光る風を超えて   作:黒兎可

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ちっと余裕が出来たので更新……


ST26.原作のバギーホイップショット

ST26.Same Surname

 

 

 

 

 新都・天御柱市の周辺地域には廃墟同然の建物群が並び、そこはさながら貧民街となっている。これは新東京に限らずどこの地域でも、それこそ田舎でもない限りは割合似たような具合である。2050年代の火星混乱期を経た現在は、本来ならば首都圏と言って差し支えの無かったような地域ですらかつての見る影もなくボロボロの有様だ。

 技術発展や魔法自体の公開の横でこういった問題が並行しているのは既に思い返したような覚えもあるが、当然ながら人の欲望は尽きることがない。そういった周辺地域ですら自分たちの思い通りに、新たに再開発しようという欲望が湧くのも必然と言えよう――――そこに今現在住んでいる人間たちを完全に無視した形で。

 

「驚きました……」

「上の方は違うのかしら。今時どこでもそう変わりないもの。かつて豊かさを誇ったこの国だって例外ではない」

「テレビで流されてるの大体、新東京の映像とか多めだったからなぁ。こういうのってあんまり問題にしないように、政府とか裏から手を回してそーな気もするし」

 

 この辺りの社会情勢的な話は、九郎丸の方が驚いていた。原作通りと言えば原作通りだが、そういえば私と一緒にいた一月の期間でもこのあたりの話はあまり話題に出なかったせいもあるだろう。基本的に原作ブレイクなど考えず、ひたすら普通に、否、備えて(オサレに)過ごしていただけだし。

 

 さておき、依頼としては非合法的な手段での地上げ屋に対する、スラム地域の警護である。地上げといっても土地の権利書を持っている訳ではなく、そこを脅しつけて奪い取るところからの、それはそれは「ご丁寧な」地上げだ。今時三下かと言いたくもなるようなレベルのアレな気もするが、実際仕事の内容としてもクズ商売と原作で言われるレベルなので推して知るべしである。

 

「で、それはそうと刀太君、黒棒と一緒に背負ってるそれって……」

「? 見て分からねー? ギターケース」

「それは判るけどどうして持ってきてるのかなーって……」

「いや本当はサックスとかあると良かったんだけど、レンタルさせてもらえなかったし」

「楽器、弾けるのですか? 刀太」

「まー手慰み程度に。熊本時代に仲間内で色々やってみてたッスからなー」

 

 そういうことを聞いてるんじゃ、という顔の九郎丸はともかく。

 ボート移動で岸まで着いた後は、原作通りに6キロのマラソンをすることに……なったのだがいい加減ちょっと面倒くさかったので、夏凜と九郎丸も乗れるよう血蹴板(スレッチ・ブレッシ)を展開した。単体で展開したのはちょっと久々だが、さておき。慣れないバランスで私の左腕につかまる九郎丸と、初見に近いだろうに完全に乗りこなして私の右腕を抱きしめる夏凜という妙な配置となっていた。雪姫でもいれば完全に一月くらい前のボートに揺られていたような状態を思い出すくらいなのだが、思えばあそこから今日までそこそこ遠くまで来たものだ……。少なからず黒棒も手に入ったし、死天化壮(デスクラッド)の開発がデカかったな……。

  

 夏凜の指示に従い崖を降りると、既にUQ ホルダー側から男衆が何人か護衛に入っている……。入っているのだが全員黒スーツ黒ネクタイサングラスと恰好がまぁひどくその筋のソレである。絵面が明らかに悪いことこの上ない。二人を下ろした後(夏凜は何故か抵抗を見せたがさておき)、彼らの輪の中にギター片手に乱入する私であった。

 

「と、刀太君……?」

「…………妙に準備が良いですね」

「ほら、九郎丸も何か歌えって! お前、声いいんだからさ」

「え!? そ、そうかな……」

「マジマジ、そのうちドームでも満員御礼な感じ」

「また妙な喩えを……」

「夏凜ちゃんさんも地声すごい可愛いし、歌おーぜ!」

「可愛……っ、そ、その、そういうのは不意打ちやめてください」

 

 突然顔を押さえた夏凜。照れてるのだろうか、そういうのは割と言われ慣れてそうなのに……、と、ひょっとすると声とか褒められるのは初めてなのかもしれないと直感した。原作が漫画である以上その手のネタは積極的には使わないし。

 さておき、ある程度の情報共有後は夏凜も九郎丸も混じってみんなで歌い始めた。……いや待てお前本当に歌上手いぞ九郎丸。私の声が霞む。これでも筋は良いと仲間内では評判が良かったのだが、こんなことなら熊本時代に九郎丸にも歌わせるべきだったか。絶対凄いことになったはずだ。

