####################
岐路に立つ言葉
帰路を見ぬ言葉
ST25.Go To Protect The Slums ASAP!
朝方早々、夏凜先輩が勢いよく僕の部屋の扉を開けた。思わず「ひゃい!?」みたいな変な声を上げてしまった。だってこっちはシャワーから上がった直後、全裸にタオルしか身に付けていない状態だ。
先輩の表情は変わらず冷たいまま。思わず身体を庇ってしまい、夏凜先輩は「なるほど」と一言。
「やはり女の子でしたか」
「いや! だから違……っ! 違うんです、これには事情が――――」
「つまり心は男と……言うには無理がありますね」
「はい!?」
言いながら夏凜先輩はじろじろと僕の身体を見て……、って、な、何してるんですかセクハラじゃないですか!? 思わず反抗の意を示してネオパクティオーカードを手に取ろうとすると、流石にため息をついて一歩引いた。
「まぁその話は今更の確認なのでどうでも良いのです。早い所服を着てください、仕事に向かいますよ」
仕事? と聞くと彼女はA4用紙の紙を僕に手渡した。
※ ※ ※
下っ端生活についてだが、テキトーに過ごす分には意外と慣れた。もともとギャンブルなどすることもないし、亜人の構成員な方々とはパシられない程度に軽くやり取りしつつ過ごしている。…………もっともそれがバサゴの癪に障るのか、微妙に恨みがましい目で見られたりもするのだが。いやそんな目で見られずとも十分酷い目には遭ってる自覚あるので、容赦してください。(懇願) まぁ源五郎パイセンとインド人を右に曲げたりして遊んだりはしていたが。(意味不明)
もっとも個人的に一番困るのは、孤児だったり引き取ってる寺子屋の子供たちともそれなりに仲良くやっているのだが、そのうちの女子数人から「誰が本命なの?」とか聞かれることだ。夏凜、九郎丸、雪姫と比較に出す相手が相手であり、私個人としてどうこう下手に言うことが出来ないでいる。反応に困ってる私を見て、それをネタにまたあの時九郎丸がどうこうとか夏凜が私の方を見て微笑んでいるとか、色々私の知らない情報がポンポン飛んできて正直どうしようもないのだった。女の子はこう、いつになってもそういう話好きネ。(達観)
原作だとそろそろエヴァンジェリンにかつて助けられた時の夢でも見そうな頃だと思うのだが、生憎とこの「私」の記憶には引っ掛からないのかそう言った類の事を思い出すことはない。その代わり見た夢としては
しかしこれはこれで困ってしまう。なにせあの夢見というのは一種の目安と言うか、これから次のイベントに進行するのがわかる指標に近い。それがいつまで経っても来ないというのは、下手をしなくても私のガバの影響で話が前に進んでいない説とかも検討する必要があるだろう。とはいっても、自分から「(スラム警護の依頼)まだ時間かかりますかね?」とか言ったらまず間違いなくガバそのものである。
何とかならないものかと考えながら、雑巾がけの代わりに床拭きワイパーで適当に廊下をふいていると。どたどたと何処からか駆けてくる音が聞こえる。音の感覚からして歩幅が短い、つまり身長はあまりない相手だろう予想は立つのだが、はて……?
