遠い遠いいつか――――惑星の数々、宇宙の片隅にあるどこか。
知性と感情の名残の欠片もないようなこの場所で、今、放射された太陽フレアが残骸たる土屑の質量に引かれ、まるで妖精が踊るかの如く、数多の陽光と磁場がカーテンのようにたなびき、浪打ち、さながら河のように浮かび上がる。
崩壊寸前をはるかに超えた、そんな場所。
ある時、光がともる。
光は周囲にある数多の土塊を集約し、それにより一緒に引っ張られる数多の陽光や磁場。
加速する光、光、光――――文明の残滓すら飛び越して、文字通りその様は、周囲の光景は加速する。
あまりにも光が乱反射して、辺り一帯が目まぐるしく、玉虫色のように輝き。
内側から見れば間断なく浴びせられる光と、爆裂するような音の応酬。
上に落ちているのか、下に昇っているのか、もはや前後左右と全ての軸における自分の状態すらわからなくなるほどの情報の奔流。
ゆらめく数多の光と、影と、闇。隙間隙間に、数多の目という目が、黒塗りのような内からこちらをじっと、感情のない目で見つめている。
目が何を求めているのかは、言わずとも判らなくはない。
だが、そこに手を差し伸べることなどもはや出来ない。
やがて音と光、感覚の嵐を蹴散らし、吹き飛ばし、もはや時間がどれほど経過したかすら判らなくなるほどの衝撃が過ぎ去った後。
ゆらめくそれは、ただただ文字通り銀の幕のカーテンのようで。
それを見た誰かは――――そのオーロラの揺らぎを。
まるで
ST214.the World is Wonderful Woe Wide②
「ぐす……、もう駄目でち、お終いでち…………、あんな、明らかに『次元の狭間を漂う猟犬』でも出てきそうなものを見てしまった、我々は目を付けられたに決まってるでち……、無残にも身体の破片だけを残してこの世から退場するでち……。
う、うわぁあああああ――――――んッ!!!」
サリーはおそらく生まれて初めて、心の底から震え上がった。
真の恐怖と致命的な確信に……、恐ろしさと絶望に涙すら流していた。
尊大な態度から考えれば、これも初めての事だったろう……。
サリーはすでに、戦意を持つ所では無かった。
などという
いや
流石に年頃の娘っ子が泣き出してまでバーの中にいる訳にもいかず、分身にかなり注意を払いながら私はでち公と一緒に表の通りに出ていた。表の通りと言ってもビル群の隙間にあるようなエリアなので薄暗く、人気は少なくまた柄が悪いのもご愛敬である。
そしてそんな中、テイクアウトにさせてもらった紅しょうがジンジャーエールを音を立てて飲みながら泣き続けるでち公を前に、おろおろしている私であった。勇魚や帆乃香のようにうまく慰める術がないというか、なんならカトラス以上に距離感と接し方が微妙な相手である。脇が案外ガバガバでやること成す事に失敗がつきまとっていそうなこの相手、私的な判定でなんだか段々「妹」感が強くなりつつあって、そこがまた接し方に対する混乱の元なのだ。
今のサリーについては完全に敵な訳で、どっちかといえばバアル陣営側であることを考えれば、性質の悪さで言えば本編ラスボスだろうヨルダ・バオトよりも厄介な関係にある。
そんなこともあって、こちらがいかに
なので、とりあえず話題に出すべきは「あの」光景だろう。
「結局あれは何が起こったんだ……?」
「ぐす…………、ぐす…………、頭がおかしくなりそうだった、でち。脳と脳のキャパシティが崩壊してたでちよ」
「いや、その説明だと意味不明なんだが……」
「合わせ鏡みたいなもの、でち。…………『全覚』と相対した時は
というか
まあもっとも、実際の所どういう能力なのかについては、お師匠も星月も教えてくれはしていないので、これはこれで良いと言うことにしているのだが。わざわざ藪をつついて蛇を出す必要はないし……、あまり言いたくないが「恐い」のだ。
『賢明な判断だと思うです、相棒』
そしてここぞとばかりに元祖「ネギま!」な
『当たりです。当たりですけど、それより店を出て良かったです? 非常にオシャレで喫茶店的な意味で参考になるとか思ってたですけど。九郎丸さんとデートしてた時のより、内装は好みでテンションが上がっていたのではないです?』
「否定はしねーけどま、流石にでち公だけ外に放り出す訳にもいかないからな……、可愛そうだし(断言)。あのまま気絶してくれりゃ楽ではあったかもしれねーけど」
ホルダーか源五郎パイセンの組のところにでも連行する意味で、とぼそりと呟くが、泣くのに集中しているでち公はこちらに反応しない。まあ、独り言の範疇なので特に問題ないと言えば問題ないだろう。
