ST206.Your Name Is "Last One"
コスプレカードで変身した僕は、身体的には完全に女性のものになっていた。その、普段は「女性寄り」の身体になりつつある僕だけど、それでも完全に女性ではない。生理も来ないし、身体の使い勝手も「まだ」瞬発的なパワーとか、そういうのは男性に寄っていると思う。女性寄りとはいっても、そんな根本的な肉付きの仕方とか、骨の感じから変わったりしているわけじゃ無いんだ。
それがこっちになってからは、もう何もかもが違うと言うか。具体的に言うと「気」に関しては出力が大幅に上がっていて、その代わり制御がちょっと難しくなっている。気がする。身体に関しても、瞬間瞬間の力の入れ方が明らかに弱くなっていて、その代わりこう、柔らかいって言ったらいいのかな? 普段よりも関節が回るし、脚だって180度開脚できそうな感じだ。
そんな話をキリヱちゃんにすると「どーしてそんなバトル漫画読みすぎなことしか言えないの……? ちゅーにの影響?」とか言われてしまった。い、いや、刀太君の影響だとしたらそれはそれで嬉しいんだけど、その、だっていくら女性になったって、ちゃんと戦えないと刀太君の隣に立つのって難しいし…………。メイリンさんとかカトラスちゃんとか夏凜先輩とかに圧され気味だけど、そういうのは凄い大事だと思う。
幸い一時的なものであること、ヒナちゃんも呼び出し可能であることなどを鑑みて、これはこれで何か使い方を考えないといけないのかな。
「そんなことより、なーんか見覚えあるのよね。金髪の知り合いとか雪姫じゃないけど、あんまり居ないのに」
「そ、そうかな?」
「うん。なんか最近たまーに目にしてたよーな感じが……?
ヨシ! じゃあその可愛い感じのまま、ちゅーにを悩殺してくるのヨ!」
「のののの、悩殺!?」
いやだから、この何と言うか、ちょっと清純そうというか良い所のお嬢さんみたいな恰好で刀太君を逆ナンしろって、キリヱちゃんが背中を押してくるんだけど、何でそんな話になってるのさ!?
公園…………って言っても遊具とか遊び場があるようなタイプじゃなくって、花畑とかがあって手入れがされているタイプの公園なんだけど、平日のこの時間ということもあって人が少ない。そんな公園で二人して、人目がないからこそちょっと騒いでいる僕とキリヱちゃん。人気がなくても内容が内容だ。困惑し照れる僕に対して、キリヱちゃんは急に真顔になった。
「……よくわかんないけど、あんな女性観してるちゅーに相手だといくらアプローチしても無理な気がするじゃない? 何かしらないけど、こー、ものすごーい諦めみたいな感じがしてたし」
「それは…………、う、うん……」
「あれだけ襲われ待ち? みたいな夏凜ちゃんにも手を出してない理由がわからなかったけど、あーいう感じだっていうなら納得しちゃうもん。おっぱい大好きな癖に」
確かにここ最近……、最近? 修行期間もあってあんまり最近って気がしないんだけど、それでも「この時系列」で言えば、夏凜先輩の刀太君への猛攻は色々と凄いことになっている。スキンシップもだし、距離感が近いし、何より前よりさらに笑顔を向ける様になっているというか。お、おっぱいについては、僕は何も言わないけど……。
でも、ある意味であの諦観が根底にあるからこそ、刀太君の距離感の取り方って無理がないのかもしれないと、ちょっと思ったりもして。
そんな僕にキリヱちゃんは、びしっ! と指を僕に向けて突き出して、胸を張る。得意げな感じで可愛いなぁ……。
「つまり! つーまーり! ヘタレってだけじゃなくって、ちゅーにってば自信がないのヨ! 『自分が愛されるような人間である』って自信がある人間なら、ああまで自分の周囲に対して、投げ出したよーなこと言い出したりしないでしょ?」
「そ、それが判るような人生経験が僕にはなくって、ごめん…………」
「誰が耳年増ヨ!?」
「何も言ってないよキリヱちゃん!?」
くわっと目を見開いて僕にぽかぽか拳を握って殴りかかって来て……、あ、全然痛くないや。ちょっと駄々っ子みたいだけど、涙目だから色々と切実そうだ。キリヱちゃん、年齢関係は結構地雷なのかもしれない。
そして、その後もキリヱちゃんと色々話し合って。結局「刀太君の心のためになるなら」ということで、僕は渋々行くことを了承した。
いや、渋々とは言ったけど、刀太君の自信をつけてあげたいっていうのは結構本気だ。「男」友達としての僕も「女」友達? としての僕も、刀太君には両方ともの意味で救われているし、本人は強く言ったりしないけど、いまだに「ほぼ人間だった」彼を最初に殺しかけてしまったからこその贖罪という側面も、ないわけじゃない。
……べ、別に、キリヱちゃんが説得する時に言った「でも、ちゅーにがスッゴイ自信満々で『俺の九郎丸……』とか言って壁ドンしてきたら、きゅんきゅん来ない?」っていうのが、結構ぐっと来たとか、そういうことではない。ないはずだ、うん。たぶん。ぜったい。
それで、キリヱちゃんから連絡を受けた一空先輩によるGPS検知で、刀太君を探したら、本人から声をかけられた。
いや、まさかこっちからじゃなくて刀太君の方から声をかけてくれるとか、だいぶびっくりしちゃったんだけどさ、うん。この恰好を見られているせいなのか、すごいドキドキが止まらない。顔も見てられず帽子で目線を隠したり、我ながら普段よりも弱々だ……!
