせてくれないか? 俺、そういうの全然知らないし、テレビで見てる感じ以上のことって全然わからねーからさ!」
「あー……、はぁ。仕方ない」
肩を落として座り直す……、と完全に内股で座ってしまったのに気づき、正座に座り直すあたりの仕草含め、本当に性別が定まっていない感じが強い。
時坂九郎丸。彼、あるいは彼女は「八咫の烏族」という種族がベースになった、呪術的な超回復能力を持つ不死者だ。経緯としては詳細こそぼかされているが、おそらく彼女の実家にある秘宝であった「神刀」と存在の根源的なところでつながり、精霊的な領域にある場所から無尽蔵の回復力を受けているのだろうが、そんなことはともかく。
彼、あるいは彼女と表現するのは、九郎丸自身どちらの性別か未だ決定されていないからだ。というのも血筋の亜人の源流からして、成人(おおよそ15、16才ほど)するまで自らの性別が存在しない身体をしているらしい。実際背負っていた時も女性らしい柔らかさこそなかったが、男性的な角ばりもなかった。
で、本人はどちらなのかということについて考えるのを避けている気配がある。私自身、それを言及したりいじったりすると面倒な怒り方をされそうなので、あえてこちらからはそれに触れないでいた。
ちなみに原作だと、祖父ネギ並みの女難体質なのか気質のせいもあってか、刀太のそれに晒された九郎丸は見事に女の子化していた。私個人としては……、別に彼女?本人が好みではないので、流れに身を任せよう。こーゆーのは色々無理してフラグを立てようとか折ろうとするとロクなことにならないと知っている。それにどちらかというと本家「ネギま!」に出てきた大河内さんの方が好みなのだが(性癖)。
「何かぶしつけな視線を向けられたきがするんだけど」
「いや、気のせー、気のせー」
テレビを回しながら適当に会話する。といっても九郎丸自身もまた神鳴流以外に関して箱入りに近い所があり、道中のゴーストタウンの多さや、意外としっかり残ってる田舎の駅前についてなどの話題で盛り上がった。間が持たなければ映画の録画ビデオでも見るかと思っていたが、その心配は不要だったらしい(ちなみに手前には筋肉もりもりマッチョメンのパパが娘を助け出すために戦争おっぱじめる作品と、「ドラえも〇ズ」のドラパ〇と、あとは何だか「ネギま!」的に見覚えのある魔法少女アニメの映画が置かれている。古い……)。
しかし確かに、不思議と馬の合う感覚がある。身体のテンポというか、話題の共感性というか、そういう要所要所において話していて違和感がないのだ。気質的にもおそらくそうなのだろう、原作で出会って早々に刀太が親友認定したがったのも納得だ。
「おう、今帰ったぞ?」
「お帰り雪姫……、って何それ」
「寿司だ。あ、それから……九郎丸だったか?」
「っ⁉ 何故、僕の名をっ」
「そう警戒するな」
言いながら卓袱台の中央に、どこからか買ってきた持ち帰りの寿司の桶を置くと。私と九郎丸の顔を見てから、シニカルに微笑んだ。
「お前、しばらくウチの村の学校に通え。手続きは済ませてきた」
「はぁ!?」「えっ!?」
こっちが色々気を遣っているのに、メインヒロイン直々に特大の原作ブレイクかますの止めろ! キティの時に優しくしてやんないぞ! ってそれも特大の原作ブレイクだから脅迫にならん!?(自爆)