光る風を超えて   作:黒兎可

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大体今回の話に禁じ手の理由が集約されてます
何というかこう…、もう何か色々注意


ST230.あなたを守るあなたを探して:4891③

ST230.Yourself in [4891] ③:After Friendly Neighborhood

 

 

 

 

 

 いつかの色あせた夏の部屋。キリヱの始まりにして終わりだったこの部屋のテレビ画面に映される、展開しようとしているセーブデータに記載されたメモ書きは「√4891:2224年6月5日、お金」といったものだった。

 

「お金?」

「そ、お金。言ったでしょ? ホルダー結構初期から関わってるって。

 もともとの私は当時見た目通りのちんちくり……、ちっちゃくないわヨ!」

「何も言ってねーって」

「ごめん、ちょっと過剰だった。うん。そうね……子供も子供だった頃なのよ、ホルダーが出来たのって。で、ギリギリ魔法の存在が世界に公表される前後かしら? もうちょっと大人だったかもしれないけど、この容姿見ればなんとなくわかるでしょ?」

「ちんちくりん?」

「ちっちゃくないわヨ!」

 

 誘導尋問めいた言い回しは止めろ(苦笑)。

 というかその芸はむしろ「ネギま!」的に古師匠の方が向いている(中の人ネタ)。

 

 で、とにもかくにもその話の前提となっているのがこのセーブデータの世界らしい。世界、あえて世界と言おう。この世界線に紐づいてこそいるが、キリヱの微妙な態度をみるにおそらく私以上に好き勝手引っ掻き回して、全く別物な世界となっているはずである。以前タイムパトロールを名乗って参上した超の言い回しからしても、大いに今の世界とは全く異なる光景がありそうだ。

 年代が軽く「ネギま!」でフレーバー程度に語られる2100年代の星間戦争の時代すらすっ飛んでいそうな気がするが、つまりはそれよりもはるか先まで人類が続いているか、あるいはそこで滅びかけているかの世界という事だろうか。とはいえ「UQ HOLDER!」の時代である現在の技術革新の方向性や社会問題など鑑みて、あまり明るい未来を想像できない程度には、現実はひとえに風の前の塵に同じである。

 

「そういう初期からホルダーに関わるために、資金提供って形をとる必要があったのよ。色々試した結果、株主とか出資者って形を早々にとって待った方が早いってことね」

「でもそれが何で他のセーブデータ、しかも通貨もだいぶ変わってそうな100年以上後の時代のに繋がってんだよ」

「簡単に言うと、仮想通貨は換金できる仕様にしたのよ。そっちのセーブデータの方で」

「はい?」

 

 ちょっと何言ってるか本気でわからなかったが、経済用語など難しい話をすっ飛ばして言いたいことをまとめると次のようになるらしい。

 まず純金なり何なりを様々な手段で調達し、それを元手に仮想通貨を扱ってる会社を買収。自らの力で未来の歴史までその会社を存続させ、貨幣の仕様を過去のものを継続する形にし、過去へそのデータを持っていってもそのまま利用することが可能であるようにする。

 

「亜空間から金が生み出されてるのでは?(震え声)」

「仮想通貨に限れば実際そうなんだけど、私って表向き株式とか宝くじとかもいっぱいやってるし、高額納税者だし。出所は意外と疑われないものっていうか、うん、そういうこと」

 

 ちょっと何言ってるか判らないですね(白目)。ただまぁ、つまりは一般人からした一千億持つ人間も一千五百億持つ人間もそんなに変わりない、みたいな話なのだろう。いや彼女の物言いが正しければ仮想通貨というか、未来の資金の方が多そうなのだが……。

 どう考えてもロンダリ、げふんげふん、ちょっと後ろ暗いものも疑わざるを得ない。そんなこちらの視線を感じてか「違うわヨ!」と慌てたように言った。

 

