光る風を超えて   作:黒兎可

24 / 236
今日も深夜更新は・・・ナシ!(健全?)


ST24.胸の傷の真の意味と理由

ST24.Secret of the Heart

 

 

 

 

 

「あの、えっと……、ごめんなさい」『(僕ってあんなのだったっけ……。あ! じゃあまたね、刀太君♪)』

 

 謝罪早々の九郎丸と夏凜、あとついでに私を待っていたのは、雪姫からのペナルティ宣言であった。考えてみれば当然で、既にビーチは元の綺麗なレジャー施設らしい風情が見る影もなく穴ボコボコである。必然として、後片付けと相成った。

 

「やれやれ、何ともひでえ有様じゃねえか。まったく呆れたもんだ」

「――――何か?」

「い、いや、何でもねぇよ。ほらっ」

 

 私、九郎丸、夏凜全員が「反省」というゼッケンのついた体操着姿で、ビーチの整備をしている姿を、甚兵衛がからかいにやってきた。…………いまだに歩行補助用に杖をついて。まだ治ってなかったのギックリ腰!? いや流石にこれがまた特大のガバに繋がったりはしないはず……、しないだろ?(疑心暗鬼)

 夕方のビーチ、三人で砂均ししてる様を笑いに来たらしい甚兵衛だったが、ブルマ姿で「何か文句でも?」と威圧する夏凜にひいたのか「差し入れだ」とペットボトルを投げてよこした。……紅茶だった。しかもリンゴ味の凄まじく甘いもの。個人的にはスポーツドリンクとかの方が嬉しかったりするのだが、気遣ってもらったのには素直に頭を下げた。

 

「と、刀太君……? さっきのアレは、あの、ちょっと僕も変だっただけだからね? 大丈夫?」

「いや何に対するフォローだっての……」

「フォローすればするほど墓穴を掘ることもありますが」

「夏凜先輩!?」

「いえまさか私ごときに嫉妬などしてあそこまで暴走するとは思っていなかったというばかりですが……。乙女と言うのは大変ですものね」

「だから僕は男ですってば! ……何なのさ二人そろってそのしらじらしい目は!?」

 

 涙目で絶叫する九郎丸に、何とも言えない生温かい視線を送る私と夏凜。とはいえいよいよ揶揄われすぎて精神的に限界になったのか「ネオパクティオー」を取り出しかけた時点で二人がかりでストップをかけたのだが。

 後ろから私に羽交い絞めされて、顔を真っ赤にし、夏凜にカードをとられては「可愛いわね」なんて感想を言われたりして傷口に塩塗ってる我々はともかく。

 

「……まあ確かにまたヘンなことになると、僕も色々持たないので今はまだいいですけど。

 でも僕はともかく、夏凜先輩はその、しないんですか?」

「? パクティオーと言う意味でしたら、必要ありませんが。

 暴走した際に頭から抜け落ちてしまったかもしれませんが、あくまで貴女のパワーアップ……みたいな意味合いが強いものですから」

「いや、それはそうなんだけど……」

 

 ちらちらと九郎丸の視線が私と夏凜の間を行ったり来たりするのは何なのか。原作レベルで考えるなら後半雑に全員パワーアップさせるためにパクティオーを連発したりはしていたが、それだって必要に迫られてだ。いたずらにガバをガバガバにするフラグを立てるの止めろ九郎丸。

 ……もっとも原作だと、パクティオー結果の潜在能力解放やらアーティファクトやらよりそのまま戦った方が強いとかいうトンデモ理屈で生存確認くらいにしか使われなかったオチもあったのだが。あくまでパクティオーは魔法使いの従者(ミニステル・マギ)を十分戦闘に耐えられるよう調整する役割が大きく、レベル1をレベル30には出来てもレベル70をレベル100に出来るアイテムではなかったということか。

 そういう意味では九郎丸のネオパクティオーも、将来的に神刀の力を使いこなした際の上限から比べればまだまだ低いということだろう。実際刀太くん大好き(ヤンデレ)と言わんばかりの先読みさえなければ、速度では私の方が上回っているのだ。

