光る風を超えて   作:黒兎可

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ST3.一月以上かかる第一話

ST3.Episode1 Take A Month

 

 

 

 

 

 九郎丸が学校に編入することになっても、意外と影響が少ないという事実に驚かされた。

 いやそもそも例によって「男なのか」「女なのか」の問題でもめるかと思いきや、あっさり男性であることを受け入れた我がクラスである。何だこの順応性の高さとツッコミを入れたいが、しかし「打倒雪姫」を掲げる連中を受け入れてる時点で大分蛮族か。あまり気にしないというか、頭ケボ〇ンだとでも思っておこう。

 

「しかし、いよいよ行き詰った……。いわゆる精神世界? とかで対話でもできればまた話が別なのだろうが、生憎と『火星の白』も『金星の黒』も人格らしいものはない」

 

 考えてみれば当たり前の話である。大前提として魔力的なものを感知する糸口がいよいよなく、これは一度くらいは死んでその時のショックで発動するしかないかと最近思い始めているが、それ以降の、つまり〇鎖斬月(オサレ)に至るための道筋が見えてこないのだ。

 近衛刀太の肉体は遺伝子的に調整されて生まれてきているが、いわゆる「失敗作」と言われる程度には欠陥がある。運が良いのか悪いのか「金星の黒」を発動する前の肉体はどちらかと言えば病弱であり、またその肉体自体も「火星の白」、いわゆる魔力無効化のような類の能力を持つ細胞とが、体でいびつな形にミックスされている。失敗作とはいえこの完成までに七十一人のクローンが存在しているのだが、それらも含めておおよそこの二種類の魔力が競合することによって、すんなりと魔法を練ることが出来ないのだ。

 

 これに対する解決策として、原作では『回天』、魔力を遠心分離機みたいに超高速回転させることで二つの属性を撹拌、分離させた上で魔法を行使していた。がしかし自分が目指すのは天〇斬月(オサレ)、しかも天鎖〇月(オサレ)の極致のような速度重視だ。おそらくそういった形で運用することは難しい……というより回転する暇があるなら月牙天〇(オサレ)じみた技を考える。

 とはいえこれがないと何も始まらないのも事実。つまり取っ掛かりがない私としては、いかに現時点で「魔力を回転させるイメージ」を想像しながら瞑想したところで、限度があるということだ。

 

「問題は現状から魔力を自覚しても、おそらくすぐ分離できないことか…………、いっそのことNARUT〇のように分身でもして、それぞれの分身に白と黒との魔力を分散して練らせる……、いやそれだと一体一体の能力的な密度が下がる、最高速度が出せないとなると回避に後れを取る可能性がある。どうしたものか……。いっそのこと最初っから、まずは『金星の黒』に直接手をかけて、『火星の白』は後回しにする手もあるか? 本家BL〇ACH(オサレ)のよう……、ん?」

 

 ぶつぶつ呟きながら瞑想をしていると、ふと背後に気配を感じる。体勢を解いて立ち上がれば、九郎丸が木々の間から現れた。すっかり私同様にワイシャツ、学ランの制服が似合っている。

 

「またここに居たんだね、刀太君」

「ルーチンワークだからな。どうした?」

「ほら、田中君から差し入れ……というより試食かな?」

 

 す、と九郎丸の出してくるおにぎり。ラップにくるまれているが見た目からして既に米粒が立っているあたり、美味しそう感が強い。実際美味しいのはほぼ確定しているので、一つ受け取り九郎丸にも食べることを勧めた。

 山を下りながら近況を聞く。学校に慣れるのは意外と早かった九郎丸だが、いまだ戸惑いながらという所も大きいようだ。

 

「まさか抹殺に来て早々、弟子入りしろと言われるとは思ってなかったよ……」

 

 学校に通えとはどういうことだと詰め寄った九郎丸に、早々にゲンコツを喰らわせて雪姫は嗤った。

 

「そんなに帰りたいのならそもそも私を倒せるようになってからにするべきだろう。まぁ何年かかるか分かったものじゃないが、な? せっかくだ、お前も弟子になれ。そこの刀太のように」

