後で場面とか色々改稿入るかもです
ST30.the Responsibility
つまるところ、血風を使うなという縛りプレイの強要であった。
私は激怒した。必ずかの冷酷無慈悲でその割に想定外の事態に弱い妹チャンにOSRのなんたるかをわからせる必要があると。だがこれに歯止めをかける勢力が二つあった。結城夏凜と時坂九郎丸である。腕をまくりようようと気を張った私に対して、二人が両側から抑えにかかったのは一体何の冗談かと思ってしまった。
「いやマジでないって! 血風封じられたらロクな戦闘できませんから!」
「でもそれを前提としても、貴方は血を簡単に流しすぎです。不死に対するプロが今後相手として出て来るだろうことが予想される以上、気を抜いたらすぐ死にかねない技はどうにかするべきでしょう」
「九郎丸! お前は俺の仲間だろオイ! デスクラッドのネーミングくれたし!」
「で、でも僕もちょっと、思う所がないわけでも……」
敵しか居ねぇじゃねーか!? 思わず絶叫する私に、カトラスがニヤニヤと愉し気な目を向けてくる。やはり確信犯か、お前間違いなく私の戦闘力を削るためにその提案しただろ! しかもそれとなく他二人に気取られない程度に私情も交えて……、あれ? そうか、実際私情も混じっているのか。ニヤニヤしながらも若干目が笑っていないあたりからして、どうやら本当に血風を見ていて気分が悪くなるという本人の弁に嘘はないらしい。難儀な妹ちゃんである。面倒くさい(語弊)
確かに血風……、というよりも胸の傷から血装術を使うというのに、それなりにデメリットも大きいのは理解している。黒棒から指摘された事実を踏まえてみても、確かに常時死亡状態にされるリスクも存在するのだろう。当たらなければどうと言うことはないとは言え、基本的な感性と言うか、戦闘センスを扱う当人は凡人メンタルのはずだ。原作主人公ほどの勘の良さを発揮できている自信がないので、不意打ちなどで封印が成功した場合は大打撃そのものだ。
だからといって今更戦闘スタイルを変更するのは相当厳しい。原作主人公ほどのメンタルの強さを持っていない自覚がある私である、原作通り完全に修行するのはまずもって厳しいし、また習得率が同じレベルになるかどうかというのも怪しいと睨んでいる。要は原作主人公なら素直に何も考えず吸収できるものが、私の場合色々と小難しく考えたり面倒がったり嫌がったりして、正しく覚えられないかもしれないということだ。
だからこそ
「と、刀太君、泣いてる……?」
「逃がしません」
「――――っ!」
何も言わず、ハグ体勢に移行する夏凜だが、実際判断が早くしかも正しかった。ちょっと色々とメンタル的に限界になって、思わず脱兎のごとくこの場から逃げ出そうという素振りを一切見逃さないボディロックである。一体いつの間にそんなに私を洞察してるんだろうかこの
そのままポンポンと背中を叩くようにし、くるくるとまるで幼子をあやすようにされた私であったが、流石に気恥ずかしさが感情として勝利したので、相手の肩を三度叩いて離してもらった。
「落ち着いたかしら?」
「いや全然落ち着かないッスけど…………」
「そう。だけれど、逃げてもどうしようもない話だと思うけれど」
ほんのり微笑む夏凜の顔を直視できず視線を逸らすと、カトラスが夏凜をドン引きした目で見ているのが視界に入った。……理由はいまいちわからないまでも、なんとなくその視線には共感できるものがあった。うん、この人いろいろと凄いんだよね。(他人事) ある意味で天敵である。
「しかし困りましたね。私も九郎丸も、そのカトラスちゃんと同意するところが――――」
「ちゃん付けで呼ぶな、距離感が馴れ馴れしい」
「? あなたは刀太の妹なのでしょう。なら別にちゃん付けでも問題ないのでは?」
「えぇ…………、いや、そうと言えばそうなんだけど、そのカテゴリーの割り切り方みたいなの、めっちゃ嫌なんだけど…………」
辟易した顔をするカトラスに、しかし無表情で詰め寄る夏凜。いよいよもってカトラスが折れたのか「もうどうでも良いよ」とため息をついた。
「話を戻しますが。血装術の使用を控えて欲しいというのが私たち三人の意見ですが、貴方は嫌なのでしょう? 刀太」
「へいへい……。実際こればっかりは、代替えが利かねーからな。たぶんだけど、雪姫から得意な系統の魔法を取り上げるくらいには痛い」
「致命傷ではないですか……、なるほど。それなら逃げ出してしまいたいくらいには心にダメージを負いますか」
「そもそも何で兄サンって、あんな危ねー技使いまくってるんだ? 毎回リストカットとかして血を出してる訳でもねーのに」
カトラスの疑問に、九郎丸の表情が一気に死んだ。私がフォローしようと声を上げるより先に、九郎丸の方がすっと私に掌を向ける。手出し無用、とでも言わんばかりに思いつめた表情の九郎丸は、夏凜をして声をかけるのをためらう凄みのようなものがあった。