『良かったじゃない九郎丸、今のうちに押せ押せよ行けーっ!』
「(ちょ! き、キリヱちゃん……!)」
『大丈夫、大丈夫! なんか知らないけど勝手に金髪になったわけだし、声だって普段より女の子な感じになってるんだから、後はしゃべり方に気を付ければバレないバレない!』
帽子で遮ってるから刀太君の様子は見えなかったんだけど、キリヱちゃんがインカムでそんなことを言って煽ってくる。煽られれば煽られるほど胸がどきどきしてきて、身体が熱くなってくる。
そんな僕に、刀太君は少しだけ近づいて、小声で。
「で、わざわざ『コスプレカード』引いたお披露目か何かかー? 九郎丸ちゃん」
『んな――――!?』
「ふぇ……?」
あ、そういえば仮契約カードのマスターカードって、刀太君が持ってるんだった。変身してる時は、絵柄もそれに合わせて変わるってことなのかな。
そんな感想な僕だったけど、顔を上げて刀太君を見て。苦笑いっていうには気の抜けた感じの自然な表情に、なんとなくほっと安心した。
うん。なんだろう、こう…………、姿形が違っても、ちゃんと僕だって判ってくれるのは、それはそれで凄いほっとするというか。
どきどきしてる感じとは違う、もっとぽかぽかしたような感じのもので、胸が満たされる感じがした。
※ ※ ※
「刀太君! ちょっと用事に時間がかかるから――――」
「いや一空先輩、もうバレてるバレてる」「あ、あはは……」
「何……、だと!?」
駅前からちょっと過ぎた繁華街手前。日中と言うこともあってかまだその
そんな中、わざわざ誰がどう見ても九郎丸本人としか言いようのない姿で現れた飴屋一空に、とりあえずはツッコミを入れておいた。
ちらりと横を
フォローアップお疲れ様っス、とだけ言って頭を下げる私に、一空が操作しているダミー用の義体だろう九郎丸ボディは「あはは……」と苦笑いを浮かべた。
「なるほど流石、刀太君。一目で看破したか。伊達に雪姫様を除いて、一番付き合いが長い相手じゃないね」
「付き合いが長い……、う、うん…………、うん…………!」
「落ち着け(震え声)。後、本人からだいぶヒントがあったっスから……」
正直「原作」的な知識を持っていれば、何を言うまでもなく簡単に謎は解ける。解ける訳だが、そうでなくとも色々とこの世界の私が辿って来たルートがガタガタにガバガバなせいもあってか(白目)、かなりその手の情報に肉薄する手段はあるのだ。
具体的に言えば、九郎丸が女性であることは所謂「三太編」の終盤で本人から「性別未確定」的な部分の告白されている死……もとい告白されているし、源五郎パイセンに協力した折に年齢詐称薬を使用した九郎丸の大人バージョン(厳密には「女性としての」大人バージョン)も、しっかりと見ている。なんならお師匠の元での修行中「九龍天狗」を名乗らされていたあの原作終盤っぽい覚醒九郎丸も見ている訳で、こと九郎丸の容姿のバリエーションについては事前学習(?)が多いのだ。
そして九郎丸ビジュアルな一空は「ふぅん?」と腕を組んでにこにこ、面白そうに観察してくる。……ビジュアルもそうだが声も九郎丸本人なのに九郎丸でない振る舞いをされるというのも、CVの演技力が味わえてこれはこれで乙なものである(メタ)。
「そうなんだ。んー、僕としては普段通りの刀太君に見えるけど、キリヱちゃんの杞憂ってことになるのかな? ――――あー、なるほど? そういう話、考えてみれば全然してなかったっけ。三太君もこっちに来て、僕が仕事教えたりしてるから、刀太君と遊んだりってあんまりしてなかったかな? うん」
「言い回し的にキリヱ大明神、近くにいそうっスね――――」
「――――きゃあー!? キリヱちゃん、大声やめて…………」
だから神仏扱い止めなさいって言ってるでしょーが!!? という声がわずかに聞こえた。つまりお叫び遊ばされたキリヱ大明神(鋼の意志)である。
そして大声にびっくりしてインカムを外し、九郎丸は飛び跳ねた。勢い余ってこちらに倒れ込むような形に。うむ、ふわっとした肉付きの柔らかさと言うか、そういったものが普段以上にもちもちしている(?)気がして、何ともリアクションに困る。とりあえず大丈夫かと聞きながら起こそうとして……、いや、アレだな。こうしてみると身長も普段よりちょっと小さいのか?
