ST212.A Woman's Life Changes With...
妹との約束をすっぽかすお兄ちゃんなんて死ねばいいと思ってる。
そんなに無茶言ってなかったのに、平然とすっぽかしやがってあのお兄ちゃん野郎が。
…………いや、私じゃなくってあくまで一般論の話として。
「…………」
「いや悪いって、『今日も』遅れてさ。なぁ? いや、とはいっても別に大丈夫だろ? 千景についちゃ色々、技術力的に信用してるし、な? 機嫌直せよ~」
「……………………」
「いや殴んのやめて、わき腹くすぐるのに切り替えんなって!?」
とりあえず平和ボケでもしてるみたいな「お兄ちゃん」に、私は攻撃を仕掛ける。前々から言ってあったのに連日約束をすっぽかして遅れてくるんだから、まったく良い根性していやがる。マフラー引っ張って腹をぐりぐりするのを払われたので、私は攻撃方法をちょっと変えたのだった。
場所は、地下。前に犬上小太郎によって連れてこられた、あの賭け試合が行われている闘技場。正直こんなところで金稼ぐなんて私の出自とか色々から考えれば致命的っていうか、色々文句付けるどころの話じゃないんだけど、兄サンと色々探した結果ここ以外に素性を隠してどうこうできる場所もないときている。
なんなら「カトラス」で登録していた名前を別な偽名に書き換えるとか、兄サンが色々やってくれたりしたとか聞くし。……変装用の魔法具セットがザジ・レイニーデイから届いたのは色々嫌な感じだったけど(「何か来てるよー」って犬上小太郎の嫁がわたして来た)。まあ効果は実際あるし、兄サンどころか時坂九郎丸とかも目を見開いてびっくりしてたから、あんまり文句も言えねーけど。
ただそれはそうとしてこの間「開発した魔法具の試運転に付き合う」って言ってたのに、友達とナンパ対決とかいう意味わかんないことをやるっていってスルーしやがったのは、許さねぇ。
とにかく脇腹、脇腹。私みたいに「感覚がない」訳でもないんだし、しっかり擽られろコイツ。笑え、くすぐったくて笑え、笑…………、いや全然防御しはじめたぞ、何だこのお兄ちゃん野郎!?
とりあえず脇腹が駄目なら首! ちっ失敗。もう一度脇腹、と見せかけてまた首! 今度も失敗か。だったら脇腹と首、さっきと逆の手でそれぞれ! って、これも失敗だと!? ハッ、こっちのやることなんざオミトオシってか。だがそうは行くか、それなら胸! いやまた失敗とかさぁ……、と落ち込むと見せかけて耳っ! 耳の中! チッ、あっさり躱しやがる。
なんだかよくわからないけど、ちょっと楽しくなってきた。やっぱり困惑してるっつーか、ちょっと困ってる「お兄ちゃん」を見てるのは楽しい。もっと困らせてやりたくなる。
私の一発一発を前にちょっとずつ表情が引きつっていく兄サンを見るのが楽しいし、なんだかんだ「生身の右手」で兄サンに触れるっていうのが不思議な感覚だ。ちょっとだけ野乃香さんのことを思い出す。……いや、どっちかというと兄サンよりも、あっちのボンクラ姉妹の方がそれっぽいけどよ。特に姉の方、完全に野乃香さんの生き写しみてーな感じになってんし。
そんなことを考えながら兄サンの弱点を探ってる(?)と、後ろから声をかけられた。いや、いるのは判ってたから別に大した相手でもないし、警戒も全然してねーけど、それよりもかけられた言葉が問題だった。
「おぉ、『お姉さん』ちゃんも『お兄さん』君も、今日も元気にイチャイチャしてるね~」
「ま、多少はね(適当)」
「はは、はァ!? 別にいちゃついてねーしッ! イチャイチャしてねーしッ! 兄サンをどうすれば倒せるか色々やってるだけだしーッ!