「一応実在賃金ではないから持ち運びが可能ってだけで、金とかだと一回に運べる量に限界があったりするんだからっ」

「アウトだろっ! タイムパトロール案件じゃね?(白目)」

「うっさいわねっ! そういう諸々は世界救ってから罰なり何なり受けるわヨ!」

「いや、それでお前さんが辛い目に遭ったりお師匠の使いっ走りにされたりするのは断固拒否なんだが……」

 

 そもそもアンタが死ななければそれで良いの! と絶叫するキリヱを前に、私は二の句が継げなかった。

 そう言われてしまうと立場が弱く、同時に負担をかけてしまっているのがよくわかって居た堪れない。

 

「とにかく、とーにーかーくー! このセーブデータの世界は、簡単に言うと私たちが()()()ラスボスぶん殴って世界を救ったって場所なの」

「はい? 札束?」

「比喩表現だけど、そんなとこ。細かい話は比較的初期の頃のデータだから忘れちゃってるんだけど……、そんな感じ。とにかく経済回して、飢えと貧困とを駆逐することだけを徹底して、『人類を守る事』にだけ執着した…………、失敗した世界」

  

 今の言い回しだけ聞けば、何が失敗なのかよくわからなかったが。それでも失敗した世界という彼女は、そこまでのテンションを一気に失い沈んだ様子だった。

 結局それが何かをというより先に、キリヱはセーブデータを読み込み直し。

 次の瞬間、一変した世界は…………、洋画のサイバーパンクものなどにありがちな、勘違い日本めいた情景そのものであり。どう見てもスラム街と呼べる区画が大量に広がり、見たことも無い程の超高層ビルが軌道エレベータ―周辺に立ち並んでいる光景であった。

 

 

 

   ※  ※  ※ 

 

 

 

「いやX〇MENじゃねぇか!? サイクロプスってそっちかよ、その単眼から虚閃(オサレ)みてーなの撃つなよ!? 明らかにアレじゃねぇか元ネタは絞れ!(戒め)」

「テメェこそ髪の色オレンジでその格好はケンカ売ってるじゃねぇか、ぶっ込むぞ!」

 

 やっちまえー! などと酔っ払いや肉体労働者らしき人々のヤジが飛び交う中、店の外で私と眼前の…………、もういい加減言い辛いので何か呼び名が欲しいが、どうしようか?

 

餓狼(がろう)で良いだろう、あんなものは』

 

 エヴァちゃんモードのままの星月から()()よりアイデアがきたので、そう呼ばせてもらおう。餓狼刀太たる私は、見た目どう見てもウ〇ヴァリン極まりない戦法で襲い掛かりながら、同時に仮面の単眼から黒い閃光を放ってくる。サイク□プスのままの光線は一瞬サイクロプ〇ゲンドウの方を思いついたところだが、ウルヴァリ〇めいている現状からしてどっちかといえばそっち寄りのネタだろう。

 黒棒で受け流し、そのまま振り下ろされる両腕から身を護る。光線自体は血風とは違う、純粋な魔力による砲撃っぽいのもますます虚閃(オサレ)っぽさが増強するが、とはいえ「第四の目」は啓いていないのか、こちらの防御の動き自体は全く対応できずに防がれている。

 

 なお、そんなことなどお構いなしにパワーで猛攻を仕掛ける関係上、私の反射どころか「第四の目」越しに視える悪意に死天化壮で反射する自動迎撃すら間に合わず、胴体をグサグサガンガンとぶん殴り刺し殺してくる。地獄かな?(震え声) 一体どうしてこんな獰猛なのやら、視ようとはするが「闇が濃すぎて」視認できない。

 

 

 

 キリヱから聞いたこの世界の私については、最終決戦後にその消息を絶ったきり、100年以上どう探しても見つけることができなかったとのこと。

 そもそもネギ=ヨルダ(一応ラスボス)相手にどうやって勝ったのかもキリヱの記憶があいまいで、ただこのルートの私に逃げられたという事実によって、彼女自身はこの世界を失敗と定義づけたらしい。