気絶と言うと、私もでち公も揃ってちょっと危ない所だったというか、ちくわ大明神(仮称)が声をかけないとそのまま頭痛と錯乱した思考と眠気のままにブラックアウトしそうでもあったので、割とどうしようもない話ではある。
状況を整理するなら、私が「
縦横無尽に真っ暗などこかに対していきなり光が降り注ぐようなそれは、何だろうか、爆発する映像を逆回しにしたみたいな得体の知れなさと、そこから光の奔流が一気に加速してもうネオンライトも真っ青なくらいにゲーミングカラーを超過したカラフルの暴風雨というべきか。自分でも表現する力が足りなくて申し訳ないが、そんな感じのものがわずか数十秒だろうに、体感上は数年くらいは経過したんじゃないかってくらい、一気に猛烈な疲労感を覚えさせられたのだ。
例えるなら何だろう……、数多のオーロラの壁の連続を、無限に近い数を一瞬で駆け巡り
いやまあそんな余談はともかく、実際オーロラの壁を貫通とかおそらく出来はしないのだろうが、そこは見た目の表現ということで納得してもらいたい。
『(相棒には
「どした、ボソボソと」
『何でもないです。まあ、正気のようで何よりです』
嘆息する星月だが、なんだか普段よりもこちらに対するコメントが雑だった。いや、綾瀬夕映のロールに従うとこうなるというレベルであるのだろうから、間違ってはいないのだろうが、それでも大河内アキラの姿の時の初心っぽさではなく、クールなままの物言いで来られるのも、これはこれで不思議な感覚であった。
『初心具合でいったら相棒も負けてないですよ。あの聖女限定ですが――――』
「いやそこはツッコミ入れるのは止めとけお前さん(震え声)」
「……さっきから独り言多いでち? どうしたでちか、思春期でち?」
と、どうやら多少は落ち着いたらしいでち公が、炭酸の音を立てながらジンジャーエールをずぞぞぞと音を立てて飲みながら、半眼でこちらを見てくる。とりあえず話ができるようなら何よりであるが、いや、まあ思春期かと言われれば思春期だがそれを言えばお前さんも思春期だし、この世界はそもそも一般的な少年漫画の形態をベースとしているので、中身が違えば思春期のオンパレードは当たり前と言えば当たり前でもある(意味不明)。
『ふみゅー? ふみゅーみゅん、ぴ〇ぴかぴ!(※特別意訳:
「って、おまっ!? チュウベェ、いつの間に……!」
「でち!? へへ、変態の妖魔でちッ!」
そしていきなりかけられた外見上は可愛らしい声(実質は薄ーくオッサンの声が聞こえるような聞こえないような)なチュウベェのコメントに、思わず私とサリーは振り返った。とっさにスカートを押さえるサリーはまぁ膀胱の防御力の低さから考えて綾瀬夕映リスペクトなそれになるのもわからなくはないが(※綾瀬夕映は下を「全部」脱がないと出せなかったので、すぐさま脱げる様に紐パンを着用)、そこまで寄ってるとなると本当にお前さんはあっちの遺伝子情報が使われてると見るべきか。
それはともかく、振り返ったついでにツインテールの片方が私の鼻に当たって鬱陶しい。とりあえず払いのけると「何するでちか、女の子の命に!」とか言い出したりするが、そこはスルーしてこちらの目線の高さまでぷかぷか浮かび寄ってくるチュウベェに手を向ける。
ちょっとちゃんと聞いているでち!? というサリーの抗議はともかくとして……、いや、えーっと、何だろう、こう、凄い久々に見ると言うか、こう、何だろう? 凄い久しぶり!(素)
あまり言い訳したくないので、申し訳ないと真っ先にチュウベェに謝っておいた。いやその、ここ数週間お前さんの存在を完全に忘れてたスマン(素)。本当普通にスマン。
『ふみゅー!?(特別意訳:いやちょっとー!?)』
「いや何か、本当、ごめん…………(素直)」
とりあえず「第四の目」を
「いやだって、あっちから引き取って連れて帰って来てから、お前さんずっと元気なかったし、携帯端末の方に入ってたろ? むしろどうやって出て来たんだ? 電源は入ってるけど、ネットサーフィンの履歴も増えてなかったし……」
『ふみゅー……、ふみゅーん……(ショックだぜ
「何調べてたんだ?」
『ぴ〇ちゅぴ(
「いやちょっと待てよ調べるようなもの何も増えてねぇだろ(白目)。というかポケモ〇止めろ」
偉大なるサ〇シのシーズンが完全に終了してからもはや何年経ったかという2080年代の現在であるが、どうにも初代リスペクトな鳴き声のチュウベェである。まあ以前聞いた釘宮の話が正しければ「電気の獣」というミームが現代人の信仰のような形で最大限反映された姿が、このチュウベェという妖魔のそれなのだろうし、キャラクターも若干だがそれに寄ってるのもわからなくはないのだが、だとするならせめてもうちょっとピ〇チュウに姿を寄せろと言いたい。見た目で言うとちう様の部下たる電子妖精たちをベースに色々いじった感じのデザインになっているので、これもこれで何か微妙に違うというか……。(ダーナ「本当に〇カチュウの姿でそんなキャラクターだったら、今以上にツッコミが荒ぶるだろうに」)