 

 その言葉を覆す前に動揺しまくった九郎丸。状況的に完全に混乱してたのを逆手に取り、私と雪姫は厨房に立った。料理をする間に背後から襲い掛かるような卑怯さはなく、しぶしぶといった様子で九郎丸はテレビを見ていた。

 その後はまぁ想定以上の順応性を発揮したクラスに巻き込まれ、もはや普通の男子中学生もかくやという有様だ。強いて違和感を上げるなら、よくありがちな美形転校生男子に女子生徒が黄色い声を上げてファンクラブ的なのが出来たりして、大勢から詰め寄られても何か違和感を感じる表情を浮かべているあたりか……。このあたりは原作の修正力か何かだろうか。やはり女性の側に偏っているのだろうか。まさか私の刀太に当てられたせいということはあるまい。そういうフラグを立てかねないモーションは一つも行っていないし。

 

「まー、何か考えあるんじゃねーの? なんだかんだ雪姫に俺だって世話になってるし」

「…………そもそも君も君だ、何であんな普通に、命を狙ったような相手を自宅に引き入れてるんだい? しかも扱いが……その……」

「いやお客様だし、何か知らないけどお前、例えばだけどあー、あんまり肌とか見られるの好きじゃないだろ? テキトーにだけど多少は気を遣うって。あんま男らしくねーなって思ってるけど」

「ら、らしくない!?」

「フツーそういうのあんま気にしないんじゃね? って、あー、もしかしてお前ソッチの人だったりすr――――」

「僕はノーマル、だ! フツーだからね!」

 

 ノーマルと言いつつ「男だ」とか「女の子が好き」だとか言わない時点で半分くらい自白してるというか、どっちの性認識に寄っているか察してしまえるのは如何ともしがたい所である。

 その後も世間話が続くが、ふと何故修行をしてるのかという話に……もっというと何で魔法を学びたいのかという話になった。

 

「まぁ特に理由はないんだけど、自分が知らない理由でアドバンテージとられるのはどうかと思ってさぁ」

「アドバンテージ……? 嗚呼なるほど、君にできないことで相手が有利に振舞ってきたら困るという事か」

「そーそー。なんか分かんないんだけど、俺自身、何か身に付けないといけないというか、胸に穴の開いた感じがしてさぁ」

 

 下山ついでに墓参りをする。といっても適当に周囲を掃除して帰る程度なので、あまり真面目に墓参りをしていないのだが。もっともそれはネギ・スプリングフィールドの墓に対してが主ではあるので、決して間違いだとは思っていない。なにせ肝心のネギ先生は――――。

 

「……そういや(ネギ先生で)思い出したけど、九郎丸お前、ケッコーモテてるよな?」

「へ? あ、うん。……嫌味みたいだけど、そうだね」

「いじめられたりしてない? いや、まぁ俺たち五人と絡んでてなかなかそういう話にはならないとは思うけど、一応」

「大丈夫だよ。というより何を警戒してるんだい? 別にいじめられた程度で、民間人に流派の技とか振るったりはしないさ」

 

 どちらかというと性別関係でバレると問題かと思っての確認だったが、杞憂だったようだ。鼻を鳴らして得意げな表情だ。……ただちょっと、九郎丸の頬が少し赤らんでいるように見えるのに、嫌な予感を覚える私は考えすぎだろうか。色々。

 そんな懸念事項を抱えながら、自宅で夕食の支度をする。九郎丸もこの家の勝手がわかったようで、自分が食べたい食材を冷蔵庫から取り出し、すっと手渡した。

 

「れんこん?」

「大丈夫かい?」

「いや、いい趣味だ」

 

 ついでだから根菜を他のも入れて、クリームシチュー風にしてしまおう。あまり長時間煮込まないクリーム煮だから味の染み方はたりないだろうが、その分チーズなどを入れて誤魔化すか……。

 帰宅した雪姫は、九郎丸を借りるぞと連れて行く。一応夕食前に修行をつけてやろうという、食べた物を吐かせない程度の気遣いだろう。それを見送りながら、私は瞑想の時と同様に技の詳細を詰める。

