光る風を超えて   作:黒兎可

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カトラスが意外とちゃんとシナリオ沿ってくれるので、やっぱ一番ヤベェのは夏凜ちゃんさんやなって


ST29.押売系一宿一飯

ST29.Be Taken Care

 

 

 

 

 

「黒棒、大丈夫か? 生きてるか?」

『…………私も、意識が、飛びかけたな』

「悪い、俺もあんま余裕ないわ……」

 

 精神世界(仮)にいた私の潜在能力的なものが自意識をもっていると名乗るあの星月。現実世界に無理やり復活させられた後、彼の言っていた通りで癪ではあるが、脳裏に新たな技の使い方が刻まれていた。

 言うなれば、私版の「太陰道」のようなもの。自らの血に受けた魔法や属性系統の攻撃を、自らの内に取り込み、血風に乗せて放ち返す。ギミック的に太陰道と違うのは、対応関係が1対1になっていないことだ。つまりは、この能力に目覚めた状態で一度技を受けた場合、受けた技を精神世界(仮)で星月が「解析」し、その系統の技を「任意で」使うことが出来る、というもの。威力は血風に乗せて撃っている関係で上限下限が限定されている形なので、メリットとデメリットはトントンといったところか。……まぁ血風自体そこまで使いこなせている自信もないので、技が血風の延長に限られるのは有難いと言えば有難いのかもしれないが。

 

 その流れから、夏凜によってもたらされた神聖魔法の属性を血風に帯びさせて試しに放ってみたのだが、実際の所酷いことこの上なかった。

 

「自分側にも毒性がそのまま据え置きとか只の虐めなんだよなぁ…………」

 

 技を撃った後に軽く死ぬし、幸い落下はしなかったが意識が一瞬で戻ったことが軽い奇跡に思える。

 どうも元々、私やカトラスなどの「金星の黒」を帯びたクローン体にとって、神聖魔法は劇物に等しいらしい。体内に入れた時点で血液が蒸発するような激痛を味わうことになるのだが(痛いとかそんな次元ではない)、これは私自身が放つ際に限っても同様の条件であるらしい。つまるところ「血風」で放ってる以上、その属性を全身の血が帯びることに違いはなく、その状態を長時間維持すれば、それはつまり自殺行為に等しいのだった。自分で自分の毒に殺されるような感覚である。

 ……まぁカトラスに指摘された通り、常人からすれば血装術を使ってる時点で自殺行為そのものであるのかもしれないが。この辺りは本当、胸の傷のお陰で一切の躊躇なく使用することが出来ている。何度も繰り返すが、九郎丸は良い仕事をしてくれた。

 

 なお、この神聖魔法を帯びた血の影響は黒棒の方にも悪影響らしく、確認した感じ私程酷くはないが、中々ダメージを受けているらしい。それでも機能的に問題がないのはありがたいのだが、さて…………。

 

「カトラスだっけ? お前、起きてるか?」

「…………」

「って、まぁ起きてても反応はしねーか」

 

 私が今背負っている、血風「聖」天を受け、絶賛気絶中のカトラスである。体内的には私よりも不死性が足りない……というより「金星の黒」とうまく連携できていないのか、不死性が低いカトラスである。原作劇中描写を見る限り、おそらくその強度は甚兵衛よりも強い程度だろう。とはいえそれだけに飽き足らず、カトラス自身は生みの親たるフェイトが作っていた施設において、更に改造を受けている。部位がどこだかは忘れたが、サブの電子頭脳的なものがどこかにあったはずであり、緊急時はそれで活動するという話だったはずだ。

 とするならば神聖魔法を受け、その余波で意識を刈り取られたのだとしても。こうして私に背負われながらも、電脳側の方で虎視眈々と命を狙っている可能性は高い。

 

「とはいってもお前の処遇ってどうしたもんかなぁ……。ぶっちゃけ初対面で妹チャンを名乗る奴とか、しかもそこそこ狂暴そうでよく分からねーけど俺個人を殺そうとして来ると、安全チャート的には投棄一択なんだが…………、ウチには子供の幸せに煩いお姉さんがいらっしゃられるし」

「…………」

「というか夏凜ちゃんさん相手に色々叫んでたけど、何? お前、雇われなの? 行く当てないんなら、とりあえずウチ来るか? 俺個人に敵対するっていうのは別にして、生活基盤ないってことだろ、そんなやりたくもない仕事やってるってことは」