 できればもっと健全に強くなって欲しいのだ。いや本気で。

 

 そんな私の考えを知ってか知らずか、夏凜は一人「なるほど」と納得した。

 

「別に今すぐ必要という訳でもありませんし、雪姫様と刀太と両方持つのは浮気者のようで」

「へ!? 夏凜先輩、雪姫様と仮契約してるんですか!?」

「いえ全くありませんが、畏れ多い」

 

 ずっこける九郎丸と半ば予想通りなので苦笑いの私である。

 

「それは同様に刀太の方も言えることでしょう。九郎丸と『そういう』つもりはないにしろ、あまり(いたずら)に増やすのも節操がないのでは?」

 

 そして続く夏凜の発言、雪姫の耳に入ってたら絶対変な顔してたことだろう。私も苦笑いが引きつってしまったが、そのあたりはジッサイ仕方ない。せっちゃんとかネギせんせーとか色々問題がありと言えばありなのだろうが、魔法世界の制度とかカモくんのノリなど他にも悪いところもあるし……、結局本命以外はきっぱり切ってるので、原作世界線ではちゃんとしてるはずである。

 

 とはいえ「ネギま!」本編最後の仮契約、大河内アキラ、照れ顔プライスレス……!

 

「まあその辺りはツッコミ入れると色々問題が出て来る相手もいそーだし。でも必要になったら、その時はお願いしまっす」

「ええ、問題はありませんし――――楽しみにしてますから」

「あ、はは……」

「ふふふ……」

 

 間髪を容れずの即答は流石に私も笑ってしまうのだがそのえっちな感じの流し目止めろ!

 そしてそんな我々を見やる九郎丸の視線も何か怪しいというか、内に秘められてる感情が暴露された結果ちょっと私もどう対処して良いかわからないのだが。そんなに女慣れしていないわけでもないし、二年間は雪姫というかエヴァンジェリンの色々とダメな姿も見て来ていたし、そういう苦労と縁が遠いかというのとは別にして。何か一歩取り扱いを間違えると、九郎丸ルートのバッドエンドでもありそうな気配がしてきて、ちょっとその前に師匠の所で相談させてもらえませんかねェ……? 「あっちの」九郎丸とか他にも色々聞きたいことはあるし。(嘆願)

 

 一通り片づけ終わった時点で既に夜。食事はもう何度も続けてになるがコンビニ「Famous store」(通称フェイマ)で夕食を買って食べ、その後は九郎丸に案内されながら自室へ。位置的にはさきほど私たちが均していた近くらしく……、そしてどうやら彼(彼女)とは別の部屋、というか隣部屋らしい。原作と違うだと……?

 

「意外とここ余裕あるんだな、下っ端相手に個室用意するとか」

「へ? あ、う、うん! そうだね! ははは……」

 

 今の九郎丸のリアクションで察した、おそらく夏凜が手を回したのだろう。原作よりも最初の段階から九郎丸と接触してる期間が長かったこともあり、彼女の中では「男装の少女」認定になっているらしい。

 性別について詳細バレたら一体どういう話になってしまうのか……。諸々の懸念点を一度頭から追い出し、自室で私は黒棒を膝にのせて座禅を組み、腕を添えた。

 

 言うまでもなく刃禅(オサレ)である。わざわざこれをしたところで内面世界というか精神世界というかにダイブ出来る訳でもないのだが、こういうのは気分である。実際黒棒と対話するときにずっとこの姿勢を貫いてきたせいか、黒棒側からも特に何かツッコミらしいツッコミは入らなくなっていた。もはや一種の様式美と言うか、儀式のようなものである。

 