私、別に変態じゃねーしっ! 時坂九郎丸みてーに、神鳴流関係者とかじゃねーし!」
「神鳴流、別に変態の流派じゃねぇだろ(良心)」
「えっそうなのか? 『あっち』に居た時の関係者から聞いた話だと、なんか背が低い幼児体型の奴とか『九分九厘変態です』とか言ってたけど。系統似てるし、あっちの下の妹も変態だし、もう確定でいいだろ」
「止しておくんなまし(謎訛り)」
「ちょっ、僕を変態とか言わないでっ!? フツー、ノーマルだから僕!!?」
兄サンの後ろの時坂九郎丸なんて無視して、うるせぇ! とちょっと足を蹴ったけど、むしろこっちの方が痛かった。あっ! このお兄ちゃん野郎、脚にあの鉄くさい血装とかいうのしてやがる……! なんかブーツというより鎧みたいになってるぞ、オイ! 背中に黒い刀みてーなの背負ってるから、いつでも出来はすんだろうけど、いつの間にそんなもん出したんだ。
まあ前と違って? 傷から大量出血するような感じじゃないみたいだし、見た目がグロいくらいなら慣れっこだから、まあ前よりはマシっちゃマシだけど……。
と、兄サンが私の両肩を掴んでひょいっと持ち上げ横に置く。「まあそういうアレなのは一端横に置いといて」とか言ってるけど、別に物理的に横に置くって話じゃねぇからな? ……あれ? というか、身長ちょっと伸びたか? 兄サン。あんま気づいてなかったけど、私持ち上げるときの動作的に余裕っぽかったし。
振り返った私たちの前には、あの「53番」こと千景・レイ。自動運転の車椅子に指先で指示を出して、上手い具合に私たちの前に止まる。……
「おー、三日ぶり。デバイスの最終調整か何かか?」
「うん。そんなところさ、色々機能を多数追加していたりするから、繊細といえば繊細なんだ。頑丈に作ってあるとはいえ、そのあたりの動作確認はみておきたいから」
「それもそうか。……あれ、アフロは?」
「ラズロも調整中。アフロの」
「「アフロの?」」
「うん、アフロの」
ついに「B級」デビュー戦だし張り切ってるからなー、と苦笑いする千景の野郎。地下闘技場デビューってなったから気合入れるっつーのはわかるけど、いや気合入れる所色々おかしいだろって突っ込む気にもならねぇ。
兄サンは「あっ」と何か察した感じで遠い目して苦笑いしてるし、時坂九郎丸は時坂九郎丸で「先日」会ったばかりだから「えっ? えっ?」とまだあのアフロ野郎の性格をわかってねー感じの反応してる。
「あー、そういや『こっち』じゃ全然面識ねーからな……。まあ俺が参加してねー時点でアレなんだが。
じゃ、とりあえず頑張れよ~、
「何も頑張ることはねぇっつーの。……というか、本当その偽名、慣れない」
ため息をつきながら、私はバッグから「腕全体を覆う」ジャージみたいなよくわからないアーマー(?)をとりつけて、起動スイッチを入れて、容姿をカトラス・レイニーデイとして登録したものから、
……まあ、単に肌の色と髪の色を兄サンと同じ色にしてるだけなんだけど。本当にこれバレてねーんだよな? あ゛?
※ ※ ※
何でちょっとじゃれる時に楽しくなったり喜んだりしてるんですかね(震え声)。
表面上はともかく、まるで飼い犬か何かのように簡単にころころ変わる内心を
放課後、麻帆良祭の準備やら打ち合わせで時間を取られたり、坂田を始めとした面々と遊びにいったりで、カトラスとの約束をなかなか守れないでいた私である。今日も今日とて結局遅れたし、妹チャンの不満は甘んじて受けることにしていた。
「刀太君、大丈夫? なんか過呼吸一歩手前みたいな顔してるけど……」
「いや、どんな顔だよ」
九郎丸もなんか独特な表現使うなぁ、そういうのは私の専売特許だろうに。……いやもしかして、本当にそんな顔してるのか? えっ? 陸上に打ち上げられた魚がエラ呼吸できないであえいでいるような拷問めいた顔してるのか? そんなにダメージ喰らっているだと? 夏凜来るのでは?(恐怖)
いや、噂をすれば何とやらだ。口には出さず忘れるべきだ。自重自重……。
色々と動揺が収まっていない私のそんな様子を、何故か九郎丸がじっと見つめて来ていた。……何かやり辛いな、何を観察しているのだお前さん。