 UQホルダー自体も大枠の組織自体は残っているものの、不死身衆含めた中核は解散状態。エヴァちゃんに至ってはやることが無さすぎて幼児化しており、現在は茶々丸が世話をしているとか何とか。ある意味一周回って初期の「ネギま!」みたいな話に聞こえるが、そこだけ彼女が覚えているということは、ああいう平和な有様ではないということだろう。それこそ、本当に精神が幼児退行していても不思議じゃない。

 

 そんな中で、姿を大人に変えた私とキリヱとは、未だに見つけられていない近衛刀太を探す運びとなり…………。見つけたのがこの野獣のごとき餓狼だ。

 

 

 

「このデッドプ○ルもどきが、いい加減死に晒せ……!」

「よし、ぶっ潰す(激怒)」

 

「ちょっと!? 何いきなりキレてるのヨ!」

 

 ギャラリーの中でこちらに絶叫するキリヱ大明神だが、こればかりは本気で許せないのだから仕方ない。

 いくら何でもデップー(俺チャン=チミチャンガ)扱いなど許容できる訳ないだろうがお馬鹿!(直球罵倒) 冗談でも何でもなく洒落にならねぇぞ実写映画版ならまだしもキャラクターロール全般をこちらに投げてよこすような物言いはッ! 誰が第四の壁を認識した上で上位視点に語り掛けながら好き勝手動きつつも翻弄され割と雑に不死身でイカれてるのか多重人格でそのくせ本人は真面目にやりながらコラボ先にSANチェックかけてる奴だ! もっとまともだろうが!

 

 …………ん? はい? もっとまとも、だよね? えっいや確かに転生という形でメタな視点は理解してるし、上位者としてのお師匠やもしからしたら存在するかもしれない読者視点は色々気にしたりはしているし、ガバからは逃げられないし(涙)、雑に複数の精神が統合されてるせいでたまに分裂しかかってる節もあるし、とはいえ基本は真面目に振舞ってて、でち公とかディーヴァとか色々おかしくさせてる自覚はあるけど、えっ? えっ?

 

『ハッ! …………救いようがないな、あ・い・ぼ・う?』

 

 私は…………、俺チャンだった?【←誰か違うって言ってくれよベイビー

 

 いやセリフ回し的にはどちらかと言えばチュウベェの方なのだが、デップーに近いの。

 現状「死天化壮(デスクラッド)疾風迅雷(サンダーボルト)」をかけているせいか、あまり話しかけてこないチュウベェであるが、この場に呼んでみたいような、そうでもないような。いや、絶対逃げ出すからそう言う訳にもいかないので、星月は本当に心の底から応援せざるを得ないのだ。

 

 とはいえ瞬間湯沸かし器的に湧いた殺意に任せながら、私は黒棒で斬りかかる。丁度その瞬間に蓄電が終わったのか、体感の時間が加速し、周囲が遅くなり――――。

 そんな中でも当たり前のように、仮面についている単眼だけは私を補足していた。嫌何だそれ別な生物か何かで?

 

「本当何というか色々予想外っつーか――――って、おっと!?」

 

 そして単眼から当然のように虚閃(セロ)めいたものが飛んで来る魔境よ。加速とほぼ同等のレベルの速度でこちらに迫ってくる黒い光線(今更だが変な表現だな……)。黒棒に待機させていた血風創天で振り払って打ち消せるかと思えば、思いっきり弾かれてこちらも後方に飛ばされる。

 だてに「金星の黒」由来の魔力ではないということか、現状の黒棒の()()との魔法的な密度が釣り合っているらしく、そのまま勢いでお互い反発してぶっ飛ばされる。

 

 とはいえこちらは死天化壮。座標固定が働くので徐々に減速し、体制を切り替えて後方に投げ出される奴目掛けて襲い掛かる。

 その私の動きにも当然のように追従する単眼は…………、ものすごく気持ち悪い(素直)。

 

「あれお前の仕業か? 星月」

『いや、そもそも奴の内の私は…………、フン』

「いや何で機嫌悪くなったし?」

 

 拗ねたような声を上げるエヴァちゃんボイスは例え姿が見えずとも大変にお可愛らしいのだが、それはそうとまた虚閃撃たれるのではないかと気が気ではない。こちらとちがって独立して動いてノーモーションで砲撃してくるあたりからして、もはや何が何やらだ。