「――――っと、居た居た! って、きゃっ」
「おっと」
私よりも背の小さい女の子が、走りながら私に指を突き付け――――たと同時にバランスを崩して転びかける。流石に相手が相手だったのでこちらも気を遣い、指していた手をこちらに引き、体幹が寄ったのを確認してからバランスをとるためその場で一度回転させて、最後に両肩を押さえて安定させた。流れとしてはちょっとしたフィギュアスケートのペア競技的なノリになったが、このあたりは
というより走っただけでこの有様というのは、いくら何でも体力が無さすぎるんじゃないだろうか……。
「よっと。大丈夫か? あんまスリッパで走んなよー。そんなに滑る訳じゃねーけど、運動神経ないと、な?」
「あ、アリガト……って、何ヒトの事運動音痴みたいに言ってるのよ!」
かっ! とやや理不尽な怒りを顔に出した彼女は、自己紹介されるまでもなく私の方で正体を把握していた。ハチミツよりもオレンジがかった髪色に目、ワンピースタイプのブラウスにミニスカートと細い脚。身長は私の胸あたりなので、忍よりも低いくらいだ。
桜雨キリヱ、UQホルダー不死身衆ナンバー9。とある事情から(源五郎パイセンとはまた別な理屈で)この世界にゲーム的な法則を適用させることが出来る少女だ。原作曰く見た目年齢は13歳らしいのだが、ちょっとサバを読んでいるんじゃないか疑ってしまうくらい小さい印象がある。もっともこのあたりも別な理由があるので、具体的にどうこう掘り下げるのは気が引けるが。
なお彼女の登場に際して私に去来した感想としては「ハイハイまたいつものアレかな」というものでしかないのだが。今回は原作がどういう風に突き飛ばされた結果、変な形でドミノ倒しされたのかという状況把握に努める必要があるわけだが。私がどうこう言う前に、キリヱがびしりと指をさす。
「アンタでしょ、この間入ってきた二人のうちの一人って。確かえーっと……」
「人違いッスわ、拙者、神楽坂キクチヨと申すあてのない旅の剣―――」
「いや雪姫から聞いてるし今更変な設定しゃべんな!」
「そういう其方は一体どこの――」
「キャラ設定引きずるな! 別に誰だっていいでしょ誰だって!
アンタあれ、なんかヘンな和服着て黒い刀背負ってる、いまいちやる気のない感じの方! 近衛とーた!」
「ヘンな和服……、だと……?」
キリヱの言葉の中で、何よりも一番傷ついたのはそこだった。だってこれ、アレだぜ?
膝をつく私に、キリヱは「あれ?」と何か拙いことでも言ったかしらと言わんばかりに取り乱し始めた。
「ちょ、ちょっと大丈夫? アンタいきなり落ち込み始めたけど」
「だいじょばない。ていせいしろ」
「な、何をよ?」
「へんなわふく、じゃない」
「そこなの!? 拘るところそこなの!? もっと他に色々怒るところあるでしょーが!」
「いやこれ貰いモンだし、あんまり貶されるのは悲しいっていうか……」
「そ、そーだったんだ……。ま、まぁ、悪くはないんじゃない?」
「うん、それでいいッスわ!」
で何の用だよ、と立ち上がった私に「はいっ」とA4用紙束を差し出すキリヱ。UQホルダーのロゴマークと、何かしらの計画書なのか依頼書なのか色々と記載されており……。
「貧民街の警護……?」
「そ! これからもう片方の、えっと、時坂だったっけ? そっちからも言われると思うけど! その後たぶん夏凜ちゃんが何か言ってくると思うから、それでこの依頼を受けるの止めないこと! いい? 絶対、ぜーったい止めたらダメよ!」
「お、おう。まぁ別にいいんだけど……、あー、ありがとう?」
ふん、と鼻を鳴らしながらどこかドヤ顔めいた笑顔を浮かべて、キリヱは悠然と去っていった。
……今の話と原作2巻のこの時系列辺りで整理して、えーっと、つまり? 夏凜に対する私の好感度が原作と違った形で色々おかしな方向に飛んでいることもあり、おそらく最初の任務としてスラムの警護を任せない方向で雪姫と話を合わせたか何かしたのだろうか。その結果、彼女の「予知」もどきで良くない未来が見えたと。それを修正するために直接その依頼書を私の方にもってきて…………、最後の念押しを考えるに、そこからもまた何回か失敗したのでは?
ということはつまり……?