 

「コートもそうだが、月牙(オサレ)も考えなければならないか。原作を前提にすれば血を媒介とするのが一番妥当なんだろうが……、序盤はウォーターカッター的な形で飛ばすのがせいぜいか?」

 

 というよりも、どれくらいのレベルで実現できるかわからないので、完成度を早々に上げたいものの前途は多難だ。明日は休日とはいえ、限界が見えてる瞑想修行を辞めたとして次に何をするべきか……。覚えてる限りのBLEA〇H(オサレ)に関係する情報をリストアップするとかだろうか? 雪姫に見つかったら中二病だ何だと大笑いされること必至だろうし、詳細をこの世界の魔法とすり合わせて考えたメモにでもすると「何故お前がそれを知っている」と訝しがられる扱いになりそうだし。色々とこの生活も縛りが多い。

 

「だがやらねばなるまい。……それはそうとやはり、一度は死なないとダメだろうか」

 

 どうにもこうにも、私の中の主問題として何一つ能力的な切っ掛けをつかめていないのだ。こればかりはどうしようもないだろう。しかしそれがいつになるかと言うのを、楽しみにすることはない。常識的にも感覚的にも痛いのは嫌だし、ましてや一度死ぬなど御免こうむりたいのだが……。それをせねば世界が滅ぶとあっては、個人の感情だけでどうこうできる話ではないのだろう。

 

「ある意味、それが最適解……、最速チャートというところだろうか」

 

 肩をすくめながら、私はクリーム煮の味見をして、少しむせた。

 

 

 

  ※  ※  ※

 

 

 刀太君の家族が亡くなった話を詳しく知ったのは、彼のクラスメイトたちから聞いてからだ。

 彼とよく集まって話し合っている四人。そのうち田中君以外は知っていたらしく、たまたまその話題になったときに僕含めて教えてもらうことになった。刀太君はその時ちょうどトイレに行ってたのもあって、簡単にではあったけれど。

 エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルが乗っていた車と正面衝突……、対向車線に出ていたのは刀太君側の車と聞いた。それが切っ掛けで彼女が彼を保護する形になってるのだと。

 

「前に刀太に聞いたことがあるんだよ。雪姫先生のこと恨んでるのかって」

「刀太君は何て?」

「あー、何だったっけ? 『事情は分からないけど道交法守れなかった両親が悪い』」

「随分ドライな言い方だね……」

 

 記憶がないことも手伝ってか、刀太君は彼女をあまり恨んでもいないらしかった。

 だが、どうしても疑念を抱いてしまう。賞金六億の伝説の吸血鬼が、わざわざその程度の事故で責任を感じて彼を保護する物だろうかと。

 ここ一月ほど過ごして、なんだかすっかり刀太君とは友達という感覚になったけれども。それでも、だからこそあの吸血鬼がなんの意図をもって刀太君の母親をしているのか。……少なくとも表面上は、確かにあの二人は親子として見えるし、そういう愛情のようなものも感じられる。朝倉さん曰く「ちょっとマザコン?」。僕は、そこまででも無いと思うんだけどなぁ……。

 だけど、だからと言ってその全てを信用することは出来ない。僕は知ってるのだ、時々刀太君が、あの気だるげな顔から想像もつかない程真剣なまなざしで何か思い詰めているのを。

 彼の中にだって、絶対、解決できないわだかまりのような感情があるはずなんだ。

 

 でも彼女を倒さなければいけない、という感覚とは別に、躊躇してしまう自分がいる。傷を受け入れ前を向こうとしている彼の姿に、胸が苦しくなる。この疑似家族を壊すべきかどうか。

 壊すべきだ、道義的には。でも…………、それじゃ刀太君の心の行き場はどこになる? たとえ僕が「責任をとった」としても、彼がそれで浮かばれるだろうか。答えは出ない。出ないからこそ、ぬるま湯のようにかの吸血鬼に弟子入りしている生活が続いている。