 

 ある程度距離を測りながら、血風だけを投げてみる。

 砲撃。ただし私めがけてではなく、回転する血風のブーメランだけに対して。どうやら一定距離まで近づくとアウトという扱いらしい。どちらかというと私の自動迎撃の類に近いのだろうか。

 とするならアレもまた「第四の目」に紐づいているものであるはずだが、正しく私が何であるか、こちらの状況が何であるかについて理解していそうなものだが。

 

 先ほどから餓狼の私から見える思念は、復讐とやるせなさと、果てのない怒りに基づく暴力衝動。

 そして、一粒の涙。

 

「本当に何があったというのだ……」

 

 ため息をつき、その場で黒棒を肩に乗せ。丁度そのあたりで充電が切れ、時感覚が一気に戻る。

 

 跳ね飛ばされた先で餓狼の私は、たかはたラーメンの入り口の看板を蹴り飛ばして空中で一回転し着地。何の因果かいわゆるスーパーヒーロー着地なもので、膝を痛めそうである。

 店の奥から「うちの看板に何してくれやがるッ!」と叫ぶ店主の声。餓狼の私は「ツケといてくれ」と、仮面を胸元にずらしてニヤリと笑った。それ普通に顔から外せるんだ……。しかもちゃんと衣服の方とデザイン噛み合って違和感なく胸アーマーになっている。

 

 そしてこちらに向き直る途中。二十代ほどに見えるキリヱの姿を視界に入れ、一瞬目を大きく見開き。しかし閉じて、眉間に皺を寄せる。こちらに向き直ると、彼は先ほどとは違う嫌悪感を思念として浮かべた。

 

「お前…………、まさかとは思ったが『量産型じゃなく』本当に私か? そのアホみてェなクソ野郎っぷり、外から見ると冗談じゃなくデ○ドプールだぞ」

「デッ○ー扱いはやめろ、マジで洒落になってねぇ……。というか量産型って何だ?」

「首なら全部海に捨てたからもうないぜ。

 ちょっと待ってろ。……嗚呼クソが、相変わらず引きこもって何もいいやしねぇ」

 

 ちょっと来い、と言いながら餓狼の刀太は一瞬で距離を詰め、やはり当たり前のように私の腹部を貫く。今回は頭部を貫いた時同様、手のひらから生える黒い刀。血装術でないらしいので魔法的に何か細工される心配こそないものの、もしかして胸部を貫かないのは魔天化壮を警戒してか?

 それに今、引きこもって何も言いやしないと言ったか。

 

 見たところチュウベェと遭遇している節も無いし…………、もしやお前さん、星月と喧嘩別れでもしているのか?

 

『…………』

 

 私の疑念に答える声はなく。そのまま胃を貫通したまま飛び上がり、私ごと跳躍する餓狼の刀太。

 どごん、と踏み込んだ一発の足踏みで周囲が揺れ、ラーメン屋近くの屋台っぽいもの(※ゲーミングカラーで微妙に趣味が悪い)が崩れ落ち、何人か巻き添えを喰らっている。キリヱもキリヱで「ちょっと何逃げてるのよ刀太! 二人とも戻ってきなさいヨ!」と慌てながら、若干涙声で言ってくるのだが……。どんどん離れに離れ、思念が見えてこない。

 死天化壮ではなく、呪天化壮といったか。こちらの座標固定能力ではないが、それとはまた別な機動方法を持ち合わせているらしい。

 

 そして空中に足を止め、腹に貫通した刃を捩る餓狼の私というか痛ぇ!? ちょっと傷治りかけだから痛覚戻って来てるぞコイツッ!

 

 充電がまだ終わらないせいで反撃とはいけず、しかし血装やら黒棒を振り回すことは出来るものの、相手の思念の色がやや変わっている。どうやら多少なりとも話す気になったらしいので、そのまま脳天をカチ割るように振りかぶった右腕を止めた。

 

「そんなアホみてぇなツラした私が来たってことは、そっちは水無瀬小夜子を無事に『殺しきった』んだな? そうだと言え、でなければ殺す」

「だから痛いって言ってんだよ痛い痛い捩るな痛ぇ! 解決は、した……ッ! 多分全然想定外の形だろうけど!