僕のせいだから、とカトラスにこぼす九郎丸。
「あ゛?」
「…………僕が、刀太君を殺したのが原因だから。その時の傷を使って、ずっと刀太君は、血を操ってるから。あの時からずっと……」
「へ? は? え、ええぇ…………」
事情を聞く前の段階だが、カトラスが九郎丸に向けてもドン引きの視線を浴びせた。お前なんかこっち来てからずっと誰に対してもドン引きしてるな。(他人事) 忍と是非会わせてあげたい、さぞ癒しになる事だろう。(現実逃避)
「………………ある事情で、敵の策略にかかったとはいえ。刀太君を殺してしまったのは、僕だから。それまでずっと、こんな死と隣り合わせの世界とは無縁だった刀太君が、こっちに転ぶきっかけを作ってしまったのは、きっと僕だから。
だから……、刀太君がもし戦えないというのなら、僕が、彼を守るから。たとえこの身が、何に成り果てたとしても――――」
「いやそんな思いつめるなって。別に気にしちゃいねーし」
「コイツ、頭おかしーんじゃねーか? なぁ、えぇ……?」
妹チャンよ、私に救いを求める視線を投げてよこすな。もともと地雷原に火炎瓶を投げ入れたのは貴様だ、貴様が責任をとれ、とるんだ! さぁ!(血涙) 私だってこんなになった相手にどうしたら良いかさっぱりわからないんだから、その分お前が頑張るんだ! 大丈夫、お前こそオンリーワンだ!(適当)
お互いに責任を擦り付け合う様な視線を向け合う私とカトラスに、夏凜が九郎丸を一瞥して「では」と頷いた。代案でも思いついたのか、九郎丸の両肩を持ち、私の対面に向ける。
「カトラスちゃんは、さきほど言った分の報酬と、刀太が血装術を使うのを制限している間は、こちらの味方についてくれるのですよね」
「…………チッ」
「でしたらその間、九郎丸。貴女が刀太に修行をつけなさい。今の程度ではなく、もっとしっかり『気』などを修められるように」
我ながらナイスアイデアと言わんばかりに鼻を鳴らす夏凜だが、九郎丸の表情がさっきからずっと死んだままなの本当にどうしたらいいのだろうか。救いはないんですか!(恐怖) 思わず頬を軽く叩いたり、視線を合わせて声をかけたりするが、いまいち正気が戻ってこない九郎丸。まさかとは思うが、そこまで思いつめるようなことだったか? 流石に想像してなかったのだが……。むしろ、私に戦闘手段を与えてくれた恩があるくらいに考えていたのだが。むろん殺されるのは痛かったし、今でもあの時の恐怖は染みついているが。九郎丸個人にどうこうという話ではないのだ。
しかし、初遭遇の時期から考えて、当時も今もそんな深い情を向けられる程に馴れ馴れしくした覚えはないのだが。まさかとは思うがそれが逆に良くなかったのか……?(???「珍しく大正解じゃないか」)
「そんなに、思いつめなくても良いんだけど……。どうしたもんかな」
「――――『殺した責任』を、僕はとらなくちゃいけないから」
「……あれってそんな、深い意味があった言い回しじゃないんだけどなぁ」
しいて言えばその場のノリというか、その責任と言うのは私が蘇った時点で終了しているのだが。そのことを伝えても、だったらなおのことだよと九郎丸は微笑んだ。その微笑みすら暗いのだが……。
というかカトラスすら「兄サンこう言ってるし、もうちょっと気楽にしても良いんじゃね?」とかフォローに回るとか相当だぞ、このカトラスにキャラ崩壊させるレベルとかこの空気、どうしろというのか。
重い沈黙。が、しかしそれを当然のように無視して、夏凜は私たち三人を抱き寄せ、抱きしめた。
「かか、夏凜先輩!?」
「はァ?」
「えーと……、どうしたッスか? 夏凜ちゃんさん」
「………‥それぞれ思う所はあるでしょうが、今は飲み込みなさい。いずれ、時間が解決することもあるでしょう。お姉ちゃんからのアドバイスです」
それでわずかに九郎丸の目に光が宿るのだから、説得としては成功だったのだろうが……、肝心の夏凜本人については、何一つ時間が問題を解決してくれないからこその、そのアドバイスなのかもしれないと思い、ちょっと私は憂鬱な気分になった。
一方のカトラスは夏凜に対し更にドン引きした視線を向けて、そして共に夏凜の腕にいる私の方を向いて。
「同情はしねーけど、これはこれで酷ぇな兄サン」
「引っ掻き回した本人の発言ではないな」
思わず素が出てしまった言葉に、カトラスは舌打ちをしたものの反論はしなかった。
※ ※ ※
「おはよ! 刀太くんっ。今日は和食にする? 洋食にする? 僕、頑張るよ!」
「九郎丸さん、なんだか……、張り切ってる?」
「そうだね忍ちゃん! もう、今日は頑張るからね!」
翌日、九郎丸のテンションは明らかに空回って跳ね上がっていた。例のフリフリエプロンを着けて、妙にハイテンションである。私も忍もやや気圧されたが、しかしこの満面笑顔で男を自称するのは流石に無理があるのでは。(マジレス)
