導入編につき超展開注意
ST228.Yourself in [4891] ①:He Gave Up Everything.
――――Route 4891:
June 5, AD 2224
MIHASHIRA-DAI City's Central Section in Osaka: Ramen Street――――
きょうび今時サイバーパンクやらスチームパンクやらと言ったところでイメージが簡単な若者がどれくらいいるだろうか。まあかくいう私も2080年代のきょう日あまり言えたような立場ではないのだが、まあ一般的にはブレ〇ドランナ〇あたりのイメージに集約されていくのではないかと思う。
私個人で言えばカアちゃんの映画趣味の関係で□ボコップあたりもするのだが、そんな話はさておき。勘違い日本描写とは言わないまでも、ネオン街の光が怪しくてらてらしてカメラにブルーのフィルターでも貼られているのではと疑うほどに、微妙に色味が引けて薄暗くしかし活気だった街並み。どちらかというと忍者殺すタイプの忍者っぽい描写な気がしないでもないが、ともあれそういった風である。
ハイそこ、そもそも私が活動している時間軸が2080年代であるという至極もっともなツッコミは一旦封印してもらいたい。細かい問答などスルーして、現在我々がいるのは2200年の大阪である。
……そして現在の私の恰好は十代後半から二十代程度。年齢詐称薬を使用した上で死天化壮を身にまとっているが、以前のように筋者っぽさを醸し出す必要はないため、外見上はほぼ原作近衛刀太の大人バージョンのそれである。そんな私の背後をぴょこぴょこついてくる、少し背の低い彼女がはぐれないように手を繋いで引っ張り、先導。「にぃゃ!?」とまあお可愛らしい声を上げているところはいつも通りではあるのだが、現在の容姿が容姿なのであえて直視はすまい。
ラーメン街と言いつつ飲み屋街に等しいが、エリアとしては経済区の下層も下層。「この時代」においては、いわゆる労働者階級のさらに底辺をさまようあたりのものであるが、治安の悪さは折り紙付き。そんな中に黒棒を背負った私が歩いている姿が果たしてどう映るかはさておき。「第四の目」に視える思念の残り香を辿りながら、私はその店を発見した。
たかはたラーメン・拳骨。
たかはたラーメンという系列自体は、どうやら2100年代中頃に出来た「ラーメンたかみち」の系譜の一つらしい。ラーメンたかみち自体は色々あってひっそりとのれんに幕を下ろしたものの、その後「たかみち系」と「たかはた系」とに二分して、前者が主に上流、後者が下流をさまようようなことになっているらしいと、先ほどネット検索して知った。
まあ、その話への感傷はともかくとして…………。先行して私は進む。店自体は大型店舗というかもはやバーか居酒屋の様相を呈しており、そこかしこ小汚いようでいてカウンターなど座席自体はそこそこの清潔さを保っているアンバランスさ。私はともかく同伴者な彼女は、店内に入った瞬間その独特に強烈な豚の髄が煮込まれる匂いに顔をしかめる。
「ぞうきんみたいじゃないのヨ!?」
「白湯系のトンコツなんてそんなもんじゃね?」
「そりゃそうだけど、煮込み方ここ絶対尋常じゃないでしょ。こう、餃子とビール欲しくなるわ」
「お前さんもお前さんでブレねぇな……。いや見た目から言えば違和感はむしろ無くなってるが」
ちらりと見る私に「何ヨ?」と両手を腰に当てる彼女、桜雨キリヱの
ビジュアルで言えばコミックス17巻のそれだ。おさげも解いて白いマフラーを巻き(何故?)、裾の先が少しスケスケになったロングスカート。無地のブラウスもどのような手練手管か中々立派な胸部装甲を装備為されており(愚弄)、身長で言えば十四歳くらいの私よりは大きく夏凜と同じくらいかもしれない。もっとも現在のこちらの身長からすれば頭一つ程度小さいことになるが、少なくとも十三歳程度の姿だった彼女からは劇的な変化をしている。
言ってしまえば、ほぼ「ラブひな」の成瀬川なるモドキである。
誇張表現なく、たいそうな美少女(?)がそこに存在した。
好みのタイプが異なるとはいえ、なんとなく直視が躊躇われるようなキラキラした雰囲気。とりあえず視線さえ外せば思念はいつものキリヱ大明神そのままなので、意図的に顔を逸らして手を引っ張った。
ちょっと! という抗議の声に足を止めるが、いかに彼女が普段通りに騒いでも誰一人こちらに絡んでこない。時代的な雰囲気から言って現在の大明神クラスの美人がぽっと出てくると間違いなくいらぬ騒ぎを買うだろうと思ったので、あえて既に死天化壮を展開しているのだが、ちらほら流れて来る思念は色欲よりむしろ恐怖の類だ。
私よりも、キリヱ大明神に向けて。
「キリヱ、何かやらかしたか?」
「やらかしてないけど、服のグレードでわかっちゃうんでしょ。下手に絡むと自分の社会的ステータスが全て全滅するって確信してるというか。
言ったでしょ?