「リカバリー要因か何かであらせられませう?」
これはつまり、私が起こしたガバを(文字通り)引き受けて、その身に受けたバッドエンドなチャートを覆すため最速で私の所に修正案を届けてくれるという、つまりは女神か何かなのでは?(錯乱) 真面目に私の失敗をリカバリーしてくれるという意味で、この世界にとっても女神以外の何物でもない可能性が微レ存……? 原作でも割とその特異なスキルの影響度が高すぎた部分もあったので、あんまりにもあんまりかなと思い積極的に頼るつもりはなかったのだがこれは……。
ありがたや、ありがたやと。思わず去っていくキリヱの背中に、ご利益を期待して私は両手を合わせた。
彼女さえいれば私のガバチャーによるバッドエンドもなんとか回避できる……、かもしれない。少なくとも保険であることに違いはない訳だ。基本的にガバとリカバリーはセットであるのが理想論であり、失敗したチャートをどこかで補填して意図したとおりの結末に導くのが正しい在り方だろう。
だからといって意図的に彼女をリセットのために殺したりと言ったことはしない……、人道的に当然ないのと、そもそも利用するという発想がこの主人公にはなかったはずというロールと、外見的に今の私より年下の少女相手にそういうことを試みるのは明らかに外道の所業だろうという考えだ。
だから今は好感度を上げるターン……、出来ればちょっとでいいのでガバをリカバリーして欲しいかな? くらいの。正しく奉る、キリヱ大明神に対する現時点での私の確定した振る舞いだった。
なおこの後、キリヱの宣言通りに確かにちょっと面倒なことになった。
「今の貴方は行くべきではありません。危険です、刀太」
「そ、そうだよ! 僕だけで充分だから刀太君!」
まさかのダブルパンチによる拒否だった。それも確認したって具体的な理由は言ってくれないと来ている。流石にそれで納得するわけにもいかないと話を続けようとしたら、ならば力づくでという形になりかねない有様。一体どうしたこの現実!? もっとわかりやすいチャート分岐か何かを知らせてくれませんかねぇ……。
と、そんな私に助け舟を出してくれたのが誰かと言えば。
「ま! 落ち着きなよ二人とも」
「飴屋一空」「一空先輩……?」
「事情はよく分からないけど、行きたいっていうなら行かせてあげたらいいじゃない。距離としてもここからそんなに遠くは離れて居ないわけだし、何かあっても僕が『見張っておく』から、大丈夫さ」
小型ドローンか何かを飛ばして状況を観察し、何か事態が急変したら助け舟を出すという事らしい。確かに原作での描写を見てもそう違いはないのだろうが、それにしたって出て来るタイミングが良すぎるような気がしないでもない……。感謝の言葉は口にしたものの、視線でちょっとだけ疑うような意思を向ければ、彼は彼で楽し気にウインクするばかり。
さては確信犯か、状況を見計らって一番効果的なタイミングで出てきたということか。
「しかし……、下手をしなくともまた死にますよ? 刀太。それで良いのですか? だって貴方は……」
「いやでもなぁ……。そこら辺はまぁ、向こう行ってからも修行する話しかないかなって。気だってまだ九郎丸に習い続けてますし」
「……では、仕方ありませんか」
ため息をつき、こちらへと私を呼びよせる夏凜。何をするかと思えばそのまま問答無用のハグであり、九郎丸が唖然として一空が「わぉ大胆」などと言っている。一体何をと聞こうとすると、夏凜の手がすっと私の背中に回され、ちょうど傷痕のある個所の当たり、つまりは心臓の鼓動がダイレクトに感じられるだろうところにあてられる。そんなことされても脈拍上がってちょっと出血しちゃうだけなので、正気に戻ってもらいたいのだが…………。
どくどく、が、ばくばく、に変わるくらいの微妙な時間。夏凜は自分の胸元に私の胸元を押し当て、まるで鼓動を同調でもさせるように聞かせてくる。正直今回はだいぶ余裕があるのでその何とも言い難い柔らかさをしっかり感じ取ることが出来てしまい、私としてはもはや何が何だかという状態なのだが……。アンタこんな公衆の面前じゃないところでやらかしたら襲うぞ! ……襲っても大して態度が変わらないイメージしかわかない現状が恐怖以外の何物でもなかった。
「…………これで良いでしょう」
「一体何がしたかったんっスか…………」
「おまじないの様なものだと思ってください。では、行きましょう――――」
かくして、ちらちらと私の方に顔を赤くしながら視線を向けてくる九郎丸を引き連れて、私たちは問題の現場へと向かうことになったのだった。