『…………怖いな、女子』

「いやいきなりどうしたって……」

『今日のアレを見てそう余裕な態度を崩さない君の方が私からするともっと恐ろしいかもしれないが……、きっと鈍感か現実感がないのだろう』

「いやだから何の話!?」

『決まっている。綺麗な女子を二人も侍らせてお互いに引っ張られ続けてる間に、君自身何度死んだと思ってる』

「いや死んではいないはずだけど……」

『ショック死だからすぐ生き返ってるだけだろう。脈が消えたり戻ったりを繰り返していたから外見からは判らないだろうが、君自身、肝を鍛えた方が良いかもしれない。耐性がないと大きな隙になるかもしれない』

 

 黒棒からもたらされた衝撃事実に、思わず私は姿勢を解いてひざをついてしまった。

 何だと? そんなにあのキャッチ&リリースというには暴力的だったアレは危険行為だったのか? というかそれに気づかなかったのか私、一体全体どうした!? 痛いのは嫌だろうに私! 受け止め方とか感触がソフトだったからって騙されていたのか?

 それを実行してくるあたり、二人もなんだかんだで常人の感性を超えているのだろうが。危険だったという事実に気づけなかった私自身も、ひょっとしたらその感性を逸脱しつつある……?

 

『どうした、顔色が青いぞ』

「いやお前、目とか全然付いてないだろって。よくわかるな……」

『まあ本体は刀じゃなく精霊だからな。ある意味、今日呼び出された神刀「姫名杜」に通じるところがあるかもしれない』

「そんなものかねぇ。……っというか、お前もアレ気づいたのか?」

『君が背負っていた以上は会話は丸聞こえなのだが。ま、同じ刀のよしみだ。何か事情があるのは、あの号泣っぷりから察する物もあった。特に言いふらしはしないさ』

「そりゃ助かるわな。下手すると、もう呼び出せなくなる可能性もあるレベルだし」

 

 にしてもどうして九郎丸はあんなに病んだものか……。普段から接している九郎丸はそこまで思いつめていないと思うのだが、夏凜とはまた別ベクトルで恐ろしいものを感じる。

 その話を黒棒にふと聞いてみる。私とは違う個人であり、私とは違う感性であり、そして九郎丸とか他の面々とかは別にして一番信頼を「置くべき」我が刃に。

 

 もっとも、回答は酷くシンプルなものだった。

 

『今までの発言を省みるに、おそらく君を傷つけたことだろう』

「傷つけたって? いやメンタル的な話とかはねーだろうし……、ひょっとしてこれか?」

 

 すっとマフラーを外して胸元を開き、九郎丸に付けられた刃の刺し傷を露出する。見た目だけで言えば既に単なる浅黒い傷痕にしか見えないのだが、内側ではいまだに「自動回天」が発動しており、金星の黒の魔力をいつでも引っ張り出せる状態にあった。

 

『君も気づいていないのか? 今の九郎丸といったか、彼女の能力でその傷を残し続けることは出来ないだろう。現に君の右手に、貫通した刀傷は残っていないし』

「あー、そういう話か…………。刃自体に不死殺しみたいな特性はないってことか? 胸のこれは便利すぎるもんで今まで全然気にもしてなかったんだが、何かまずいか?」

『再生を止められたらずっと死んだままになるだろう。心臓が破壊された状態で固定されるのだから、万一の事態でどうしようもなくなる』

「……………………その発想はなかった」

 

 あまりにもトントン拍子でうまく進んでいたこともあってか、気にも留めていなかったが、なるほど確かにその事情があるなら九郎丸もああなって不思議ではないか…………、そしてそれ以上に、何故パクティオーなんて話になったか察しがついてしまった。つまりこの傷痕の状態をどうにかしたいと九郎丸が願った、イコール自らがうちの神刀の力を使いこなさなければいけなかった、という流れになったか。

 しかしどうしたものか。このあたりは原作を鑑みると師匠に相談案件になるのか……? 私としては代用が欲しい所ではあるが、実際血と魔力を発動するためにはこれくらいには準備が必要だったわけで。割と師匠は修行関係は王道させてくる印象があるので、こういった回り道は許してくれない疑惑がある。

 

「困ったな、いずれ治す治さないって話にしても……、そうなったときの戦い方考えないと」

『私としては錆びるので止めてもらいたいのだが』

「いやそれは悪かったって。あの後、色々聞いてたろお前も。そのうちメンテしてやっから」

 