「実在通貨を取り扱ってねー話をされてもなぁ」
肩をすくめる私に、こちらの腕に軽くエルボーする大明神。
「アンタこそ、ちゃんといるんでしょうねここに。100年くらい見つけられなかった私なんか全然スルーして、いきなりこっちに来たけど。何で?」
「ん~、まぁ個人的な話なんだがな」
少なくとも2000年代初頭において、大阪は喫茶店が多かった。その影響がまだ残っているのか2080年代でもその数は全体的には生き残っている店舗が多く、であるならば
実際それは大きく外れてはおらず、何だか異様な形状になっていた日本橋のあたりで「第四の目」を
キリヱ大明神は私を見ながら「む~」と声をかける。
「喫茶店やりたいとか世迷言言ってたことはあったけど、だってのになんでラーメン屋?」
「世迷言とか言うなよ!?(怒り) 今度一空先輩とかカアちゃんとかに私室でビール瓶片手に柿〇種とさきいか摘まんで朝飯にしてる時があるとか真実言いふらすからな!」
「ちょちょちょっと!? その話を出すなら戦争よ戦争! 絶対ドン引きされるじゃない特に雪姫にはっ! というかいきなり怒らなくても良いじゃない……、ごめんって。
でも、アレでしょ? アンタお店やりたいって言ってたから、つまりこれって――――」
「――――いや、そうではないんだなぁ」
キリヱにそう断りを入れながら、ちょっと待ってろと店の中央のあたりで手を放し、少しその場にとどまるように言う。訝し気な美人モードのキリヱのキラキラした目から視線を逸らし、カウンターにいる黒い革ジャケットの男に近寄った。身長は180cm後半、体格はかなり良く後ろ姿だというのに妙な威圧感。わずかにツンツンとした黒髪はオールバックに撫でつけようとして失敗しているのがよくわかる雑な跳ね方で、ほんの少しだが村上夏美を思わせ……、いや大分違うな。どっちかというと
そのカウンターの会話が、寄る程に聞こえて来る。
「アンタ、もう帰っちゃくれねぇか? 昼に来てからもう八時間もそこに座ってるじゃねェか。おまけにラーメンもおかわりし続けるし、それでもう五十杯くらいだろ? いくらウチが
「後一杯食べたら帰るよ。それで丁度、五十だ」
「しかもずっとトイレ行ってねぇしどんな身体してんだアンタ……」
「人体ってのは宇宙と繋がってるらしいからな。…………ッと」
言いながら彼はビールを煽る。瓶から直呑みしていないだけキリヱ大明神よりも良識がありそうだが(失礼)、それはそうとして聞けば聞くほど一体何をやっているのだという話だ。思念はここに来るまでに漂っていた「ささくれ立ったもの」のまま、それが今の謎の挙動と合わせて痛々しいような、それでいてどこかギャグめいているような。というかどいつもこいつも関西弁とかじゃないんだな。無国籍感がますます増していく世界である。
彼の隣の席に座り、カウンターの方をちらりと見る。今、ちょうど店主が配膳した豚骨ラーメンからレンゲを取り、そこに酢をたっぷり。ざっと全体に散らした後スープを少し飲み、何度か頷いた。
「何でトンコツに酢?」
「脂っこい味に指向性が出て全体的に引き締まる」
「まあ、他人の好みにとやかく言う話でもないが……って、あれ? 極細だけどやわらかめ?」
「知らないのか。別な料理になって、これはこれで美味い」
「まあ熊本の方は細麺系じゃなかったから気持ちは少しわかる気がするが、細麺でしっかり柔らかめって……、素麺じゃね?(失礼)」
「偏見も大概にしておけ。お前アレだろ、セリフ回しの後に