 

 いい加減いけないと思っている、そんな時だった。賞金稼ぎが接触してきたのは。

 

「やぁ、時坂君。この後、少し時間があるかな?」

「…………僕も、貴方に話があります」

 

 いつもの四人にマジックデバイス、簡単な魔法を発動できるアプリとその対応端末を手渡した橘先生に、僕は違和感を覚えた。彼をじっと目で追っていたのに、向こうも気づいたらしい。柔和な笑みを浮かべてはいたけど、その目は酷く冷たいものだった。

 誰もいない教室で、彼と話す。相手はエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルその人の首を狙っている賞金稼ぎだ。日本の、呪術系の家柄から外れた男らしく、独自の術を多く持っている。

 

「だからといって、ああも簡単に子供に過ぎた道具を渡すのは、やり方としてダメだと思います」

「ええ。だから私も本意じゃないんですよ。しかし何だかんだ教師生活も楽しいですし、彼らのことも応援してあげたい…………、賞金はともかくとして、そこは本音なんですよ。

 だからそれとは別に、お願いしたい。『神鳴流(しんめいりゅう)』の不死殺しである貴方に」

 

 当然のようにこちらの素性を察している相手に、少し苛立ちがする。その言葉がどこか空々しいのも、拍車をかけていた。何を、と問い返すと、彼は腕輪を三つ。

 

「これを、彼女の腕に付けて欲しいのです。つけるのは一つで構わないのですが」

「何ですか? 一体」

「ちょっとした封印具…………、彼女の魔術を封印する道具です。原理としては、かの吸血鬼が魔力を練った瞬間、外部から阻害し逃がして雲散霧消させる、という仕組みになります。

 これを明日、あの四人が雪姫先生と対決する前に彼女の腕に付けてもらいたいのです」

 

 確かに何かしらの封印術が刻まれているのはわかるけど、詳細までは判らない。だからこれは、相手の言葉をどこまで信じて良いか、という点に繋がってくる。 

 困ったように笑う相手に、僕はどこまで信じて良いか判断ができないが。とりあえず言われるままブレスレットを手に付ける。確かに、何か異常があるわけではない。

 

「三つあるのはどうして?」

「貴方なら丁度一月、彼女らの家で世話になっているのでしょう? ならプレゼントと言う形で良いじゃないですか。何事も、仲良くなるにはしっかり手を回さないと」

「別に僕は……」

「でも近衛君や彼らと一緒にいる君は、すごく楽しそうに見えましたよ」

 

 そう微笑む彼の言葉は、確かに教師らしいもので。半年の教師生活が楽しかったというのに、ある程度の説得力を持たせていた。

 

 了承し帰りに刀太君を迎えにいった後、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル直々に稽古のような可愛がり(嗜虐)のようなものを受けた後。僕は彼女に腕輪を手渡した。

 

「何だ? これ」

「………… 一月お世話になりましたから」

「ご機嫌取りという訳でもないだろうが、律義な……。どっちかと言えばそーゆーのは刀太相手にやった方がいいぞ? アイツ結構そういうのには弱いだろうから」

「べ!? べ、別に刀太君の分もありますし、もっと言えば僕の分もありますから何も変じゃありませんけど!!」

「誰も変とは言ってないのだが、ん-? んん?」

 

 ニヤニヤと何とも嫌な感じの笑みを浮かべる雪姫先生。い、いや、別にもともとが貰い物である以上は僕のセンスとかじゃないわけで渡すのにためらいはないし、実際感謝の印と言えなくもないのだから問題はないはず……、だから何なのだろうそのからかう様な見守るような変な視線は! っていうより顔が熱いよ!? 何で!!?

 

「ま、気楽に使うさ。ありがたく貰っておくよ。

 さぁ早い所帰ろう。アイツの料理は意外と美味いんだ」

 

 そう言って腕輪を付け背を向ける彼女の後を、僕は追えなかった。

 わけもなく熱を帯びた顔を両手で押さえて、落ち着くのに精いっぱいだった。

 

 

 

 

 

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