 

 ギター準備などこのあたりは合流で待ち合わせをしていたシスターやら子供たちやらの警戒を解くのに何か必要だろうという判断だ。本来なら子供たちに交じって無邪気に男衆たちのパフォーマンスと言うかにテンションを上げるのだが、生憎そういう性質をしていないのでそのリカバリー用ということである。とりあえず教育番組とかで流れてそうなあたりのメロディを弾きながら向かった。意外と好評だったのか子供たちはそれに合わせて歌ったり、男衆の連中も曲芸まがいのことをはじめたりと、おおむね原作通りのノリにはなったはずだ。うん。もっと趣味に合った(オサレ)曲脳内リストから厳選するつもりだったが、全く知らない歌で感動させられるほど私に歌唱スキルはなかった。

 

 少しでもガバを軽減したいそんな私の悪あがきはともかく。しばらくすると依頼主のシスターが状況説明にやってくる。春日美柑。ネギま! に出て来る春日美空の孫と目される彼女である。見た目からして血縁を匂わせるが、頭まですっぽり被っているので髪色などはわからない。

 ……と、なんとなくやりとりを見ていて気付いた。不思議と夏凜とのやりとりに遠慮がみられない。接点と言うか、何か親しい設定でもあったのだろうか。会話の合間、それとなく聞いてみると。

 

「彼女というより、彼女の祖母に少しお世話になったことがあるもので」

「あの時のカリンはん、めっちゃカッコよかったんだよー? シスター・カリン!」

 

 シスター衣装の夏凜……、そういえば原作的な話をすると、ありそうでなかった恰好だったか? もっとも夏凜自体はそれよりもさらに以前に出生があるので、ありそうではあっても主義的にしない恰好なのかもしれないが。それでも雰囲気的には似合いそうな気もする。

 炊き出しを手伝いながら、何となくその辺りの話を細かく聞いてみた。と、夏凜は少し照れたように。

 

「気になります?」

「どっちかと言えば。ホラ、あんまりメンバーの過去話とか聞くようなことでもないかもしれねーけど、なんとなくはさ」

「付き合いで、というのなら普通は拒否したいところですが……、私ばかり貴方のことを知っているのも、少しズルいですものね」

 

 力なく笑みを浮かべ、ウインクしてくる夏凜は一体何のアピールなんスかね。単に私が惚れかねないだけなのだが。(自白)

 命の危険がないとなると、こういう風に頼りになるお姉さん的サムシングは非常に好みこの上ないのである意味危険域である。原作の順繰りを考えるとキリヱ本格参戦前、みぞれに至っては存在感がカケラも見当たらない現段階でこれは中々に酷い。私が夏凜に手を出さないようにという逆チキンレース的な状態になっている。仮に手を出すと後々巨大なガバに繋がるのは目に見えているので、この辺りは自分で自分に言い聞かせる他ないのだった。

 耐えろ、我が肉体……!

 

「と言っても特に深い話があるわけでもないのですが。雪姫様に再会するまでの間、彼女の祖母のもとで働いていたばかりで。場所は違うのですが、数十年前でしょうか。あの子の小さい頃も知っていますから」

「それだけ聞くと随分年寄りくさいんスけど……」

「実際、乙女と言われるような年でもありませんので。前にも言いましたが、そう気を遣わずとも良いんですよ?」

 

 そうはいうが実際周囲から年寄り扱いされればキレるし自称乙女することも多い人である。自分からこう言うのは許容範囲ということか、面倒くさい(語弊) ただ最近慣れてきたのか、命の危険が伴わないせいか、可愛く感じる余裕が出てきている自分がいるのも無視し難い事実だろう。やはり性欲を持て余してるのでは? とはいえ誰に相談できる話でもあるまいし……。

 やはり帰ってからになるが、ここは誰か男性陣の誰かにアドバイスを求めるべきか。……あまり参考にならないような気もするが。

 

 しかし実際、近所の子供たち向けの炊き出しをしているのだが。ほぼその場に流されて手伝っていても、夏凜はどこか楽しそうに見える。九郎丸は「おねーちゃん歌上手!」って褒められていつものように僕は男だ何だとやり取りしてるし、割と馴染むのは難しくなさそうだ。かと言って私はというと、普通に配給はできるのだがいまいち何を話したら良いか分からないところもある。いかんせんそういう(オサレ)話をしても面白がられるかは不明だし、この年代の遊びがどこまで残っているかも定かではない。缶蹴りとかをやっても良いが、建物やら何やら廃墟然としているのであまり動き回る遊びは崩落リスクを伴うし……。 

 

 一通り配り終わった後に私たちも一度散り散りになって食べる。夏凜いわく「場に馴染みなさい」とのことだが、その中でも九郎丸が大人気だった。特に男の子にも女の子にも。やはりイケメンに限るという話なのかこれは。

 と、そんな私の前に鍋を帽子代わりにしてる子供がやってくる。確かルキだったか……。

 

「おう、どした?」

「いや兄ちゃん、さっきのギターすごかったけどこっちの方に来ないからなんでかなーって思ってさ」

「近寄ってねー訳じゃないんだけどな……、なんか俺寄ると、蜘蛛の子散らすように逃げない? 大丈夫?」

「何怖がってんだ兄ちゃん? 皆、兄ちゃんの話聞きたいと思うぜ!