忍も交えて三人で一緒に朝食を作るという話なのだが、明らかに昨日の反動と言わんばかりの振り切れっぷりである。忍が口を逆三角形にして変な驚き方をしていたが、どうどうと九郎丸をなだめつつ料理の準備をした。
「サラダはテキトーに作るとして、トマトのない奴も取り分けといてくれ」
「先輩、苦手なんですか?」
「いや、あの褐色のカトラスって奴。ミニトマト嫌いだって言ってたけど、ひょっとするとトマトも苦手かもしんねーから」
「刀太君、いつの間にそんな情報を……?」
「寝言」
しかし九郎丸の包丁さばきが凄まじい。明らかに剣術でも併用していそうな速度で千切りキャベツを量産していく光景は、本人がルンルン楽しそうにしてるのもあって軽く天国と地獄のような有様。忍が「すごいです……!」しか感想を言えなくなってるあたり、妙な迫力というか凄みがその背中からは溢れていた。
もっともその様を見て安心できる私ではない。病んだ人間がいきなりハイテンションになるみたいな、躁鬱めいた挙動をする時の恐ろしさと言ったら無いのだ。甚兵衛の過去話ではないが、芸者に惚れられて吉原からストーカーされて最後は心中まがいのことをされかけた際にもそんな躁鬱テンションだったらしいというのをちらっと耳にしたので、こういうのは古今東西いつの時代も共通していそうである。
「あー、あんまり無茶するなよ? 俺、気にしてねーから」
「うん、わかってる。刀太君は……優しいから」
「いやそういうことじゃなくってなぁ……。ちゃんと言ってることわかってるか?」
「? 何が?」
「肩の力をもっと抜けって! 笑顔のままこっち見ながらキャベツ切んの怖ぇって!」
「へ? そ、そうかな……」
しかし明らかに何か、色々と触れるのが大変な何処かのややこしいスイッチを踏んでしまった気配がありありとする。胃が痛い……、心臓の傷は特に痛まないが、不死者になってもこのあたりの感性はあまり変わらないと見えた。
その後、朝食の配膳時。見ればカトラスの恰好はいつか見た「麻帆良学園」のジャージ姿である。柄から何から含めて完全に私が以前着ていたそれだが、当然のごとく夏凜プレゼンツであろう。そしてその肝心の夏凜はカトラスの左側で、彼女の腕を抱きしめロックしていた。逃げねーから、と嫌がる声が聞こえる感じからして、昨晩の就寝時にも何やらひと悶着あったのだろうか。もっとも頭に包帯を巻いて、極力顔を隠そうという謎の努力の跡が見え隠れしているのだが……。そんな
そして肝心のカトラスは、朝食の間ずっとこちらと目を合わせようとしていない。カトラス自身の紹介を朝食後に全体へ済ませても(新しく雇われたというレベルの情報)、私とは一瞬目が合った後ぷいっと逸らすばかり。これは……、私と話すのを嫌がっているというより、私に絡む夏凜や九郎丸を嫌がっているような気がする。きっと気のせいではない、私とは視線を合わせないだけで隣り合っても文句を言わないのだが、夏凜や九郎丸が近寄ると明らかに「ビクッ」と震えている。
「お前も大変だな」
「…………」
ふん、と顔を逸らすカトラスの頭を撫でようとすると、今度はデコピンで返されて拒否された。「仕事はちゃんとする」と一言残すと、そのままカトラスは外に出て行った。夏凜も九郎丸に後は頼みますと一言いってその後を追う。
「と、刀太君……」
「どうした? なんか変に改まってるけど……」
「そのさ……、えーっと、修行なんだけど。午後からでいいかな? ちょっとプラン練るからさ。夏凜先輩にもしっかり任せられちゃったし…………、ちゃんとデスクラッドとか使えなくても戦えるくらい、強くするから」
にこにこ笑顔だったり照れた風だったりしながらも目が据わってるのが恐怖以外の何物でもないのですが。(震え声) そのプランって一体どういうことか、詳細を確認する前に九郎丸は足早に自室へと移動してしまった。
夏凜も夏凜でそうだが、九郎丸も九郎丸だ。一体どこでチャートの構築を間違えた。ちょっと前までは原作通りくらいの好感度で漂っていたと思ったのに……、やはりカトラスが何か地雷を踏み抜いたか?
「ままならぬ…………」
「先輩、どうしたんですか?」
無邪気に訪ねて来る忍に、おおよその概要を話せないまでも九郎丸が修行をつけてくれるという話をすると「ああそれで」と何か納得を見せていた。
「頑張ってくださいね? 先輩」
「いやでも、痛いのは嫌なのだが……。気の修行って絶対心身追い詰める系だし」
「でも、頑張ってる男の子……、先輩は、すごいカッコイイと思いますから!」
「…………」
別に年下趣味とかそういうことは断じてないのだが。忍のその一言に、なんとなく癒され救われる自分がいた。どれだけ心がささくれ立っているのかという話だが、真面目に、真面目に誰か救いを……、救いを下さい。
救いはないんですかァ!? (???「売り切れだよ。自分から未知のエリアに突入してくような奴なんざ」)