話しながらもラーメンをすすり……おーおー秒速だな、あっという間に全部間食し、腹をひと撫でして私の方を見た男の容姿は。
独特の髭というかモミアゲというか、髪から続いて頬から顎の左右にまで伸びており。
なんとなく見覚えがあった私は、ほぼ咄嗟に感想を言い放っていた。
「何それ、ウルヴァリ〇のコスプレ?」
「…………礼儀ってモンを失していやがるなクソったれ。
いいか? これは、
「嗚呼だからラーメンだしオールバック……」
似合わねぇ、などと思った瞬間に目の前の
振りかぶった右手が私の額へ、そしてそのままアイアンクローの要領で指が頭部を掴んだ瞬間――――。
――――その
※ ※ ※
冒頭早々いきなり死んでいて申し訳ないのだが、事の経緯を説明するにしてもまず最初の最初で大層混乱すること請け合いだ。手始めに、どうやら死んだらしい。またかとか言われても困るのだが、これに関してはどうやら本当っぽい。「金星の黒」が正しく機能せずに、あっさりと殺されてしまったとか。
何故断言できるかといえば証人がいる。
では事の経緯を整理しよう。
私の側には記憶などなく、気付いた時にはいつか見たボロボロのアパートの一室。ミンミンと蝉の声がうるさく、高い湿度で蒸した室内の感覚まで含めて不快感が強い。そしてよく見れば身体が徐々に徐々に再生しているのか、断続的な痛みが走る。
身動きが出来るくらいに痛みが引いたタイミング、要するに再生が終わったろうタイミングにて。仰向けに寝ていた状態から、展開したままになっていたらしい
とりあえず大丈夫かと声をかけて、直立不動の姿勢のままスライド移動し手を差し伸べると「キモいキモいキモいキモいわヨ!? 何その動き、ホラー映画!!?」などと驚き遊ばれるキリヱ大明神。
「まあ一応は吸血鬼か
「適当に返してるんじゃないわよ、もうちょっと乙女心を慮りなさいッ!」
てい! とか言いながらぽかっと殴ってくるキリヱ大明神。制止をかける前にやってしまったものだから、思いっきり私の膝にぶち当たり、そこに展開されてる死天化壮を殴りつける形に。外見上はひらひらと薄いコートのようではあるが、本来は機動力および防御力の底上げを図る装備でもあったため、必然的に普通の布とかよりは硬い。殴れば痛い。
にゃおおおおん! などと叫びながら手を握ってゴロゴロその場を転がる姿は大層お可愛らしいものの「そういえば硬かった! 硬いんだった! というか少しは柔らかくしておきなさいヨ!」などと無茶をおっしゃる……。
とりあえず背負ったままだったらしい黒棒を抜いて、そのまま血装。……しれっと発動時に「恐がられるのではないか?」と小声で聞いてきたので、それには苦笑いを返して肩をすくめる。
そして案の定黒棒の言った通り、自分の背中からいきなり座椅子のようなものが生成されて強制的に上半身を起き上らせられたキリヱ大明神は、それはそれはおビビり散らされた。うむ、合掌。
「だから意味もなく拝むの止めなさいヨ!? ちょっと最近はあんまり洒落にならなくなってきてるんだから~!」
「いや悪ぃ悪ぃ、ついノリで」
「むぅ……。まあアンタが楽しいんなら、ちょっとくらい付き合ってあげなくもないけど? ん?」
大変物分かりが良いキリヱ大明神はそれはそれはお可愛らしいのだが、ちらちら見て何かを催促するような動きをされても困るのだが。
とりあえず「
「何かアンタ今、私の事馬鹿にしたでしょ。言わなくてもわかるんだからっ!」
「キリヱは可愛いなぁ……(素直)」
「にゃおんッ!? ッ!!? ッッッ!!?!?!?!!!?!」