「相変わらずお兄ちゃんさんは人気者みたいだね」
「そうか? というか、お前さん俺の何を知ってんだってばよ……?」
「多少、はね? 噂程度には。……話そうか?」
「止めておこう(震え声)」
小声でぼそりと私にそう言ってくる千景・レイ。良く聞けば私に聞こえる現実のCVはアム□そのものな大型新人なのだが、いかんせんキャスティングが狙い過ぎである。熊本の方の野和は別に普通にアニメ版「UQ HOLDER!」通りな声だったこともあり、逆に存在感が浮いている気もするが、今後の出番的にゲストと言う扱いなのだろう(メタ)。
ちなみに千景についてはこの世界線での正体が正体なので、本当に知ってても何一つ不自然がないのがちょっと恐怖である。いや別にこれについては今更怖がることも無いだろうが(千景自体原作から外れてる可能性を鑑みて)、カトラスが「好きなら結婚すればいいのに(意訳)」とか煽って来てるので、その一環で使われやしないかとヒヤヒヤものである。とりあえず下手な事言うなよとくぎを刺しておくと、くすくす笑って軽く手を挙げた。
そんな私たちのやりとりに「お兄ちゃんさん……?」と九郎丸が不思議そうにしているが……、まあカトラスと一緒にいるときに知り合ったという話はしているので、そこからの面識だと誤解してくれることを期待しよう。聞かれたらそう答えるべし。
色々と当然のように原作未発生なイベントやらイベント順序やらの入り乱れを俯瞰しつつ、それはそうと地下闘技場の中心部へと視線を向ける。闘技場自体は前に来た時と同様のそれだが、相変わらず中途半端にコロッセオのような石造りっぽい壁面となっていた。まあその壁面に、こちらも相変わらず仙境富士組の広告が踊っているのに妙な笑いが込み上げて来る。相変わらずスポンサーの一角であることを隠そうともしていないが、一応そっちの名前は名前で表向きの仕事は別にあるのだったか。組とついてるくらいだし、よくあるパターン通り一応は建設業なのだろうか。源五郎パイセンの所は……、そういえば聞いていなかったか。ただ「UQ HOLDER!」傘下のそういった組織は、薬物販売はやっていないと聞くので、大差はないのかもしれない。
うつらうつら脱線したことを考えているくらい暇だ。中々次の試合が始まらない。まさかアフロが遅れててそれを待っていると言う訳でもないだろうが、さて? その場合は相手が不戦勝になるだろうし、運営側のトラブルか何かと見るべきだろうか。
「刀太君、何を探してるの?」
「んー、知り合いがいないかなってな。今日は灰人の兄ちゃん来てねーな……」
「えっ? あの人出場してるの?」
「本職だとか言ってたからな。そのうちまあ見れるだろ」
しばらくして電光掲示板の表示が切り替わるが、ホログラフィックな表示が投影されず液晶画面に文字が映るのみ。どうやら本当に機材トラブルのようだ。
『さて、長らくお待たせいたしました! 本日第18試合目、対戦カードはチーム「
ポイポイダーは本日が初出場! 新進気鋭のニューエースといえど、果たして初日にヘメグと戦って無事でいられるのかぁ!』
「アフロ引っ込んでろ!」「可愛い子ちゃんだけの絵面にアフロ不要!」「百合に挟まるってレベルじゃねぇぞ!」「マリモ!」「アプリお世話になってます!」「お願いだから消えろ……」「髭、剃れ!」
アフロ、散々な言われようである(白目)。カトラスはカトラスで私が名乗らせてる偽名である「神楽坂絵馬」であるため、「絵馬ちゃんこっち見て~!」とか言われているのだが、本人はまだ慣れてないのか自分が呼ばれてる自覚が薄そうな顔をしている。その横で「うるせぇ!」とキレてるアフロだが、観客席に物を投げたり中指立てたりしないので、そこそこ育ちの良さを感じる。まあ、それはそれで
ともかく会場入りした四者。カレン・ダとサクレ・トはそれぞれ元祖「ネギま!」におけるフェイトガールズ(フェイト仮契約組)のチームの暦と環を大人にしたような容姿をしている。何か血縁的なつながりでもあるのか、あるいはもっと別な謂れがあるのかは定かではないが、なんとなく意味もなく合掌してしまう。