「……何か兄弟、その変態妖魔に甘いでちな」
「別にそんなこともねーだろ。変態の誹りは訂正しねーし」
『ちゃー!?(
だからその鳴き声、お前さんさぁ……(震え声)。
そしてそんな風にサリーの存在の有無に関係なく軽いやりとりをして遊んでいると(?)、視界の端に見知ったコメントと、胃痛を訴える感情の文字が走った。近づいて来てるなこれは……。
「釘宮?」
振り返ってみると、まだ来ていなかった。いや、思考が視えるということは間違いなく近くにはいるのだろうが、どこから来るのか判らないというか、むしろこれは「チュウベェを意識している」ということか? 視えた思考は「どこに行ったんだ……、嗚呼、胃が……、息苦しさすら感じる…………、近衛は何をやっているんだ」というものだったので、てっきり私宛の物だと思ったのだが、そういう前提で見てみると、釘宮の思考から流れ出た文字が、こちらの肩にすがりついて可愛い素振りをして頭をぐりぐり押し付け愛嬌を振りまいてる(媚びてる)チュウベェの方へと来ているように見えなくもない。
「でちっ」
「ん?」
そしてサリーが足を振り上げ、思いっきり地面に叩きつける。と、不自然に足がちょっと浮いていると言うか、「第四の目」越しに見ると確かにその足元には何かがいて、踏んづけている状態だった。
というか、んー? 釘宮の思考、その足元から漏れてるな、この感じ……。
見えないものの、でち公が「ひぅ、舐めるの止めるでちぃ」とか言っているので狗神か何かだろうか。というか魔法具使わなくても何か見えてるのかお前さんは。
「放してやれ、害があるようなもんじゃねーから。たぶん……」
「い、いや、別に気にする話でもないでちが、ペットみたいなのはちょっと苦手でち……、何か舌、伸ばしてきたでち」
「苦手?」
いっぱいまとわりついてきて、押し倒されて、すごくペロペロされるでち……、と疲れた表情のでち公。とりあえず彼女のわきの下に手を入れて、ひょいっと持ち上げてやる。先ほど流れた釘宮の思考がその場からすっと抜けたので、おそらく「飼い主」の方に戻っていったろう。これでよし。
などと思っていたら「何ナチュラルに触ってるでちかっ!」とサリーが背中向きのまま(背中から持ち上げているので)、こちらの腹を蹴ろうと試行錯誤してくるので、なんとなく苦笑いして下ろしてやった。スラムの時の子供達を思い出すな……。修行終わってからルキたちに会いに行ってないし、今度差し入れでも持って行こうか。
「さては全然人の話を聞いていないでちな、何でちこの距離感の妙な近さ……、まさか私もどうこうしようとか思っていないでち!?」
「自意識過剰に被害妄想は思春期の証だぜ(煽り)」
「自分の罪を数えてから言うでち!!? 何か田舎っぽい学校でよく話してた女とか、好意に気づいてたし優しくしてたのに全然受け入れずに流してこっちに来ているとか、ちょっとどうかしてると思うでちよッ!?」
「朝倉のことか? まぁアイツはなぁ……。せめて1回でも謝ってくれりゃ後のガバはともかくとして、もうちょっと真剣に
「兄弟は何を言ってるでちか?」
何でサト〇ココノカド〇、と、何故かそこだけきょとんとした表情のサリーだった。まあ、それについてはおそらく私個人の趣味趣向というか物の価値観というか、「私」限定の外堀の一種ではあるので、あまり深く考えることでもない。
そしてそんなサリーの見ているのとは別に、カトラスの試合がようやく終わったのが分身の方の視界で確認できて――――。
――――よし、また勝手に逃げやがったなお兄ちゃん野郎。ぶっ殺す。
……カトラスが会場にいる、九郎丸の隣で適当に応援している風な分身の方を見て、何故かそんな風に怒りをあらわにしてぼそりと呟いたのが
突如震え出す私に、空になった容器を開けて中の氷を取り出しガリガリ齧り出すサリーは「どうしたでち?」と引き続ききょとんとした表情で聞いてくる。
えーっと、えっと、あの、あれ? サリーについてはともかくとして、カトラスお前さんには何で分身だってバレてるんですかね(震え声)。お怒り鎮めてくれませんかねぇ妹チャン、いやその……、お助けェキリヱ大明神ッ!?
『悪いお兄ちゃんだ』
「…………………………………………」
「でち?」
『ふみゅ?』
そして大河内アキラの声で、しれっとそう言ってくる星月の一言が、何より、何より、何よりも一番の精神的ダメージだった。