「…………」

「まーとりあえず飯食ってから考えるか。何か食いたいのあるか? 食えないのとか、苦手なのとかでもいーけど」

「…………肉。あとミニトマト、きらい」

「へいへい」

 

 やっぱり起きてるじゃねーかと出来たお兄ちゃんはツッコミを入れず、ぽんぽんと頭を撫でるように叩いてから地上に降りた。夏凜が九郎丸からコートを借りてる、ちょうどそんなタイミングでの合流である。原作よりもタイミング的に不意打ちに近かったこともあってか、あまり大々的に感謝の言葉を述べられたりはしなかったが、こちらの方が色々と都合が良い。

 私の背負うカトラスに、九郎丸の表情が一瞬曇る。

 

「とりあえず事情は全然わからねーけど、なんか腹は減ってるみたいだから、食べてから色々聞くってことで一つ」

「……わかりました」

 

 えらく聞き分けが良い夏凜にカトラスを渡そうとしたところで、夏凜は私の両肩をがっしり掴んで覗き込んできた。……だからその距離感の近さ止めろ! 後、意図がわからん!? 一体今回は何を目的とした目の覗き込みだアンタ。

 

「か、夏凜先輩! 刀太君が困ってます!」

「おや? ……まあ時間は後でとれますし、良いでしょう」

 

 割って入ってくる九郎丸だが、しかし夏凜は一切意に介していない様子である。助かったと言えば助かったのだが、何か別なフラグを踏んでしまった感もなんとなくあり、いまいち安心できない自分が憂鬱だった。

 

 その後、平屋のような施設に避難していた忍たちと合流し、しばらくしてからカトラスは起きた。流石に危険性があるということで私、九郎丸、夏凜のうち2人態勢の交代で監視をしていたのだが、ちょうど私と九郎丸のタイミングである。

 夕食の準備をしている私を見るや否や、嘲るような表情を浮かべる。手伝いに入っていた九郎丸は、それに対して普段の刀を構えようとし……、いや待て待て、血の気が多いわ。どうしてそこまで好戦的なのか、何か悩みでもあるのかな? 九郎丸まで情緒不安定とかは、ちょっと止めてクレメンス。(真顔)

 

「なんだ……、やっぱ殺してねぇんだな。兄サン。敵相手に随分甘い対応じゃねーか?」

「とりあえずお前サンの事情は一切合切知ったことじゃないんで、話を聞いてほしかったらまずその口元ぬぐっとけ」

「は? ……っ、ッ!?」

 

 言われてから涎が垂れているのに気づいたのか、慌てて口元をぬぐうカトラス。それを見て「年下……」とか謎のダメージを受けてる九郎丸を完全スルーし、つくねなんだかハンバーグなんだかな代物をテーブルに配膳。私たちも同様のものをそれぞれの席の前に配膳し、テーブルを囲んだ。

 カトラスはそれを見て、名状しがたい顔をした。信じられないものを見たような、同時にどこか寂しそうな、そんな顔だ。

 

「…………」

「ほら、ここに座れよ妹チャン」

「その呼び方止めろって言ってるだろ! 俺は、カトラスだ!」

「いやどう考えても偽名だろそれ。大体、大前提として俺にキョーダイっていねーけど、もしいたのだとしても完全横文字の名前ってのは違えだろうし」

「でも刀太君、最近は色々な文化が入り乱れてるから、キラキラネームとかもあんまり言わないくらいに色々な名前があるし……」

「いや九郎丸さ、揚げ足とるのやめてくれね?」

「え!? い、いやそんなつもりは全然ないよ! た、ただ話題が広がればと思って……。な、なんだか気を遣ってるみたいだし」

「そりゃまあ、事情は分からねーけど大人しく飯食う感じのリアクションはとるような相手だし、子供だし――――」

 

「そんな付き合いたてのカップルの日常生活みたいなコントやめろ。胸焼けしてくるぜ」

 

 嫌そうな顔をして渋々席に着くカトラス。九郎丸の「ぼ、僕は男だからそういうのじゃ……!」という抗議は「ハイハイ、薔薇な薔薇」と適当に半笑いを返していた。そういうの判るのかお前……。もっとも薔薇というのにも抗議の意思を見せる九郎丸であるが、それはさておき。

 いただきます、と。こればかりは純正日本人のように、ごく自然に手を合わせてスプーン片手にハンバーグを切って口に運んだ。

 