 というか、それを言ったらアンタ、というか()よ、これは一体どうなってんだよ……?」

 

 多少上昇したからか、ようやくわかった――――空気が澱んでいる。明らかに下層であるだろう眼下の町並みは。そして上に行けば行くほどその「うっすらと青く暗いスモッグ」が消えていく。

 まるでそれは空気の段階から、何かと何かを仕切る壁のような。そのような()()を、私はうっすらと感じ取った。

 

 餓狼の私は舌打ちをし、しかし腹を貫通させ突き上げた体制を変えずに、こちらを睨み直す。

 

「こっちも解決とは言わないが、なんとかはなった。()()()()()()()()()()()()()()()()()が、その後に比べれば誤差だ」

「はい?」

 

 ちょっと待てお前今何を言った?

 問い返すよりも先に、彼は、私は叫ぶ。辛く、痛く、そしてもう、取り戻せない何かに縋るような、そんな思念で、声で――――。

 

「いいか、今のこの世界は本当にクソったれだ。キリヱをいつか見かけた時にあらかたここのことは忘れちまってたみてぇだが、多分それは心の根の所で忘れたことにしないと心が壊れるからだ」

「あらかた忘れたって、いやまぁ5万回くらい繰り返してんなら記憶何て摩耗しても不思議ではないだろう」

「嗚呼、実際そうだ。アイツはよくやった方だと思うよ。テメェみてぇなのが生きてるそっちの世界は、こっちに比べりゃまだまだ楽園だ」

 

 ちらりと足元の街並みを見下ろす、その視線につられ私も追従する。

 

「簡単に言えば、ある意味で原作に勝利した。キリヱが実験程度の考え方で下手に動き回った結果、試合に勝って勝負に負けた。

 この世界に残っている人類は、『人類と呼べるものは』ほんの一握り――――金の力で、救うべき人類と救わない人類とを分けた、その結果勝つことが出来たってのが事の真相だ」

「いや、分けただと? それは、つまりヨルダ=バオトの原動力であるところの……」 

「ここに居る連中は、全員そう言う意味では人間じゃない。少なくともヨルダ=バオトが定義するところの人間ではない。『人間でないものから思念を救い上げることが出来ない』が故に、アレは絶望した」

 

 ある意味であの女が救おうとした者たち、その全てが未来永劫にかけて台無しにされたのだから。

 餓狼の私は、再度私を睨みつける。

 

「あの店にいた連中もそうだ。『製品として出荷され』『人口を競うという形で辛うじて旧時代をなぞっている』、それだけの目的で乱造されたミュータントもどき。

 肉と骨で動き飯を食べ、勝手に思考し勝手に動き上流層の命令に決して逆らわない有機アンドロイド――部分的に俺を製造する過程の技術を使われた、な」

「どんなディストピアだよ(震え声)」

「こいつらに人生の自由はない。衣食住本当の最低限の保証のみで、後は決められた毎日を決められたように過ごし、自由時間にくだを巻いている、それを耐用年数まで死ぬまで繰り返す。いわゆる上流階級よりもはるかに速いサイクルで老い、保険も保証も何もない、国家もクソもない底辺で一生働かされる」

 

 ホルダーがバラバラになったのも当たり前だ、という彼の言葉に、その心情に、私は段々と茶化す余裕を失っていく。

 

「救わなきゃならない人数に対して救えない人数が多すぎる。信念があればアプローチの仕方を変えざるを得ない。カアちゃんは絶望して全てを投げ出した。九郎丸はそれでも何か出来ることはないかと旅に出た。夏凜は…………、まあそっちはどうでもよい」

「いやちょっと待てよ、一体何があった夏凜ちゃんさん(震え声)」

「色々気にするな。『人間がいなければ』成立しない事柄ってのもあるってだけの話だ」

 

