ST209.The Truth Seen In Chaos.
「つ、つまり、義理のお
「落ち着け九郎丸。後それ や め ろ、気が狂う(戒め)」
ついでに当てられているだろう字も文法的に狂ってそうなので、このあたりはもはや何が何やらと言ったところだ。お互い動揺しすぎである。
話の流れから下手に撤収するわけにもいかず、さりとて「第四の目」を使用して話題を徐々に徐々に逸らしていくこともできず。というか何をしてもこのお母さん相手からは嫌な予感しかせず、情報の読みとりイコールで現時点で知ってはいけない情報の羅列をダーッと浴びせられることになるという確信しかない。というかさっきの「フェイトと結婚している」などという爆弾発言自体がその類だし、こちらが何をせずとも勝手に情報が掘り下げられていくだろう前提に立てば、もはや詰み状態である。原作ルートからの乖離が主であるが、何だろうねこの恐怖心。デートイベント先取りとかの時点で既にどうこうという話でもないだろうが、寄る辺を失った子羊は無情な弱肉強食にさらされるしかないのである(意味不明)。
というかそもそもお母さんについては自由人すぎてアンコントロールスイッチなブラックハザードなのだが(
カトラスとの合流にまだ時間があるとはいえ、さてどうしたものかというところだ。
しかしそう思っている私の隣で、九龍こと九郎丸女の子バージョンが嬉々として話を聞いていた。
「刀太の小さい頃の話な? んー、もともとフェイト君からさっきも言ったように『産んでくれ』言われてな? ……犯罪やあらへんよ? うちが勝手に勘違いして舞い上がったりとかはしとったけど、それはそうと当時のクローン技術って今ほど安定しとらんから、まー、代理母的な出産を欲しとったんやなー」
「クローン技術…………? じゃあ、やっぱり……」
「あー、九郎丸に言ってなかったっけ? いや、あー、断定できるだけの話はなかった、みてーな感じだったか……? なんだか記憶が…………」
そして一瞬「ガバか!?」と警戒したが、むしろ私が情報共有していなかった方のガバであった。原作においてはそもそも家出編のあたりでカトラスからの強襲にくわえ、それをきっかけに黒棒から近衛刀太の出生周りについて匂わせる展開が発生するのだ。加えて修行編でのキティちゃんによる体質の解析により、その血筋が「金星の黒」と「火星の白」に由来すること、元祖「ネギま!」を読んでいればネギぼーずと明日菜はんの血が混じっているのではという疑惑が出てくるような、そんな流れがあったのだ。
あのあたりについては、既にカトラスがザジしゃんによって中途半端な立ち位置に引き入れられていたこと、知らないけど何か見覚えがあるような気がする妹チャンたるでち公(サリー)がいたことなど、色々と色々なものを投げ捨てた展開となっているので、もはやどうしようもなかったところではあったが。こうしてお母さんの口から直々に確定情報として語られる展開というのは、それはそれで来るものがあった。
――――お母さんが、近衛刀太を「依頼されて」産んだという、その事実は。
人の意志が介在しない形で生まれたなら。そこまで突き放されてるのなら何も感じなかった。
人の意志が介在している形で生まれたなら。それなりに自らという存在を望まれて生まれて来たと、そう在って欲しかった。
自らがただ道具のように、必要だからと生み出されたと。厳密に言えば「私」は近衛刀太であるはずでもないだろうに、しかしそれでも、その事実はそれなりの衝撃をもって、私の心を揺さぶる。
とはいえ、肩をすくめて鼻で笑えないこともない。結局のところ、私が当事者ではないからという最後の一線が存在するからだろう。
九郎丸もお母さんも、フェイトもそんなこちらには気付いていない。ただフェイトは「案外落ち着いているね」と目を閉じてため息をついた。
そして続けて明かされる、どうでも良い与太話(鋼の意志)。
「せやから、刀太も帆乃香も勇魚も、私の子供であるけど、それと一緒にネギ君の孫仲間でもあるんやな~。ネギ君は流石にわかるえ? ネギ・スプリングフィールド。それくらいは『テナちゃん』から聞いてそうなもんやし」
「……孫仲間?」
「うん。だって、私はネギ君、ネギ・スプリングフィールドの『遺伝子上の』孫やもん。木乃香お祖母様と刹那お祖母様と、どっちがどっちだったか詳しく覚えてへんけど、どっちかの血が続いた三代目が私で―――――」
「――――そこまで、だ。それ以上は色々と方々に問題になる」
フェイト君? と、隣から制止の声がかけられる。
かけられたが、いやそれはそれでちょっと待ってほしい。ん? え? え? 孫仲間で、えっと、スプリングフィールドの血を引いている? 近衛野乃香、どちらかの両親がつまりネギぼーずの血を引いていると? 世代的に「お祖母様」とこのせつを表現している以上、つまりは、えーっとその、ううん? どういうことだってばよ?