初手煽りは基(以下略)。
いやこの場合は彼女の羞恥心を煽った訳だが、おおよそ想定していた通りに簡単に語調が猫化し、その場に転がって幼児さながらにジタバタし始める姿はわかりやすく可愛らしい。可愛らしいがミニスカの中身が丸見えなので、私は目をそらして窓の外を見ていた。そっとしておこう(万能選択肢)。
それでまず、何故この場所に私がいるのかという話を聞いたのだが、キリヱの答えはシンプルだ。
「流石に無理だったから頼ろうと思ったのヨ。……大丈夫、今回はまだ両手と両足の指の本数で数えられるくらいしか試してないから」
「いや、もっと早く頼って良いぞ? なんでそうタイムリープ系能力を出し惜しむかなぁ……」
「そんなのあんまり負担かけ過ぎると私が重い女みた――――あっ!? い、今の無し! 無しなんだから!」
「おぉ、うん…………(白目)」
「ちゃんとこっち見なさいヨ!」
別に気にはしないし、彼女の気が触れなければ良いと言えば良いのだが、それはそうとしてその精神的負担がどのレベルなのかはこちらとしては推し量ることが出来ないし勝手に想像しても良いことではないだろう。それほどまでにキリヱが為しているようなことと、彼女自身がそれに至るために獲得したこの能力は、あまりにも重い。
キリヱの本来の能力である「
能力について簡単に説明するならば、RPGなどの複数セーブシステムである。ここメニュー画面に相当する場所を経由することでその対象は別なセーブデータにも現在の状態を引き継ぎ可能であることなど多少ディティールはことなるが、おおよそそんな説明で間違いはないだろう。
ただし、これはあくまで準物理的な世界での話。世界が、宇宙が持つ生命エネルギーやら何やらのリソースを大きくゆがめる能力であることは、ダーナお師匠やら超やらから散々に指摘されている。
一応、そのボトルネックとなっていた水無瀬小夜子関係の事件は既に解決しており、その後の追及について何も言われていないからあの時よりはマシになったと思ってはいるのだが……。
とはいえ彼女自身、その能力発動に安易に私を巻き込むことをしない。理由については今のやりとりでちょっと察してしまったが、「第四の目」越しに流れて来る情報は少し違う。どうやら「キリヱから見て」過去、かつてのデータにあった私の存在が多数重なって見え、こちらに負担をかけたくないという意図らしい。もちろんあまり重い(というか面倒な)女と思われたくもないようだが、そのあたりは原作からして織り込み済なので、それはそれこれはこれである(諦観)。
「何ヨその目、馬鹿にしてるの? 何とか言って見なさいヨ」
「で結局何で俺ってここにいるんだ?」
「いきなり話戻したわねアンタ……まあ良いけど」
そして語られたのが、まず私が死んだこと、キリヱ自身が頑張ってもそれを覆す糸口が見つからないこと、なんなら完全に打つ手がないらしいことなどである。
その果てにキリヱが出した結論は…………。
「………………私が持ってる
「はい?」
まさかのここに来ての、マルチバース映画的な発言であった。
いや原作ガバがどうとか以前の問題として、お前さんひょっとしてこの間自室に置いてあったM〇Uとかスーパーヒーロー映画群の影響でも受けたか……? 意味もなくほっこりする私に「なんか馬鹿にしてるでしょ、ばーかーにーしーてーるーでーしょー?」とジト目で指を突き出しこちらの額をぐりぐりしてくる大明神は、幼児らしくてなんとなく癒しであった(大変失礼)。