そして落ちた帽子を拾い上げながら、嬉しいような恥ずかしいような何とも言えない様子で目を丸くしてる九郎丸に、一空は「ん~~~~」とニコニコしている。
「うん、じゃあそうだね――――どうやら初めてコスプレカードを使ったらしいんだけど、その時の身体的な慣れみたいなのが、全くみたいなんだよね。戦闘時に引いちゃった時にそのままだと、危ないじゃない?
だからそこの『
「いやそこゲロんのかよ……、別に問題ないっスけど。しかし何でそんなネーミングなんスか……?」
「源五郎先輩と最近、クー□ンズゲートやってたからかな?」
「また渋いところを…………」
モデルになった土地なんてもはや原形もないだろうに百年近く経過しているのだから(九〇城)、という話はともかく。
そして地味に九郎丸が「九龍……?」と不思議そうにしている。今のお前さんの呼び名として設定されたそれだが、いやまあ、確かにあっちで九龍天狗とどうやらバトルするタイプの修行をしていたらしいので、その呼び名がわざわざ自分についたことに違和感を覚えているのだろうが、これについては全力でスルーしておこう。どうせガバになる(諦観)。
じゃあ後よろしくね~、とひらひら手を振って歩いていく
「ハ~~~~イ、チャ~~ン~~
「人生諦めが肝心っスよ坂田(戒め)」
「納得できるかァー!?」
そりゃもう振り返れば、男泣きに男泣きを重ねている坂田太笠、愛すべきクラスメイト男子である。泣き方が凄いウェットさを感じずダイレクトに「チクショーメー!」となっているので、素でやってるのだとしたら大したコメディキャラである(失礼)。少しだけ熊本の野和を思い出す。肉丸は最初から僻まないし、三橋と白石は結構地雷があるのかどんよりしていたりするのに対して、野和は妙にスケールの大きな形での罵倒と男泣きをしてきたりしていたので、会わせたらそれなりに化学反応を起こしそうだ(適当)。
「誰、この美少女……、誰この美少女!? キリヱ大明神よりもちゃんとした美少女じゃねーの! ちんちくりんなツンデレお嬢ちゃんとかじゃねーもん!? フツーに美少女だもん!」
「もうちょっと手心加えてやれ(戒め)」
金髪美少女な九郎丸、以降は九龍で統一するが、九龍を指さしてガタガタと私の胸倉をつかみ上げゆさぶる坂田。そこまで本気のものではなくじゃれあい程度のパワーだが、それはそうとストレートにキリヱ大明神にそんなこと言うの止めて上げてクレメンス。というか九龍の手に持ってるインカムがちょっとわーわー五月蠅くなってるので、間違いなくあちらでおキレになっているなぁ……、なんとなく合掌(礼拝)。
九龍の方も「びび、美少女!?」とだいぶ慌てて、照れながら帽子で視線を隠している。まあ実際、顔立ちについては九郎丸そのものなので、勘が鋭ければ一発でバレるから、こうして素顔を隠すのは当然であるだろう。そっちの正体バレのリスクが減るのなら、私も多少は動きやすいし。
しかし何でこうなったかなぁ……。原作10巻におけるラブコメ編の九郎丸デートパートについては、そもそもこのあたりでようやく仙境館に合流する忍と、初登場からエンジンブーストかましてるみぞれの2名のアプローチやら何やらに触発されて危機感を抱いて、という流れが大前提にあった訳で、その2つのうち2つともが履行されていない以上は、デートイベントなんぞ発生しないと思っていたのだが…………。
アレか? 下手に「私」の記憶の中でも色々アレな女性経験と女性観でも語ったから、元気づけようみたいなそんな意図でもあるのだろうか。しかしアレはどちらかというと、九郎丸相手に言った訳ではなく坂田に対して語ったという側面が大きいのだが。気遣ってくれる分にはありがたいし、そういった好意は肯定したいが、いかんせん「私」の都合でずれてしまって申し訳ないところである。
本来なら異性について「責任をとれる年齢と関係」であれば、そのまま好きになったまま思うように行動しろ、と肯定するべきところだろうが、だからと言って全く警戒せず選んで大火傷というのも問題があるだろう。坂田の場合は実家もそれなりに大きいし、仮にも友人になったのなら無責任なことは言えない。坂田の性格的にそこまで女性不審へと沈み込みはしないだろうし、仮にそうなっても「第四の目」で強制的に考えを読み解きながら思考誘導すれば良いだろうと考え、ネガティブなアドバイスも必要だと判断したのだ。警戒心を全く抱かず相手にあたるというのは、ある意味で相手も「人間だからこそ」危険だという、それだけのことだ。人生、諦めが肝心である。