とりあえずフェイトに一言。
「判断が遅いッ!!?(理不尽)」
「刀太君!?」
「な、なんやぁ……?」
「すまない、何に対して怒ったか理由がわからないのだが…………?」
周囲には困惑されるが、それはそうとして割と現在、私にも余裕がない。九郎丸デートについてはともかくとして、この後の予定に差し支えるレベルで動揺しているといえる。
私の脳裏をよぎるのは、いつか見たこのせつ結婚式の映像――――そこに映る、明らかにお腹の丸くなったこのせつ二人のお姿。このちゃんこと近衛木乃香はともかく、せっちゃんこと桜咲あらため近衛刹那が、いとしっかり大人ネギぼーずに色目使っているあの映像。
そこから導き出される答えは…………。
「……えーっと、つまり祖父さん、木乃香さんか刹那さんかとデキて――――」
「――――絶対に違うと断言しよう」「わわ!? フェイト君えらい食い気味やね」
こちらの邪推もとい結論に対し、猛烈な勢いで反発してきたフェイトである。いや一体何をそんなに肩を怒らせて怖いオーラを出しているのか。九龍は九龍で目をぐるぐる回して混乱しており、状況はカオスの一途をたどる。
ため息をつき、フェイトは隣を再度見る。半眼でじーっと見られた彼女は頬を赤くし「いやん♪」などと戯れているが、その様がまたフェイトの胃にダメージを与えていそうだ。
「今日は君のために一日とっておいたから君の好きにさせていたけど、流石に無理があったようだね。というより、せめて自分の子供のメンタルくらいは慮ってあげるべきだ。
ただでさえ一杯一杯なのだから」
なん、だと!? あのフェイトがまともに人を気遣えることが出来ている、だと……? 原作でも割と実験動物に近い扱いをしているフェイトだぞ? さては偽物だなテメェ!(暴論) とはいえ無駄に意味のない反発をすることもないので、こちらもこちらで同情の視線を送りながら「ありがとうっス」と頭を下げた。
流石にこれには、フェイトも苦笑いを浮かべる。
「君は何と言うか……、雪姫も前に呆然としていたが、妙なところで素直だね。反応もそうだが、感情が高ぶると無駄に騒ぎたがるのは、近衛というよりネギ君の受け持っていたあのクラスの血が為せる業か……。興味深いというか、それで君の『魂の同一性』が保たれているのかという問題はあるだろうが」
「はっ(威圧)」
「それでいてその安定した精神は、やはり驚嘆に値するよ。少なくとも『壊れていない』以上は。……とはいえこの話もまだ止めておこうか。君が精神的に限界なのは察しがついているから、そう無理に怒りの表情を作らなくて構わない。
ただ、それだとわざわざ
「壊れてないとか何が何だよ……。いや、まー、喫茶店奢ってくれたのでも十分っスけど個人的には。むしろ趣味的には大変ありがとうございますっつーか。
「そうかい? ……いや、わからないな。調査資料には出てこなかったが…………」
横で「刀太、喫茶とかそういうの好きなん?」「はい、将来おしゃれな喫茶店やりたいとかで」「ほぇ~、えぇ趣味しとんなぁ」とか他人事のような会話が繰り広げられている。九郎丸には直接話していなかったと思うが、そのあたりは肉丸をはじめとした熊本組の面々からか? ただお母さんのその言い回しはちょっと裏を読んでしまいたくなって何だか居心地が悪い。……実際に読もうとは思わないのだが。
「僕の方も『話し合い』の準備は済んでいないし……、ダメージの受け方を鑑みると、雪姫もまだ色々と君に話していないのだろう?」
「あっハイ」
「言うだけあってリアクション早いなぁ」
「まあそんなところだろうと思ったよ」(※隣を無視)
「カアちゃんもカアちゃんで、妙にナイーブっスからね。乙女乙女されてもリアクションに困るっつーか、まー色々と複雑っスよ」(※斜め前を無視)
「ほぇ? な、何やぁ、どうして二人とも私から目をそらすん? 九郎丸はん?」
「え、えーっと……」
「とはいえこのまま仲良く会話するような関係でもないだろう。…………せっかくだ、君の祖父たるネギ・スプリングフィールドがいかに偉大だったか、最も傍で見て来た僕の口から直に語ってあげようじゃないか」
「い、いやそれはいらないっス(即答)」
フェイト視点でのネギぼーずの話というのも興味がないではないが、おそらく「ネギま!」以降の現代に続くまでの話について延々と語られることになるだろうし、その辺りは原作を想えばチャチャゼロの出番を待ちたい。というかネギぼーずの名前を口に出した瞬間、らしくないくらいにフェイトの目がキラキラとして思わず一歩引いてしまいそうになったので、妻帯者だろうがCPHはCPHということか。