 あとその服めっちゃすげーし!」

 

 ほう、これの良さがわかるか。さてはOSR初心者(オナカマ)だな。お前のマフラーも中々イカしてるとか、そんなふうに話を膨らませていくと。どこかでこう、エンジンが暴走するような、あるいは障害を蹴散らすような音が聞こえた。子供の悲鳴と「誰か受け止めて!」という少女の声。見ればエアバイクに乗った子供を、後ろから乗り込んだ少女が逃すような動き……。何かどこかで見たことのある流れに、私はそれとなく微妙な予感がした。

 

 転がった子供を養護院のシスターたちが受け止めると、暴走するエアバイク自体は男衆が二人、一列に並んで正面から受け止めた。もっとも運転者の少女は勢い余って撥ね飛ばされ…………。

 

 九郎丸、夏凜が動き出す前に死天化壮をまとい、その方向に高速移動。一度抱き留め、横抱きにして、お姫様抱っこに推移する。勢いがある程度死んでから、目を強く瞑っていた彼女に声をかけた。

 

 

 

「おぅ、災難だったなぁ忍」

「……? へ? と、刀太先輩!」

 

 

 

 ボロボロっぽいマントをまとった忍である……、いやまぁ、こっちに来るのが早すぎると言えば早すぎるし、そもそも原作だと電車使ってこっちにきてたろとか色々思うところはあるのだが。内心で罵倒するよりも、私の顔を見て思わず安心からか、泣いて縋りついてきたこの子を落ち着かせる方が先だった。

 

 ……と同時に、この時点で忍を死なないように色々手を回さないといけないという別な作業が発生したのだが。というかキリヱが私をここに派遣したのはおそらく何かしらのバッドエンド的な展開が原因だと思うのだが、こうして忍早々な襲来イベントなどを踏まえて見てしまうと、まるで「お前の始めたガバなのだから、お前が尻を拭いてリカバリーするんだ」とでも言われてるような錯覚が……、錯覚だよね?(ガバからのメッセージ)

 

 地面に下ろしても未だに私に抱きついて泣いてる忍。困っていると子供たちが「兄ちゃんすげー!」「っていうかコートかっこいい!」「えーダサいって」など色々感想を好き勝手に言ってくる。最後のやつ後でちょっと覚えておけよ?(面従腹背)

 とそんな内心はともかく、慌ててやってくる九郎丸と「おや?」とやはり見覚えのありそうな夏凜である。多少抱きしめ返して背中をポンポンしてやると、落ち着いたのか忍は私から離れた。

 

「その、ありがとうございました先輩……。修理してたら、あの子たちが遊び始めちゃって、間違ってエンジンがかかっちゃったみたいで……」

 

 シスターたちに怒られてる、先程忍が投げ出した子らはともかく。ちょっと照れたような忍を見て「誰? っというより可愛い…!?」と謎の戦慄を見せる九郎丸。夏凜と一緒に紹介すると、名乗りながら九郎丸に頭を下げた。九郎丸も何故か動揺しながら頭を下げ返していたが、いやお前原作でそんなリアクション全然とってなかったろ、どうした? また私のガバか?(投げやり)

 

「で、どうしてお前こんな所居るんだ? 忍。上京にはまだちっと早いんじゃね?」

「そうですね、気になります」

「えっと……」

 

 どうやらあの後、我慢出来なくなって一度都がどんなものか見てみたい好奇心に駆られたらしく、貯金を使って一週間程度前に遊びに来てみたらしいのだが。

 

「物価が信じられないくらい高くって、気づいたらお財布の中身が……。住むところに困っていたら、こっちでしばらく過ごさないかって言ってもらって。修理してお金を稼いだりして過ごしてました」

 

 どうにも一昔前の、貨幣価値に差がありすぎるところからきた外国人が、東京で困窮するような事態に遭遇していたらしい……。これやっぱり私のガバかな? 原作と行動具合が違うのはたぶん私とのやりとりが原因だよね(涙)

 

 

 

 

 

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