まあしかしエピソード自体については「私」の素がイライラを募らせていた可能性も否めなくはない。特にBLEAC○全巻売り払われたこととかは、「私」の中でもかなり落ち込んだ「俺」のエピソードの一つに入るし。社長令嬢との婚約関係については「私」の中では実はそんなにダメージがない「私」ではあったりする。いや、確かにそれなりにショックは受けたが、そもそもが任務で企業へと潜入していた立場で、一緒に侵入した彼女からは「良い御身分だね××××君」とか白い目で見られたりもしていたので、ある意味で元の形に、あるべき形に収まったという側面もないわけではない。その後については知らないので「私」の立場から語る必要はないだろう。
つまり人生、諦めが肝心である。
ただしガバ、テメーは駄目だ(母〇母母)。
「さっき時坂いたけど、知り合いなのか? この子」
「親戚らしーぜ。顔立ちもまあ、九郎丸『ちゃん』って感じでスゲー可愛いし」
「確かに顔見えなくても、照れてる感じからスゲー可愛いってのはわかるけどよー。というか時坂、元々男にしちゃ色々
「――――!?」
流石坂田、よく見ている。が、流石に体格まで変わっているからか本人そのものであるとは気づいていないようだ。命拾いである。流石に「男子として転入した」学校に「女子として再転入」するような滅茶苦茶は、やれなくはないだろうが人間関係的にかなりストレスになるだろうし、それこそ下手ないじめの温床にもなりかねない気がする。クラスメイト全般に信用がないというわけではなく、あくまで人間そんなものだ、という感想だ。
だからどうという訳ではなく、そこに他意はない。言い方悪いが人間なんて所詮イキモノなのだし、イキモノの延長にいる連中もスケールは違うが大体は生き物の
だからこそ下手に九郎丸にストレス加えるのもよくはないので、バレないうちにこの場から
「(どーも親戚っつっても、こっちの方が九郎丸ん所の実家のお偉いさんの妹さんらしくってなぁ。九郎丸探しにきたみてーなんだけど、ちょっと用事あるからって面倒みてやってくれって流れになった)」※原作を前提に嘘をついていないレベルの嘘
「(何だよ、時坂の実家って……。竹刀袋よく持ってるし、剣術の大家とか?)」
「(みてーなもんだな)」
実際問題、神鳴流の「弐の太刀」を正式に扱っている以上、血筋だけで言えば当主かそれに近い筋にはあるのだろう。あれは確か当主の血筋に伝えられるタイプの技だったはずである……、お師匠の本棚に「ラブひな!」がなかったので完全にうろ覚えだが。
「(実際問題用事もあるし、ここらへんで切り上げっつーことにしたい。お上りさんみてーだから、多少は新東京を観光させてやらないと、可哀想だろ?)」
「(それもそうだなぁ。……ちなみに俺がそこに一緒に行くというのは――――)」
「いや自分でナンパ勝負的な何かにしたんだから、そこはルール守ろうぜ(白目)」
「チクショウメーッ!?」
「えっ!? えっ!!?」
唐突に通常のトーンに戻した私と坂田に、つられて困惑する九龍。とりあえず「ちくしょう、好きなだけヨロシクやって来いよ! 今に見てろ俺だってなぁ……! あばよ!」とか叫びながら走ってこの場から退散していく坂田に、生暖かい視線を送って置いた。正直スマン(素直)。
なお、ああやってコメディな風に振舞ってはいるが、内心では「チャン刀に愉快なお友達がいると覚えてもらった方が、後々チャンスあるんじゃね?」とか作戦を練っているようなので、坂田はだいぶ逞しかった。素直に羨むべきであるかもしれない。
内心、「私」としてそこまで恋愛に意欲を持てないのは……、いや、まあ持たないと世界が滅ぶかもしれないのだけどね。しかしキティちゃんのことも雑に放り投げてしまっている状態で色々と話が進んでしまってる訳であって、まあ端的にいえばクソわよ(謎お嬢様)。
九郎丸はチャン刀の恋愛観を少しはまともに矯正できるのか(?)、果たして・・・!