「……………………」

 

 無表情を装おうとして、イライラしてる雰囲気のカトラス。取り繕うのに失敗してる彼女を気にせず「今日も美味しいよ!」と笑顔満開の九郎丸であった。

 一方の私は私で、カトラスの現在の状況に気になる要素はいくつかあるのだが。

 

「味とかってちゃんとするか? 戦ってた感じ、所々金属っぽい感じもしたから、お前もサイボーグ的なのだと思ってるんだけど。どれくらいサイボーグとかになってるのかとか全然わからなかったから、普通に作ったけど」

「…………別にしてるし。というか俺、アンタの敵。普通に本物の妹みたいな扱いすんの止めろ……、頭撫でるの普通に止めろ! 本当に妹扱いじゃねーか!」

「お? ハハ、悪い悪い。でもだったらまずヒトのこと『兄サン』とか呼ぶ理由から話そうぜ? 俺だってお前、どー扱って良いか全然わからねーし」

 

 それだけ言うと、黙り込むカトラス。今この段階で自分の出自やら私の出自を開示しても、大してダメージにならないと判断したのだろう。

 良いぞ良いぞ、この段階でそんな原作ブレイクを私は望んでいない。出来た妹チャンの反抗期に思わず内心でガッツポーズUC状態の私であった。

 

 とはいえカトラス側の事情も、表向きの分はすり合わせが必要だろう。今の所把握してるのは、強いこと、どうも金に困ってスラム襲撃の仕事をしたこと、あの瓦礫屋の連中とは所属が違いそうな事と三つほど挙げる。最後のそれについては(原作知識を明かさないので)推測だとしながらだ、そこまで言うと「大変だったんだね」と同情するような目の九郎丸である。その視線が苦手なのか、カトラスは嫌そうな顔をして手をしっしと振った。

 

「金払い良かったのか? あのマッチョサイボーグの組織」

「まあ、それなりに」

「そっか」

「ん」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………はぁ、無言で食べてるのもなんかホントに兄妹みたいで嫌な気分になってくる」

 

 それは気にしすぎなんじゃ、という九郎丸の言葉を睨み返し、カトラスは私を一瞥した。

 

「アンタ、何がやりたいんだ兄サン。明確にアンタに殺意を抱いていた相手を平然と拾ってきてさ。おまけにロクな拘束もしてねーし」

「コイツは流石に取ったけどな」

 

 言いながら、私は彼女のパクティオーカード……、「ネギ・スプリングフィールド」との契約のものと思われるそれをちらりと見せる。もっとも契約者の文字は塗りつぶされており、詳細はわからないのだが。それを見て「流石にそこは抜け目ねーのな」とどこか自嘲げに笑うカトラスだった。

 

「何がしたいかって言ってもなぁ……。お前の武器とか、戦い方とか教えてくれ! って言っても、どうせ教えちゃくれないだろ!」

「ハンッ」

「そのあたりは予想済みだから別にいいんだけど。としても、そのまま投げるのもアレだし……。なんなら、ここでスラム警護でもすりゃいいんじゃね?」

「え?」「はっ?」

 

 スプーンを咥えたままびっくりした顔のままカワイイ九郎丸と、この世の終わりでも見たような半眼で顎をしゃくるカトラス。絵面があまりにも対照的すぎて酷いことこの上ないが、現段階でカトラス登場による今後の影響度を考えるなら、これが一番バランスが良いだろう。

 

「報酬は、飯と、とりあえず住むところと、あとこのカード。期間は俺たちがここに居る間。まあつまりお前が受けた依頼の逆バージョンってことだな」

「そんな話、受けるとか思ってるのか? ハッ、おめでたいねぇ兄サンは。その気になったら力づくで――――ぴぃ」

 

 左手からすっと小さく血風を展開すると、カトラスが変な声を上げてフリーズした。九郎丸が不審がるが、このあたり私もちょっと実験だったのでまさか上手くいくとは、という感じであるので説明は難しい。ただ戦闘中の反応からして、どうもカトラスは血装術関係か何かにトラウマでもあるようだ。

 

「あ、あああ、アンタ頭おかしいんじゃないのか!? 昼間も思ってたけどマジでさぁ! 命、大事じゃねーのかよ、そんなポンポンとさぁ! 何だ、それ私に投げつけるのか? あ゛!?」