 言いながらふと、私は胸元に手を当ててみる。そういえばまるで気にしていなかったのだが、一つ疑問符が浮かんだ。

 

「…………俺の中ってさ。二つ、なにか力みたいなのがある気がするんだよ。でも今の所引き出せるのって、黒い側の方だけでさ」

『ふむ……?』

「理屈から言ったら両方使えてもおかしくない気がするんだが、何か理由があるんだろうか……」

 

 そう深い考えがあった疑問ではなかったのだが。私の疑問に、黒棒はまたしても相当クリティカルな言葉を返した。

 

『むしろ私としては、魔力と血だけでいきなり血装術を使えてしまう君の方が色々と謎なのだがな。そもそもあれは半分『闇の魔法(マギア・エレベア)』を「支配している」し』

 

 それは……、一体どういう意味だ?

 

『傷が治らないというのも、本来の理屈で言えば「死に続けている」から、普通は死んでいるだろう。私は奇跡などそうそう信じる性質ではないからこそ、君自身にも他の要因があるのではと指摘させてもらう。

 おそらく、君が君自身として一人で立つためには、まだいくつも知らない真実があるのだろう。君が前へ進むためには、まず己自身が何であるかを知る必要があるだろう』

 

 ちょっと待てその感じのやりとりは原作7巻であったから、早い早い早い! お前もか、お前も私渾身の安全チャート破壊者かッ! 一体全体何のために血風の使い方を一月近く鍛えたと思っているんだおい止めろ!?

 

『とはいえ今の君の疑問に対して、私は回答を持ち得ていないのだが』

 

 本能でどうこうできる技術の範疇を超えている、と。黒棒はそんなことを私に言う。

 

 言われても困るというか……、しかしそこに疑問を抱こうと思えば、確かに疑問は抱ける。私自身はマギアエレベア派生の能力か何かだと認識していたのだが、黒棒の言が正しければそれを「上位から操る」類の域に達しているとか。状況的に原作後半の主人公はそれに該当する域に達していたかもしれないが、それだってそこまでの研鑽やら何やらが大前提にあった上でとなる。

 つまり、この時点の私がさも当然のように、しかも心得の全くない「私」が使えるのは、おかしいのだ。

 

「人生怖いなぁ……、出来れば痛かったり、苦しかったりするのは嫌なのだが」

『せいぜい背中を刺されないよう気を付けるんだな、女子に』

 

 そう変なフラグを立てるのは止めてくれと言ってやりたいところではあったが。何故かその嫌な予感自体はずっと消えずに、その日眠るまで続いた。

 …………そもそもキリヱ関係で下手を打てば蹴り飛ばし必須なのもある、そういう意味でも注意していかねば(戒め)。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

『――――いやぁ、やはり黒棒は別格だ。あの夏凜ちゃんですら気遣って言及を避けかねない話題に、普通に迫ってくるんだものなー。その辺り人の心がねーっていうか。まぁ刀だしなー』

 

 どことも知れぬ場所、あるいは未だ「形の定まっていない場所」で。

 黒と白のローブを身に着けた、背の小さい「何者か」は、苦笑いを浮かべていた。

 甲高い声のまま、何者かは空を見上げ――――そこに映る「近衛刀太」を見続ける。

 

『でも血装術からか。そこからルーツについて辿る思考になられてもなー。今更使えていたものを使えなくするわけにも行かねーし……。というか本人もやり方覚えちまったろうし。どうしたもんか……』

 

 自分の胸に手を当てて、いぶかしげな顔をする刀太。そんな彼に「不敵な」笑みを浮かべ、その誰かはサムズアップを向ける。

 

 

 

『――――早い所「こっち」に気づいてくれよ? 気付いてくれたら、もっとスゲーこと一緒に考えようぜ!』

 

 

 

 その声は当の相手に届いているのか、いないのか。

 ただ目をつむった顔が、一瞬渋面になったことに違いはなかった。

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。