なるほどカトラス、お前さんの言っていた通り我がお母さんの、男を見る目はちょっとどうかしていたよ……。今度キャンプにでも行ってケバブ作ってやる。今の血装なら駆使すれば専用加熱器とか色々できそうだし。
そしてこの話題についてだけは、近衛野乃香の側から比較的まともなツッコミが入った。
「それ、フェイト君が気持ち良くなるだけの話やない? ネギ君の話 し始めるとえらい長くなるし、その割に肝心なところの話とか全部はしょるやん。神楽坂明日菜はんとか、雪姫はんから聞かんと意味不明な展開も情報も多かったえ?」
「? 何を言っている。必要のない情報はいたずらに相手を混乱させるだけだから、省略するのは当然のことだろう」
「その省略の仕方が、自分に都合が良い形だけにするのはアンフェア言う事や。うちに帆乃香たちを産ませた時も刀太を『ああした』時もやけど、必ずしも正しさをジャッジするんはフェイト君だけやあらへんの。せやから、私はネギ君に関してフェイト君がやろうとしとん事、反対なんよ。そーゆー視点を忘れてるって、なんぼ言っても聞かん坊なんやもん。雪姫はんもちょっと後ろ向きすぎんけど、それでもどっちが人の心に寄り添っとるかは、なぁ?
刀太も九郎丸ちゃんも、こんな大人になったらアカンえ? 人の痛みを忘れて、自分は絶対間違えないって思っとると、次々周りが
「お、おう(震え声)」
「…………………………………………」
「すごい、あのフェイト・アーウェルンクスを手玉に取ってる……!」
さすが義理のお
いささかちょっと聞き捨てならない「近衛刀太に何かをした」という発言が出たが、九郎丸が別な所に衝撃を受けて聞き逃しているらしいので、私もここはスルーさせてもらおう。しかし実際、彼女の発言は的を射ているところもある。原作「UQ HOLDER!」においてフェイト・アーウェルンクスは、その過去篇にてネギぼーずとの繋がりを失った結果、ラスボスの先兵、いわゆる「
とはいえ聞く耳を全くもたない訳でもないあたり、本人なりにどちらの側面も「病んだ」とはいえ昇華した人格に熟成されてはいるのだろうが。お母さんとのやりとりに何とも言えない表情になるフェイトを見て、やはりなるほどと思わされる。スラムでのあの友好的な振る舞いぶりというか、そういうのは野乃香お母さんとのつながりが強かった面も強いのか。
あえて言おう、母は強し。かつて彼女の面倒をみて可愛がっていたという点を踏まえれば、情けは人の為ならずというところか。いやまあ、単にお母さんが
雪姫というかエヴァちゃん直々に「バカ娘」呼ばわりされてる映像が脳裏をよぎる。
そして、お母さんは我々三人を見回したうえで、ウインクしながら提案する。ミニスカセーラー服ともども年を考えろ年を。見た目は20代とはいえ少なくとも30代後半は行ってて不思議はないだろうに。
「それやったら、うちから提案や。刀太と九郎丸ちゃん、それぞれ一人一つずつ質問! フェイト君はそれに誠心誠意答えること。不足分は、私がちゃんと補足したるから、そこは安心してな?」
あーそういえばフェイト関係のイベントがキリヱからスラムおよびカトラスの方に統合されたから、そういう話は存在すらしなかったなーと、他人事のように私は原作「UQ HOLDER!」5巻を回想していた。
…………いや、あれ、そういえば雪姫との直接戦闘で一回殺されていたという前提から、その場から逃げるための対価としての情報提供だったはずなのだが? それをナチュラルに要求して、しかもフェイトに拒否させなさそうなお母さんイズ何。
『これも愛の力、なんやろか……?』
何だかディーヴァが言いそうなことを言い出した星月だが、それはそうとわざわざ本邦初披露な近衛木乃香バージョンでのコメントは、色々混乱の元になるからお止しになって(震え声)。
※ ※ ※
「刀太たちが質問するなら、フェイト君も自分が好きな話ばっかりせんで済むし、ものの見方も私の視点が入るから、もうちょっと中立な感じになるやん? 流石に知識量で私、フェイト君には勝てへんけど、こと客観性なら色眼鏡ないから、結構厳しく言うで?」
「そこは、旦那さんに肩入れするところなのでは……?」
思わず聞き返してしまった僕に、近衛野乃香さんは「それは、逆や」と言った。