「一応、魔人とか吸血鬼が使うスキルらしいからそんなに変でもないと思うんだけど……」

「再生力にモノ言わせて、なんでもかんでも無茶通るとか思ってるんじゃねーぞ!? っていうかその目、何だ、やめろ! 私は愛玩動物じゃねー!」

 

 決して揶揄っている訳ではないのだが、どうしてもカトラスのリアクションが良いのでちょっと楽しい。日頃心に溜まっているストレスが洗われていくようである。そしてそんな私を見て九郎丸がぼそりと呟いた。

 

「…………年下か……」

「だからさっきから年下が何だよ九郎丸」

「きゃっ!? き、聞こえてたの刀太君!!?」

「この距離だしな。で?」

「え? い、いや……、と、刀太君て年下の子が好きなのかなーって」

 

 カトラスが心底嫌そうな表情を浮かべるのに苦笑いした。流石に好みのタイプについては話す訳にはいかないが、放置しておくと何かのガバの温床になりそうだ。早目に出て来てくれたことだし、早急に訂正しておこう。

 

「守備範囲とかそういうのはあんまり考えたことねーかなぁ……」

「そ、そうなの? でも忍ちゃんとかすごい優しい表情浮かべてるし……」

「いやまぁカワイイとは思うけど、だからって別に何でもかんでも手を出すようなモンでもねーし」

「そ、そっか……、そうだよね!」

「おう」

 

「……アンタ、マジで兄サンのこと好きなの?」

 

 話がなんか上手な感じにまとまりそうなタイミングで再び爆弾を放り込むんじゃない妹チャン!? 貴様嫌がらせか! 慌てる九郎丸を見て私にニヤリとするあたりジッサイ嫌がらせなのだろうが、ピンポイントでこちらのチャートを破壊しにかかるな貴様!(戒め)

 九郎丸をなだめていると、部屋のドアがノックされたが、反応を見る間もなく夏凜が開けて入ってきた。挙動不審の九郎丸と私、カトラスを一瞥すると、その視線は台所の方に吸い寄せられる。

 

「あー、これから焼くッスか?」

「いえ、大丈夫です。優先順位がありますし、先に下で頂きましたし……」

 

 とはいえ全く食べてもらえないのはつまらない。私の皿のハンバーグをひとかけすくい、夏凜に差し出す。「あー……ん!」とそれに疑問を挟まず口に入れて、何度か咀嚼し頷いた。

 

「…………刀太もですが、九郎丸もちゃんと出来るのですね」

「へ? あ、はい! それはもう色々とこっちに来てから頑張ってますし……」

 

 それはともかく、とカトラスに視線を向ける夏凜。…………夏凜を見るカトラスの目がドン引きだったりするのは謎だがそれはともかく。簡単に先ほどまでの会話の流れを相談すると、悪くない案だと夏凜は頷いた。

 

「……いやオカシーだろアンタ。俺、お前ら襲撃した相手だぞ?」

「それでも、貴女は刀太の妹、なのでしょう? 事情は知りませんが、その言葉を語る貴女の目に宿る感情に、嘘だけはありませんでした」

「いや、それは……」

「愛憎どの類の感情かは置いておいて。貴女が今の生活に困っているという事情はわからないでもないですし…………、刀太の料理は美味しかったみたいですし。十分、報酬になるのではないでしょうか?」

「はァ? ……い、いやこれはっ!」

 

 さっと自分の皿を隠すカトラス。……気が付いていなかったが、いつの間にか、それこそ九郎丸や私をさしおいて一番最初に完食していたカトラスである。これには九郎丸も庇護欲をそそられたのか、フォークにハンバーグを指して「食べる?」と微笑ましい表情。つられて私も差し向けるが「いらねーって言ってんだろ!」と顔を真っ赤にして反抗していた。

 

「アンタら馬鹿じゃねーの? 本気でメシで釣られるとか思ってるのか?」

「さぁ? ですが『そういうことにしておいた方が』、貴女も色々と楽なのでは?」

「………… 一つ、条件がある」

 

 夏凜が何かと聞くよりも前に、カトラスは私の方に指を向け。

 

「誰か兄サンの血使うやつ、やめさせろ。気分悪い」

 

 嗚呼、と。夏凜だけでなく、九郎丸すら何故かそれに首肯してきた。

 

 

 

 はい? つまり……、どういうことだってばよ?(混乱)

 

 

 

 

 

 

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