 その後の言及も、忍たちについては話すらせず。いや、話すらできずが正しいか。

 段々と、黒々と渦巻いていた彼の思念から漏れ出る、過去の映像は。彼自身が回想しているものであり、彼自身の手ではもはやどうしようもないものであり。

 

「こんな社会になった時点で、肉丸は諦めて中華屋を始めたが、人間じゃない連中にそんなセンチメンタルなこだわりや理屈は通じねぇ。

 三橋は『ミュータント化に適応できず』、重病で歌もロクに歌えやしない、直すための金もなくそれでもひたすら肉体労働に従事させられた。

 野和は青空教室開いて、それすら資源の無駄だと上流層に潰された。経済逆転の余地があればまだミュータントから人間に戻れるっつーのに、その法規制を連中は自分の特権意識と排他性と思い込みとお気持ちだけで焼いた!

 白石は特に感受性が強かった。生きる術を失い疑心暗鬼になり、俺が顔出す前に首吊った」

 

 いっきに、まくし立てる様に語られる言葉と。それぞれ目撃した死に目とに、夢をかなえるどころか「人間らしく」死ぬことも出来なかった、その情景に。

 私は何を言うべきだったのだろうか。

 

「キリヱからすればこの世界は失敗だろう。失敗でしかない、嗚呼当たり前だ。俺からしてもそうだ。ただ金を無限に集められるシステムさえ作れれば良かった、それがアイツだったが、最終的にそんなものはアマテルの連中に、連中の中にいたバアルを始めとする連中に乗っ取られた。

 今じゃこの有様だ。『完全なる世界』なんてもはや存在もしない。ただ辛うじて、誰かに選ばれた一方的な特権階級だけが下を延々と蹴落とし続けるシステムだけが、中身を空洞化してなお空回りしてずっと動いている。

 それでもアイツにとっちゃここは通過点の一つなんだろう。だがなぁ……、だがなぁ!!!!」

 

 こんな社会に、流石に当時から至った訳ではあるまい。だがなるほど、この片鱗だけでもヨルダ=バオトが見れば、何かしらのバグを引き起こしても不思議ではないだろう。

 だからこそ、その上で彼もまたホルダーに残る選択肢はなかった。事情も、彼女が何を思って何を失敗したのかも全て理解している。それ故に――――彼は、私は、キリヱを受け入れることが出来なかった。

 決して、受け入れる訳にはいかなかったのだ。

 

 私は、叫ぶ。ここなのだと。ここにしかなかったのだと。

 

「ここなんだよ! ここにしかないんだよ、俺の世界は!! 俺がまた顔を突き合わせて、アホみたいに騒いで、そろって馬鹿やって、それで色々話して、時に酔って、そんなこともあったなと老いを噛みしめたかった、アイツ等がいた世界は!

 ここにしか……、ここにしかなかったんだよ」

 

 もうどうしようもないのだと。未来はここに残っていないのだと。

 今にも泣きそうな目で私は、この私に詰め寄り、叫び、うなだれる他なかった。

 

 

 

 それでも、「私」は近衛刀太として今ここにいる。

 ここにいるのだから…………、彼女の失敗も、彼から流れて来る「狂ったように延々と謝罪を世界に繰り返し続けるキリヱ」の姿も、受け入れなければならないのだろう。

 

 だからこそ私は、一度目を閉じて呼吸を整え――――。

 

 

 

「――――いや、やっぱ無理」

「は? おいテメェ何言って…………って、ゲロ吐くんじゃねェ!? クソが、血まみれじゃねェかよッ! 首落すぞ平和ボケ野郎がッ」

 

 かつて間違いなく今の私と同等だったはずの彼がこんな有様になる程の情報量を、暴力と共に一度に叩き込まれた私は。キリヱに対して怒るよりも何よりも、感情が追い付かずキャパを超えて大量の血と共にゲロ吐いた。

 失敗は……誰にでもあるのだから、辛いよな嗚呼…………。

 

 

 

 

 

 

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