そんな私を何も言わずじーっと見つめて来る九郎丸。こっちの方が居心地悪くなって「何だよ」と聞き返すが、特に何も言わず「何でもないよ。刀太君こそ」とレシーブされ、何も言えなかった。いやお前さん夏凜じゃないんだからさぁ……(震え声)。
そして対面している側としては、やはりアフロよりもカトラスに注目するべきだろう。髪の色は黒、肌は浅黒さが残るが私や九郎丸に近い「いわゆる」
そんなカトラスの右腕には、独特な、主に私からすれば見覚えのあるようなイメージの装飾だかアーマーだかが取り付けられている。
「そういえばなんだけど刀太君、ポイポイダー ……? って、どういう由来なのかな」
「それは、こっちも気になってはいたよね。ラズロのつけた『モノクロアフロ』のチーム名がダサかったのは認めるけど」
「アフロに拘り過ぎてカトラスの不評買うからな……。
特に理由はねーぞ? 強いて言えば、源五郎先輩に貸してもらったゲームのキャラクターの名前。他の候補の『アリアン』とか『アストラーダ』とかもだし。……と、始まるな」
そして解説が「あーっと!」とか絶叫した瞬間、猫なんだか豹なんだかという獣亜人なカレン・ダのライ〇ーキックめいた飛び蹴りを、アフロの前に出てカトラスが右腕の装甲? で受ける。原作刀太のフィジカルを貫通する拳は、いわゆる遠当てこと気弾が応用されており、しかもほぼ一撃が相手に着弾する瞬間に放っているという手の込みよう。
さらにはそのまま空中で振りかぶって、アーマーの破壊にかかるために掌底を加えるカレン・ダ。空中で飛び上がった後その座標で静止したまま回転回し蹴りをするかのごとき所業で(ス〇クキック)、若干物理法則に逆らってる動きをしているが、おそらく虚空瞬動を併用しているのだろう。しかしわざわざというべきか、動作と動作の間に「らしさ」がなく、ごくごく自然な動きで違和感なく物理法則に違反している。
基礎的な技の積み重ねだが、見ていて驚くくらい堅実で、隙のない動きなのだ。伊達や酔狂で今の時点でAランクをとっていまい。なんとなく灰人との戦闘を見てみたいところである。
なお対するカトラスはカトラスで、手首の辺りを操作してマナフォンのアプリを展開、肩の部分にあるノズルのようなそこから「金星の黒」の魔力を放ちながら、拳を腰に構えた。
「アフロは、あっち頼むぜ。私もちょっと手が回らねー」
「無茶言いやがるぜ! 後でトリートメント奢れよなっ」
「いや私さっきの賭け試合、外れたからな!? むしろアンタが奢れよ!!?」
結構気安くなっているようで何よりである。そしてカトラスの「外れた」に、生暖かい視線を送る九郎丸と千景。まあその、私は当たったからその分を後で補填してやるつもりなので、大負けにはならないと言うことでどうか一つ。
一応ランクが上がれば、数週間分ホテル滞在がまかなえるくらいのファイトマネーは出るらしいので、そこまでは我慢だ。
そしてエンジンを吹かすような右腕の装甲の手の「
流石にそこまで飛び道具を使ってくるとは思ってなかったらしいカレン・ダ。いわゆるマトリ〇クス避け(古いな)のように膝でブリッジするような勢いに後方へと動きそれを躱し、なんならそのままの体勢で瞬動してカトラスの背後に向かう。いや気持ち悪いなその動き(棚上げ)。
しかしカトラスもただでは終わらない。砲撃しながらアプリを操作し、放出していた魔力を「盾の形」に成型。背後から踵落しをしてくるカレン・ダの一発をその盾で受け、なんならそのまま押し返した。
「何か、独特の戦い方だね……。あれ? 右腕の方だけしか使わないのかな。たしか左腕も」
「身バレ防止っつーか、隠し玉扱いだな。容姿の方も含めて」
「それは、確かにそうだね。逃げて来てるって言ってたし」
分かり易く言えば「そもそもラスボス陣営が監視しているだろう」状況で、素顔そのままにテレビなどに映るのはまずいという判断だ。魔法アプリでの変身(千景制作とザジしゃんからの贈り物)を同時使用することで、外見的なそれはほぼ見破るのは不可能。仮に見破られたとしても、「神楽坂」という苗字を使っていることで、敵側の一部関係者へ暗に旧麻帆良学園関係者との関係を匂わせることもできる、という面もある。