「うちの方針として、甘やかすところと甘やかさんところはしっかり線引きしとんえ。こと人倫に関しては、フェイト君は基準が病んでるからなぁ。子供の教育に悪いのん。帆乃香たちとか全然お子様やし、悪影響受けると問題あるから、ちゃんと言わなアカンことは言うんや。もちろん仲良しやからって前提はあるし、うちの考えが必ずしも正解って訳でもないやろうけどな?」
「い、一応旦那さん、なんですよね……?」
「せや。けど、何でもかんでも肯定し続けるような『お人形さんみたいな関係』が欲しくて、私はフェイト君と結婚したわけやないもん。
フェイト君もそれをわかってるから、決別した後にまた私に連絡とってきたんやし。なぁ?」
「…………」
さっきまでの自由奔放な雰囲気と異なり、野乃香さんは真面目な顔で、しっかりと僕や刀太君の目を見て話す。雪姫さんもそうだけど、こういう「お母さん」というか「奥さん」というか、そんな雰囲気を目の当たりにするのは妙に新鮮な気分だ。
僕にはお兄様しかいなかったから、という事情もあるんだけど……。それでも、一人の人間として、女性として尊敬できると思う。強い意志を宿した目は、それだけに刀太君も少し気恥ずかしそうだ。
まあ、それはそうとちょっとマイペースすぎた気もするんだけど、さっきのアレとか…………。刀太君もちょっとパニックになってたみたいだし。普段甘やかされてるのは逆なのでは? という気もする。
「言霊には大して力はあらんけど、されど言霊が胸に届くくらいに、うちは今ちゃんとフェイト君と関係を構築できてるって信じとる。
せやから何かやらかしても、たぶん致命的なことにはならんって、そこは信じとるからなぁ。ちゃんと失敗を反省することが出来るんが、私の旦那様なんえ♡」
「腕を取らないでくれ、歩いている訳でもないんだから……」
「いっけずー、ぷにっ」
「だからつつくのを止めてくれ……」
そして、真面目とマイペースのふり幅が大きい人だ。ちょっと混乱しそうになるけど、感情の行き来の激しさみたいなところに、刀太君との血のつながりを感じて不思議な感覚だった。なんとなく隣でぼうっとしてる刀太君を見ると、お腹の内側のあたりがきゅってなって、じんわりと温かく感じる。
「……それなら、刀太君。君は時坂九郎丸と違ってもう1つ、質問しても構わない。質問権は2つだ」
「はい?」「えっ?」「ほえ?」
そして、嫌がってるような恥ずかしがっているような面倒がってるような虚無の感情のような色々と入り混じったような奇妙な表情を改めて、フェイト・アーウェルンクスは刀太君にそう言った。
「何で俺だけ2つ?」
「『娘』たちが色々、世話になっているからね。特に勇魚が」
「いやアンタの認識でもアイツそうなのかよ(震え声)」
「帆乃香も勇魚も、単に君の熊本の頃の話を少しだけ聞かせたことがあったくらいなんだが、どうしてああなってしまったのだろうか……」
い、勇魚ちゃんは確かにこう、発言をよく聞くと色々アウト気味な感じというか……? 野乃香さんも「流石にまだ早いし、そもそも近親はアカンからなー」と苦笑いしてるし。
とはいえそれで納得したらしい刀太君が、僕の方を見て「とりあえず好きに言えよ」と半笑いだ。
「えっでも、相談しちゃいけないとは言われてないし……」
「ショージキ、そのうち話してくれるって言ってるからな。今の所、あんまり執着しなくていいだろ。なんとなくスラムで襲われた件も、ゾンビっつーかダイダラボッチの件とか踏まえて予想もついてるし。
答え合わせして外れてたら
ほう、とフェイト・アーウェルンクスが微笑み刀太君を見る。「だから言わねーって」と言い返す刀太は「だから強いて聞くとするなら」と前置きをして――――。
「雪姫が俺を引き取る前の『育ての親』ってことになってる、近衛悠香と近衛仁徹って、結局どんな人たちだったんだ? 熊本に墓を持ってる身としちゃ『3人目の』母とその夫って認識なんだが、何も知らないっつーのは不義理な気がする。
帆乃香たちの話からして、間違いなくそっちの関係者だったろーし、ちょっとでいいから教えてくれねーか?」
「ほぇ……」
「…………そこを聞かれるとは、思ってなかった」
そしてフェイト・アーウェルンクスと野乃香さんを見る刀太君の目は、それこそさっきの野乃香さんみたいに強い意志のこもったものだった。
(ダーナ「知っても知らなくても原作に影響が絶対及ばない情報だからねぇ、その辺りは」超鈴音「アイヤ、ガバだ何だ言ってるくせにどういう心境の変化なんだか……。しかしフェイト某のネギぼーずポインツが上がるのではない、かナ?」)