とりあえずは「完全なる世界」陣営へ向けて「こちらで最低限だけ保護しているから手出し無用」というメッセージを含めたいがために、雪姫やら龍宮隊長と相談し合った結果が今のそれだ。少なくともカアちゃんというか、エヴァちゃんが考える作戦なのであちらもまたある程度は察してくれることが期待できる。
むろん「神楽坂菊千代」の立場から言えば、もう一ひねり理由のある名前であるが……、あえて触れる話ではあるまい。
そして戦うカトラス、具体的に言えば「砲撃」と「盾」を切り替えて殴り合うカトラスの動きを見つつ、千景が神妙に頷いた。
「外見上は、あのスポーツ用具入れみたいな装甲に搭載した魔法アプリで動かしているように見せる、というのがお兄ちゃんさんのオーダーだったからね。そこは、お兄ちゃんさん本人と一緒に色々考えたもの」
つまりあの見た目は、
名称はまだ決めていないが、そのあたりはカトラスの趣味にまかせよう。きっとそれなりに
…………まあ個人的に印象に残ってるのは、アレを手渡した時の「べ、別に兄サンから物もらったって、嬉しくも何ともねーんだからな!」というツンデレじみたリアクションの方だったが(震え声)。内心の方を
大好きとかじゃないんですよ、キャラ崩壊も甚だしい……(震え声)。ま、まあカトラスの立ち位置は「今までの経験」から言えば代替えなり何なりが生えてきていそうな気はするので、このあたりはガバにはなってないだろう。モラルさえ越えなければ(白目)。
「さて……、ちょっとトイレ行ってくるから試合見といてくれよな。時間かかるかもしれねー」
「えっ? あっ……、うん、わかったよ」
「早く帰ってこないと、お姉さんちゃん拗ねちゃうぞ~?」
「ンなこと言ったってウ〇コは待っちゃくれねーからなぁ」
「ウン〇とか言わないで刀太君!?」
デリカシー大事だよ! とか言い出す九郎丸も原作読み直して、どうぞ(白目)。
まだ完全に女の子になっていないんだから、多少は目を瞑って欲しいところである。
さて。そんな試合会場から外に出て、目当ての人物を観客席入り口、上段の方から薄く睨む。と、相手も相手で案の定、殺気を感じた訳もないだろうにビクリと震えあがり、こちらを見ることも無く会場を後にしようと足早に動く。
目の前の人、人、人。あふれかえる人混みの中、身長が低い相手をどう追いかけるか。物理的に無茶苦茶しない限りは限界があるだろう。が、生憎今のこちらには「
果たして。軽く鼻歌を歌いながら、男子トイレの方へと向かう。そのまま小声で黒棒を呼び出し背中に背負い、両足にブーツ状の形で血装。
「考えたら
そのまま
そのまま背中から勢いよく戸を開け、内部で空中を蹴り、今まさに「ダクトを開けて」逃げ出そうとしていた小柄な彼女を確保し、そのまま二人仲良くダクト伝いで上空へ飛翔。
「お前さん、無茶すんなぁ……。流石にダクトの内部全体を『影操術で』包んで、ファンの羽根とか諸々ぶっ壊して人間が移動できるように無茶苦茶変形させるとかなぁ」
「う、うるさい
「いやその『黒酢スカッシュ』とかいう飲み物をわざわざ金出して買いたいと思えないのだが……(白目)」
「でちッ!!?」
そのままダクト上部、破壊されて地上へと通過できる状態になっていたそこから出て、入り口を適当に破片を組み合わせて塞ぎ。
首根っこ掴んで猫のように持ち抱えていた彼女を下ろし、私は半眼で苦笑いをした。
「じゃあ、一応聞いとくけど。お前さん何の用事であそこにいたんだ? ――――でち公」
「…………せめて名前で呼ぶでち、『
果たして彼女、かつて私に「アマテル魔法魔術研究所不死化実験体・第72号」を名乗ったサリー・ファアテは、半透明のサングラスとアロハシャツにショッキングピンクなフリフリスカートという愉快な恰好のまま、例によって例のごとく妙な味の紙パック飲料の残りを、ストローで音を立ててすすった。
相変わらずの三白眼とツインテールなのには微妙にデジャブのような違和感を感じるが、それはそうと変装するにしても何だそのファッションセンスは……。誰かまともなアドバイザーはいなかったのかと問い詰めたい。
※カトラスの処遇がどうなっているのかとか、そのあたりについては次回